れいむとシロ 【改】   作:ねっぷう

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第六話 「獣の槍」

これまで決して表舞台には姿を現さず、一切が謎に包まれていた禍王が突如として霊夢たちの目の前に現れ、圧倒的な威圧感と存在感を放っている。

禍王へ対してありったけの憎しみを込めた連続攻撃を叩き込んでもビクともされず、逆に一撃で完封された霊夢であったが、今目を覚まし、再び禍王と相まみえている。

 

霊夢の髪は白く染まって長くなり、後ろへ靡く。目つきが獣のように鋭くなり、口からは鋭い無数の牙が覗き、両手の爪はナイフのように鋭く伸びた。腰からはシロのものを彷彿とさせる白い毛に覆われた太く長大な尾が生える。

 

「やはりそれが…白面の妖怪を取り込んだキサマの姿か」

 

変貌した霊夢の姿を見た禍王はそう言った。

 

「そうよ…シロはアンタらに殺された…!でも最後の力を私に分けてくれた!」

 

シロは禍王の命令を受けた憲兵隊によって銃撃を受け、瀕死になった自分の力を霊夢に与えた。

 

「殺されただと?クコココ…バカを言え、まだ白面の妖怪はキサマの体内で生きている。その姿が証拠だろう!加えて今のキサマの能力全てがそれに起因するものだ…キサマは妖怪に憑りつかれたのだ」

 

「シロが…?」

 

「キサマが曲がりなりにも博麗の巫女であったからこそ、その力に吞まれることなく自在に扱うことが出来ている…白面の妖怪はそれを信じていたからこそ、力を与えたのだろうな」

 

禍王の言葉が真実かどうかはわからない。しかし、霊夢はその言葉を聞いて心のどこかで安堵していた。シロは私のことを信じている。

 

「だが、それはそれだろ?」

 

と、禍王は続ける。

 

「己は己の野望のために、この幻想郷の大地を我が物とする!恐怖で支配した人間や妖怪どもは労働力として死ぬまで使ってやる!キサマはこの己を倒したいんだろ?ならば力を示せ」

 

禍王は自分へ向けて親指を立て、霊夢を挑発する。

 

「ええ、そうするわ!」

 

霊夢は素早く駆け出し、禍王の頭目がけて飛び蹴りを仕掛ける。禍王はそれを額で受けてもビクともせず、頭突きではじき返す。霊夢はすぐさま地面を滑りながら背後へ回り、向う脛へとローキック。

だが、やはり禍王はそれをノーガードで受けても何も感じていないかのように無反応だった。

 

(全くのノーダメージ!なんで!?)

 

再び禍王へ爪を振り下ろし、青い炎を吐きつけ、尾による殴打を加えても、禍王は無傷。それどころか体を少しも動かすことすらない。

 

(今まではこの力の込め方で妖怪を退治してきたのに…!確かに私の攻撃はコイツに確実に届いているのに…なんで一切効いている気がしないのよ…!?)

 

霊夢渾身の蹴りが禍王の鳩尾へ突き刺さる。が、それは一瞬で禍王の強靭な筋肉や皮膚に押し返され、弾き飛ばされる。霊夢は息を切らしながら両手を地面についた姿勢で禍王を睨む。

 

「キサマは…一体何であるつもりでいるんだ?」

 

禍王は一歩踏み出す。戦いを見ていただけの新子ですらもたったそれだけの動作によって放たれた覇気に圧倒され、霊夢は火炎を吐いて迎撃しようとする。

 

ガシッ

 

が、炎の中からヌッと飛び出してきた禍王の剛腕が霊夢の顔面を掴む。霊夢の体は自らの意思に反して宙へ放り投げられ、視界が茶色い地面と白い空を交互に映し出す。

霊夢はなんとか地面へ受け身を取って着地し、顔を上げた瞬間、目の前には禍王の不気味な顔が近付けられていた。

 

「キサマは何をやっている?」

 

そして低い声で霊夢に問いかける。霊夢は答えることなく、禍王の額へ拳を叩き付けた。だが、ビクともしない。禍王はそれを気にも留めずに続ける。

 

