ありふれていた月のマスターで世界最強   作:sahala

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 スピード優先で、文章の密度はそんなに濃くは無い気がする……。
 まあ、でもせっかくの休みの日だから執筆はしておきたかったので。


第六話「デジャビュ」

 洞窟内を二本の角を持った狼の魔物達が駆ける。群れのボスらしき狼は周りの個体より一回り大きく、鋭い牙と爪を持った魔物は獲物の喉笛を食い千切る為に襲い掛かった。

 

「“風球"!」

 

 白野の手から風の塊が飛び出し、狼の魔物は空中で避ける事も出来ずに開いていた口の中にマトモに食らった。

 

「グルァッ!?」

「香織! “縛光刃"を頼む! 南雲も“錬成"を!」

「う、うん! 抑する光の聖痕、虚より来りて災禍を封じよ———“縛光刃"!」

「れ——“錬成"!」

 

 牙が折れて、地面に激突して怯む魔物へ香織の魔法が放たれる。光の十字架は魔物の胴体を地面へ挟み込み、更にハジメによって地面が陥没して、四肢が地面に完全に埋まってしまった。

 

「雫!」

「ええ! シッ———!」

 

 そこへ雫が曲刀を抜いて切り掛かった。本来の獲物である日本刀の時より遅いが、それでも綺麗な弧を描いて剣閃を描いて狼の魔物の首を刎ねた。

 

「グルルルルッ!!」

「グオオォォォォッ!!」

 

 群れのボスがやられて少しだけ怯む様子を見せた狼達だが、魔物としての本能を優先して再び人間達へ襲い掛かる。彼等は背後にいる人間達へ襲い掛かろうとした。

 

「あわわ、来る、来る! どうしよう!?」

「落ち着いて、谷口! 無詠唱で良いから、“聖絶"でガード!」

「え……あ、わ、分かった!」

 

 襲い掛かる狼達に混乱していた小柄な少女———谷口鈴は、白野のアドバイス通りに魔法を発動させる。無詠唱の為に強度は然程でもないが、それでも狼達の突進を見事に防いだ。

 

「永山は鈴の前に出て! 園部は中距離から攻撃! 距離が近いから大技は控えてくれ! 遠藤は二人の遊撃に回って!」

「お、おう! 任せなっ!」

「わ、分かったわ!」

「俺に気付いてくれてる……! 任せろぉっ!」

 

 白野の指示にクラスメイト達が動く。初めは動きの固かった彼等だが、白野の指示通りに動いて少しずつ余裕が出てきた様に魔物達を殲滅していく。白野もまた、彼等を魔法で援護して魔物を倒していった。

 

「むう、これは……」

 

 その戦闘を見守っていたメルドは、思わず喉を唸らせた。

 ここはまだオルクス迷宮の浅い階層で、出現する魔物もほんの序の口という程度の強さだ。生徒達のステータスなら、難なく倒せるだろうとは予想はしていた。しかし、蓋を開けてみればメルドの期待以上の動きを一人の生徒が見せたのだ。

 

(まだ天職は分からんが、白野のステータスならまず楽勝だと思っていたが……こいつ、戦闘が初めてとは思えない程に場慣れしている感じがあるな。何よりも特筆すべきなのは……ずば抜けた戦術眼、それと読みの鋭さだな)

 

 初めての戦闘で固くなっている生徒にも、白野は彼等の天職から最低限に出来る指示を出して、戦況を上手く回している。彼等に援護する時も、まるで魔物達の動きを先読みしているかの様に的確に魔法を当て、味方が倒しやすい位置やタイミングに誘導しているのだ。

 

(愛子からは全員が戦いの素人だとは言われていたが……これは期待できるかもしれんぞ!)

 

 上層部から“神の使徒"達の実戦訓練を即座に行う様に指示された時、メルドは反対していた。彼等はまだ天職を得てから一週間しか経っておらず、新兵でももう少し長く訓練するからだ。結局、上層部からの強い意向には逆らえずに準備不足が否めないままにやり始めた実戦訓練だが、白野の戦闘指揮を見ていると、冷静になるべき思考がついつい期待で熱くなりそうだった。そうしてる内に、白野達は魔物達を全滅させた。

 

「……よし。終わりました、メルドさん!」

「うむ、よくやった! 文句無しだぞ、白野! 魔石の回収は忘れるなよ? 坊主! お前もご苦労だったな。ポーションを飲んで、一旦後方に下がっていいぞ!」

「は、はひぃ……」

 

