ありふれていた月のマスターで世界最強   作:sahala

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 イメージ的に雫アーチャーは比村奇石先生のアチャ子、香織キャスターは『氷室の天地』版の玉藻の前みたいな格好です。


第十一話「迷宮に飯を求めるのは間違いである」

 光が収まり、雫達は目を開けた。すると、そこにはさっきとは別人の様に姿の変わった自分と幼馴染の姿があった。

 

「し、雫ちゃんの髪の毛が真っ白になっちゃった!?」

「香織もどうしたのよ、そのキツネ耳!!」

「へ? わわ、本当だ! 尻尾もある!!」

 

 二人はお互いの身体を見ながら、驚きのあまりに声を上げた。ペタペタと自分の身体を触りながら、変化した服などを調べる。

 

 雫は髪の毛がポニーテールをそのままに、雪の様に白く変色していた。黒いミニワンピースとボディアーマーの上に、真っ赤な外套を羽織った姿となっていた。両方に握られていた白と黒の日本刀を雫は驚きながらしげしげと眺める。

 

 香織は黒い髪の毛はそのままだったが、青いリボンが付けられた頭には狐の耳がピョコンと覗いていた。服装も青を基調にし改造巫女服とでも言うべき服装で、お尻から生えた狐の尻尾を見て、ふりふりと動かしてみたりしていた。

 

「それは夢幻召喚。英霊の力を人間に宿した状態だ」

 

 二人が変化に戸惑う中、白野の冷静な声が響く。

 

「英…霊……? それに夢幻召喚? 白野は……何かを知っているの?」

 

 ワイバーン達を圧倒した剣士の姿、雫達の知らない魔法の数々。

 よく知っている筈の家族が見せた奇跡の数々、その正体を知る為に雫は緊張しながらも尋ねた。

 白野もまた、真剣な表情で話し始める。

 

「……これから話す事は信じられない事かもしれない。でも、誓うよ———これは、岸波白野が辿った道筋(人生)だ」

 

 雫や香織と今まで通りの関係ではいられなくなる———それを覚悟して。

 

 ***

 

「ええと……じゃあ、白野くんには、前世? の記憶があって……そこでは英霊さんを従えていた魔術師だった、って事?」

「ああ。それで大体は合っているよ」

「それで、白野くんがいたのは未来の世界で、月に大きなコンピューターがあって………う、うぅ〜。頭がこんがらがってきたよ〜!」

 

 プシュ〜と知恵熱を上げそうになりながら、香織は頭を抱えた。

 ———白野は二人に全てを話した。

 英霊の事、魔術の事、そして———月の聖杯戦争の事。

 側から聞けば、漫画やアニメの世界の様な話に聞こえただろう。

 

「信じられないかもしれない。でも、これは嘘なんかじゃない。あの戦いは俺が生きた証そのものなんだ」

 

 しかし、白野は真摯に話した。他人から荒唐無稽だと嗤われようと、月での出来事は地上でコールドスリープした岸波白野(オリジナル)のコピーでしかない岸波白野(自分)が命の限り駆け抜けた49日間なのだ。

 

「……いいえ。信じるわよ」

 

 情報を整理する様に目を閉じていた雫だが、ややあって目を開けた。

 

「西暦2032年とか、ムーンセル? とかいうのはよく分からないけど……白野の魔法とか論より証拠な物を見せられた以上、あり得ないなんて言えないわ。そもそも私達も今は剣と魔法のファンタジーな世界にいるのだもの」

 

 雫はまっすぐと白野を見る。それは白野が予想していた疑念を宿した目ではなく、今までと変わらない家族を見る優しい眼差しだった。

 

「あなたが……白野の前世が未来人だろうが、魔法使いだろうが関係ないわ。八重樫雫にとって、岸波白野は大切な家族の一員。それだけは確かな事よ」

「わ、私も白野くんの事は大事なお友達だと思っているよ!」

 

 香織も慌てて声を上げた。雫が先に言ったからというより、白野への信頼を疑って欲しくないという感情が見えていた。

 

「ちょっと驚いたし、まだ混乱してるけど……白野くんのお陰で、私も雫ちゃんも助けられたんだもん! だから白野くんの事を疑ったり、変に思ったりしないよ」

「……ありがとう。雫、香織」

 

