ありふれていた月のマスターで世界最強   作:sahala

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 この話には過激的な表現や人種差別的な表現が含まれていますが、作者はそういった思想を助長させる様な意図はございません。
 これはあくまでもフィクションであるという事を了承できる方だけ、先をお読み下さい。


幕間「フリードの演説」

 魔人族の国・ガーランド。

 

 大陸の南に位置するその国は、一年の大半が雪に覆われた国だった。国土のほとんどが凍土であり、普通の作物が育ちにくい厳しい土地柄だからだろうか。魔人族達は厳格な縦社会を作り上げ、戦士が尊ばれる軍人国家を築いていた。そんな国で鍛え上げられてきた軍人達の質は高く、人間族より総数が少ないながらも長年渡り合ってきたのは個々が身体能力と魔力に秀でた優れた戦士であったからだった。

 自分達の宗教———アルヴ教を邪教と嫌悪する人間族とは相容れず、それ故に血族主義的な考え方が魔人族達に蔓延していたのは無理からぬ事であった。

 だからこそ———彼等の中で結束主義(ファシズム)はすんなりと受け入れられてしまった。

 

 ***

 

 ガーランド・首都。

 夕方の時刻、集会場には多くの魔人族達が集まっていた。彼等は皆、最近になって流行し出した紋章(マーク)の付いた腕章を身につけて、壇上を今か今かと心待ちにする様に見つめていた。やがて、彼等の待ち望んでいた人物が壇上に上がってくる。

 

「おお、来たぞ! バクアー将軍だ!」

「フリード様! 我らの英雄フリード様!」

 

 壇上に上がった男へ万雷の拍手が巻き起こる。夕陽を背にして立つ魔人族の男———フリード・バクアーの姿は、聴衆達から見たらまるでスポットライトを浴びているかの様にはっきりと目に映った。

 聴衆達は魔人族の英雄へ惜しみない拍手を送る。だが、フリードはニコリともせず、拍手に応える事もしなかった。壇上に上がったまま何もせずに立っているフリードに、聴衆達は戸惑いの表情を浮かべ始めた。拍手が鳴り止んでいき、やがて全員がそうする様に強要された様にフリードを固唾を飲んで見始めた。

 

「………私はガーランドの英雄であり、民衆から選ばれた英雄である」

 

 初めはゆっくりと、そして丁寧に。決して大きな声量では無い筈なのに、沈黙した聴衆達の耳にははっきりと聞こえてきた。

 

「しかして、私は民衆に望まれるままに振る舞う。ガーランドに、同胞たる魔人族達が平和な日常を送れる様に戦う。私は苦しい日々を過ごす人々の最後の希望であり………救済となる者である!」

 

 徐々にフリードの演説は熱を帯びていく。今や聴衆達はフリードの一挙手一投足に注目していた。フリードは舞台役者の様に大仰な身振りや手振りを交えながら、更に演説を続けていく。

 

「この十年でガーランドの人口は以前の倍になった! だが、ガーランドの民はより貧しくなっていく! 何故か? それはガーランドには新たに生まれた子供達を食わせるだけの耕地面積がないからだ! だからこそ、我々は新たな耕地を求めなくてはならない! 愛しき我が子達を飢え死にさせない為に!」

 

 「そうだ!」、「その通りだ!」と聴衆達は声を上げる。それは確かに魔人族達が頭を悩ませていた事だった。ここ十年、大きな戦争も無かったので平和な時代が続いていた。しかし、その為に人口は増え続け、国土の大半が凍土である為に新たな耕地を作る事も簡単ではなかった。結果として、魔人族達は国全体で食糧不足という深刻な問題に直面しつつあった。

 

「私は皆が疲弊していく時代に抗う為に戦う………これはガーランド国民の新たな意志である! 私は勝利を得るだろう。それは民衆が勝利を欲するからだ! 我らガーランドは、これによって千年の繁栄を約束されるのである!!」

 

 ウオオオオォォォォオオオオッ!!

