孤独(?)のクリスマスグルメ ~ノーチキン&ノーサーモンなあんかけ焼きそば~   作:3S曹長

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時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たす時、つかの間
彼は自分勝手になり自由になる。←ここ重要


実食編

「おい、窓の外見てみろよ!」

「アレは何なの?シャケの…(ホロウ)かしら?」

「いや、頭は似てるが違ぇだろ。他の客にも見えてるみてぇだし」

「あのバケモノと全身タイツ達が戦ってるせいでうるさいんだにゃー」

「……アイツか」

「どうしたの?リル」

「ちょっくら様子見てくらぁ」

「は?一体どうしたってんだよ?」

「あんなに騒がしいとメシに集中出来ねえだろうが」

「あ、おい!」

「行っちゃいました…」

「お客様!危険でございます!!」

「大丈夫だよー!リルは強いから、ね、バンビちゃん」

「うん…」

 

 

 

 クリスマスにシャケを押しつけようとするシャケのバケモノに対し、俺は臆すること無く物申した。

 

「ほうほう。そんなにシャケの布教が気に食わないと言うのなら仕方ない!お前もあそこのパトレンジャーと同じ目にあわせてやるぞ!」

 

「…!」

 

シャケのバケモノから闘志を感じ、俺も臨戦態勢に入る。

 

「スーツがお似合いの、サラリーマンの貴方!貴方のラッキーシャケはコレ!ダララララララッラ…、氷頭(ひず)なます!!」

 

「氷頭なます?ソレって確か正月によく食べる…」

 

などと考えていたのもつかの間、俺はいきなり鮭の切り身が入ったボウルの中に入れられてしまった。

 

「な?どうなってるんだ!?」

 

 次の瞬間、上から塩が振りかけられる。

 

「うお、しょっぱい!だが、食べ物が相手なら…!」

 

俺は作りかけの氷頭なますに食らいつく。

 うん、美味い!良い塩加減だ。やっぱりシャケって美味いよなぁ。子供から大人まで人気があるのも頷ける。以前、取引相手が「ウチの子供ったら、マグロより先にサーモンの寿司にハマっちゃって」なんて話をしてたっけ。

 空腹が限界に来ていたこともあり、俺は夢中で鮭に食らいつく。そんな俺の上から()がかけられた。酸っぱい!だが、それが良い!ちょうど味変したかったところだ。お酢は疲れを吹き飛ばす、魔法の調味料だ。

 オマケとばかりに、(あらかじ)め作られていたであろう大根と人参と水菜の()()()が加えられた。良いじゃない良いじゃない。鮭の柔らかさと、野菜の歯ごたえの相乗効果だ。漬かり具合もちょうど良い。混沌としたこの場の中ですっごく爽やかな存在だ。

 そうこうしていると、いつの間にか俺は元の場所に戻っていた。う~ん、美味かった!満足だ。今日はシャケの気分では無かったのだが、前菜としては文句なしだ。

 

「おお!ずいぶん美味しそうに食べてくれたなぁ!!」

 

 シャケのバケモノも何故だか上機嫌だ。

 

「ヤツの攻撃をかいくぐった!」

 

「食べるなんて、そんな対処法があったのか…」

 

全身タイツの2人組は驚いている。そりゃそんなフルフェイスヘルメットをしてたら食べづらいハズだ。というか今の攻撃だったのか?だが、俺相手に食べ物で攻撃をしたのが間違いだったな。

 よし、次はこっちの番だ。俺はダッシュでシャケのバケモノに近づく。

 

「なな、何だ!?」

 

シャケのバケモノは驚いて釣り竿みたいな武器を構えようとした。だが、俺が攻撃モーションに入る方が速かった。自慢じゃ無いが、俺は腕っぷしには自信がある。武道家である祖父から、高校生の時まで古武術を習っていたのだ。

 まず、シャケのバケモノから武器をはたき落とす。そして右手で相手の左手を掴んで自分の元に引き寄せる。相手の左肘と手首を曲げ、俺の左脇に挟むようにして固め、(ひね)り上げる。

 これぞ俺の必殺技「The(ジ・) Armlock(アームロック)」だ。相手を自分の近くに寄せれば寄せるほど、ダメージも拘束力も上がる。

 

「がああああ!痛っイイイ!!」

 