 白野は自分の心配が杞憂に終わり、ようやく安堵した表情を見せた。自分の家族や親友を疑うなんて、どうかしていた。そう思いながら。

 

「それで、私達の今の姿なのだけど……これは英霊が憑依したという事なの?」

「ああ、俺と縁の深かった錬鉄の英雄(アーチャー)玉藻の前(キャスター)。彼等の力が雫達に宿った状態だよ」

「……確かに。前より力が増した様な気がするわ」

 

 雫は少しだけ白野達から離れて、手にした白黒の二刀———干将・莫耶を構える。持ち主に合わせたのか、赤い弓兵が持っていた時とは違って日本刀に変化した刀を雫は素振りした。

 

 ビュオッ!!

 

 離れていた白野達にも髪の毛を搔き上げる風が来るくらい、鋭い太刀筋が描かれた。

 

「……すごい。二刀流なんて初めてなのに、手にとても馴染むわ。おまけにすごく力が湧いてくる気がする」

「私も、今ならベヒモスが来ても大丈夫な気がするよ! これなら今度は南雲くんをちゃんと守れるかも! でも……これって、鏡? どうやって使うんだろ?」

 

 香織もまた、自分の身体から湧き上がる魔力に興奮していた。ステータスプレートを見なくても、自分の身体が先程よりも強力になったと自覚できたのだろう。しかし、手に現れた銅鏡を見ながら首を傾げた。

 

「武器の使い方や戦い方は道中で説明するよ。その英霊達の戦い方は、ある意味よく知っているからね」

 

 片や四回戦以降から白野と仮契約した玉藻の前。

 片やもう一人の自分(少女の白野)が使役していた無銘の弓兵。

 

 彼等の戦法は自分の英霊(セイバー)を除けば、他の英霊達よりも詳しく把握していた。

 

(ただ………少しだけ疑問がある)

 

 雫達が自分の英霊の力を把握する為にあれこれと試しているのを見ながら、白野は自分自身の力に疑問を感じていた。

 

(俺のコードキャストは本来ならここまで万能でもないし、強力でもない。この力は……ムーンセルのバックアップを受けているからか?)

 

 地球の発生から月に存在し、天文学的なIF(もしも)の未来すらも記録している神の頭脳———ムーンセル・オートマトンであれば、最弱の魔術師(マスター)でしかなかった白野に強力なコードキャストを扱える様にするのは朝飯前だろう。しかし、白野はムーンセルに触れると同時に元NPCと看破され、不正なデータとしてムーンセル自身に消去されたのだ。今の様に英霊の力の一部を他人に憑依させるなんて真似は出来ない筈だった。

 

(他に表現しようが無かったから雫達には前世と言ったけど、やっぱり疑問が残るな。電子の海で消えた筈の俺が、どうして地球———それも平和な時代の一般人として転生したのか……?)

 

 何か、重要な事を忘れている気がする。そう思いながらも、白野はそれを思い出す事が出来なかった。そもそも本当にムーンセルの使用権があるなら、英霊そのものを召喚できる筈であり、今の様な中途半端な形にはならない筈だ。

 

「———白野。ねえ、白野ってば!」

「……あ、ごめん。ちょっと、ぼうとしていた」

「大丈夫? また頭痛で倒れたりしないわよね?」

「大丈夫だよ、それでどうかしたのか?」

 

 雫は気遣う様に見ていたが、白野が元気そうにアピールをするのを見て、心配する気持ちを一端隅に置いた。

 

「南雲君を探しに行くのに、戦闘面に関しては今の私達なら問題が無くなったかもしれないけど………食糧の方はどうするの? という話よ。やっぱり、一回ホルアドの街まで戻って買い込んでくるべきかしら? でも、そうしようにもお金が、ちょっとね………」

 

 雫達は仮にもハイリヒ王国に籍を置いている“神の使徒”だ。金銭面に関しては王国から全面的に支援を受けられる事にはなっている。しかし、召喚からまだ一週間(迷宮内で立ち往生している時間も入れるなら二週間)しか経ってないので給与もまだ支払って貰えていないし、ホルアドに着いた時に、自由時間にせめてもの気晴らしを、とメルドの好意で渡された金銭も小遣いの域を出ない程度の額だった。