「キサマは栄養失調と毒で弱り、その身の霊力はほとんどゼロだろう?そんな状態で霊力を使おうとしても何もならないぞ」

 

禍王は霊夢の腕をつかみ、そのまま立ち上がる。人間4人分ほどもある巨体に持ち上げられて宙ぶらりんにされた霊夢は成すすべなく再度投げ飛ばされる。今度は先ほどのように放り投げるという程度ではなく、高速で投擲されていた。

 

「…ッ!!」

 

「うおっ!?」

 

ブーメランのように回転しながらぶっ飛ばされる霊夢は新子の体の横スレスレを通過し、そのまま人間の里の中へと突入していく。

人々の頭上の上を霊夢が飛び越えていき、勢いが落ちてきたところで霊夢は大通りのど真ん中に爪を立てて着地する。

 

「なんだ!?」

 

「なんで人が空から降ってくるんだ!?」

 

里の通行人たちが突然現れた霊夢に対して驚いた反応を示す。そうしている間にも、ヒュウウという風を切る音とともに頭上から影が降りてくる。

次の瞬間、禍王が人里の真ん中に降り立ち、大股で霊夢へ歩み寄る。

 

「うわあああ!?妖怪!?」

 

「いや、マガノ国の怪物だ!」

 

禍王の姿を見た人間たちは悲鳴を上げながら一目散に逃げ出す。流石に彼が禍王本人であるとは誰も思いもしなかったようだが、すぐにその場には人の気配がなくなった。

 

ドゴッ

 

すぐさま霊夢の容赦ない打撃が禍王の首筋へヒットする。

 

「…最強の妖怪の力を使っておいて、その程度の攻撃しかできないのか?」

 

禍王の大きな手が霊夢の白い髪を掴み、その身体を宙にぶら下げる。

 

「ぐ…!」

 

苦しげな声を出しながら、禍王の腕を掴んで逃れようとする霊夢。だが、禍王は決して手を離さず、低い声で淡々と続ける。

 

「いいか?その姿となったキサマは…人間じゃあないんだぞ…!今のキサマは妖怪そのものになっている!妖怪には妖怪の戦い方が…力の出し方があるだろうが!!」

 

禍王は一喝と共に手を離し、落下し始めた霊夢が地面へぶつかるのをただ見ていた。

そう、禍王は霊夢と戦い始めてから最初のエネルギー球による一撃以外、まともに攻撃を加えていない。霊夢からの攻撃はノーガードで平然と受けるくせに自分からは何もしない。

霊夢は自分が歯牙にもかける価値のない、虫けら同然に扱われているようだと感じ、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。しかし、それだけでは何も変わらないことも理解している。怒りや憎しみで現状をどうにかできるのならば、私は今こんな惨めな目に遭っていない!

 

「みっともねぇ話だな、宝の持ち腐れってやつか?どんな優れた得物を持ってようが使い手が何もわかっていなきゃゴミと一緒!お前の中のくだらぬ白面の妖怪も心底絶望しているだろう、何故自分はこの程度の…」

 

「お願い」

 

霊夢の静かな一言が禍王の言葉を遮る。

 

「黙って」

 

ビリ…

 

「…!!」

 

同時に、禍王の全身を覆った激しい悪寒。

 

「全然くだらなくないわ…!」

 

──お前の願いは我の願い。お前の夢を、共に叶えさせてくれ

 

じゃあ…いこうよ、シロ。

 

霊夢は飛び上がると同時に腰をひねり、未だ体を走る冷たい感覚に囚われたままの禍王の顔面目掛けて渾身のパンチを繰り出す。

ドン、と凄まじい音が響き、禍王の顔面ど真ん中に拳が深く突き刺さる。禍王の上体が後ろへ反れ、一歩後ずさる。

 

「ぬぐ…!」

 

が、禍王は体勢を立て直そうと足腰に力を入れ、霊夢の攻撃を押し返そうと図る。しかし、それは適わず、霊夢のパワーの方が上回ってしまい、禍王の体は大きく吹っ飛ばされた。

先ほどまでとは全く違う。霊夢の攻撃は禍王に対してまともなダメージを与えていた。

 