 嵐の様な拍手がフリードに降り注ぐ。聴衆達は皆、()()()()()()()となるフリードを称えていた。

 “彼ならば、我々の苦しい生活を良くしてくれる”。

 それを心から信じて、聴衆達に熱狂の渦が広まっていた。

 その様はまるで———舞台上のスターへ声援を送る観客に似ていた。

 

「故に我らは北へ………人間族の国を目指さなくてさならない! 奴等は肥沃な土地を恣にして、贅沢を貪る害虫である! 我らの神アルヴを邪神と嘲笑い、自らこそが神に選ばれた民であると自惚れる鼻持ちのならないペテン師達である!」

 

 『そうだ! そうだ!』と聴衆達は怒声を響かせる。その中で一部———ほんの一握り程度の人数だが———フリードの言っている事に戸惑っている魔人族もいたが、周りの熱狂に押され、口を閉ざしていた。

 

「無論———諸君達の中にも、人間族と話し合うべきだという意見を持つ者もいるだろう」

 

 ドキッ、と一部の魔人族達は心臓を跳ね上がらせた。そんな一部の魔人族達は知ってか知らずか、フリードは先程の熱気に溢れた様子から一転、冷静な様子で静かに話し出す。

 

「彼等は我らと同じく知性のあるヒトなのだ、と。話し合えば、双方が歩み寄ってより良い未来が生まれるかもしれない、と………」

 

 まさに舞台で言うならば「静」の場面。聴衆達の注目がフリードに集まり———舞台は再び「動」の場面となった。

 

「だが………我々は忘れてはならない! かつて人間族の王、アレイストは我ら魔人族を卑劣な罠にかけた! 種族を越えて和平を結ぼう、などと甘言を用いて、我ら魔人族のみならず、亜人族達すらも船上パーティの場で、騙し討ちで惨殺するという極悪非道な行いをしたのだ! 民衆達に問う! この様な真似をする人間族を信じられるだろうか? 彼等は我々と同じ理性あるヒトなのだ、と胸を張って言えるだろうか!」

 

「信じられない!!」「奴等は悪魔だ! ヒトの皮を被った獣共だ!!」

 

 聴衆達は怒りのままに人間族を罵倒した。もはや人間に対してそこまで悪感情を持っていない魔人族達も、周りに対して()()()()()()()()()()フリをしていた。

 

「そんな卑劣で下等な人間など、この世から絶やさなくてはならない! 鼠は鼠と、ガチョウはガチョウと、虎は虎と交尾して種の純血を保っている! 決して鼠を愛する猫など野生に存在しない! 我々も自然に生きる動物として、同じ義務を持っている! 最も優れた人類———すなわち魔人族として、血と純血は守らなくてはならないのだ!! 我々は猿と人間の奇形児など望んではならないッ!! 劣等種………すなわち人間族の血が魔人族に混ざる事は、自然への冒涜なのだッ!!」

 

 ウオオオッ!! と再び聴衆達は歓声を上げる。もはやこれは、一種の宗教と呼ぶべきだろう。フリード(教主)の言っている事に民衆(信者)達は疑問すら抱かず、疑問を抱いた数少ない者も周りを伺って口を閉じるしかない。もしも教主を疑っている事がバレたならば———待っているのは凄惨な魔女裁判(リンチ)だからだ。

 

「人間族を滅ぼす事は神の、そして自然からの啓示であるッ!! 人間族を滅ぼす事こそが、我らの輝かしい未来を約束する唯一の方法なのだッ!!」

 

『ワアアアアァァァァァァアアッ!!』

 聴衆達は狂った様に拍手した。彼等はフリードへ———自分達の希望を讃える為、右手を大きく掲げた。

 

 それは———()()()()()()()()英霊のカリスマによるものだろうか。

 聴衆達は、フリードに———そして、彼がいつからか使い出した逆鉤十字(ハーケンクロイツ)紋章(マーク)に向かって、自分達が知らない筈の異国の言葉と敬礼で讃え出した。

 

万歳(heil)万歳(heil)!! ハイル・バクアー!!』




>ガーランド

 原作ではどんな国土なのかははっきりと書かれていないと思ったので、この小説ではツンドラに覆われた極寒の地をイメージしました。魔人族達からすれば、暖かな土地を手に入れる為に人間族に戦争を仕掛けなくてはならない感じです。

>アレイスト王

 ありふれに詳しい方はピンと来たと思いますが、メルジーネ大迷宮の幻覚に出てきた人です。事情を知らなかったら、式典の場でいきなり皆殺しを始めたわけだから種族レベルで信じられなくなるよね……。そんなわけで魔人族からすれば人間族なんて信じられるか! 状態です。

>フリードに憑いた英霊

 今は明言はしません。ただ、調べるにあたって演説の映像などを見ましたが、演説においては天才的だったと思います。やった事にはまるで賛同できませんが、少なくとも当時の国民に選ばれて首相になったという事実を忘れてはいけないなと思いました。

 とりあえず、フリードが「おっ●い、ぷるんぷる〜ん!!」とか言い出さない事を祈って上げて下さい。
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