ありふれていた月のマスターで世界最強   作:sahala

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 誠に勝手ながら、タイトルを変えました。
 分かりやすくていいか、と思っていたのですけど、冷静になって見るとこれはナシな気がしてきたので。

 そんなわけで「ありふれ/EXTRA」改めて、「ありふれていた月のマスターで世界最強」をよろしくお願いします。


第四話「ステータスプレート———そして悪意の進軍」

「俺がお前達の教官となるメルド・ロギンスだ! これからよろしくな!」

 

 練兵場に集まった生徒達の前で、壮年の男がニカッと笑いながら自己紹介した。

 白野が雫と共に戦うと決めた翌日。さすがに戦闘に関して素人のクラスメイト達をいきなり前線には出せないと判断されたのか、ハイリヒ王国は“神の使徒"一行に座学や戦闘訓練を受けて貰う事にした様だ。戦いに向けて本格的な訓練と座学が開始される前に、自分達の教育を担当する事となったハイリヒ王国騎士団長メルド・ロギンスより一枚の銀色のプレートが全員に配られていた。

 

「このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 そう言って渡された銀色のプレートカードを白野はしげしげと眺める。自分のステータスが数値化されるなんて、まるでゲームの世界みたいだ。とりあえず、メルドから言われた通りに白野は針の先で自分の指を傷付け、ステータスプレートに血を一滴垂らす。すると———。

 

『岸波白野 17歳 男 レベル:1

天職:@&/#_♪$€

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:200

魔耐:200

技能:全属性適性・予測演算・高速魔力回復・指揮適性・魔力感知・言語理解』

 

(……何だこれ?)

 

 出てきたステータス一覧に首を傾げる白野だが、その間にもメルドの説明が続く。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示し———」

 

 メルドの説明はその後も続いたが、白野は小耳に挟みながらもステータスプレートを指で叩いたり、軽く振ったりしてみた。しかし、どうやっても白野の天職の欄は文字化けした様に表記してくれない。周りを見てみるが、クラスメイト達は自分の天職やステータスの数値に一喜一憂していた。中でも光輝はここ百年は現れなかったという“勇者"という天職であり、ステータスも最初からこの世界の一般人より十倍も強い数値である事をメルドからしきりに褒められていた。

 

(う〜ん、もしかして俺のは故障してるとか? 幸先悪いなぁ……)

 

 そんな事を考えていると、白野のステータスプレートをメルドに見せる番になってしまった。仕方なく、白野はそのままステータスプレートを提出する。

 

「ん?」

 

 メルドは怪訝な顔になり、白野と同じ様にステータスプレートを振ったりする。

 

「おかしいな、天職の欄が全く読めないが……」

「ええ。だから、壊れているんじゃないですか?」

「うーん、そんな風に故障したなんて聞いた事無いんだが……しかし、ステータスが凄いな! 魔力や魔耐は至っては光輝より上だし、この日一番のステータスだな!」

 

 不安そうな白野を安心させる為か、メルドは喜びに興奮した声で白野のステータスを褒めた。

 

「岸波が……?」

「嘘だろ? アイツ病弱なのに……」

 

 生徒達は信じられない物を見る様な目で白野を見る。中でも光輝の変化が劇的だった。さっきまで自分の才能が一番だと褒められていた筈の彼は、顔を真っ青にしながら声を上げた。

 

「メ、メルドさん! 読み間違えているという事はありませんか!? 岸波の天職は読めないし、やっぱり故障でステータスも間違って表記されているんじゃありませんか!?」

「そんな故障など聞いた事が無いと言っただろうに……まあいい。岸波、だったか? 予備のプレートを渡すから、もう一度試してみろ」

 

 言われた通りに白野は新しいステータスプレートに血を垂らしてみるが、結果は同じだった。天職は読めないままに、ステータスも技能も何も変わらなかった。

 