シャケのバケモノが悲鳴を上げる。

 

「人生には…大嫌いなものを黙って食べなきゃならない時もある。だけど、人が嫌がるものを無理矢理食わせる権利は誰にもない!」

 

 俺はそう言って、相手の腕を更に締め上げた。

 

「わわわ分かった!分かったからギブだああぁぁぁぁ!!!」

 

よし、これくらいで良いだろう。俺は締め上げていた腕をほどいた。シャケのバケモノはその場に座り込み、ゼエゼエと荒い息を吐いている。

 そんな彼を尻目に、俺は全身タイツの2人組の方に体の向きを変える。

 

「あ、えっと…」

 

「ご協力、感謝いたします!」

 

2人組は揃って敬礼する。何勘違いしているんだ。まだ俺の古武術無双(バトルフェイズ)は終了してないぞ。

 俺は緑の方に狙いを定め、ダッシュで駆け寄る。油断していた緑の全身タイツ相手に、俺のアームロックはいとも容易くキマった。

 

「うががががっ!な、何でえええ!?」

 

何で、じゃない。俺の昼飯をジャマしたのだ。お前達も同罪だ。

 

「え?え?えぇ!?」

 

金ピカの方は驚き戸惑っている。今がチャンスだ。

 

「ふんっ」

 

 俺は緑タイツを背負い投げの要領で放り投げる。そして金ピカに近づきアームロックをかます。

 

「うぎぎぎぎっ!ボクもぉ!?」

 

「人生には大嫌いなものを黙って…」

 

「そ、それはもう聞きましたぁ!!」

 

「な、なんでそんなに怒っているんだ…」

 

 緑の方が地面に這いつくばりながら問いかける。俺は金ピカへの関節技を解除し、店の方を指し示す。

 

「俺はあそこの店で昼飯を食べようとしてたんだ。なのにお前達が『クリスマスにはシャケかチキンか』なんて下らない理由でドンチャン騒ぎしていたせいで、全く箸が進まなかった」

 

本当はあんかけ焼きそばの(あん)が熱かったこともあるのだが、ソコについては触れなかった。

 

「モノを食べるときはね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」

 

「そ、それは悪かった…」

 

「す、すみませんでした…」

 

いつの間にか、正座する全身タイツの2人組に対し俺が説教する構図が出来上がっていた。

 

「だいたいその『クリスマスにはチキン』って固定概念は何なんだ。そういう一種の決まり事みたいなのが出来上がっているせいで、店やメニューの選択肢が狭まって、俺のような食通がいつもの食事が出来ないで困っているんだ」

 

なんか勝手に「全国の食通を代表して」みたいなこと言ってるなぁ俺。まあでも、あのリルって娘も同じ考えを持ってたみたいだし。

 

「別に無理してクリスマスにチキンを食べる必要も無し。むしろそういう固定概念をぶち壊すことが必要なんじゃないか?」

 

 なんて説教している最中だった。

 

「シャッケッケ、今の内に…」

 

つい放置してしまってたシャケのバケモノが逃走し始めた。

 

「あ、おい!待ちなさい!」

 

「シャッケッケ!悪いが『シャケのばらまきを止める』なんて宣言した覚えは無いぞ!それ逃げろ~!」

 

 くそ、あのナリで結構足が速いぞ。このままじゃ逃げられる!

 

「んお!?なんだお前は?」

 

だがそうは行かなかったらしい。シャケのバケモノの前に誰かが立ちふさがっていた。

 

「テメエか?」

 

「はい?」

 

「え?君は…」

 

立ちふさがっていた誰か、それは間違いなく「リル」と呼ばれていた金髪の少女だった。

 

「街中のチキンを奪ってシャケに代えていたのはテメエかって聞いてるんだよ」

 

「いかにも!このサモーン・シャケキスタンチンの仕業だ!美味いシャケがたくさん食べられて嬉しいだろぉ?」

 

何でそんなに自信満々なんだ。ていうか名前長いな。サモーン・シャケスキ…、ああダメだ、もう一回言ってくれ。

 

「へえ、テメエのせいでチキンが食えなくなってたのか…」

 

「とにかくジャマだ!ソコをどいてくれ!」

 

「そうはいかねえ。テメエには責任を取ってもらわなきゃな」

 

そう言ったリルの両目が見開かれる。同時に彼女の口が不自然に歪んだような…?

