れいむとシロ 【改】   作:ねっぷう

1 / 9
第一話 「狐と巫女」

少しだけ昔の話をしよう。

今から5年前のことだった。何の前触れもなく空から降り注ぐ紫色の流星群が幻想郷を襲った。

 

数多の妖怪と生き物たちが死に絶え、大地は燃え、山は熱を吹き出し、森は半分以上が炭となった。一夜にして死の世界と化した幻想郷は一刻も早く以前の環境を取り戻す必要に迫られた。

 

だがそうはいかなった。流星群による天変地異に乗じて、幻想郷の理の外側から来訪した者たちが、北に聳える妖怪の山とそれに連なる山脈の向こう側に棲みつき始めた。その土地は「マガノ国」と呼ばれ、彼らは絶えず幻想郷へ侵入を試みると同時に、襲撃を繰り返した。

土地は死に、住まう妖怪たちの少なくなった幻想郷の勢力ではマガノ国へ対抗することができず、流星群があった日から1年が経過したころ、幻想郷はマガノ国の支配下に置かれた。

 

マガノ国の頂点に立つ存在、通称「禍王」と呼ばれる者は歯向かう幻想郷の民を人間妖怪問わずマガノ国へと連れていき、奴隷としての烙印を押した。禍王の正体を探ろうとする者たちもおり、彼らは「外の世界からやってきた魔王」や「地球外生命体」であると推測するが、彼らもマガノ国がもたらす闇に吞み込まれた。

 

土地は荒廃したまま一向に実らず、マガノ国の手の者が蔓延り、人々は常に恐怖と貧困に囚われながら生活する。最早、楽園と呼ばれていたころの面影は全くない。幻想郷は荒廃しきった、魔の世界と成り果ててしまったのだ。

 

 

────────────

 

 

流星群から5年後。

 

暗く曇った空の下、博麗霊夢は斧を背負って寂れたあぜ道を歩いていた。足元には、白い毛並みを持つ狐のような生き物がテクテクと後をついてきている。

 

「ねぇシロ、今回の妖怪を倒したら味噌と米くれるってさ」

 

左目は傷を負って閉じており、右足首が曲がらないので歩き方も少し不安定。右手の人差し指と中指は中間程から千切れて無くなっている。

 

「キョン!」

 

「わかってるって。そしたらこの間もらった綺麗な水を使って炊いて食べましょう」

 

「キョンキョン!」

 

キョンキョン鳴く白い狐は眠たそうに瞼の垂れた大きな目をし、青白い毛並みの一本の尻尾は体の大きさよりもずっと長く、爬虫類の尾のようにニョロニョロと揺れている。

 

「いたいた。さぁ、いくわよシロ!」

 

「キョン!」

 

 

「なんでだ…なんでお前が、奴らの味方をしてる?」

 

目の前で倒れ伏した妖怪は、青い血だまりの中で血反吐を吐き出しながらそう呟いた。人間のような痩せ細った赤い肌の身体に、両目の飛び出した猫のような頭を持ったその妖怪。喉元を斧で切り裂かれ、頭部にも抉るような深い裂傷、体には火傷の跡がある。

 

「みんな噂している。博麗霊夢は幻想郷を見捨てたクズ巫女だ。マガノ国のいう事を聞いて妖怪を殺し、食糧をもらって───」

 

「ごめんね」

 

霊夢はそれだけ言い残すと斧を振り下ろし、妖怪の首を切り落とす。

頭部があぜ道を転がり、乾いた土だけが残された畑へ落ちていく。やがて妖怪の身体はぶよぶよとその場で溶け始めた。

 

「よくやった博麗霊夢」

 

後ろから拍手をしながら声をかけてきたのは、灰色の軍服を纏った背の高い男。

 

「憲兵さん、どうも」

 

「約束の報酬だ、受け取れ」

 

男は霊夢に飯盒に入った味噌と紙に包まれた一握りの米を手渡した。

 

「これは有難い」

 

「次も頼むぞ。我々、マガノ国の為に妖怪のいない平和な土地にしてくれ」

 

男は立ち去った。霊夢は真顔でそれを見届けると、シロを連れて帰路へ着く。

霊夢は人里の大通りへ入り、背中を丸めて食料を大事に抱えながら歩く。行き交う人々は誰もが貧しい身なりで痩せているか不健康に太っているかのどちらかだ。その人々は、こぞって顔をしかめ、霊夢を睨んでいる。

 

「おいお前!今日は何をもらったんだ!」

 

通行人から怒鳴られ、霊夢は少しだけ歩みを止めるも、足早に歩き出す。シロも心配そうに霊夢の顔を見上げながら後をついていく。

 

「幻想郷のために戦ってきた妖怪を殺して、奴らからもらう飯がうまいか!?」

 

「…すみません」

 