 

「やっぱり………一旦、お城に戻らなきゃ駄目かな?」

 

 香織が不安そうな顔で伺ってくる。本来ならば、ハジメの捜索は王城に戻って捜索隊を組んでもらうのがベターな方法だろう。しかし、今から王国まで戻るとなると数日は掛かり、そこから捜索隊の編成にかかる時間などを考えるともっと掛かってしまう。ハジメも白野達と同じ様に携行食糧があるとしても、助けが来るまで迷宮内で生きている可能性は時間を経つ毎に低くなっていくだろう。

 それ以前に———ハジメはチート能力な天職やステータスを持つクラスメイト達の中で、ステータスは最弱でありふれた天職しか持たない『無能』と蔑まれているのだ。そんな『無能』を相手に王国が捜索隊を組んでくれるか、非常に怪しいところだった。

 

「そうなると………ううん、他に手は無さそうだよな」

 

 雫達の不安そうな顔を見て、しばらく考えていた白野は気乗りしなそうな声を出した。その場から少し離れた場所へと歩いていき———。

 

「………これ、食べるしかないんじゃない?」

 

 洞窟内で白野が氷漬けにしたワイバーン達を指差した。

 

「白野………あのね、忘れているかもしれないけど。この世界の魔物には毒があるから食べられないって、王城で習ったでしょう?」

「まあ、そうなんだけどさ。物は試しという事で」

 

 雫がほんの少しだけ可哀想な物を見る様な目をしてきたが、白野はワイバーンの冷凍死体にコードキャストを使う。

 

 code:view_status()。

 

 月の聖杯戦争において、エネミーや敵サーヴァントの特性やステータスを解析したコードキャストは問題なく発揮できた。

 

「え? これは………」

「どうかしたの?」

「………この魔物、人間に有毒な成分が検出されないんだよ」

 

 え!? と雫と香織が顔を見合わせる。「ただ———」と白野は続ける。

 

「核となる部分は魔石からだけど、全体的に内包された魔力が大きくて、一般人の魔術回路だと耐え切れないと思う。魔物を食べた人間は体がボロボロに崩れて死ぬと言っていたけど、それは毒のせいじゃなくて自分の許容範囲以上の魔力が流れるから魔術回路が暴走して死ぬんだ」

「魔術回路………確か白野が言っていた魔術を使う為の器官よね? 結局、私達が食べても大丈夫なものなの?」

「英霊化した今ならワイバーン達より魔力が大きいから大丈夫とは思うけど………念には念を入れるべきだな」

 

 白野はワイバーンの冷凍死体に手を当てながら、目を閉じた。

 そして———自分の意識の奥底、ムーンセルと思われる場所に意識を繋げた。

 

(ムーンセルは地球上のあらゆる情報を収集した存在。それは魔術であっても例外では無い筈———)

 

 頭の中で辞書を紐解く様に、今の状況に最適解となる魔術は無いか問い掛ける。すると————ぴったりな魔術が浮かび上がった。

 

(良かった……これは大した魔術じゃないから、閲覧制限は特に無いみたいだ。あとは実行するだけだ)

 

 コードキャストは古き魔術師(メイガス)達が電脳世界という新天地で魔術師(ウィザード)として生きていく為に生み出された術式。電脳世界の理を自分の思う様に改変する術式が、このトータスで使えるというならば———物理情報の改竄も可能となる。白野はそう信じて、閲覧した魔術を基にコードキャストを作り出した。

 

「code———replacement_material()!」

 

 白野の翳した手から0と1の数列で作られた光が出て、ワイバーンの冷凍死体に降り注ぐ。

 それはとある世界で置換魔術と呼ばれるものだった。錬金術から派生したその魔術は本来ならば物質を劣化交換する程度でしかないが———今回はそれで十分だった。白野のコードキャストは魔力に充ちていたワイバーンの死体を置換させ———光が収まると、ワイバーンの死体から魔力は霧散していた。

 

「これでよし………一応、食べても大丈夫にはなった筈」

「ほ、本当に大丈夫? 他に手段が無いとはいえ、食べるのに勇気がいるわね………」

「でも雫ちゃん。魔力が無くなったのは本当みたいだよ」

「香織、貴方には分かるの?」

 

