れいむとシロ 【改】   作:ねっぷう

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第五話 「絶対強者」

「禍王」とは、現在の幻想郷を支配するマガノ国の首魁であるとされる存在である。その正体は一切が謎に包まれており、真相を探ろうとした者は悉く居なくなった。

禍王は冷酷で狡猾、強大な力に加えて未知数の科学力をも持つとされ、侵略者マガノ国を率いており、幻想郷に住まう全ての者たちが怖れている。

 

「禍王…!」

 

その禍王が、霊夢と新子の目の前に突然降って現れた、

 

「禍王…だって…!?」

 

霊夢の発言とただならぬ様子から、新子はこの目の前にいる冗談のような巨体を誇り二足で直立した生物があの禍王であると信じざるを得なかった。

頸から胸、腹へかけてはクリーム色の滑らかな皮が覆い、腕や肩、背中といったそれ以外の部位は黒緑色のごつごつした鱗と甲殻に覆われており、その皮膚は内側の強靭な筋肉に押し上げられて隆起している。下半身には白い袴を履き、上半身は両肩にベルトを巻き、背中に何かを背負っている。

 

「クコココココ…」

 

形容するなら、巨大な爬虫類人間。本や雑誌の挿絵でしか見たことがない恐竜という生物をそのまま人の形にしたようだが、頭を覆う黒い金属製のヘルメットや両腕に装着された電子機器がその原始的な容姿とアンバランスで不気味だった。

ふたりは禍王から発せられる覇気によって威圧され、その場からまんじりとも動くことができない。この恐怖は妖怪や幽霊と出くわした時のような未知に対する恐怖とは全く異なる、もっと身近なところからくるものだった。

 

(コイツが禍王…!?デカすぎんだろ…7メートルくらいはあるぞ!逃げようにも体が…)

 

新子は恐怖の中、どうやってこの危機を脱しようかと思考する。しかし、まるでただ考えただけで目の前の禍王が動き出すような気がして、徐々に思考さえも手放そうとしてしまう。

 

「禍王オオォオオォォオオ!!!」

 

しかし、耳に飛び込んできた霊夢の怒号を聞いて我に返る。

その瞬間、霊夢の渾身の拳が禍王の顔面へ叩きつけられていた。ミシミシ、グググ…と鈍い音が鳴り渡り、禍王の顔が横へ逸れ、霊夢がさらに力を込めると、禍王の巨体が後ずさった。

 

「な、なにやってんだテメェ…!」

 

勝てるはずのない敵への無謀な攻撃に、新子は驚いて霊夢に言葉を漏らす。しかし、当の霊夢はそうは思っていないようで、再び白い髪の荒々しい姿に変身し、もっと力を入れる。

すると、後ろへ反れていた禍王の巨体が弾き飛ばされ、その場で大の字に倒れ込んだ。ズシン、と振動が響く。

 

「アンタは…私が絶対に幻想郷から追い出してやる!!」

 

「おい博麗霊夢!禍王はこの図体だ…起き上がるのに少しかかるだろう…だから今のうちにずらかるぞ!」

 

「ずらかる…?そんなことしなくても、ここで倒せばいいハナシでしょ!!」

 

そう話している間に、禍王は首をかしげながらゆっくりと起き上がる。

 

「クコココココ…」

 

そして喉を鳴らしながらあたりを見渡して霊夢の姿を探し、その姿をとらえた瞬間…

再び勢いよく飛び出した霊夢の蹴りが、禍王の顎を蹴り上げた。ガン、と音が鳴り、霊夢はナイフのように長く鋭くなった爪のついた手を振り下ろし、禍王の胸を切り裂く。

 

ガリッ…

 

(堅い…!?)