口々に霊夢を罵倒する里の住人達。霊夢は伏目で彼らを一望する。皆の顔に浮かぶのは、怒りと…そして、”憎しみ”、”絶望”。

その中で、道端に置かれた樽の上に座って煙草を咥えながらこちらを睨んでいる、上背の大きな女性と目が合った。が、霊夢は再び下を向き、そそくさとその場を離れようとする。

 

「はやく帰れ!売女め!」

 

通行人たちは下を向いて歩く霊夢に向かって石やゴミを投げつけ、頭や背中にコツコツと当たる。シロが牙をむき出して唸るが…

 

「シロ、だめ」

 

霊夢はそれを制し、この道をひたすらに進んだ先にある博麗神社へ向けて帰還するのだった。

 

 

「ウマそ~、いただきま~す」

 

「キョン!」

 

外れた障子、畳の剝がれた床、折れた片足を補強してある机と、囲炉裏。神社のすぐ横にある家で、霊夢とシロは食卓を囲んでいた。

割れた茶碗に盛られたわずかな玄米と焼いた味噌。同じ量の同じものがシロの目の前にも置かれている。香ばしい香りが鼻をつき、霊夢はよく味わうようにゆっくりとそれを食べた。

 

「ごちそうさまでした。おいしかった~」

 

「キョン!」

 

同じく完食したシロを撫でながら、霊夢は少し昔の事を思い出す。

 

 

──3年前

 

マガノ国から攻め来る軍勢は次第に増え続け、やがては幻想郷とマガノ国の全面対決に発展した。北から攻め入るマガノ国軍を、妖怪の山で迎え撃った。

もちろんその迎撃戦には霊夢もいた。必死に戦っていた。幻想郷を守る要として、外来の侵略者に決して負けぬよう、流星群の日からこれまでに蹂躙されてきた分をやり返すかの如く、彼らに対する”憎しみ”の炎を胸に灯して。

一通り軍勢を止めた後、霊夢は烈火の如き勢いで妖怪の山を乗り越え、敵の本拠地マガノ国へ乗り込んだ。妖怪たちは霊夢へ希望を託した。これまでに幾多もの異変を解決してきた霊夢であれば、きっとマガノ国を叩き潰して幻想郷へ帰ってくると。

 

丸1週間が経過したころ、霊夢は帰ってきた。妖怪たちは喜んで出迎えたが…霊夢が彼らに与えたものは、他ならぬ霊夢による暴力だった。

霊夢は近寄る妖怪を圧倒的な力で吹き飛ばし、博麗神社へ帰還し、何日も引きこもった。その間にマガノ国軍は再び幻想郷を攻め入り、ついに陥落させたのだった。

 

「…クソっ、なんでこんなことに…」

 

霊夢は自室の隅に蹲り、前髪を掴みながら震える声でそう呟いた。外からは里から押し寄せてきた人間たちの抗議の声がやかましく聞こえてくる。神社の周りに結界を張っているのでそれ以上入ってくることはないが、口々に霊夢を罵倒しているのがわかる。

彼らは一様にまったく知らされていないのだ。霊夢が怒りと憎しみと共にカチコんだマガノ国で何を見たのかを…。

霊夢は悔しさのあまり、頬に涙の筋を流した。己の無力が憎い、敵が憎い、聞こえてくる声が憎い。腹の底から煮え立つ怒りはいずれ霊夢の心全てを焼き尽くし、灰と化す。その時に、霊夢は自らの命の灯を消してしまわねかねない程の狂気に憑りつかれるのは明白だった。

 

「キョ…」

 

その時、すぐ近くで何か動物の鳴き声のような音が聞こえた。霊夢は顔を上げ、その方を見る。すると、そこには青白い毛並みを持つ不思議な狐のような生き物がじっと座ってこちらを睨んでいた。大きな目をじとっと細めて、赤い瞳で見つめてくる。

 

「何よアンタ…どこから入ってきたの?結界で神社の中には入れないはずなのに…」

 

考えられるとすれば、もともとこの神社のどこかに潜んでいたくらいか。

 

「って、あっ!?」

 

霊夢が少し目を離した隙に、その狐のような生き物は霊夢が用意していた焼き魚を頭からボリボリと嚙み砕いて食べ始めていた。

 

「コラ!!それは私が何日も粘ってやっと捕まえた魚なのよ!それを…」

 

目の前にあるのは、数匹の魚、薄い味噌汁と漬物。それらを見た瞬間、霊夢の腹が鳴った。その時にはすでに、霊夢は目の前の食事を夢中で頬張っていた。

 

「美味い…美味い…!!まずは…生きなきゃ…!」

 

薄味なはずの味噌汁と漬物がやけにしょっぱく水っぽい。おまけに視界が揺らいで前が見えない。

 