 

「ジャマをするというのなら仕方ない!金髪ボブカットの貴女!貴女のラッキーシャケはコレ!ダララララララッラ…、シャケチャーハン!!」

 

「あ!」

 

「危ない!」

 

全身タイツの2人組が叫ぶ間もなく、リルがシャケチャーハンを作っている最中のフライパンに放り込まれる。危ない!下が熱い鉄な分、俺の時より危険だ。

 と、その時、俺は信じられないモノを見た。リルの口が歪んで、右頬から不気味に広がっていくではないか。彼女の口は自身の体躯の倍ほどに広がっていき…。

 

「…ふう」

 

食べてしまった…。作りかけのシャケチャーハンを、フライパンごと。

 

「な、なにぃ~!?」

 

シャケのバケモノも驚きを隠せないでいる。

 

「ふん、シャケの分際でオレを食べようとしたのか?見込みが外れたな。食われるのはオレじゃねえ」

 

 そう言いながらリルが再度口を歪ませた。

 

「テメエの方だ」

 

「お、お助け~!!」

 

叫びも空しく、シャケのバケモノはリルにガツガツと食われてしまった。

 

「……やっぱ、シャケとイクラの組み合わせは王道だな。だがコイツにはパンが欲しくなるな」

 

「あ、そこは白飯じゃないのか」

 

「ツッコむとこソコ!?」

「ツッコむとこソコ!?」

 

 全身タイツの2人組がオレに(フルフェイスヘルメットのせいでよく見えないが)驚きの目を向ける。何だ何だ、シャケと言ったら白飯だろうが。

 

「おい、オッサン」

 

「え?俺?」

 

 リルに突然呼びかけられ、俺は戸惑う。

 

「早く戻ろうぜ。メシが冷めちまうぞ」

 

「あ、ああ、そうだね…」

 

店に置いてきたあんかけ焼きそばの事を思いだし、俺は全身タイツの2人組を置いてきぼりにして、その場を立ち去った。

 

「あ、あの、見てました…?」

 

 店に戻る道中、俺は思わずリルに尋ねてしまう。

 

「わりと最初の方からな。中々良い食いっぷりだったぜ」

 

「そ、そりゃどうも」

 

う~ん、何だか小っ恥ずかしい。というか、この位の年頃の少女に対する距離の置き方がよく分からん。

 

「て事は、あの説教も聞いてたのか…」

 

「一応言っとくが、店の中でオレが言ってたのはウソじゃねえぞ」

 

何も言ってないのに俺の懸念(けねん)を察せられてしまった。この娘、鋭い。

 

「でもアレだ。オレの連れがチキンを食いたがってたからな」

 

「なるほど、君は俺とは違う意味での食通(フードファイター)ってワケか」

 

「意味分かんねえこと言うなよ」

 

「俺は独りでメシを食うことに幸せを感じてるんだが、君は逆だ。仲間との食事を大切にしてるらしい」

 

「フン」

 

リルはそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 店に戻ると、店の客達が拍手で俺達を出迎えた。どうやらさっきまでの戦いを窓から見ていたようだ。参ったな。俺は静かにメシを食いたかっただけなのに。

 

「うるせえぞ。黙ってメシ食ってろ」

 

リルが静かに一喝すると、客達は急いで拍手を止めて食事に向き直った。まあ、確かに怖いよなぁ。

 店員が俺達の元へと駆け寄ってきた。

 

「お客様方!ご無事でしたか!?」

 

「ああハイ。何ともありません…」

 

う~ん、店の人には心配をかけさせてしまったようだ。悪いコトしたなぁ。

 

「リル、終わったみてえだな?」

 

キャンディがリルに声をかける。

 

「ああ、喜べよ。クリスマスにチキン、食えるみたいだぜ」

 

「マジかよ!?っしゃあ!!」

 

「リルもしかして…?」

 

「さあな」

 

「料理来てるよー!」

 

「おう」

 

そう言ってリルは仲間の待つ席へと戻っていった。さて、俺もあんかけ焼きそばの待つ席へと戻りますか。

 

「おお!」

 

 席へ戻った俺は思わず喜びの声を上げてしまう。さっきまでグツグツに煮えたぎっていたあんかけ焼きそばが食べ頃の温度になっている!他の料理なら今頃冷めていたに違いない。ナイスアシストだ、餡。