「ふうむ、天職が読めないのが気になるが……しかし、やはりステータスが高いのは事実の様だな。それに技能の「指揮適性」だが、これは“将軍”や“軍師”といったレアな天職でなければ持たない技能なんだ。きっとお前はそういった天職なのだろうから、心配するな!」

 

 これは期待できるぞ! とメルドに肩を叩かれて白野は生徒達の中に戻る。クラスメイト達の大半が白野を驚きのあまりに目を丸くして見る様な目で見る中、先に天職の報告を終えていた香織と龍太郎、そして雫が近付く。

 

「おめでとう、岸波くん! 何だか凄いステータスになったみたいだね!」

「はあ〜、よくブっ倒れていた岸波がねえ……ちょっと驚いたけどよ、お前将棋とかメッチャ強えもんな。“指揮適性"とかいうのには、ある意味納得だわ」

「ありがとう、二人とも」

 

 香織と龍太郎が純粋に白野のステータスを喜んでくれた事にお礼を言うと、雫は弟分が異世界の地で良いスタートを切れた事を喜ぶべきか、高いステータスの持ち主として否応なしに戦争に駆り立てられるだろうという事に不安を感じるべきか、曖昧な表情をしていた。

 

「大丈夫だよ」

 

 そんな雫に、白野は安心させる様に微笑む。

 

「雫に、龍太郎、香織、それに光輝だっているんだ。何とかなるさ」

「……そういうのは光輝だけで十分よ」

 

 ようやく雫は少しだけ笑った。

 

「とりあえず、おめでとうと言うべきかしら? 私は“剣士"になったから、白野の前に出て守ってあげるわ。背中は任せたわよ、指揮官様?」

「これは責任重大だな。まあ、頑張るよ」

「南雲〜、お前ステータスが雑魚過ぎだろ!」

 

 雫と白野が笑い合っていると、ふいに軽薄な声が響いた。

 声のした方向を向くと、クラス内の不良グループのリーダー格の檜山大介が、ハジメのステータスプレートを奪って周りに聞こえる様な大声を出していた。

 

「メルドさーん! この“錬成師"って、すげえ天職なんすかー!?」

「い、いや……いわゆる鍛冶屋で、天職としてはありふれた物だが……」

 

 メルドが思わずそう答えると、檜山は取り巻きの不良グループ達と爆笑し出した。

 

「ギャハハハハ! だってよ! ステータスも10しか無いしよぉ、一般人と変わらねーじゃん!」

「頑張って剣をせっせと作れよー! 南雲の作った武器なんか使いたくねえけどな!」

「ちょっ、ちょっと! 返してよ!」

 

 ハジメがステータスプレートを取り返そうとするが、檜山達はステータスプレートをパスしあって返さず、ハジメに嘲笑を浴びせていた。

 

「コラー! お友達をイジメちゃいけません!」

 

 愛子がプンプンと怒りながら介入して、ようやく場は収まった。しかし、周りの生徒達はハジメを見てクスクスと笑ったり、あからさまにホッとした様子を見せた人間もいた。

 

「……嫌な空気だね」

 

 香織が眉を顰めながらそう呟く。

 

「南雲くんが自分達よりステータスが低いからって、皆で馬鹿にする事ないのに……」

「同感だな。そんな下らない事をしてる暇があるなら、自分を鍛えろってんだ」

 

 香織の呟きに、龍太郎も頷く。龍太郎はハジメと仲が良いわけではないが、いつもは病弱な親友(岸波白野)を「雫のお荷物」などと陰口を叩いていながら、彼が自分達より強いと分かると代わりとばかりににハジメを見下すクラスメイト達が気に入らなかったのだ。

 

「………」

 

 その光景に———白野はふと、既視感の様なものを感じた。

 

「白野? どうしたの? やっぱり、頭が痛いの?」

「いや、違う……違うんだ」

 

 コメカミに手を当てたのを見て、雫が心配そうに声を掛けたが、白野は首を振る。

 