 狐耳を生やした香織はコクリと頷いた。

 

「私に憑いた英霊さんは呪術に詳しいみたい。その人の知識というか、感覚というか……とにかく、白野くんが魔法で変えたワイバーンのお肉が危険な物じゃなくなったというのが分かるの」

「うう………分かったわよ。こうなったら二人を信じるわよ!」

 

 雫が覚悟を決めた様に頷く。そうしてワイバーンの死体から食べられそうな部位を切り取り、火魔法でたき火を起こして肉を炙った。

 

「雫。大丈夫だとは判断したけど、俺が毒味してからにした方が………」

「今更よ。こうなったら一連托生でしょう? 白野が犠牲になる方法なんて、もうウンザリだもの」

「ま、まあ、大丈夫だよ! 食中毒になっても、私が解毒魔法で治してあげられるから!」

 

 炙られたワイバーン肉を前に、白野達は表情が硬くなる。コードキャストで念入りに調べたとはいえ、いざ食べるとなるとやはり腰が引けてきた。それでも、今後の探索の為にも可食テストは必要だった。

 

「じゃあ………食べるよ?」

 

 白野の呟きに、雫達は一斉に頷く。十分に火が通されたワイバーン肉に、三人は覚悟を決めて齧り付いた。

 

「うっ………!?」

「むぐっ………!?」

「こ、これって………!」

 

 一口目の肉を飲み込み、三人は一斉に声を上げた。そのまま一分くらい待ったが、王城で習った様な身体が崩れる感覚や激しい腹痛などは起きない。とりあえずワイバーン肉は確かに魔力が霧散され、身体に害を及ぼす物で無くなった事は確かな様だ。しかし———。

 

「そ、想像以上に硬いな」

「筋っぽくて、噛み切れなくて………」

「ごめんね、二人とも。はっきり言っていい? ………マズイよね、これ」

 

 ………………味は別問題だった。

 

「………とりあえず、害がないみたいだから食べようか」

「うん………お腹に溜めて、力をつけなきゃだよね………」

 

 白野と香織は微妙な表情で、残っているワイバーン肉をモソモソと食べ始めた。ワイバーン肉が当面の食糧となる以上、とにかく味に慣れるしかないのだ。

 そんな中———雫は黙ったまま、手をプルプルと震えさせていた。

 

「………ああ、うん。牛でも豚でも、鶏でもないワイルドな味がするな」

「うん………普段食べているお肉って、とても美味しかったんだね」

「………(ピクピク)」

「ごめん………思い付きとしては悪くないと思ったんだけど」

「白野くんは悪くないよ………南雲くんの為だもの。ちょっとの間くらい、マズイのは我慢する………うん」

「………(イライラ)」

「考えてみれば当然か………そもそも食用に飼育された獣というわけじゃないからなぁ」

「それに最近はお城で美味しい食事を一杯食べれたよね………あのローストビーフ、また食べたいなぁ………」

「………(ギリギリッ)」

「いや、これはこれで慣れてくれば………食べれるだけDDの食卓よりはマシだし」

「………DDの食卓って何?」

「———ああ、もう! 我慢の限界よ!!」

 

 もはや諦観した表情でワイバーンの炙り肉を食べる二人に、雫が当然叫び出した。そして———。

 

投影(トレース)………開始(オン)!」

 

 かの弓兵の様に呪文を唱えたかと思うと、雫の手に包丁が現れた。それどころか、次々とまな板、鍋と調理器具一式を投影していく。

 

「し、雫ちゃん! その魔法、何!?」

「ちょっと待ってて。今すぐに調理するから!」

 

 初めて見る魔法に驚く香織を余所に、雫はまな板に載せたワイバーン肉に包丁を入れた。その手つきは、明らかに素人ではない包丁捌きだ。

 

「白野、そっちの壁………岩塩が埋まっているから、取り出しておいて」

「へ? 何でそんな事が分かるの?」

「私だってよく分からないわよ。私の中に入った弓兵の目というか、そういうので分かったというか………とにかく! またゴム底みたいな肉を食べたくないなら、すぐに掘り出す事! 香織はお鍋の中に水を入れて、ガンガン沸かして! あと新鮮な氷も作っておいて!」

「「は、はいっ!!」」

 

