「え、えっと。それじゃあ、改めて」
やけにかしこまった格好で、愛川は頭を下げた。
「愛川ナツノです」
シロツメホマレは、微動だにせず、愛川のつむじを見ている。
その視線に、愛川が頭を上げられずにいると、シロツメホマレもはっとした顔をして頭を下げた。
「お願いします」
そうして二人同時に頭を上げる。
側から見たらどこか滑稽なやり取りだったが、本人たちは至って真剣である。
「えっと、ホマレ……ちゃん?」
愛川が伺うように言えば、シロツメホマレは不思議そうな顔をした。
「可愛らしいわね」
「貴女の名前なんだけど……」
場所はトレセン学園に設けられた、トレーナー室。
教室の4分の1もないスペースであった。
「パンフレットで見たよりも、ずっと狭いわ」
きょろきょろとシロツメホマレが辺りを見渡す。
日当たりの悪い場所に建てられたそこは、電気をつけても暗い印象をもたらした。
「そ、それは……」
その発言に、愛川は目を逸らした。
頬には冷たい汗が伝ったような気さえした。
「私がまだ何の実績もあげてないからで……。で、でも! ここから勝っていけばいいんだよ!」
そう雰囲気を誤魔化すように、力強く拳を握って宣言する。
その目はどこか遠いところを映していた。
「そうすればいつかG1の舞台にだって……!」
そしてこちらを見るシロツメホマレに気がつき、慌てて手を引っ込める。頬は恥ずかしそうに紅潮していた。
「えっと、座ろっか……」
「ええ」
そしてぎこちなく腰を下ろす。
上等とは言えないパイプ椅子は、突然の体重に抗議するように軋みをあげた。
「…………」
「…………」
視線が交わる。
無言の時間が流れる。
愛川は何が何だか、目をぐるぐると回した気分だった。
何か喋らないと。
そして偶然ホワイトボードが目に入る。そこには汎用の計画表とグラウンドの使用状況のプリントが貼られていた。
それを見て、手を叩く。
まず最初にやることをやっていなかったのだ。
「あっ、そうだ。目標! 目標レースを決めよ──」
「日本ダービー」
「えっ?」
間髪入れず、返ってきた答え。
思わず愛川がシロツメホマレに目を合わせると、何処までも真剣な緑の瞳がそこにあった。
「日本ダービーよ」
シロツメホマレは、刻むように繰り返す。
少しの間呆気に取られていた愛川は、瞬きを何度かして状況を理解した。
「ダービー! やっぱり憧れだもんね!」
そしてウンウンと頷く。
この時、愛川はどこか安堵の気持ちを抱いていた。
この表情の読みづらい少女にも、きちんと
「憧れ……? ああ、そうね。確かにそうね」
「……?」
だが、シロツメホマレは首を傾げる。
まるで思ってもみなかった事を言われたように。
そして自分の中で何か整理できたのか首を振る。
「わたしはダービーのトロフィーが欲しいの」
愛川はすこし混乱した。
ダービーのトロフィーが欲しい。それはつまり“ダービーを勝ちたい“ということと同じではないのか、と。
「そう、『約束』したから」
シロツメホマレは窓に目線を向けて呟く。
五月の空は、夏に比べて青さが優しかった。
「誰と……とか聞いてもいい?」
愛川はその視線になにか熱を感じ、おずおずと尋ねた。
「あなたはトレーナーだもの。遠慮はしないものでしょう」
そう言ってシロツメホマレは愛川と目を合わせる。
浅緑の瞳は奥まで透き通ってみえた。
「お父さんとの約束よ」
「お父さん……うん。き、きっとダービーのトロフィーなんて持って帰ったらびっくりするだろうね。だって、世代の頂点の印だもん」
「そうね」
◆
そしてトレーニングが始まる。
愛川はその卓越した知識をもって専用のメニューを作り上げた。
スピード、筋力、持久力、その全てを、基礎から伸ばせるように。
シロツメホマレは文句ひとつ言わずにトレーニングに取り組んだ。
「ハアッ……ハアッ……」
「ホマレちゃん、あと3周! そのあと休憩にするから!」
「……ぅゔ!」
口の端を歪めて、グラウンドを走り去るシロツメホマレを横目に、愛川は手元のタブレットに目を落とす。