「今わかったわ…!私は頭の中でシロが教えてくれるやり方で攻撃をしてたけども、今までのように無意識に霊力に頼ろうとしていた…でもそれじゃ上手くいかないのは当然だわ!今の私は”妖怪”なんだもの。私が妖怪になるってことは、シロとひとつになるってこと!だから私は…妖怪と成ってこの力を振るうわ」

 

霊夢は吹っ飛ぶ禍王の行く先へ回り込み、長大な尾を斜め上へ向けて振るい、殴る。禍王の巨体がたやすく向きを変えて真上へ打ち上げられ、霊夢は飛び上がって全身から溢れ出るシロの妖力を纏う。

 

「本気出すわ」

 

そのまま体を丸めてタイヤのように高速で縦回転し、青い炎のような妖力を迸らせる。そのまま空中の禍王へ突撃し、その巨体を再び弾き飛ばした。

禍王は隕石の如きすさまじい勢いで空中を飛び、人里の上空を超えて先ほどまで霊夢たちがいたマガノ国の基地の目の前へ迫る。

 

「うおおおッ!?」

 

新子は驚きながら飛びのいてそれを躱し、禍王が最初にやってきた時に出来たクレーターの中へ落下した巨大な塊を見下ろした。

 

「禍王…!?」

 

そこに仰向けで倒れている禍王は額から血を流し、胸に若干高熱に晒されたような赤い跡が出来ていた。

すぐに霊夢もやってきて新子の横へ降り立ち、少し息を切らす。

 

「おいお前…何があった…?」

 

「別に…ゼェ…ただちょっと…一発ぶちかましてやっただけよ…ハァ…!」

 

「クココココ…」

 

が、穴の中から禍王の唸り声が聞こえ、その後ゆっくりと起き上がってくる。立ち上がってからコキコキと首を鳴らし、顎髭のように口周りから生えている触手を広げ、中にある口を見せる。その口元は…笑みを浮かべているように見えた。

 

「クコココココ…!楽しいな…こんなに愉快なのは何年ぶりだろうな!?クココココ…」

 

どうやらこの唸り声は笑う時にも出るらしく、禍王は心底愉快そうに笑いたてる。その様子に不気味さすら覚えた霊夢と新子は、禍王を見上げながら唾をのむ。

 

「おい博麗…そうだ、その戦い方を忘れるな。戦いを再開しよう…と、その前に」

 

禍王は右腕の手首から肘までを覆うように装備していた手甲を弄り、どこかにあったスイッチのようなものに触った。カチ、と何かが外れる音が聞こえ、直後に手甲の手首部分から格納されていたであろう刃物が飛び出した。

 

「なによ…それ!?」

 

その、刃渡りがたったの50センチほどの、見た感じは何の変哲もない剣のようにも見える刃。巨躯を誇る禍王の腕や手と比べるとナイフのように小さく見えるが、その刃が姿を現した瞬間、霊夢は今までに感じた事のない恐怖と焦燥に支配された。

 

「ヒュ…!」

 

吸った息すら吐き出すことができない。手足が震え、全身が粟立つ。

 

「どうした?おい…!」

 

尋常ではない様子を見せる霊夢に、新子は声をかける。

 

「やはり何か感じるか?キサマは今、妖そのものになっているしな…ただの人間じゃこれに秘められた力を感じることはできん」

 

霊夢とは裏腹に、新子はそれを見ても何も感じていない。一体あれがどうしたというんだ?という顔で刃と霊夢の顔を交互に見ている。

 

「キサマらを認めたからこそ、これを見せたんだぜ」

 

「なんなのよ…それ!」

 

勘と本能が激しく告げている。今すぐにあの刃物から距離をとれ、刃先の向いている先へ立つな、と。あの刃…剣…いや、アレは…

 

「これは槍…己が妖怪を支配するために必要な道具だ。確か…妖怪どもの中には、これを”獣の槍”と呼ぶやつもいるな」

 

禍王の周囲に紫色をした禍々しい妖気が渦を巻くように集約していき、その体へ吸収される。禍王の後頭部と首周りからぞわぞわと黒く長い鬣が伸び、彼の目つきが獣のように鋭くなった。

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