『とうとう一回戦か……緊張するなぁ。まあ、負けてもログアウトすれば良いか』

『やれやれ……ハニーの為に情報収集をしていたら、自分の対戦相手の方が疎かになってしまったよ。まあ、僕のサー■■ントは強いから、何とかなるかな?』

『僕とエル■■ゴの無敵艦隊を見せてやるよ! 少しは楽しませてくれよ、予選では僕の友人役だったんだからさ!』

 

 ———ザザッ。

 まるでテレビをザッピングした時に見た映像の様に、白野の脳内でノイズが走る。

 白野が通っている学校とは違う校舎、見覚えのない制服を着た人間達、会った覚えが無い筈なのに親しげに話してくる特徴的なウェーブヘアー(ワカメ頭)の少年。

 それなのに、白野は何故か()()()()()()()()()()()()()()

 

(今の映像は……一体………?)

 

 自分が授かったチート能力に一喜一憂して、まるでゲームの世界に来た様に無邪気に興奮しているクラスメイト達。

 彼等を見ていると何かを思い出しそうで、白野はしばらく考え込んでしまっていた。

 

「そんな……嘘だ……。岸波なんかが、俺より凄い筈なんて……」

 

 ———だからこそ。白野を凝視する暗い視線に気付けなかった。

 

 ***

 

 トータスにおいて、ヘルシャー帝国という人間族の国がある。

 三百年前、一人の傭兵が荒くれ者達を纏め上げて建国されたこの国は、『力こそ全て』という国是を掲げて軍事力を高めて、今や兵士や冒険者の聖地と呼ばれるくらいに強大な軍事国家となった。

 しかし———それも今日までだった。

 

「ガハッ………!?」

 

 ヘルシャー帝国皇帝であるガハルド・D・ヘルシャーは、心臓を刺し貫かれてくぐもった声を出した後に動かなくなった。目から光が失われたガハルドを男は刺し貫いた手を抜きながら、地面に横たわらせる。

 

「———安らかに眠れ。最期の調べは、きっと天上へと届くだろう……」

「皇帝陛下ああああぁぁぁっ!!」

 

 側近の男らしき騎士が、事切れたガハルドに絶叫する。

 燃え盛る城内。逃げねば自分の身も危うくなる状況でありながら、彼が選んだのは亡き主君の仇を討つ事であった。

 

「貴様ああああっ!! よくもガハルド陛下を———!」

 

 ダンッと駆け出す音すら置き去りにして、彼は剣を大上段から振るう。

 ハイリヒ王国の騎士団長にして、王国最強の戦士メルド・ロギンスと肩を並べると言われた男の剣は、その噂に恥じない速度と威力を感じさせた。

 

「くたばれ、人間族でありながら魔人族に与する裏切り者おおおおっ!!」

 

 騎士の剣は顔の半分を醜い仮面で覆い隠した長髪の男を真っ二つにせん、と迫る。男は避ける素振りすら見せず、脳天に剣が振り下ろされ———ガキンッと、騎士の剣が半ばから折れてしまった。

 

「なっ……」

 

 側近騎士は普通の人間ではあり得ない事象に瞠目し———その腹に、男の手刀が突き刺さった。

 

「ご、ぶっ———!?」

「悲しむ事はない……悲しむ事はない……。君もまた、彼と共に天の国に招かれるのだから」

 

 まるで舞台上の俳優の様に芝居掛かった台詞を喋りながら、男は魔物の様に鋭い爪を生やした手を引き抜く。操り人形の糸が切れた様に、騎士は地面に崩れ落ちて動かなくなった。

 

「歌え、歌え、高らかに。愛を、希望を、死を」

 

 燃え盛る城内———生きている者がいなくなった場で、男はオペラ歌手の様に高らかに歌った。

 

「彼等の断末魔(コーラス)を君に贈ろう。彼等の絶望の死に際(シンフォニア)を君に捧げよう……だから、どうか微笑んでおくれ……」

 

