ありふれていた月のマスターで世界最強   作:sahala

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 二次創作を書いていて何が辛いかというと、原作通りの展開を書かないといけない時ですかね。
 二次創作を書いてるのに何を言ってんの? と思うでしょうが、基本的に読者は元である原作を既に読んでいる人がほとんどだと思うのですよ。
 そんな人達に、すでに見たシーンである原作展開をやってもなぁ……と、思うわけです。今回はある意味テンプレ展開だから、書いている自分も少し退屈でした。

 だから私は「原作展開? ナニソレ美味しいの?」というくらいに脱線させたがるのです(笑)


第二話『異世界召喚———目覚める力』

 その日、白野は珍しく体調が良かった。

 雫と一緒に登校して、香織がハジメに話し掛け、横から光輝が割り込もうとしているのを見ながら、宿題をやっていなかった龍太郎に苦笑してノートを見せる。そんな、ありふれた日常だった。

 

 そして———それが、岸波白野の最後の日常となった。

 四限目の終わり。昼休みに入った直後に、教室全体に突然魔法陣が現れ、日常はあっさりと燃え尽きた。

 

 ***

 

 閃光の様な強烈な光を感じて、白野は思わず身をすくめた。ジェットコースターの急降下の様な浮遊感に襲われて、胃がせり上がる。しかし、その感覚はすぐに収まった。次の瞬間、白野は冷たい大理石の床に突っ伏していた。

 

「一体、何が………?」

「白野!」

 

 両手をつきながら起き上がろうとすると、雫が駆け寄ってくる。いつもはしっかりと整えているポニーテールが強風の煽りを受けた様に乱れていたが、そんな事すら気にかけていられないとばかりに白野を助け起こす。

 

「白野、無事!? 気分が悪くなってない?」

「雫……大丈夫、大丈夫だから」

 

 雫の必死な顔を見て、白野は逆に落ち着いてきた。そこでようやく周りを見回す余裕が出てきた。周りには、先程まで白野と一緒に教室にいた面々がおり、何が起きたかさっぱり分からないという様子で不安そうに辺りを見回していた。

 白野達がいる場所は大理石で出来た神殿の様な場所。その中でも他より一際高く作られた祭壇の様な台座に白野達は居た。周りには自分達を取り囲む様に神官の様な服を着た人間達が祈りを捧げていた。

 その中から、一際立派な神官服を着た老人が進み出る。

 

「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、皺だらけの顔を穏やかに微笑ませた。

 

 ***

 

「白野、本当に大丈夫? 無理をしなくても、話なら私が聞いておくから……」

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

 隣の席で雫が白野に気遣わし気に声を掛けてくる。まるで病弱な弟を心配する姉、もしくは子供を心配する母親だ。いつもならば白野の事を快く思ってない生徒達は、家族だからとはいえ雫に構われる姿に嫉妬の目線を向けるのだが、今回ばかりはそんな余裕は無かった。

 イシュタルに案内されるままに大広間に連れて来られ、長テーブルの席に着いた彼等は緊張した様子でイシュタルを見ていた。途中、全体的に顔の造形が整ったメイド達が生徒達に飲み物を配り、思春期の男子生徒達は顔をだらしなく緩ませたりした者もいたが、白野はそれどころではなかった。

 

(身体が……熱い……?)

 

 教室からこの場所に来た時から、白野は身体が火照る様な感覚に苛まれていた。まるで風邪で熱を出した時の様な———しかし、いつもの目眩とは違う感覚に、白野は冷や汗を流しながら席に着いていた。

 

(何なんだろ、これ……? でも、イシュタルはきっと、俺達の今後を左右する様な事を言う筈だ。せめて、それは聞いておかないと……)

 

 呼吸をする度に、熱が全身を駆け巡る様な気までしてくる。まるで、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな白野に雫は心配そうな顔になるが、それでも白野は脂汗に耐えながらイシュタルが話し始めるのを待つ。全員に飲み物が行き届いたのを確認すると、イシュタルは徐ろに話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 ***

 

 この世界はトータスと呼ばれる世界で、白野達が元いた地球とは別世界である。

 トータスには人間族、亜人族、魔人族がいるが、人間族と魔人族は何百年と戦争を続けている。

 長年、大規模な侵略などなく、小競り合いをする程度の両種族だったが、最近になって事情が変わってしまった。

 どうやってか、魔人族は強力な魔物達を使役する術を身につけ、今まで数だけは優位だった人間族との力関係が崩された。

 

「そして……時を同じくして、魔人族の軍に悪魔の如き力を持つ者の存在達も確認されました」

 

 まるでファンタジーRPGの世界の様な話だ。しかし、クラスメイト達は誰も馬鹿馬鹿しいと笑い出さなかった。否定するには今の状況が異常事態過ぎた。

 そして———イシュタルの話し方が上手いのだ。彼等は聞き入っているクラスメイト達を見ながら、沈痛そうな表情を見せる。

 