 

しかし、憲兵を何の抵抗もなく切り裂くほどの強度と切れ味の爪が禍王の胸、それも白く軟そうな部分の皮膚に少しも傷つけることがないまま、逆に爪の方が弾かれる。

今度は腰から伸びる太く長大な尾を大きく振り回し、殴打の一撃を叩きつける。そして口元へ青い火炎を溜め込み、一気に放出して禍王を包み込んだ。

霊夢はこれでもかと勢いよく火炎を吐き出し続け、あたりには凄まじい熱風が吹き、新子はあまりの熱さに思わず顔を背けた。

 

「クココ…」

 

が、霊夢は感じていた。自分が放つ火炎の中に囚われる禍王であったが、その体には少しも火が通っておらず、すり抜けるように無効化されている、と。

霊夢は炎を吐くのをやめ、息を切らしながら一旦距離を取り、再び顔面へ拳をぶつける。続けて一発、もう一発と息をつかせぬ怒涛の連続攻撃を浴びせていく。

 

「うおおおおおおお!!」

 

幻想郷を蹂躙された怒り、人々に対する仕打ち、そしてシロと自分を殺そうとしたことへ対する憎しみを秘めて猛攻を繰り出し続ける霊夢。

しかし、それらをすべて受けながらも、禍王はそれ以上は決して足を動かすことはなかった。背中に背負った銀色の物体から何かが伸び、右肩の上から顔を出す。それは武骨な砲身を備えた銃のようで…

 

「何かやべぇ…!おい離れろ!」

 

新子が叫ぶも間に合わず、次の瞬間に禍王の砲身から発射された青く輝くエネルギー球が霊夢の胸へ直撃した。

霊夢は強烈な衝撃に全身を襲われ、一瞬で白目をむいて意識を失い、枯葉のように無茶苦茶に回転しながら吹っ飛ばされ、頭から地面へと滑り込み、倒れた。

 

「クコココココ…」

 

禍王は喉を鳴らし、伸ばした砲身を収納する。

 

「博麗の巫女に…白面の妖怪の力が加わったのか。だがしかし、難儀なものだな…弱いってのは!」

 

はっきりと意味を持って理解できる言葉で禍王はそう発し、無様な姿で気絶している霊夢を見下ろす。そして数歩で彼女の元まで歩み寄ると、丸太のような太い腕を伸ばす。

禍王は新子のことなど目にもくれず、その辺に転がる葉っぱや石ころのようにちっとも意識していない。が、新子はその場で息を殺して身じろぎひとつせず、目の前で起こるであろう光景を眺める。

恐らく、禍王は霊夢をこの場で殺害するか、マガノ国へ連れて帰るか、そのどちらかを行うだろう。マガノ国へ連れて行かれれば、それは実質死んだも同然かそれ以上に悲惨な末路で、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(バカなのはアイツだ…禍王が直接ここへ来るなんて思いもしなかったが、それよりも絶対にケンカを売っちゃいけねぇヤツに無謀にも挑んじまったのはアイツだ…!なにもアタシがどうこうしてやる義理はねぇよな!?何しろアイツのせいだもんな…)

 

そう考える間にも、禍王の魔の手が霊夢へ忍び寄る。

 

「待て!」

 

だが、そう考える新子の脳裏とは裏腹に、口から出たのは禍王を制する言葉だった。

自分ながら信じられないと言った様子で自分の口をふさぐ新子だったが、禍王はぐるりと顔をこちらへ向け、腕を引っ込めて彼女の方へ向き直る。

 

「なんぞ?貴様、今この己に命令したか?『待て』、と…」

 

同時に全身を突き刺した更なる覇気。その瞬間に湧き上がる”死”のイメージ。

 

「…ああ、言ったがそれがどうしたァ!?」

 

しかし、それが逆に新子の逆鱗に触れた!恐怖によって失われていた彼女の生存本能が揺れ動き、爆発的な闘志を生み出したのだ!

 

(禍王に敵意を向けられた以上、どちらにせよアタシは死ぬ!こうなりゃヤケになってやるぜ…)

 

新子は首にネックレスのようにぶら下げていた銀色の金属のアクセサリーを外し、手に持つと、なんどそれは煙と共に巨大化し、一本の金棒となった!