 ドロリ、と黒い泥の様な涙が男の目から溢れる。

 それを拭う事なく、男は寂しげに呟いた。

 

「クリスティーヌ……愛しい君よ……」

 

 ***

 

「おー、アサシンの奴はやったみたいだな」

 

 ヘルシャー帝国の首都。その男は燃え盛る帝城を見ながら、軽い調子で呟いた。その側で、随伴兵の様に控えている魔人族の軍人達が顔を驚愕に歪めながら、口々に言い合う。

 

「馬鹿な……人間族の軍事大国であるヘルシャーが、こうもあっさりと……」

「向こうには“英雄"ガハルドだって、いた筈だぞ……?」

 

 彼等にとって厄介だった敵があっさりと滅ぼされた事に、喜びよりも恐怖を感じた様子で囁き合っていた。

 魔人族の軍人達は恐々とした様子で男を見る。男の格好はトータスでは見た事の無い仕立ての良いスーツとネクタイ姿であり、その上から魔術師のマントを羽織っているという戦場に来たとは思えない洒脱な服装だ。

 だが、それを魔人族達は咎めない。何故なら———実質的に彼ともう一人の男で、ヘルシャー帝国軍は全滅したからだ。誰もが人智を超えた目の前の男を恐がり、本来なら宗教的に不倶戴天の敵である人間族だからといって侮蔑する者などいない。

 

「さぁて、アサシンが城を落としたのだから、こちらも仕事してますか。それでさ、生き残りの人間達はどうしてる?」

「は……はっ! 御命令通り、この都市の広場に集めております!」

 

 気安い様子でスーツの魔術師は近くにいた魔人族に聞くと、彼は顔を蒼白にさせながら報告した。

 

「ほ、ほぼ全員が非戦闘員の女や子供、老人ばかりです! その……いかがなさるおつもりで?」

「ああ、全部殺しといて」

 

 あっさりと———まるでちょっとタバコを買ってきて、と言う様子でスーツの魔術師は言い放った。

 

「……全員、ですか?」

「そ。皆殺しだよ、ミ・ナ・ゴ・ロ・シ。お前等もアルヴなんちゃらを信仰してない奴等が死んで万々歳でしょ?」

 

 魔人族の唯一神であるアルヴ神を適当な呼び方をするスーツの魔術師だが、魔人族の男が指摘したいのはそこではない。彼は生唾を飲み込みながら、スーツの魔術師に向かって口を開いた。

 

「その……キャスター様。人間達は、幾らかは生かすべきでは無いでしょうか?」

 

 「おい、よせ!」と周りの同僚達が声を上げたが、彼は撤回する様子はなかった。スーツの魔術師———キャスターは、意見をしてきた魔人族を不思議そうに見た。

 

「ん? なんだ、お前は人間族の皆殺しに反対なわけ?」

「い、今まで襲撃した人間達の都市や街も、女子供どころか胎にいた赤子まで全て皆殺しにされています! い、いかに神敵とはいえ、こうも間引いてしまっては我等が占領した後の統治に関わるのではないでしょうか!?」

 

 ———魔人族達は目の前のキャスターを含めた()()()()()()の手を借りて、人間族の都市や街をいくつも滅ぼしていた。

 しかし、七人の異邦者が赴いた地は文字通りの意味で根絶やしにされ、人間達がいた土地は瓦礫の山へと変わっているのだ。これでは災害で消し飛んだのと変わらず、軍人である彼等からすれば占領後の旨みすらも消し去っているのだ。何より———。

 

「す、既にアサシン殿が帝国の皇帝を討ち取ったのであらば、この国の人間達はもう戦意を奮い起こす気力も無いと愚考します! ですから、せめて年端のいかぬ子供と少数の女達くらいは生かしても問題ないと存じ上げます!」

 