そこにはひと月で得られた彼女のデータと、それを踏まえて行なったトレーニング、そして予想される能力の上昇幅が記されている。
彼女はその予想された数値を──悉く下回った。
「はあっ、はあっ……」
スピード──ギリギリ、及第点。
筋力──当たり前だが、総合的に普通より下。
持久力──片手のみで走る為、不足。
彼女は──シロツメホマレはいつだって、その小さく、欠けた身体をフルに使って走っていたのだ。
「予想はしていたけど……」
愛川は、教科書の当てにならなさ、そして己の力不足に唇を噛んだ。
シロツメホマレはセオリーが当てはめられない。いま正に実感として降りかかってくるその難しさに、暗澹たる気持ちが込み上げてくる。
「ふぅ……はあっ……ナツノ」
3周を終えたシロツメホマレが『終わった』と、言外に伝えてくる。
頬には汗のせいで彼女のさらさらとした髪が張り付いていた。
「うん、そしたら水分を摂って十分後にランニングから始めようか」
「ええ」
シロツメホマレは飲み物を手に取ると一気に流し込む。
そうしてグラウンドの脇の草にどっかりと腰を下ろした。
──ジッ、と走るほかのウマ娘を見ながら。
その目は、どこまでも真剣で、透徹している。
「──! よしっ!」
それを見て愛川は自らの頬を打った。
シロツメホマレは諦めていない。難しいことなど彼女が一番分かっている。
それを、その覚悟を。トレーナーである自分が真っ先に挫けかけて情けないではないか、と。
愛川は計画全てに素早く目を走らせる。
予想がダメだったのなら修正すればいい。
それを何度も、それこそ毎日毎日新しく計画表を建てるつもりでやれば、データが当てにできない彼女にも沿った内容になる。
(それに、彼女の最大の武器は末脚にある)
コマ撮りの映画の、加速の段階だけスッ飛ばして次の場面に移るような。
フィルムが一気に飛んだかと錯覚してしまうなような、異常な加速力。
実戦でそれを使えるだけの力をつける為に、愛川はトレーニングの組み直しを始めた。
「ホマレちゃん、次はね──」
「ほっぺた大丈夫?」
「え、あ、うん」
◆
入学してからの、暑い夏が終わり、時折涼しい風が吹く頃。
「ふっ、ふっ……」
シロツメホマレは一人で黙々とコースを走っていた。
愛川は会議で席を外している。
すふと、横をふわりと風が吹き抜けた。
「おおっ、と。すまんなぁ」
風の正体は、白い髪のウマ娘であった。
その風の名を、タマモクロス。
「ん? アンタ確か……こんどデビューの」
小柄な彼女は、シロツメホマレの顔を興味深そうに覗き込む。
額にひかる雫は、彼女もまたコースで練習をしていたのだとわかった。
「情報が早いわね」
幾分か無愛想に、シロツメホマレは答えた。ランニング程度はそれほど強度を上げていない為、息も上がっていない。
「はは、そら同期やからな!」
タマモクロスはからからと笑った。
シロツメホマレは、明るいウマ娘だな、と思った。
「ウチはタマモクロス。学年はひとつ上やけど、デビューはおんなじ年や」
「それで」
眼前の少女の説明に、シロツメホマレは納得した声を出す。
それを見てタマモクロスはすこし牙を見せるように頬を上げた。
「せや、遠慮なんかせんでやろうや」
「ええ、よろしくね。タマモクロスさん」
「あー、そないに畏まらんでええねん。呼びやすいように呼びぃや」
「タマモクロスさん」
「頑固やなぁ」
呆れたような、少し感心するような声をタマモクロスが出す。
シロツメホマレはきょとんとしていた。
「しっかし」
仕切り直すように、タマモクロスが呟く。
そして自身の前髪をちらりと見て、それからシロツメホマレの左袖を見た。
「おんなじ年に、デビューするんは偶然って気がせぇへん」
その目に籠っているのは、言うなれば“親愛“の感情。
そして、こちらを顔色を変えず見ている少女に、楽しそうに笑いかけた。
「みんな、アッと驚くで」
「そうなのね」
「他人行儀やなぁ」
タマモクロスはやれやれと肩をすくめた。