 メルドから許可を貰い、ハジメが後方へと下がろうとする。クラスメイト達の中で一番ステータスが低い彼にとって、一回の戦闘で魔力を使い果たす程にキツかった様だ。そんなハジメに、香織が近寄る。

 

「南雲くん、お疲れ様! さっきはありがとうね!」

「し、白崎さん!? い、いやぁ、たまたまだよ! あの、岸波くんの指示が良かっただけだし……」

 

 ハジメは謙遜する様に首をブンブンと振る。クラスのアイドルに笑顔を向けられ、一部の男子生徒達から嫉妬の目線に向けられている事が気不味い様だった。しかし、そこでハジメはふと後ろを振り向いた。

 

「南雲くん、どうかしたの?」

「え? ああ、いや……何でもないよ」

 

 何か視線を感じた様に振り向いたハジメだが、心配する香織に気のせいだと言うと、そのまま後方へと帰っていった。

 

(まただ……また檜山が南雲を見ていた)

 

 そんな中、白野はハジメが感じていた視線の正体に気付いていた。香織に構われるハジメを、檜山は生徒達に混じりながらドロッとした殺意の籠った目線で見ていたのだ。

 

(一体、何故……? いつも南雲に絡んでいるのは知っているけど、何も殺す程に恨みを抱くものか?)

 

 白野が険しい顔になる中、今度は雫が心配そうに話しかけてきた。

 

「白野、どうかしたの?」

「うん……檜山がハジメに殺気を向けているのが気になってね……」

「いや、殺気って。そんな大袈裟な……」

 

 漫画に出てくるプロの暗殺者みたいな事を言い出した弟分にツッコミを入れようとした雫だが、白野の真剣な表情を見て口を噤む。雫も白野が冗談を言っているわけではないという事が分かったようだ。

 

「うーん……檜山本人は隠してるつもりみたいだけど、実は香織に好意があるみたいよ。それで香織が夢中になってる南雲君の事が気に入らないんじゃないかしら?」

「そう、なのか……?」

「まあ、貴方も魔物との戦闘で気が立っているのよ。いくら檜山でも、クラスメイトを殺そうとまでは考えないわよ。そんな度胸があるなら、香織にさっさと告白ぐらいしてるもの」

 

 そ・れ・よ・り! と、雫は深刻そうな白野の空気を変える為に強引に話題を変えた。

 

「さっきの戦闘、指示とかすごく良かったわよ。貴方にそんな才能があったなんて、家族ながらとてもびっくりしてるのだけど?」

「あー、それが何というか……何か身体がスルスルと動いたというか……?」

 

 何それ? と雫が小首を傾げるが、白野は思ったままに言うしかなかった。おそらく平和な日本なら生涯経験しない戦闘だというのに、白野の身体や思考はまるでどうすれば良いか知っているかの様に動いたのだ。

 

(何だろう、まるで……記憶は無いけど、身体が覚えている……そんな感覚がする)

 

 それこそ、そんな筈は無い。確かに八重樫家に引き取られる前の記憶は無くしたが、少なくとも虎一の話を聞く限り、白野を含めて両親は武術の達人だとか、戦場の名軍師とかいう話は無い。だが、白野はこうして戦闘に身を投じていると、記憶に無いくらいずっと昔に同じ様な事をやっていた気がしてくるのだ。

 

(俺は、一体……? 雫の言う通り、少し気が立っているのかな?)

 

 浮かび上がりそうな疑問を心の奥底に沈め、白野は再び現れた魔物の群れに意識を集中させた。

 

 ***

 

「は〜、すっげえな。白野のやつ」

 

 クラスメイト達に的確なアドバイスを与えながら魔物を倒していく白野に、龍太郎も戦いながら呟いた。

 

「異世界に来てから、何か知らねえけど身体も丈夫になったみてえだしよ。白野がいれば、俺達は無敵だよな!」

「………別に。あいつがいなくても、俺なら———」

 

 ん? と龍太郎は自分の親友が何か小声で言おうとした事に耳を傾けようとしたが、再び来た魔物の相手にそれどころではなくなった。

 そして———襲い掛かる魔物達を聖剣で一刀両断した光輝は、白野へ暗い視線を向けた。

 

(……何だよ。白野が少しばかり戦える様になったからって、みんなチヤホヤするなんて)

 

 その目線は龍太郎の様に友人の活躍を喜んではおらず、むしろ気に入らないものを見るかの様に険を含んでいた。

 

(メルドさんも、白野の奴を甘やかせ過ぎじゃないか? 皆んなの後ろで偉そうに指示して、時々魔法をチョロっと使っているだけじゃないか。さっきだって、雫と香織がすごいから魔物を倒せたんだ)

