ありふれていた月のマスターで世界最強   作:sahala

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 こっちで雫を可愛いヒロインとして書けば、もう一つの方で悲惨な事になっていても釣り合いは取れるよね?(謎理論)


第十四話「急がば回れ」

「どういうこと? オルクス迷宮に百階より下があるというの?」

「いや、俺にもどういうことだが………」

 

 雫の問いに白野も戸惑いながら返すしかなかった。王宮の座学では確かにオルクス迷宮は最大で百階だと言われていたのに、コードキャストで出したマップでは更に下の階層があることを示しているのだ。

 

「その坊やの地図の方が正しいよ」

 

 ふいにカトレアが口を挟んだ。初めて見るコードキャストに驚いていたものの、戸惑っている白野達に助言した。

 

「アタシは元々、軍の命令で神代魔法を手に入れに来たと言ったろう」

「神代魔法?」

「その名の通り、神話の時代にあったとされる魔法さ。現代の魔法なんか目じゃないくらい強力だと聞いているよ。現にフリード様も神代魔法を手に入れて魔物の軍勢を作り始めたくらいだからね」

「そんな魔法があるのね………」

 

 王宮の座学では学んでいない知識に、雫は感嘆の溜息を漏らす。

 

「で、その神代魔法だけど手に入れるには一筋縄じゃいかないらしいんだ。なんでも大迷宮と呼ばれる場所にあって、その更に奥に神代魔法を手に入れる為の試練があるそうだよ」

「どうしてそんな事が分かるんだ?」

「ガーランドにも似たような場所はあったからね。もっとも、あたしは参加してないけどその時に派遣された部隊は九割が全滅したそうだけどね」

 

 つまり、それだけ過酷な試練の場が待ち受けているという事だろう。思わぬ情報に白野の顔は渋くなる。

 

「でも………そこに南雲くんがいる」

 

 香織がポツリと呟く。彼女はマップが示している生命反応を見ながら、決意を固めた表情で頷く。

 

「南雲くんがまだ生きているとしたら、そこしかないんだよね? だったら………私、行くよ。どんな試練があったとしても、絶対に南雲くんにもう一度会うの!」

「香織………もう、これは言っても聞かない顔ね」

 

 一度決めたら一直線に突撃していく。それが香織の長所と短所を兼ね備えた性格であり、それを理解している雫は軽く溜息を吐くだけにした。

 

「分かったわよ。親友だもの、この際だから地獄の底だろうと付き合ってあげるわ」

「雫ちゃん!」

「俺も異論はないよ。南雲には地球にいた時に南雲には世話になっているんだ。ここで見捨てたら、恩知らずだと虎一さんや鷲三さんに怒られちゃうしな」

「白野くん………二人ともありがとう!」

 

 幼馴染みと友人の心遣いに香織は顔を輝かせた。そんな三人の人間を見ながら、カトレアは訝しげな表情になる。

 

「アンタ達………まさか試練の大迷宮に潜るつもりかい?」

「大切な友達がそこにいるかもしれないんだ。だから、その………無理にとは言わないけど」

「いや………いいよ。助けて貰った恩で協力すると言ったのはアタシさ。奇しくも本来の任務を遂行する事になるなんてね」

 

 皮肉な運命の悪戯にカトレアは頭を抱えたくなったが、すぐに意識を切り替えた。

 

「ただ一つ、言わせて貰うけどね。アンタ達、いくらなんでも軽装過ぎないかい?」

 

 軍人としての意識に切り替えたカトレアは、白野達を見たそう断言した。

 

「これより更に迷宮の奥に行くと言うなら、悪いことは言わない。今すぐ街に戻って食糧や寝袋、探検道具の類いを調達してきな」

「え? で、でも! 食糧なら魔物を食べられるからどうにかなります!」

「………は? 魔物? ア、アンタ達、魔物を食ってんのかい!?」

 

 香織の一言にカトレアは引き攣った表情になる。それはゲテモノ料理を通り越して毒持ちの動物を嬉々として食べている人間を見たような表情だった。

 

「え、ええと誤解ない様に言っておくと、魔物の毒を無毒化する方法を俺達は持っているというか………」

「あ、ああ、そう………まあ、食糧事情は分かったけどね。それでも装備とか全く足りてないと思うよ」

「でも………私達なら………」

「行軍を舐めんな。装備が不足して隊が全滅、なんて目も当てられないからね。大体、魔物を食べられると言ってもこの先で魔物すら見つからなくなったらどうするんだい?」

 

 一刻も早くハジメの所へ行きたい香織は渋るが、カトレアはプロの軍人として厳しい意見を述べる。彼女もかつては魔人国ガーランドの軍人としてサバイバル訓練の経験もある。だからこそ、現地調達で強行突破しようとするのは危険だと知っていた。

 

