れいむとシロ 【改】   作:ねっぷう

2 / 9
第二話 「ふたりの願い」

「んじゃあアンタの名前はシロね」

 

「キョン?」

 

「いいでしょ、真っ白いからシロ。よろしくねシロ!」

 

霊夢はその白い狐の妖怪に「シロ」と名前を付けた。シロはキョトンとした顔でそれを聞いたが、数秒後には承諾するかのように一声鳴いた。

霊夢の仕事は、マガノ国の憲兵の指定する妖怪を退治する事。対価として生活用品か食糧を受け取る。だがそれも決して腹が膨れる量ではない。

 

「いただきます」

 

食事をとる時は、必ずシロにも同じものを同じ分だけ食べさせている。それはシロを特別視していたりとそういった理由ではなく、ただ霊夢にとってはそれが当たり前で、誰であろうと一緒に食卓を囲む以上同じものを出すのは当然だからだ。

 

霊夢は遠からず近い未来のうちに自分は死ぬだろうと考えていた。不作に悩まされる幻想郷では誰でも栄養失調で命を落とす可能性が付いて回り、それは霊夢も例外ではない。現に霊夢が霊力の使用や空を飛ぶ能力さえも全く使えなくなっているのは、それだけが原因ではないだろうが、それでも、あるいは勘がそうだと告げているのかもしれない。

 

「シロ、もし私が死んだら…私の死体を食べてほしいの。そして腹いっぱいになったらたぶんドカンとすごい力がゲットできると思うから…そしたら、邪魔なもの全部ぶっ壊して自由に暮らしてほしい。私、アンタが大好きだから!」

 

 

───

 

博麗神社の賽銭箱の中へ無理やり押し込められた霊夢の死体に、白い毛が巻き付いていく。霊夢と一緒に銃で撃たれたシロは辛うじて生きており、最後の力を使って霊夢の体を食べていた。

どんどんと伸びるシロの毛が霊夢の全身を包み込み、純白の繭を形作る。

 

 

「…シロ」

 

霊夢は、夢の中にいた。仰向けに寝転がっている自分の胸の上で座ってるシロを見上げ、笑顔で声をかける。

 

「私の死体、ちゃんと食べれた?」

 

それに対してシロは少しだけ笑って見せ、ゆっくりと口を開く。

 

「…我は、霊夢と共にとる食事が好きだった。我の腹が満たされる時は、お前の腹も満たされる時だ」

 

霊夢は驚いて目を見開く。

 

「お前の願いは我の願い。美味いものを食らうのも邪魔なもの全部ぶっ壊すのも…お前の夢を、共に叶えさせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロッ…!?」

 

霊夢は賽銭箱を内側から突き破って立ち上がり、目の前の虚空へ手を伸ばす。だが何も掴むことができず、我に返った。

服は血だらけのままだが、撃たれた傷は跡形も無く治っている。さらに、目や指、足首の以前から怪我を負っていた部分も全く違和感なく元に戻っていた。

 

「そっか…」

 

胸の服を握りしめる。うっすらと滲んでくる涙をこらえ、顔を上げると一歩踏み出す。

 

「いこうよ、シロ」

 

 

 

「しかし分隊長…本当にあの巫女を殺しても良かったので?あのまま首輪をつけて飼い慣らしておけばまだ使えると思っていたのですが…」

 

副官らしき隊員が、先ほど霊夢を襲撃した分隊長にそう言った。

 

「まあ全て禍王様の思し召しだ。あの巫女は従順なように見えるが、我々がヤツに妖怪を殺させる度…ヤツの抱える叛逆の火は大きくなり続ける。ヤツの性格上、永遠にそれを堪えられるタマではない…いずれは爆発し、喉元に食らいつかれるのは我々だ。だからこれ以上火が大きくなる前に消したまで。その火が周りの者へ燃え広がっていくのもごめんだからな。以前からヤツに渡す食糧には少量ずつの毒を盛っていた。今夜手を下さずとも、あと数か月の内には死んでいただろうがな」

 

「なるほど。ではあの巫女に憑りついていた妖怪は何だったのでしょうか」

 

「今までは巫女に寄生する有象無象の妖獣だと思っていたが…禍王様はそうは考えていなかったらしい。何かに気付いた様子であの妖獣の始末もついでに頼まれた。詮索はしない方がいいぞ」

 

「は、はい…。おや?」

 

副官は前方に何かを発見し、同じくそれに気付いた分隊長も腕を上げて部下たちを制止させる。

 

「へえー!なんだそういうわけかぁー!」

 

目の前の木にもたれかかって腕を組み、こちらを笑顔で見ていたのは、先ほど銃で撃ち殺したはずの博麗霊夢だった。服は血だらけで汚れているが、外傷ひとつ見受けられない。

 

「おいお前ら…!本当に巫女が死んだのを確認したんだろうな」

 

「はいもちろん…!20発は撃ち込まれてましたし、脈も止まってました!完全に死んでましたよソイツ!」

 

焦り始める憲兵たち。

 

「では妖獣の方は?」

 

「…あの程度の雑魚妖怪ならじきに死ぬと思ったのですが…!」

 

「ポンコツども…!」

 

分隊長は妖獣の死をまともに確認しなかった部下たちに小声で悪態を吐く。その間にも、霊夢はゆっくりとこちらへ近づいてきている。

 