そしてコースの外に設置されている時計をちらりと見て、そろそろ走りを再開しようとシロツメホマレに向き直った。
「それにしても」
「おん?」
そこでシロツメホマレから話が切り出される。
タマモクロスはすこし興味を惹かれて体を傾けた。
「あなたと話すと、思い出すわね。懐かしいわ」
「懐かしい……?」
「ええ、しゃべり方がそっくり」
しみじみと。
そんな言葉が似合うように言う少女にタマモクロスは首を傾げた。
そして、その時、彼女の脳裏に少し前のドラマ──内容は少しビターな大人の恋愛物──のセリフがよぎった。
「ほぉー。なんや、昔の男ーみたいな」
タマモクロスは、この無愛想な後輩をすこし揶揄うことにした。
その証拠に顔には、にやにやと楽しそうな笑みが浮かんでいる。目の前の表情を変えないウマ娘が、すこし慌ててみれば良いな、といった思いつきだった。
それに対して、シロツメホマレは少し考え込む。
なるほど、愛川ナツノを“今の女“とするならば、冴木三春は“昔の男“になるだろう、と。彼女の圧倒的、
「昔の男よ」
そして返答。
清々しいまでの、迷いのない答えだった。
「なぁ!?」
それに対して面食らったのはタマモクロス。
まさか、目の前のウマ娘がろくにドラマなんか見たことがないなど知る由もなく、顔を赤くして慌てた。
(お、大人や……。ウチとおんなじくらい小さい思っとったけど、この子は大人や……!!)
そんなタマモクロスには、先ほどまで普通に見えていたシロツメホマレの一挙一動がキラキラと輝いて見えた。
もちろん錯覚である。
「ホマレ……いや、シロツメホマレさん」
そしてパンと両手を合わせて拝みこむような姿勢を取る。
「ウチに大人になる秘訣を教えてくれっ!」
「十八歳まで時間が経てば大人よ」
誤解は、少ししたら自然と解けた。
◆
そしてまた時間が少し経ち。
10月──シロツメホマレのメイクデビューの日がいよいよやって来た。
「だ、大丈夫だからね! ホマレちゃん」
「運転は大丈夫そうかしら」
「そこは安心してっ!」
心配そうに、ハンドルを握りながら声をかけて来たのは青い顔をした愛川。シロツメホマレは後部座席で流れる景色を見ていた。
「ホマレちゃん、深呼吸だよ、深呼吸!」
「ええ」
現在は、デビューの舞台となる東京レース場へ、トレセン学園から愛川の車で移動する途中であった。
そして、そんな愛川の服装は、いつものスーツよりも数段高級な物である。
(大丈夫、契約を結んでからの期間、全力を尽くした。ホマレちゃんも、私も。だから今日は──
それは、そんな彼女のデータに基づいた確信からくる物であったが、いかんせん彼女も担当のメイクデビューは初めて。
ゆえに緊張がそれを台無しにしてしまっていた。
ぺぺポン、と音がする。
それに気がついたシロツメホマレが携帯をポケットから取り出すと、画面にはメッセージを受信した旨が光っていた。
それをタップし、そのメッセージを確認すると──
ゴールドシチー: 頑張んなよ 8:12
送り主は少し前にメイクデビューを済ませた彼女。
それを確認した瞬間、シロツメホマレは迷わずその番号に電話をかけた。
「直接言ってくれてもいいじゃない」
そして、相手が通話を開始したと見るやいなや、『もしもし』も言わずに告げた。
『気ぃ使ったの! ナイーブになってっかと思って!』
それに返ってきたのは、どこか怒ったようなゴールドシチーの声。
シロツメホマレはちいさく鼻を鳴らした。
「あなたなら構わないわよ。むしろ声が聞きたかったわ」
電話口でなにか、声にならない声がする。
シロツメホマレは首を傾げた。
「あら、切られた」
「……ホマレちゃん?」
◆
1:名無しのファン ID:3w65w4XjL
あーやっぱメイクデビューの初々しさはいいねぇー
【東京レース場の写真】
3:名無しのファン ID:tWaDm49Jt
今日とくに注目の子とかおらんやろ
7:名無しのファン ID:E5fSginZm
>>1 現地か?