「香織、残念だけど今回はこの人の言うことに一理あるわ。素直に一回、街まで戻って装備品を整えましょう」

「雫ちゃん………」

 

 幼馴染みの残念そう表情は堪えるものの、雫もカトレアの意見を支持した。

 地球では毎年の様に軽い気持ちで富士山に軽装で登り、どうしようもなくなって山岳救助隊に救助される観光客がいるというニュースを雫も見ていた。

 

(何よりここに来るまでも、香織はかなり無茶しているのよね。私達が寝ている間も、こっそりと英霊の力の特訓をしていたみたいだし………)

 

 その甲斐もあって香織自身のレベルはかなり上がっているものの、どこかで本格的な休息を取らなくては体調を崩すと雫は予想していた。魔物をおいしく料理して気分転換させるのも、食材全てを現地調達しているのでは料理の選択肢など限られていた。

 

「幸いなことに、ここまで倒してきた魔物の魔石がずいぶんと貯まっているわ。これを売れば、ちゃんとしたサバイバル用の装備も買えるはずよ」

「………分かったよ、雫ちゃん。そうだよね、南雲くんを迎えに行くのに二重遭難になったら元も子もないもんね」

 

 雫の説得に香織は俯きながらもしっかりと頷いた。

 

 ***

 

「じゃあ、俺は携帯食料とか買ってきます。カトレアさんはロープとか、サバイバルに必要な道具をお願いしていいですか?」

「ああ、まあ………別に良いけどさ」

「よろしくお願いします。一時間後にまたさっきの広場で」

 

 そう言って白野は魔石を換金した金貨を半分渡し、カトレアに頭を下げて行ってしまった。それをカトレアは何とも言えない表情で見つめる。

 

 あの後、誰がホルアドまで戻って装備を揃えてくるかという議論になった。

 香織を少しでも休ませたい雫からすれば、香織に帰る道とはいえ迷宮を再び突破させるのは論外であったし、その香織を見張る為の人員も必要だった。紆余曲折を経て、結局白野とカトレアがホルアドまで戻って装備を買いに行くことになったのだ。問題の帰り道は、白野がコードキャストで月の聖杯戦争でも使っていたリターンクリスタルを再現して一瞬で地上へと戻れていた。カトレアは白野の見たことのない魔法に驚いたものの、今は別の意味で呆気に取られていた。

 

「あの坊や………アタシが逃げるとか考えてないのかい?」

 

 ご親切にそれなりの額になる金貨まで渡され、カトレアはそれを微妙そうに見つめていた。

 最初、敵とは言わずともさっき会ったばかりのカトレアが白野と共に地上に行くことに雫は反対した。しかしながら、それを白野自身がやんわりと説得したのだ。

 

『行軍に必要な装備とか素人の俺達に分からないし、ここはプロの軍人の意見が必要だろ?』

 

 それに、と白野は特に何でもない事の様に言葉を続けた。

 

『ここでカトレアさんが逃げれたら、オルクス迷宮で死にかけていたけど脱出できて良かったという事にならないか?』

 

 これにはカトレア自身も呆気に取られるしかなく、わざわざ逃走資金となる様な金貨まで渡された事で白野の言葉に嘘はなかったと確信するしかなかった。

 

「なんてお人好しな坊やだよ………まあ、ここから逃げたとしても行く当てがあるわけじゃないけどさ」

 

 今はフードを深く被って誤魔化しているが、魔人族であるカトレアには人間族の国で居場所などない。かと言って今更魔人族の国に戻ることも出来ない。そもそも「死んでこい」と同然の命令でオルクス迷宮の潜入を命じられたのだ。良くて任務を投げ出した責を問われて強制収容所行き、悪ければ脱走兵扱いで死刑だろう。家族も死に、恋人もおかしくなって自分を見捨てた今、カトレアは魔人族としての誇りなどどうでも良くなっていた。

 

「あの坊やはそこまで計算していたとか………」

 

 自分で言ってはみたものの、すぐにそれは無いと首を振った。単純にカトレアという人間を信じているのだろう。その根拠が何なのかまでは分からないのだが。

 

「ああ、もう………あんな風に信用されたら応えなきゃ不義理になるじゃないか。本当、厄介で困るよ」

 

 気が付けば、カトレアは逃走資金として使えた筈の金で四人分のサバイバル装備を整えていた。何をしているんだかなー、と自分に呆れながら約束の広場まで行こうとすると、前方に人集りが出来ている事に気付いた。

 

(ん? ああ………先触れか)

 

 人集りの中心にいた演説台に乗った男の姿を見て、カトレアは納得する様に頷いた。

 先触れとは、国が出したお触れや情報を庶民達に伝える者達だ。庶民達の中には字の読み書きが出来ない者も多く、そういった者達の為に王宮からのお触れを声に出して伝える者が必要だった。謂わば、先触れ達は街頭ニュースの報道官と言うべきだろう。

 