「キョン!」

 

その妙な狐の鳴き声だけが聞こえる。

 

 

───

 

あの時、霊夢がマガノ国で見たものは誰にも話していない。ただ、皆が知っていることはある。それは、霊夢が妖怪を一匹退治するごとに、霊夢はマガノ国から食糧を分けてもらっているということだ。

現在の幻想郷は不作に悩まされている。作物は育たず、野生の草木も痩せ細り、それを食べる動物も少なく、狩猟に出ても動物を目にすることすら珍しい。

妖怪は霊夢を激しく蔑んだ。マガノ国を倒すために共に戦った妖怪たちを倒して僅かな食糧を得る霊夢を。人間たちは絶望した。マガノ国の兵士にへつらって施しを受ける霊夢を見て、もはや希望は何も残っちゃいないのだと。

 

「…腹減って眠れない…」

 

霊夢はシロを抱きしめながら呟いた。シロも眠っていなかったのか、キョンと鳴いた。

 

「よし決めた!今日見る夢!」

 

「キョン?」

 

「毎日白米と魚、それから味の濃い味噌汁食って…夜は毎日風呂に入る!それから…毎日宴会をやるんだ…浴びるほどお酒飲んで、みんなで朝まで騒いで…そう、みんなで…」

 

そう言ったところで、霊夢はようやく眠りについた。

 

 

「おい、起きろ。仕事だ、また俺たちに歯向かう妖怪が出た、出番だぞ」

 

「…はーい」

 

しばらく眠ったころ、丑三つ時に霊夢は呼び起され、眠い目をこすりながら毛布から出ると立ち上がる。

 

「夢くらい見させてほしいわね。行くわよシロ」

 

「キョン!」

 

霊夢は障子の戸を開け、外に置いてある草履を履こうと視線を下に移した。次の瞬間、太鼓のような音が響いたかと思うと、足元にいたシロが血を吐いていた。突然胸にズン、と何かがめり込んできた。

 

「え?」

 

背中へ突き抜けていった小さいものが部屋の中の壁に当たる。

さらに続けて、複数の方向から放たれる凶弾が霊夢の身体を何発も貫いた。目の前には、銃を構えるマガノ国の憲兵団たち。

霊夢は同じく銃弾を受けて血を流すシロを抱き抱えると、おぼつかない足取りで逃走を図ろうとする。

 

「無駄だ博麗霊夢。お前の役目はもう終わった。幻想郷の妖怪どもはもう十分減った…禍王様も大層お前の働きを評価している。だからこその、死だ!」

 

「がふ…!」

 

昼間、霊夢に米と味噌を渡した憲兵隊長が後ろから言葉を投げる。

 

「お前が心まで完全に禍王様に屈していないことは、あの方もわかっている。だから博麗霊夢の不満が爆発し、再びマガノ国に牙をむく前に死を与えろと仰られた」

 

茂みに潜んでいた憲兵たちが飛び出し、霊夢へ銃を向ける、咄嗟に背中を向け、シロを庇おうとする。しかし、襲い掛かる何発もの銃弾は霊夢を貫き、その胸の中のシロをも撃ち抜いた。

 

「…死体は空っぽの賽銭箱にでも突っ込んどけ」

 

隊長は霊夢の死を確認すると、部下に指示してシロごとその遺体を無理やり賽銭箱の中に詰め込んだ。箱の下部や板の割れ目から血が流れだし、周囲を赤く色付ける。

 

 

 

 

 

 

…今から5年前、幻想郷を襲った「流星群」。その威力は凄まじく、天変地異を起こして幻想郷の環境を大きく一変させてしまった。

同時に幻想郷の北側に出現した、謎の巨大勢力「マガノ国」。彼らは1年後、幻想郷へ侵略を開始しその魔の手は全土へ及んだ。

3年前、妖怪の山で起こった幻想郷とマガノ国軍との全面対決が起こるも幻想郷側は敗退。

流星群から4年後、つまり”今”より1年前に起こったこの出来事が、この物語の始まりである。




前々から「れいむとシロ」書き直してぇなぁ~って思っていたので思い切って書いてみました。現行の別作品がまだ終わりそうもないので、こちらは不定期更新になると思われます。

元のあの話、今自分で見返すといろいろとひどいですよ。まず当時は若かったので「ネットに投稿する小説とは掲示板でよく見るSSのようなもの」だと思い込んでいたので台本形式で始まっていますし、無理やり感が強すぎて設定とかめちゃくちゃ崩壊してますよ。

こっちのリメイク版も、リメイク前とはかなり違った出来になると思います。初っ端からいきなりチェンソーマンっぽい感じで始まりました。また、前に完結させた別作品「東方新抗禍」のストーリーも大々的に盛り込んでいます。

どうか楽しんでいただければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。