「ハルデールノ、ドールローキ、レヤの村、商業都市ベレタガム……その他にも、数々の都市や村が滅びました。幸運にも生き残った者の証言を聞くと、彼等は我々の世界では見た事のない鎧や衣服に身を包んだ人間族だとの事です。おそらくは皆様方と同郷の者達なのやもしれません。異世界の人間は、この世界の人間より何倍も強い力を発揮するそうです。そんな相手までも魔人族に味方したとあっては、もはや我々人間族は滅びの運命を待つばかり……そう思っておりました」

 

 そこでイシュタルは顔を上げる。彼は恍惚とした笑顔で、クラスメイト達を救世主であるかの様に見ていた。

 

「ですが、神は……エヒト神はまだ我々を見捨ててはいなかった。祈りを捧げる私に神託を下さった……“異世界より勇者を送る"、と。そう、それがあなた様方なのです。どうか我々を御救い下され、勇者の皆様。邪悪なる魔人族達に虐げれる我々に、救いの手を差し伸ばして下され」

 

 そう言って、イシュタルは白野達へ頭を下げた。それは人間に対して礼をするというより、神の様に神聖な者へ頭を垂れる様な仕草だった。

 ———まるでよく出来た演劇だ。

 白野は身体の中から湧き上がる熱に耐えながら、思わずそう思ってしまった。

 イシュタルの話が終わった大広間に、ガタンと席を立つ音が響く。

 

「ふざけないで下さい! この子達に戦争へ参加しろと言うのですか!」

 

 この場で唯一、学校の制服ではなくスーツを着て、しかし身長が一番背の低い生徒よりも更に小さな少女が立ち上がった。

 彼女の名前は畑中愛子。

 教師免許を取って三年目の若輩ながら、低身長で童顔という愛らしい容姿で「愛ちゃん先生」と生徒達から人気のある社会科教師だ。

 彼女は四限目が自分の受け持ちの授業であり、生徒からの質問に答えていた為に不運にもクラスメイト達と共に異世界召喚に巻き込まれてしまっていた。

 

「貴方達がやってるのはただの誘拐です! そんなの先生は許しません! ええ、許しませんとも! 早く私達を元の場所に帰して下さい!」

 

 机を叩き、彼女はイシュタルにくってかかる。もっとも、叩いた机はペチンと迫力の無い音が響き、本人の少女みたいな容姿も相まって小型犬が吠えている様な可愛らしさが先に来る様な姿だった。事実、一部の生徒は「愛ちゃんは今日も元気だなぁ」と和やかに眺めているくらいだ。

 そんな愛子に対して、イシュタルは皺の深い顔をいかにも残念そうに横に振った。

 

「お気持ちは察しますが………それは出来ぬ相談なのです」

「で、出来ないってどうして!? 私達を呼び出す事が出来るなら帰すのだって簡単な話でしょう!」

「あなた方を召喚したのはエヒト様のご意思。我々、人間には異世界という場所に干渉する術を持ちません。あなた方を元の世界に帰せるのはエヒト様だけなのです」

「そんな………そんな………!」

 

 ぺたん、と愛子は脱力した様に椅子に腰を落とす愛子。その姿を見て、事態の深刻さに気付いた生徒達は一斉に騒ぎ出す。

 

「ふざけるなよ! なんで俺達が戦争しなくちゃならないんだよ!」「嫌よ! 家に帰して!」「なんで、なんで、なんで……!」

 

 皆が口々に騒ぎ出す。白野もまた異常事態に頭が真っ白になりかけ———ギュッと白野の袖を掴む者がいた。

 

「雫……?」

「……嘘、よね? これ、ドッキリよね? 私達がもう帰れないって……そんな事、あるわけ無いわよね……?」

 

 いつも凛とした表情を見せる雫が唇を振るわせながら、白野の服を掴む。その手は小刻みに震えていた。

 

「…………」

 

 それを見て、白野の混乱は嘘の様に引いた。白野は雫の手を優しく握る。

 

「白野……? 貴方、熱が……!」

 

 触れられた手が尋常でない体温を発している事に雫は気付いて声を上げたが、それと同時にバンッ! と机を叩く音が響く。

 音に驚いた皆が目を向けると、光輝が立ち上がっていた。彼は皆の視線が自分に集まった事を確認すると、おもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放置するなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします。さっき言ってた魔人族に味方した異世界人? みたいに、強くなれる……そうなんですね?」

「ええ、ええ。だからこそ、あなた方をエヒト神を異世界より召喚されたのでしょう。今はまだか細き力ですが、鍛錬を積まれれば、あなた方は魔人族に味方した者達より強くなれるでしょう」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように、俺が世界も皆も救ってみせる!!」

「ま……待ってくれ、光———!?」

 

 グッと握り拳を作って光輝は力強く宣言する中、白野は光輝を止める為に立ち上がろうとし———平衡感覚が、グラリと無くなった。

 

(こ……こんな時に……っ!)

