れいむとシロ 【改】   作:ねっぷう

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第三話 「反逆の鐘」

マガノ国とは、流星群が起こった日以降、幻想郷の北側…妖怪の山の向こう側に出現した侵略者たちの本拠地である。マガノ国へ乗り込んだ、あるいは連行されていった者たちは妖怪か人間か問わず誰も戻ってきた事はない。知られている限り、博麗霊夢ただひとりを除いては。

 

マガノ国の頂点に君臨する「禍王」は妖怪たちとの戦争に勝利した後、幻想郷へ兵士や怪物を送り込み続けた。兵士たちは多彩な武装と数に物を言わせ、妖怪がほとんどいなくなった幻想郷を制圧し、禍王は幻想郷を支配下に収めた。

主に人間の里に駐在する兵士は「憲兵」と呼ばれ、また幻想郷各地に拠点を置いてそこを根城とし、周辺の巡回を行う兵士は「調査兵」と呼ばれ、憲兵は人里の監視と警備を、調査兵は幻想郷各地で反乱分子との戦いに備えている。

 

かつて霊夢は自ら乗り込んでいったマガノ国で「何か」を目の当たりにし、帰還した後は憲兵の指示のもと妖怪を退治し、僅かな対価を貰う生活を送っていたが、共に暮らしていた狐の妖獣「シロ」と共に憲兵に殺害される。

しかしシロだけは辛うじて生存しており、彼女を食べることで一体化し、霊夢を蘇らせた。そして今までこき使ってきた憲兵をすべて殺害したのが昨夜のことだ。

 

「さて、まだ禍王の奴には私の叛逆はバレてないと思うんだけど…やっちまった以上、最後までやり通すしかないわね」

 

霊夢が夢の中でシロの願いを聞いた瞬間から、最終的な目標は決まっていた。後は、その目標へ向けて戦い続けるのみ。

 

「んまあでも…いきなりマガノ国へ乗り込むって訳にはいかないのよね。まずは先にやるべきことをやってからじゃないとね」

 

 

 

人里へ降りた霊夢は、堂々とした足取りで大通りを歩く。道行く人々は相変わらず霊夢を怪訝な顔で睨みつけているが、昨日までと異なり堂々とした佇まいで、何か雰囲気の変わったような気のする霊夢に対して誰も何も言わなかった。

 

「ああ、誰かと思えば霊夢じゃないか」

 

が、ひとりだけ霊夢に声をかけるものがいた。

 

「…魔理沙。何か用?」

 

霧雨魔理沙。幻想郷に住まう人間の魔法使いにして、流星群が起こる以前には霊夢と並んで幻想郷の危機や異変に立ち向かっていた少女。

魔理沙は商店の屋根の上から霊夢を指差し、さらに続ける。

 

「いつもの白いやつはどうした?まさか殺したのか?今じゃお前はマガノ国のために妖怪を殺して、奴らにへつらってるんだからな」

 

だが、霊夢は何ともないような顔でそれを聞き流し、先を急ごうとそっぽを向く。

 

「悪いわね、シロはもういないわ」

 

「え…?おい、待てよ!ならどこへ行く?もう霊力も使えない、空も飛べないお前はいつも武器を背負ってたよな?そんな丸腰でどこへ行くつもりなんだよ?ええ?おい!」

 

「おなかいっぱい食べに行くつもり」

 

霊夢は振り返ってそう言うと、今度こそこの場を後にした。魔理沙は屋根から飛び降りると、その後姿を遠目に見ながらぼそりとつぶやく。

 

「…ふん、今のお前に何ができるってんだよ」

 

 

霊夢の目的地とは、人間の里のど真ん中に建てられているマガノ国の駐屯基地だった。コンクリートで出来たその基地は巨大で、敷地との境界には電柵が張り巡らされており、武器等を生産する工場も兼ねているためか絶えず黒煙を吐き出し、里の水路は汚染され、土壌も有害な物質が染みこんでしまっている。とてもではないが、この里に誰もが自由に使える綺麗な水は一切存在しない。

そのため、生活するために必要な水はすべてマガノ国から配給されるものか、買い取ったものでないと安心して使う事すらできない。家畜や作物を育てるにも水は大量に必要であり、その結果、人々は常に貧しい暮らしを強いられているのだ。

 

基地にたどり着いた霊夢は、早速その門の前に立った。霊夢がここへ来た目的は、当然この基地を壊滅させ、里が汚染される原因を取り除くことだ。

 

「よっと…」

 

霊夢は門に手をかけ、押して開こうと力を込める。門は思ったよりも重く、さらに踏ん張る霊夢だが…次の瞬間、不意に何者かに声をかけられて動きを止めた。

 

「そこで何してんだテメェ」

 

「誰?アンタ」

 

いつの間にか後ろに立っていたのは、背の高い女性だった。茶色い髪を肩のあたりまで伸ばし、目つきは鋭く凶悪な面構えをしている。白いタンクトップのシャツとジーンズを身に纏い、その上から茶色い革のジャケットを羽織り、口には煙草を咥えている。

 