 思わず、二人は背筋を正して返事をした。調理している雫の背中は一切の妥協を許さないと語っており、その背中はまさしく錬鉄の英霊(シェフ)そのもの。白野と香織は雫の指示通りにキビキビと動き始めた。

 そして———数十分後。

 

「出来たわ………名付けてワイバーンの塩しゃぶ肉よ!」

 

 白野達の目の前に、皿に盛られた切り身肉が並べられていた。肉は綺麗な白色をしていて、ワイバーン肉と言われなければ普通に食べてしまいたくなるくらい食欲をそそる物だった。

 

「さ、二人とも。召し上がれ!」

「あ、うん。いただきます」

「ご丁寧にお箸とお皿まで………」

 

 調理している時の雫に気圧されていた白野達だったが、笑顔で勧められて恐る恐ると再びワイバーン肉に口を付ける。すると———。

 

「ん! これは………!」

「美味しい………美味しいよ、雫ちゃん!」

 

 先程の硬くて筋張った肉とは思えない味に、白野達は歓声を上げる。しかし、雫はどこか不満そうに食べていた。

 

「う〜ん……やっぱり豚肉のレシピでやっても、今一つよね………塩茹での時間をもっと長くするべきだったかしら? 本当ならみりんがあった方が良かったのだけど、そんなもの迷宮にあるわけ無いし………それに肉だけじゃ栄養バランスが偏るわね。植物系の魔物がいたら、試しにサラダを作ってみようかしら?」

 

 ブツブツと呟きながら、雫は今後の献立を考える。

 その姿はまさしく————。

 

「おかんだ………」

「お母さんだね………」

「って、誰がおかんよ! 誰が!」

 

 ***

 

 暗い洞穴の中———“錬成”で作った急拵えの隠れ家(セーフハウス)で、その少年は足が異常に発達した兎の肉に齧り付いていた。

 

 ガツガツ、ガツガツ。

 

 何日も風呂に入っていない為に汗や埃に塗れた身体で、血抜きもロクにされていない肉を喰らう様はまるで野生児そのものだ。

 

 元々持っていた食糧は、ここに来る前に流されていた川で不運にも落としていた。

 魔物に襲われ、片腕を失いながらも逃げ込んだ洞穴の中で()()()()()()()()()()()()()()()()()を見つけたから水はどうにか確保できたが、空腹ばかりはどうにもならなかった。

 生きる為にも魔物を“錬成”で作った落とし穴に嵌め、どうにか倒した魔物の肉を口にするしか生きる術はその少年に無かった。

 そして魔物の肉を食べた事で激痛と共に崩れ始めた身体は、件の石の水を急いでガブ飲みする事でどうにか事なきを得た。

 

 ガツガツ、ガツガツ。

 

 激痛のショックからか、少年の髪の毛は白く変色し———そんな事が問題にならない程に身体は大きく変わってしまっていた。

 同年代より背が低かった少年の体格は今や別人レベルに逞しくなり、手や足には魔物の様な赤黒い血管が浮き出ていた。ステータスプレートを見ると、()()()()()と周りから蔑まれていたステータスが急激に上昇し、喰らった魔物のスキルが新たに付与されていたのだ。

 

 ガツガツ、ガツガツ。

 

 だからこそ、少年は魔物を喰らう。喰らってもっと強大な力を身に付ける。それこそが、この弱肉強食のルールが敷かれた奈落の底で唯一生き抜く術に他ならないから。

 

「………………糞マズッ」

 




>おかんのアーチャー

「ふっ……憑いて来れるか?」

>奈落の底の彼

 原作だと動き始める日数とか決まっていますけど、この小説では原作より早く動き出しました。というより、この小説は作者のやりたいシーン優先なので原作の時系列とかは守らないと思います。

>白野がやった事

 ぶっちゃけるとプリヤの置換魔術で魔力の籠っていた肉をただの肉に変えただけ。FGOにも腐りかけの肉を霜降り肉に変える錬金術を使える奴がいるし………。
 なお、ただのお肉になっているので彼みたいにステータスが伸びたり、魔物のスキルを習得したりとか出来ません。
 因みに貴重な再臨素材をゴミに変えたも同然なので、この場に時計塔の魔術師がいたら殺されても文句言えないです。

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