(ちょうどいい。迷宮で待ってるお嬢ちゃん達の土産代わりに王国の最新の情報でも聞いてやろうじゃないか。なになに………)

 

 カトレアは人集りに混じり、軽い気持ちで先触れが話す内容に耳を傾けた。

 そして――――――すぐに顔を引き攣らせる羽目になった。

 

 ***

 

「白野くん達………遅いね」

「………そうね」

 

 カトレアが使っていた隠れ穴の中、香織の呟きに雫は静かに返した。と言っても、本当に遅いと思っているわけではない。

 あれから二日間が経っているが、それ自体は特に問題はない。何故なら、白野が地上へ行く前にこっそりと雫は頼み込んだのだ。

 

『出来る限り、香織を休ませてあげたいの。だから買い物に時間がかかったフリをして少しだけ時間を稼いでくれる?』

 

 白野は最初に驚いたものの、すぐに意図を察して頷いてくれた。雫の頼み通り時間をかけてくれているのだろう。

 まがりなりにも無理矢理休ませた事で、香織の顔色はすっかりと良くなっていた。後は白野達が帰ってくるを待つだけだ。

 

「南雲くんも………頑張っているんだよね」

 

 白野が残してくれたマップを見ながら、香織はポツリと呟く。定期的に確認しているが、ハジメ(暫定)の生命反応は未だに途切れていなかった。それどころか、迷宮の奥へと進み出しているのだ。

 

(どうして迷宮の奥へ行っているのかしら………それにしても、本当にこれ南雲くん?)

 

 最初は同じ階層をウロウロしていると思ったら、迷宮の奥へと進む度に徐々に階層を突破する速度が上がっているのだ。まるで、何らかの手段で急速で力を付けているかの様だった。

 

(かなり疑問だけど………これは香織に言わない方が良いわよね。また人違いだったら、今度こそ精神的なショックで倒れかねないわ)

 

 そう判断して、雫はあえて件の生命反応についての疑問を言わなかった。話題を変える為にも白野達について話す事にした。

 

「まあ、白野の話だとあの転移魔法が迷宮から出る時しか使えないそうだから仕方ないんじゃない? 途中で檜山のせいで出来た65階層まで行けるトラップを使ったとしても帰りは徒歩なのよ。心配しないで待ってあげましょう」

「うん、そうだね………」

 

 マップに映る生命反応を見ながら、香織は自分を納得させるように頷いた。体力も気力も十分に回復した今、本当はすぐにでも生命反応を追って迷宮の奥へと行きたいのだろう。だが、逸る気持ちを抑えて白野達の帰りを待っているだ。

 恋した男の子の為に身を焦がしている幼馴染みを見ていると、雫も女としての心が疼く様な感じがした。何故かずっと隣にいた家族の少年の事を思い出してしまう。

 

「………早く帰って来なさいよ、バカ」

 

 自分が頼んだとはいえ、たった二日間いないだけの時間が長く感じてしまっていた。

 ポツリと小声で呟いたつもりだったが、英霊化した香織のキツネ耳がピンと立った。

 

「あれあれ? ひょっとして、白野くんを一番待ち侘びているのは雫ちゃんじゃないの?」

「え………そ、そんな事無いわよ! 香織の気のせいじゃないかしら?」

「えー、そうかなあ? 待ってる雫ちゃんの表情、『ロミオとジュリエット』みたいでとても可愛かったよ?」

「な、何を言ってるのこの子は! 大体、白野と私は義理の姉弟なの! ただ家族を心配してるだけなの!」

「むう、こんな時まで強がんなくてもいいのに………。それに血の繋がらない姉弟でも恋愛関係になるって、少女漫画だと鉄板だよ?」

「本当にこの子は………もうそういう漫画を見るの禁止! そんなインモラルな事を描く漫画なんて教育に悪いわ!」

 

 うわーん、雫ママが怒ったー! と香織が笑う。それだけで場の空気がずいぶんと和らいだ。香織も雫を元気付けようとしてくれたのだろう。お陰で雫も大分、心に余裕が出来た気がした。

 そんな中で隠れ穴を“錬成”で開けて入った来た者達がいた。

 

「白野くん!」

「お帰り………待ってたわよ」

 

 少女二人は待ち侘びていた相手の帰還に顔を輝かせる。

 

「ああ、ただいま………」

 

 そんな中………何故か白野の顔は少し元気がなかった。

 

「白野? どうかしたの? 地上で何かあった?」

「それは………………」

「話しておいた方が良いんじゃなかい?」

 

 雫が心配して声を掛ける中、白野の後ろにいたカトレアが話し出した。

 

「お嬢ちゃん達二人、どういうわけかこの坊やが攫った事になっていて――――――人間達の勇者が教会に要請して、坊やを王国の賞金首にしたという話を」




>賞金首はくのん

 まあ、それはそれとしてこちらでも火種は作るけど。
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