8:名無しのファン ID: 3w65w4XjL
>>7 そう
10:名無しのファン ID:NRnXbXubS
>>8 いいなあ、メイクデビューとかテレビ映らんからなかなか見にいけん
11:名無しのファン ID:aFDMWThns
重賞レースのほうが迫力あるくね?
14:名無しのファン ID:S0guc9eIf
この『こっから未来のスターが!』感が分からないかなぁ
17:名無しのファン ID:4w4fhkXjl
レース場と地元が近いワイ、高みの見物
20:名無しのファン ID:CBPL4E6rO
きょう現地寒くね? まだこの時期暑いと思って薄着で行ったら凍えるんだけど
22:名無しのファン ID:I5len+pxO
>>20 レース場は場所によっては極寒だとあれほど……
25:名無しのファン ID:GqLybnXlp
いまパドックくらい?
29:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
>>25 せやでー
32:名無しのファン ID:ZM6IOcsay
見てわかるもんなの? どの子が勝つとか
>>10 ネットで契約すれば全レース見れるぞ
33:名無しのファン ID:zTGkKcU4+
もちろん
37:名無しのファン ID:013zLY1Xx
>>32 なわけあるかい。分かったらトレーナーになってるわ
40:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
うわ
41:名無しのファン ID:52LgYjdH5
ん?
42:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
なんかすごい子出てきた
44:名無しのファン ID:i97LH3xJv
はいはい、スゴいスゴい
46:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
いや、マジで え?
47:名無しのファン ID:ecav2oEY+
何なん? 焦らすなや
49:名無しのファン ID:u7/Ovh/sV
えー、あんなんで走れんの?
50:名無しのファン ID:wHT6+zFrO
現地にいないから何もわからん
52:名無しのファン ID:ZU5sBMvkJ
とんでもない格好とか?
54:名無しのファン ID:N0yuB6w0v
何さ
58:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
とりあえずほれ
【パドックでのウマ娘の写真】
62:名無しのファン ID:Pd5+UbsyQ
おー、なんの変哲も……え?
63:名無しのファン ID:iUOcgx6BO
ファッ!? これは……アリなんですか?
64:名無しのファン ID:OrPwWV5aG
アリです! 何故なら運営が許可しないとゼッケンが貰えないから!!
66:名無しのファン ID:mF+K469vc
すげーな、片手で走るんか
69:名無しのファン ID:+dkaexAOd
現地もざわついてるわ
72:名無しのファン ID:a+G7T/dbq
>>58 これ見える角度のせいで手が見えないとかじゃなくて?
75:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
>>72 正真正銘右手だけだよこの子
79:名無しのファン ID:Wi66S/FdA
はえーすっごい
82:名無しのファン ID:TkcIlodoN
初めて見たわ
86:名無しのファン ID:lq2vN3hSN
>>82 同じく
87:名無しのファン ID:Tl9b7v5U1
えー、ちょっとこの子応援します
91:名無しのファン ID:0eEPh5gHt
こんなんで勝てんの?
94:名無しのファン ID:qjxi4hnlA
>>91 少なくとも走れてるだけでスゲーだろ
95:名無しのファン ID:lh7m5Jyg1
>>91 そういうのは……やめましょうよ
97:名無しのファン ID:DJ83BRRWj
この子なんて言うん? 有名なの?
98:名無しのファン ID:+04msKoqy
歳のせいかこういうのに弱い
100:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
>>97 シロツメホマレって子。少なくとも俺は聞いたことないわ
104:名無しのファン ID:3jNfUe+rf
てことはゴールドシチーと同期って事やんけ! 喋ったりすんのかなー
106:名無しのファン ID:0uMgsoK5n
>>104 シチーはトレセン学園でも有名人やぞ。接点持つのも難しいだろ
109:名無しのファン ID:Lsh5zfqA3
>>106 まあそうよな
110:名無しのファン ID:U8enZaQFs
てかマジでどうやって走るんだろ
114:名無しのファン ID:eVRm1uDJF
周りの子も意識してますねー
115:名無しのファン ID:yiOCfVNBj
そらそうやろ
118:名無しのファン ID:JDHn/NCPw
あかん なんかドキドキしてきた
119:名無しのファン ID:TezGoN48y
こっから始まる彼女のサクセスストーリーや!
