ラモネェドを売り歩く男がいる。
業績は芳しくないが。
彼の平坦な日常が、少し変わる話。

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初投稿です(一度投稿しましたが、ミスがあったので消しました)。
感想を是非お願いします。


短編「ラモネェド」

 からり、かたり。

 今日も、屋台を引く男がいる。

 名を、丹羽木(にわき)翁助(おうすけ)という。

「ラモネェドは要りませんかー? 1本たったの100円ー! お買い得ですよー! ぜひ、飲んでみてくださーい! 口の中で弾ける炭酸と、仄かに香るレモン! 美味しいですよー!」

 こんな宣伝文句を、毎日マイクもなしに叫びながら、気比(けび)町を練り歩いている。ラモネェドとは、レモネードもしくはラムネのことである。

「なァんて、今の時代、ラモネェドなんて飲む人はいるのかねェ・・・」

 思わず、愚痴が口をついて出る。当然だ、彼の周りには人っ子一人もいない。太陽が天辺に昇る昼下がりだと云うのに、そもそも人が外にいない。皆、建物の中にいる。

「そもそもどうして、こんなところに私を行かせるかねェ。どうせ誰も買いやしないんだ、外に出す方がどうにかしている」

 また口が出る。止めてくれる人は、誰もいない。

 そして、彼は、何も言わずに、からり、かたりと音を立てながら、気比町を練り歩く。

 何秒も、何分も、何時間も。

 

 どれだけ経っただろうか、日が沈みかけている。ラモネェドは、一本も減っていない。

「はぁ、今日も駄目か・・・。一本も売れませんでした、と報告するしかないか・・・」

 彼は、毎日、上司から叱られる日々を送っている。理由は単純で、ラモネェドを一本も売ることができないからである。そうは言っても、人に会わないような場所なのだから仕方ない。それでも、売れと云われるのである。

「畜生、どうしてこんな」

 悪態をついても、聞いてくれる相手すらいない。

 男は、常に一人と云って過言ではなかった。

 しかし、そんな時。

「おじさーん」

 子供の声が聞こえた。

 見れば、子供は汗だくで、遊び疲れた様子である。

「なんだい?」

 そう返すが、期待はしていなかった。ラモネェドを買ってくれるとは、思ってもいない。

 なぜなら、今迄誰も買ってくれなかったから。男は、諦念に似た何か──本当に諦念なのだろうが──を抱いていた。

 だが、その思いは裏切られることになる。

「おじさん、ラモネェド1本頂戴」

 子供は、ラモネェドを欲しいと云ったのである。

「どうしてだい?」

 衝撃を受け、男は訊く。本当は、してはいけないことだ。だが、男には、どうしても解らないのだ。ラモネェドを買う理由が。

 子供は答えた。

「だって、僕、いっぱい遊んで疲れて、喉乾いたから」

 と。

 存外、平凡な、当たり前の理由である。

──本当にそれだけか?

 男は訝しんだ。

「だったら、水でいいじゃないか。どうしてラモネェドなんて飲むんだい?」

 自分の商売を否定するような発言である。

 子供は、

「だって水は美味しくないもん。それに、父さん言ってたよ。『遊んで疲れた時は、ラモネェドを飲みなさい。父さんも昔は、よくラモネェドを飲んでいた。最近は、そんな余裕もないがね』って」

 と答えた。

 そこまで聞いて、男は子供に既視感を覚えた。

 誰かに似ているのである。

 男は、ラモネェドを売り歩いて30余年。20年ほど前に、毎日のようにラモネェドを買ってくれた子供がいたのだ。その子供の名は、今でもはっきり覚えている。

「君、君のお父さんの名前、教えてくれるかい?」

「うん、いいよ。父さんに『ラモネェドを売る屋台の人になら、私の名前を言ってもいいよ』って言われてるから」

「そうかい。その名前は?」

仮名牧(かなまき)杏坪(きょうへい)

 その名前は、確かに、毎日ラモネェドを買ってくれた子供の名であった。

「そうか、杏坪くんの・・・」

 20年も立てば、子供は大人になる。

 そして、次の世代の親になる。

「よし、わかった。ラモネェド、1本サービスしてあげよう。お父さんに、渡しておいで」

「ありがとう、おじさん!」

 そう言って子供は、家路に向かう。

 数歩歩いたところで、振り向いた。

「おじさーん、名前はー?」

 そう、尋ねられた。

 男は、

「丹羽木翁助。私は、丹羽木翁助という」

 と答えた。

「君はなんていうんだい?」

 と、訊き返した。

 子供は、

暁彦(あきひこ)ー! 仮名牧暁彦ー!」

 と答え、そのまま家路についた。

 見送ってから、男も帰ることにした。

 からり、かたり。

 その足音は、いつもより弾んでいるような気がした。




いかがでしたか?
拙い部分もあるかと思います。
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