 

 光輝の中で、周りから称賛されている白野を見ていると何か黒い感情が渦巻いていた。だが、それを光輝は口には出さない。それを口にするのが、何故か嫌だったし、()()()()()()()()気がしたのだ。

 

(……そうだ。あんな風に()()()()()奴がチヤホヤされているのは、間違っている。そりゃあ、図書館で()()()()()()()()()南雲に比べれば、まだマシだけど……俺は白野より、何倍も努力しているんだ。それなのに、努力してない奴がチヤホヤされてる事は間違いだから、イライラするんだ)

 

 光輝は白野に対して感じる黒い感情をそう結論づけた。

 確かに光輝は召喚されてから———より正確に言うなら、白野のステータスが自分より上だと知ってから、自由時間も鍛錬にあてるくらい必死に努力していた。

 しかし、いざ実戦となると力を持て余し気味な自分と比べて最小限の戦闘で効率よく戦っている白野を見て、光輝の中で今まで感じた事の無い感情が渦を巻いてくるのだ。

 

 ———これは余談だが。光輝には、今まで同年代で自分と並ぶ様な人間がいなかった。

 勉強もスポーツも、少し努力しただけで同年代の子供達より何倍も成果を出せた光輝は、必死にならなくては勝てないという思いをした事がなかったのだ。そんな光輝に教師達は褒め称え、同年代の少女達は熱い視線をいつも送っていた。何度か両親や八重樫道場の師範、時には雫と香織に何やら注意を受けた事もあったが、周りから褒められていた彼にとって、「ちょっと誤解されているだけだろう」と然程真剣に考える事も無かった。

 だからこそ、異世界で“勇者"になったという事実にも光輝は当然の様に了解した。自分は今まで誰よりも上手くやってきたから、同じ様に勇者として異世界で困っている人達を救えば良いだけなのだ。それだけの話なのだ。

 

 だが———そんな光輝の()()の中で予想外の事が起こった。

 

(いつも雫に迷惑をかけてばかりの白野が急に元気になって、戦闘も上手くやっているなんて……絶対に何か不正をやっているんだ。そうに違いない)

 

 今まで0点しか取ってない人間が、急に100点を取ったら怪しいと思い、カンニングを疑うだろう。同じ様に異世界に来てから急に活躍しだした白野に光輝は疑念の目を向けていた。

 

(俺はこの世界を救おうと頑張っているのに、あいつは()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()、大立ち回りをしているんだ。雫や香織達は騙されているだけだ)

 

 結局のところ———光輝は“勇者"である自分よりも活躍している白野に、嫉妬していた。

 しかし、今まで誰かに嫉妬をした事のない光輝は自分の感情を正しく把握できず、また祖父を見て培った正義を信奉する精神が「他人に嫉妬するなんて間違っている」と目を背けさせていた。だからこそ、代わりとばかりに白野が何か不正をしているのだと自分を納得させていた。

 

(俺が……俺が、皆の目を醒まさなくちゃいけない。なんたって、俺は“勇者"なんだ。皆を引っ張って、リーダーとして頼りになる所を見せないと駄目だ!)

 

 光輝が強い決意をしている中、前方で白野がメルドに話しかけていた。

 

「……メルドさん、あの岩場は———」

「お? お前は気付いたか。しかし、まだ言うなよ? おーい、お前達! 擬態している魔物がいるぞ! 目を凝らして、よく探してみろ!」

 

 メルドの大声に、クラスメイト達は一斉にキョロキョロと辺りを見回した。だが、白野だけはただ一点だけを見つめていた。

 ガコッ、と岩場の一部が動き———魔物が姿を現した。

 まるで岩石が肌になった様なゴリラ達に白野が魔法を唱え様とし———光輝は白野を押し退ける様にして前に出た。

 

「え……ちょっと待ってくれ。光輝!」

「万翔羽ばたき、天へと至れ!」

 

 白野の制止を無視して、光輝は詠唱を開始する。

 先手必勝だ。素早く魔物を倒してこそ、“勇者"の役目なのだ。

 

「おい、馬鹿! こんな場所でそんな大技を使ったら———!」

「天翔閃!」

 

 メルドの制止も虚しく、光輝は聖剣からエネルギー刃を飛ばす。

 大きな爆発音と共に、迷宮の壁をガラガラと崩れさせた。




何か拗らせちゃってますが……光輝はキチンと更生するのでご心配なく。
成長の為には、最初は大きく失敗しても良いと思います。(もち取り返しのつく範囲内で)
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