122:名無しのファン ID:6exOxq02B
>>119 夢見すぎでは
124:名無しのファン ID:pguKouS34
>>122夢くらいいいやん
126:名無しのファン ID:Ssb2sgMuZ
あの……そもそもあの状態でトレセン学園入ってるってだけで十分サクセスだと思うんですけど
128:名無しのファン ID:GSobtp3Wf
それはそう
250:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
もうすぐ出走
252:名無しのファン ID:bIiCEOD8U
がんばえー
255:名無しのファン ID:1FEcK2iRj
どうなるんやろ
258:名無しのファン ID:lh8Wznn2M
スタート!
262:名無しのファン ID:Gz9hd0/NB
ああん! 出遅れ!
264:名無しのファン ID:i1CHKva1w
あちゃー
266:名無しのファン ID:4dljngmPa
まだデビューしたてだからね 致し方なし
269:名無しのファン ID:omvGDopwy
掛からないといいんだけど
273:名無しのファン ID:dlM22inwP
後ろのほうに控えてますねー
274:名無しのファン ID:X0dt64ZgC
脚質は差し?
277:名無しの現地 ID: 3w65w4XjL
>>274 うーん、たぶん
279:名無しのファン ID:Lg9dwhVdA
ちょっと! まって! まだ契約出来てないからレースが見れない!!
どうなってるの!?
280:名無しのファン ID:Kqdob11Pv
>>279 草
284:名無しのファン ID:pWY92w0uy
先頭争い熾烈やなー
285:名無しのファン ID:YaBtM4QYh
この時期にしてはバチバチしてますねー
287:名無しのファン ID:haGnjjMNV
そしてそれを後ろで我関せずしてる片手の子
289:名無しのファン ID:Eyj8jK5EB
こっから追い上げは無理くね?
291:名無しのファン ID:xTKyXx8AB
出遅れが響いちゃったかー
294:名無しのファン ID:nM1EVnh2I
おっ、二番手の子が上がってった
297:名無しのファン ID:O98yoEDEQ
さあ、そろそろ勝負の最終直線です
301:名無しのファン ID:hYx+GyPZ/
けっこう掛かってる子おらん? やっぱデビュー戦だから?
303:名無しのファン ID:5xBbdOE6z
これは、先頭の子が逃げ切るかな
306:名無しのファン ID:9nD3BHJMy
セーフティリードです! セーフティリード!
307:名無しのファン ID:VIBxQJelK
直線はいった
308:名無しのファン ID:SUOF+1e1Q
逃げきれー
310:名無しのファン ID:1yQW9DUkZ
二番手の子食い下がるなぁ
313:名無しのファン ID:cMX7hsc2H
ん?
315:名無しのファン ID:nIqYnahzG
お?
318:名無しのファン ID:KR8trX+pt
おおおお!?
320:名無しのファン ID:qbvpC8TyD
すげー追い込み
322:名無しのファン ID:2k8pTRfC0
うわうわうわ
324:名無しのファン ID:0KZCckpEv
加速エグッ
325:名無しのファン ID:aOUmUCDN/
いつのまにシンガリから先頭集団に食い込んだんですか?
328:名無しのファン ID:XuUhLEIuL
差し切るか!?
329:名無しのファン ID:KToMbNpVV
おおおお
331:名無しのファン ID:2WziEqFH4
いける!
335:名無しのファン ID:CRD9qFGU0
あー!!!
337:名無しのファン ID:ZoYFXvKH+
お──
339:名無しのファン ID:K2czmrjf8
2着!!
341:名無しのファン ID:m3pmQAdeZ
2着かあー
342:名無しのファン ID:hZeC07Z0A
頑張ったほうやろ
343:名無しのファン ID:7hjmm16ec
差し切れると思ったんだけどなあ
346:名無しのファン ID:A1BgYd+Sp
ちょっと足りなかったね
349:名無しのファン ID:/QTh6unhW
おー、おー1着の子泣いてるわ
351:名無しのファン ID:4Vo8MYuep
嬉しいやろなぁ
355:名無しのファン ID:IlugIB2l1
他の子悔しそうに歯くいしばってるわ
357:名無しのファン ID:gkMaK+uJp
片手の子あいからわず無表情なんだが
359:名無しのファン ID:vZU7GWdSm
>>357 草
361:名無しのファン ID:r5yBgulRX
惜しかったけどさ、片手の子追い込みやばくね?