 何よりも。彼等もまた、人間達を残虐なまでに殺す事に罪悪感を覚え始めていた。

 確かにアルヴ教の教義的には、人間族はアルヴ神を信仰しない穢れた存在だ。しかし、剣を持たない女子供はおろか、赤子まで根絶やしにする血に飢えたケダモノ同然のやり方にはさすがに魔人族達も拒否感が出ていた。妊婦の胎を割いてまで赤子を殺す様に命令された若い魔人族の中には精神を病んでしまった者もいると聞く。

 そもそも目の前の男だって人間族だ。人間族の手を借りて戦争をしている以上、魔人族の誇りや大義名分を今更唱えた所で白々しいにも程がある。

 

「どうか……どうか女子供だけは助命を! 奴等を生かす事で、魔人族は後世の歴史にも『この戦いには大義があり、決して人間族を根絶やしにしようとしたわけではない』と記す事が出来ます! どうか女子供だけでも、助命を!」

 

 誇り高き魔人族の軍人として、彼は震えながらもキャスターに嘆願した。

 

「ん〜……まあ、別にいいぞ」

 

 少しだけ考える素振りを見せ、キャスターはあっさりと頷いた。

 彼は顔を明るくして、顔を上げ———ゾブンッ、と銀色のステッキで胸を貫かれていた。

 

「あ………? な………ぜ………?」

「え? いやだって、“私が代わりに死ぬから人間は見逃してあげて"って、そういう感じの話だろうよ?」

 

 血反吐を吐きながら問い掛ける魔人族に、キャスターは「何言ってんの?」と言いたげな顔で首を傾げた。

 

「というわけで、グッバイ♪」

 

 気軽に挨拶して、キャスターは杖に魔力を込めて———魔人族の身体は内側から爆発する様にバラバラになった。

 

「ひぃっ!?」

 

 肉片や血が飛び散り、近くの魔人族達に降り掛かる。彼等は悲鳴を上げて後退りした。

 

「ああ、クソ……せっかくサヴィル・ロウの仕立て屋でオーダーメイドしたスーツだったのに。別の魔術にすれば良かった」

 

 返り血で汚れてしまったスーツに顔を顰めながら、キャスターはハンカチーフで拭おうとする。人を一人殺しておきながら、まるで一張羅に泥が跳ねたという程度にしか感じてないキャスターに残った魔人族は顔面を蒼白にさせた。

 

「まあ、いいや。とりあえずこっちとしては一定数の魂が徴収できれば良いだけだし。さて、残った人間は何人? それで、誰が代わりに死んでくれる?」

「す、すぐに御命令通りに皆殺しにして参ります!」

 

 魔人族達はキャスターから離れようと、一斉に駆け出そうとし———。

 

「あ、ちょっとタイム」

 

 ビクッ! と魔人族達は足を止める。本音を言うと逃げ出したいが、機嫌を損ねたらどうなるか分からないから恐る恐ると振り向く。

 

「その人間達の中で、適当な人間を一人だけ逃がしてやってくれない? 代わりにコイツが死んでくれたからさ、等価交換の原則は守るべきだろ?」

 

 ステッキの先で魔人族()()()()()を指し示しながら、キャスターはにこやかに笑っていた。

 今度こそ———魔人族達は地獄の悪魔に会ったかの様に、一目散に逃げ出していた。

 

「………まいったなぁ」

 

 魔人族達がいなくなり、一人残されたキャスターは肉片にしてしまった魔人族を見ながら呟いた。

 

「こんな簡単に殺すつもりは無かったのに……覚悟はしてたけど、結構キツイなぁ」

 

 懐から煙管を取り出し、火を付ける。ユラユラと揺れる煙を見ていると、グチャグチャになった頭が少しだけ正常に戻る気がした。

 

「どうにも妙なハイテンションになってやがる……こんな物を聖杯に詰め込んでいたなんて、アインツベルンは何を考えてんだ?」

 

 溜息と共に煙を吐き出して、気分を落ち着かせようとした。

 彼の顔もまた———泥に侵された様な紋様が浮かび上がっていた。


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