「アンタら勘違いしてたのね?マガノ国は妖怪たちに勝って…それに加えて私があまりに簡単に妖怪を倒すものだから…取るに足らない虫けらだと思っちまったのね?」

 

「もう一度撃ち殺せ!!」

 

憲兵たちはそれぞれ銃を構え、一斉に発射して霊夢を無数に撃ち抜く。鮮血が飛び散り、霊夢の体が後ろへ倒れていく。

 

「バカだなぁ…いつの時代も本当に厄介で、人間の想像を越えて暴れるのは妖怪なのよ」

 

「頭を撃って脳味噌を粉々にしろ!」

 

憲兵が霊夢の額目がけて最後の銃弾を発砲する。

 

(コイツらバカだなぁ…んでもバカなおかげでシロは最後の力を私に分けてくれた。どうして?そんなにいつものご飯が嬉しかったの?美味しかったの?あんなに少ないご飯で?毒の入った食べ物が?だったら、いつかもっと美味しいご飯を食べさせてあげる、お酒だって呑もう。だから…)

 

「私たちの邪魔ァするなら、死ね!!」

 

霊夢はそう叫ぶとともに大口を開け、鮫のように鋭い牙が生え揃った顎を噛み降ろす。すると、牙の間には額目がけて放たれた弾丸が挟まり、煙を上げながら潰れていた。

 

「なに!?」

 

憲兵たちが驚きながら見ている前で、霊夢の姿は変貌する。

黒髪は白く染まるとともに地面に付くほど長くなり、後ろへ靡く。赤く染まった獣のように鋭い瞳と口から覗く牙が月光を受けて輝き、噛み潰した弾丸を吐いて捨てる。強張った両手の指先はナイフのように鋭い爪が生え、腰からはシロの尾とそっくりな獣の尻尾が伸びる。

まるでシロをモデルとした獣のように変化した霊夢は、牙を剥いて唸りながら憲兵たちへ向き直る。今しがた撃たれた跡もほとんど消えている。

 

「なんだコイツ…!」

 

「いいから撃ちまくれ!流石に全身ハチの巣にすりゃ死ぬだろ…!」

 

分隊長も携帯していた装備パーツをくみ上げ、マシンガンを手に取るとそれを霊夢に向かって乱射する。しかし、目の前から霊夢の姿が消えた、僅かな土埃と風を残して。

憲兵たちが不思議に思った次の瞬間、霊夢はひとりの憲兵の背後に現れ、強張った手を振り下ろした。

 

サクッ

 

5本のナイフに斬り裂かれた憲兵の体はいとも容易くバラバラになった。

 

「うお…!」

 

隣の憲兵は思わず声を上げた。

 

「そうか、ひらめいたわ…もし私が勝ったら!全員で宴会をやるわ!」

 

「な、何言ってやがる…?」

 

霊夢はそう言った憲兵を切り裂いて殺し、次の標的へ顔を向ける。

 

「そこら中の美味いものと酒ェかき集めてさぁ!あ、もしもどうしてもって言うなら、禍王も宴会に入れてやってもいいよ!」

 

「はぁ!?」

 

またひとり、物言わぬ肉塊へと変える。

 

「その代わり私含めた全員に酒を注ぐ係にしてやる!そんでもって良い感じにみんな酔っぱらったら、今度は吐くまで飲ませてやってさ!アッハハッハハハハハハ!!禍王のゲロ吐くとこ見て宴会はバカ盛り上がり!完璧な宴会プラン思いついちゃった~~~!!」

 

「何言ってんだコイツ!頭おかしいぞ!」

 

純白の尾を振り下ろして先端を憲兵の脳天から突き刺し、さらに薙ぎ払って何人も一度にグシャっと果物のように叩き潰す。

そして、副官だった憲兵の頭を掴むと胴体から背骨ごと引っこ抜き、それを投げ捨てる。数分前まで憲兵隊だった赤黒い塊がそこら中に点在する死屍累々な空間で、霊夢はゆっくりと分隊長に向き直る。

 

「おっ、お前!博麗霊夢!そんなに酒が飲みたいならくれてやる!いつも世話になってたからなぁ…!それくらいの奮発は…」

 

「うるさい!」

 

霊夢の突き出した尻尾の先端が分隊長の胸に突き刺さり、貫いた。そのままその体を持ち上げ、自分の目の前へ引き寄せる。

 

「毒入りの食べ物くれてた礼がまだだったわね?」

 

「お、お前、気付いて…」

 

「消毒しなきゃ」

 

霊夢の口から火の粉が燻った次の瞬間、大きく開いた口から特大の青い火炎が噴き出し、分隊長の全身を包み込んだ。数秒後には霊夢の尻尾の先には何も残っておらず、焦げた匂いが漂っているだけだった。

 

「いい気分…正月元旦の朝に顔洗ったあとみたい」

 

霊夢の晴れ晴れとした気分を現すかのように朝日が照る。同時に、霊夢は北に聳える妖怪の山とそれに連なる東西の山脈を睨んだ。あの向こうには諸悪の根源、マガノ国が存在し、その頂点に立つ禍王がふんぞり返っている。

 

「いくわよシロ、叛逆の時はきたわ」

 

 




早速のお気に入り登録、評価ありがとうございます。大変励みになります、頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。