362:名無しのファン ID:50ghhaVhv
片手の子じゃありません! シロツメホマレ、シロツメホマレです!!
365:名無しのファン ID:j3s25/Kt0
>>361 それ マジで差し切っちゃうかと思ったもん
>>325 わからん
366:名無しのファン ID:eRiRe+Vt2
かあー! 面白そうな子が出てきたなぁ!
◆
かつん、かつん、と蹄鉄の付いた靴が地下バ道に反響する。
コースの方から、ゆっくりとやってきたのはシロツメホマレだった。
「あ、ホマレちゃん!」
そわそわと、通路で待機してた愛川が走り寄る。
デビュー戦での敗北は傷になりやすい。それは長年多くのトレーナーの口に膾炙してきた言葉だった。
相手はアスリートであると同時に多感な頃の少女。それも至極もっともなことだろう。
「だ、大丈夫、まだ最初だし、悔しくても……」
湯気が可視化しそうなほど、いまだ熱気を纏った少女に愛川が言葉を重ねる。どうか、初めての担当の子が落ち込まないように、気負いすぎないように、と。
「え? ああ。そうね。悔しくはないわ。気遣いは大丈夫よ」
だが、返ってきたのは予想外の返事だった。
シロツメホマレは予想外なほど、いつもの調子と変わらなかった。
「ダービーさえ、勝てばいいもの。そこへ行く道を最低限踏破できれば」
飄々と。
まるで気にすることなど何もないかのようにシロツメホマレは言い放つ。その、どこまでも遠くを見ている目を見て愛川は急速に嫌な予感がした。
「それじゃあ……」
それじゃあ、この子はダービーで潰れてしまう。
この子はあまりに、ダービーしか見れていない。
「ホマレちゃん、レースを楽しいって思った事は……?」
声が震えた。
どうしてこんなにも、情けない声で問いかけているのか、愛川にすら分からなかった。
「ないわね」
きっぱりと。鉄のような声でシロツメホマレは答えた。
あまりに平常。
だからこそ、おかしかった。
「で、でも! それだけじゃないでしょ!? それだけじゃ……!」
愛川は何とか、痙攣するような喉を動かして言葉を捻り出す。
この子のなにか、たいせつな何かを引き出す為に。
「お父さんの為に走ってるんだよね……?」
それは数ヶ月前にトレーナー室で聞いた彼女の宣言。
彼女が、その怪我をおしてまでトゥインクル・シリーズにでる理由。
「いいえ、いいえ。それは違うわ」
だが、それをきっぱりと、まるで教師が間違っている生徒に優しく教えるように、シロツメホマレは否定した。
愛川は泣きそうになった。
「わたしは、どこまでもわたしの為よ」
声が出なかった。
かける言葉が見つからなかった。
「
それほどまでに、眼前のシロツメホマレは揺るがなかった。
悲しいくらいに、敗戦になにも揺らいでなかった。
「わたしの走りはどこまでも利己的で、自分本位で、意味のないものよ」
そして、その目を見て理解した。
この子は。シロツメホマレは。
「でも、それしかないじゃない」
デビュー戦の敗北に傷を負う、負わないなどではなく。
それ以前に。どうしようもないほどに。
「もう、それしかないのよ」
はじめから傷だらけの子だったのだ。
「ライブの準備をしないと」
まるで予定を確認するかのようにシロツメホマレが言う。
そして、そのまま控室まで歩いて行ってしまう。
「ちゃんと踊らないとね」
部屋に入る直前、未だ足を止めたままの愛川にくるりと振り返り、『でしょう?』と確認を取る。
何とか愛川が頷くと、バタン、と控室の扉が閉まった。
地下バ道の切れかけている蛍光灯は、バカにするように、いやらしく点滅を繰り返した。