 

「なに…?」

 

霊夢よりも頭一つ分以上背の高い新子よりも巨大な金棒は中腹から先端部へかけて黒い半球状の突起が並んだ形状だ。新子は重さにして1トン以上は確実なサイズの金棒を簡単に腕力で持ち上げ、それを振り上げたまま高く跳躍する。

 

「”カンダチ”!!」

 

そして金棒による一撃が、禍王の脳天へさく裂した。

 

ズドゴォ!!

 

凄まじい音と波動が周囲に発生し、禍王の体が硬直する。新子はまるで地の底にまで根を伸ばす大木を殴ったような反動に襲われ、後ろへ仰け反った。が、もう一度前へ飛びだし、腹へと金棒のフルスイングを叩き込む。

 

ズムッ…!

 

「…ガフッ!」

 

金棒が深くめり込んだ時、禍王は咳込んだ。そしてよろよろと後ろへ下がり、腹を押さえて喉を鳴らす。

 

「な、ナメんなコラ…!」

 

「クコココ…痛てぇな…!さっきの巫女とは段違いの威力の攻撃…ウグ…!キサマは相当強いだろう、部下に欲しいくらいだ」

 

確かに、霊夢のとは違って新子の攻撃は禍王に届き、ダメージを負わせた。だがそれだけのことだった。いくら痛かったとはいえ、禍王自身の生命には何の関わりもない痛みでしかなかった。

 

「なぜキサマほどの人間がこんな場所に燻っていたのかはわからないが…良いものを見せてもらった。その礼として、キサマらは殺さないでおいてやる」

 

禍王はスッと姿勢を直し、4本指の右手で頭部のヘルメットを掴んだ。左手でヘルメットと頭部を結合していた金具を外し、いよいよヘルメットを脱ぐ。

内側から激しい蒸気が立ち込め、息でそれを吹き飛ばしたことで露わになった禍王の素顔。それはとても地球上の生物だとは思えぬ様相を呈していた。

 

「禍王…テメェは一体…なんなんだ?」

 

一言で表すなら、その頭部はタコのようだった。距離の離れた小さな両目、額から上は大きく広がっており、目玉のような模様が走っている。人間でいう頬と口にあたる部分からは2本ずつの触手が垂れ下がり、顎の下からも伸びる触手は上方へ向いて折りたたまれている。

 

「クコココココココ…!!ああ、知らない方がいいこともあるだろう。知りたくばこの己を打ち破って見せろ!これより数多もの刺客がキサマらふたりのもとへ送られるだろう!それらを躱しながら、この己の企みを全て破壊してみろ!それまで己は逃げも隠れもせん、己の指示でキサマら以外に手を上げたり、人質にすることも無い!己はマガノ国にて待つ!…巫女にもそう伝えておけ」

 

禍王はそう言い切ると、顔の計6本の触手を展開し、その奥に隠されていた口を開けた。口の中からは4本の独立して稼働する牙が露出しており、その牙も昆虫の腕のように固く節があり、口の四方から外側へ伸びることで口を広げさらに内側にある細かな歯を見せた。

 

(何なんだコイツは…!?)

 

知っているどの生物とも合致しない禍王の姿を見て、尽きることなく次から次へと溢れ出してくる疑問が頭の中を埋め尽くし、それらは統合されて恐怖へと変換されていく。

 

「その必要は…ないわ…」

 

が、近くから聞こえたその声が恐怖を払う。霊夢が目を覚まし、一撃でボロボロになった体を奮い立たせてなんとか立ち上がろうとしていた。

 

「お前…!」

 

「だから…今ここでアンタを倒せばいい話でしょうが…!私はここで…アンタが去るのを黙って見過ごす意味はないわ!」

 

「ほう…あくまで己をこの場で倒したいのか。ならば、いいだろう…絶対的な絶望をくれてやる」

 

そう言った禍王に対し、霊夢は構えると、再びシロの力を得た白髪の姿へと変貌する。

圧倒的な戦闘能力を誇る禍王に対し、霊夢はここで勝利をおさめることができるのだろうか…?

 




禍王の外見は、「プレデター」を和装にして巨大化させたような姿で想像いただければと思います。ヘルメットを外した素顔は異なりますが…

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