 

「いただきます」

 

 俺は茶色い餡が絡んだ麺を口に入れる。おお美味い!さっきは熱すぎてよく分からなかったが、こってりとし過ぎてない良い味の濃さだ。モチモチの麺と相性バツグン…むむ、これは!麺にお()げが出来ている。モチモチに混ざるカリカリの食感、何だか嬉しくなる。

 俺は麺を口に次々と入れる。具材も忘れない。

 白菜の食感、シャキッとしてて良し。人参は、氷頭なますと違って薄切りだ。あんかけ焼きそばに一番合う切り方はコレだな。

 この黒いのは、キクラゲか。う~ん、このコリコリとした食感!軟骨とはまた違う食感で、コレはキクラゲにしか成せないものだ。モチモチとカリカリに合わせてシャキッとコリコリ。食感オーケストラの楽器がどんどん増えていく。

 麺に次ぐ主役はお前だろう、海老(エビ)。うん、プリプリ、追加。俺はお前が食べたかったんだ。シャケも良いが、海老も良い。クリスマスにエビ、有りなんじゃないか?

 豚のバラ肉にも、餡の味が良く絡んでいて美味しい。この餡にはチキンじゃダメだな、ポークだ、ポーク。

 小皿の紅ショウガも口にする。ああ、この辛さ、良い!口の中をリセットするにはこの紅ショウガが一番だ。

 半分ほど食べ終わったところで、俺はテーブルの練りからしを小皿に盛り付ける。さあ、味変だ。

 おお、このツーンと鼻に来る辛さ、素晴らしい。やっぱりあんかけ焼きそばには練りからしが合う。紅ショウガの辛さは口の中をリセットする辛さ、練りからしの辛さはあんかけ焼きそばに刺激を加える辛さ。同じ「辛さ」でも全然違う。

 

「よぉし」

 

 練りからしの刺激に背中を押され、俺はどんどんあんかけ焼きそばを口にする。ああ、コレこそ今日の俺が求めた食事だ。クリスマスの定番に(こだわ)ってたら辿り着けなかった、正解の料理だ。ノーチキン、ノーサーモン、豚バラ万歳、海老万歳!

 色々あったが、俺は無事あんかけ焼きそばを完食できた。

 

「ごちそうさまでした」

 

 会計を済ませ、俺は店を出る。今思えば、さっきの俺ってただ八つ当たりしてただけなんじゃないか?まあいいや。ごちそう食って反省してる馬鹿もなし、だ。

 俺は軽い足取りで帰路へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後 都内某所

 

 取引を終えた俺は、建物の外で伸びをする。

 

「はぁ~、終わった終わった!」

 

思わず声に出てしまう。今年の仕事が全て終了したのだ。

 あとは年越し蕎麦(そば)でも食べて、今年を締めくくるとしよう。俺は最寄りの立ち食いそばの店を訪れた。

 しかし、店員から衝撃の言葉を告げられてしまう。

 

「申し訳ございません。ギャングラー怪人に蕎麦を奪われてしまい、現在ライスペーパーしか提供できない状態なんです…」

 

「ららら、ライスペーパー!?」

 

冗談じゃ無い!ライスペーパーなんかに俺の一年が締めくくれるものか。

 俺は急いで敵を探す。派手な姿で派手な行動をしてくれたおかげで、目的の相手はすぐに見つかった。

 

「年末に蕎麦だとぉ?気に食わん!年末にはライスペーパーを食え!!」

 

生春巻きみたいな姿をしたバケモノだ。だが、両腕はしっかり付いている。問題は無い。

 俺はダッシュでバケモノに近づき、素早くアームロックを決める。

 

「あががががっ!痛い痛い!!何だお前は!?」

 

「年末にライスペーパーだと!?ふざけるんじゃあ無い!」

 

 俺は相手の腕を締め上げながら一喝する。

 

「年末には蕎麦でしょうが!!」

 

「孤独(?)のクリスマスグルメ ~ノーチキン&ノーサーモンなあんかけ焼きそば~」 完




イメージEDテーマ「dirty deeds done dirt cheap」

ご愛読、ありがとうございました。感想いただけると嬉しいです。

それでは皆さん、良いクリスマスを&良いお年を!
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