「アタシは新子(にいこ)ってモンだ。一度くらい顔を見たことあるだろ?こうして喋ったのは初めてだがな」

 

「…あ、そう。私はちょっとおなかが減ってねぇ…ちょっと食べ物を食わせてもらおうかとしてるとこなの」

 

「ハハッ、面白れぇこと言いやがるが…博麗霊夢サンよ、馬鹿な真似してもらっちゃ困る。マガノ国の連中に手ぇ出せばどうなるかってことくらい知ってるはずだろ?そうなりゃまず割を食うのは、アタシらみてぇな普通の人間なんだよ。今まで奴らに楯突こうとした奴らは面倒ごと起こされる前に全員アタシらが叩きのめしてきた…そうすることで里の人間の命を守ってんだ。テメェなんざより、よっぽどな」

 

新子と名乗った女性は霊夢に歩み寄り、その顔を冷酷な表情で見下ろすと、咥えていた煙草の先端をその頬に押し付けた。熱がジリジリと霊夢の頬を焼いていくが、霊夢は全く表情を崩さずに新子を見つめ返している。

 

ドゴッ!

 

だが次の瞬間、霊夢は新子の頬をぶん殴った。新子はバランスを崩してよろめき、慌てて霊夢を睨み返した。

 

「テメェ…!」

 

新子はすぐさま霊夢の顔面を殴り返し、それを食らった霊夢も後ろへよろめいた。が、顔を上げた霊夢の頬には、ついさっき受けたはずの煙草による火傷の跡は既に薄くなって消えかけていた。

 

「何モンなんだ?テメェは…」

 

思わず驚いてそう声を漏らしてしまう新子。

その時、近くから怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「貴様ら、そこで何をしてる!?」

 

門の向こう側から憲兵が数人でこちらへ迫っているのが見えた。手には銃を持ち、こちらを攻撃する気満々だ。

 

「チッ、テメェの所為で見つかっちまったじゃねぇか!」

 

「ハァ!?知らないわよ、アンタが絡んできたんでしょ!」

 

「しょうがねぇ、逃げるぞ!」

 

バチッ

 

憲兵が発砲した銃弾が足元の地面に突き刺さり、ふたりは動きを止める。そしてものの数秒で周囲を10人程度の憲兵に囲まれてしまう。

 

「貴様ら何者だ?なぜここで騒いでいる?マガノ国に何か用か?」

 

隊長らしき憲兵が霊夢らにそう尋ねた。

 

「…博麗霊夢か、なぜここにいる?」

 

「別に~」

 

「何でもねぇよ…!騒いだのァ悪かった…すぐに帰るよ」

 

新子はすぐに頭を下げてそう言い、この場を逃れようとする。彼女の姿を見て何かに気付いた憲兵が隊長に耳打ちする。

 

「コイツは確か、里で行動しているゴロツキ共のボスです。騒ぎを起こすこともあるので度々我々に拘束されている…まあ我々に反抗しているわけではないのですぐに逃がしていますが…」

 

「そうか。確かにいつもならそうしてやってもいいが…今日は事情が違う。実は昨日、我々の部隊のひとつが行方不明になってな…今の話を聞いて思ったんだが、貴様が犯人じゃないか?」

 

隊長は新子を指差してそう言った。

 

「はァ!?なんでだよ…!」

 

「今我々に暴言を吐いたな?さらに先ほどからの反抗的な態度…この場で捕える理由としちゃ十分だ」

 

憲兵たちは新子に近寄り、電気警棒を取り出して振りかざす。新子も逃げるに逃げられず、そのまま焦ったように歯を噛み締めた。

しかし…

 

「ヴォゲぇ!!??」

 

次の瞬間、憲兵たちがまとめて吹き飛ばされ、背中から地面に倒れ込んだ。新子が驚いて横を見ると、霊夢が何食わぬ顔で拳を振り下ろしていた。

 

「貴様…!我々に歯向かったな!?それがどういう結果を呼ぶのかわかって…」

 

「うっさいわね」

 

霊夢の一言が憲兵の言葉を遮った。

 

「あのね、私はもう何も考えないで黙って言う事聞くのはやめにしたの」

 

「なん…!」

 

「聞こえなかったならもう一度ハッキリ言うわ。私はもうアンタらの言いなりにはならない!禍王をぶっ倒して、マガノ国をこの幻想郷から追い出してやるわ!!」

 

霊夢がそう言いながら再び憲兵を殴り倒すと、基地の中から怒声と共に増援部隊が続々と現れる。しかし、霊夢は押し寄せる何十人もの憲兵を相手に一切臆することなく足を前へ踏み出し、幻想郷史上最恐の敵へ宣戦布告し、立ち向かう。

 

「マジかよ…」

 

新子は地面に膝をついたまま、恐れ知らずの霊夢の行動に驚愕すると同時に、高揚していた…。

圧倒的な膂力でもって敵を薙ぎ払い、暴れまわる彼女の姿は、ここしばらくの間で新子たちがすっかり忘れ去ってしまっていた、”理不尽へ対する怒り”を体現しているかのようだったからだ。

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