 

 「白野!」と隣で雫が悲鳴を上げるが、白野は目眩と共に熱で意識が朦朧としてきて、それどころでは無かった。

 ドクン、ドクンと血管が脈打つ様な感覚までしてくる。

 

「へっ……仕方ねえな。まだよく分からねえけど、光輝がやるなら俺もやるぜ! ダチ一人に戦わせる気は無え!」

「龍太郎っ……! ありがとう!」

 

 クラスのリーダーである光輝と、頼れる力持ちの龍太郎が宣言すると、まずは女子達が声を上げた。

 

「天之河くんがいるなら私も!」

「私だって! 家に、帰れるかもしれないし……」

 

 女子達が次々と参戦わ表明すると、今度は男子達が声を上げる。

 

「お、俺もやる! 女子達に戦わせて何もしないなんて、男じゃねえ!」

「天之河達がいるなら、何とかなるよな……?」

「だ、駄目ですよ! 貴方達は何を言っているんですか!? コラ、先生の話を聞きなさーい!」

 

 次々と参戦を表明する生徒達に愛子が慌てて止めようとするが、彼等の熱気は収まらない。光輝の作った流れの前に、愛子が涙目で訴えても無力だった。

 そんな中、香織は決めかねている様にオロオロとしていた。

 

「わ、私は………」

「香織、君も一緒に戦おう! 大丈夫だ! 俺がいれば、どんな敵だってへっちゃらさ! 皆で力を合わせて、この世界を救おう!」

「で、でも………ねえ、雫ちゃんはどうす———白野くん!?」

 

 雫の意見を求めようとして、そこで初めて香織は白野の異状に気がついた。

 

「白野! ねえ、しっかりして! 白野!!」

 

 テーブルに突っ伏した白野に雫が必死に揺さぶる。周りが騒然とする中、白野の意識は徐々に薄れていった。

 

 

 バチッ。

 スイッチが入った音が聞こえた気がした。

 

 ***

 

『魔術回路……?』

『そう、■■■が■■■たらしめる物。貴方にもある筈よ?』

 

 何処かの学校の屋上———ただし空には0と1の数列が無数に浮かんでいる。

 そんな非現実的な場所で、彼は目の前のツインテールの少女と話していた。

 

『私達は魔術回路があるからこそ、自分の精神や肉体を霊子化して電脳空間に干渉できる……記憶が無いと言っても、この■■■■■に来れた以上、貴方にもあって当然の物よ?』

 

 元々、面倒見の良い性分なのか、ツインテールの少女は何も知らない新人に指導する様に丁寧な教える。

 

『まあ、少しでも死を先送りしたいというなら、自分の回路に魔力を通す鍛錬くらいはしておきなさい。でないと貴方、すぐに死にそうだから。記憶を無くした■■■なんて、最弱にも程があるもの』

 

 あっさりと言い放つツインテールの少女だが、彼女なりの気遣いが見て取れた気がして彼はお礼を言おうとした。

 

『その……ありが———』

『勘違いしないで』

 

 ビシッとツインテールの少女は指を突きつけた。

 

『■■戦争で生き残れるのは唯一人。私は貴方に生き残って欲しい、なんて思っていない。これは謂わば、最期の手向けというやつよ』

 

 それだけ言うと、ツインテールの少女は校舎のドアへと向かう。

 

『じゃあね。一回戦、シンジが相手なんでしょ? 私の為にも、せいぜいシンジの手の内を明かして頂戴ね』

 

 そう言って、立ち去ったツインテールの少女の背中を彼はしばらく見つめる。

 ツインテールの少女の姿が完全に見えなくなると、隣りに人の気配が現れた。

 

『———奏者よ。あの少女の言葉は辛辣ではあるが、真実ではあるな』

 

 彼が視線を向けると、背中やスカートの前面を大胆に見せている真紅の舞踏衣装を着た少女がいた。

 

『そなたの実力はおそらく全てのマスターの中で最下位となろう。いかに余が他の■■■■■■より優れた至高の剣士とはいえ、こればかりは如何ともし難い』

『……分かっているさ、■■■■』

 

 ムキになって否定するでもなく、素直に頷いた彼に真紅の少女はうむうむ、と頷いた。

 

『弱さを否定はせず、立ち向かう姿は良し。余のマスターとしては一応の及第点は与えられるな。さあ、アリーナに征くぞ。才が無いなら、場数をこなして自信をつけるのだ』

 

 「ああ」と頷き、彼は校舎の中に入る。階段を下り、鍛錬場となるアリーナの入り口に立った。

 扉を開けて、アリーナの中へと入る。

 そこは———まるで海の中に入った様なダンジョンだった。

 沈没船の墓場の様な光景に目を奪われそうになるが、視線の先に幾何学模様の紋様が肌に浮かんだエネミーを見つけた。

 

『来た……■■■■、構えて。俺が援護する』

『うむ! では余の剣技、とくと魅せるとしよう!』

 

 手に炎を形にした様な大剣を出現させると、真紅の剣士はエネミーへと斬り込んでいく。

 彼はその背景で先程のツインテールの少女の助言を思い出しながら、手を翳す。

 

『code:———』

 

 翳した手が、じんわりと熱を帯びた。

 


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