ちゅーに・と・ぼっち! 作:†ダーク★リベリオン†
およそ1ヶ月ほど前のことである。
「フハハハハ! 我が輩の名は
入学早々やべぇ奴と隣になっちまった、と後藤ひとりはそう思った。
後藤ひとりは俗に言う陰キャという人種である。
成績はたとえ頑張っても地を這うナメクジ、運動でもマラソン大会で毎年屍を晒す有様、人の目を見て会話するなぞ走り幅跳びよりもハードルが高く、ようやっとひねり出した会話の枕詞は大体「あっ」である。もはや陰キャを通り越したコミュ障、名誉ぼっち協会会長を名乗りさえできると自負している。
だがしかし、ひとりはそんな自分を変えたくないわけでは断じてない。
そのためにわざわざ高校では自分を知っている人間がいない新天地へと赴いた。
まっさらな状態で心機一転、いざパリピで陽キャな自分に大変身するべく隣の席に座った女子に自己紹介と声をかけてみたら〝コレ〟である。
ひとりは泣いた。
そりゃあもう顔面が出来損ないの福笑いみたいになるほど崩壊した。
周囲の生徒は軽くトラウマもんである。
「…………」
「…………」
教室の最後列の頭上で天使が爆走するレベルの沈黙が流れる。
もはや空気そのものが殺傷力を持ったかのような痛々しさだった。
一方、大胆に右手を突き出したポーズで固まっているこの事態の下手人こと黒乃瑛理は、教室中からひしひしと感じる視線に冷や汗を流していた。
黒乃瑛理は俗に言う厨二病という人種である。
思春期という繊細な時期、親への反発、思い通りにならない現実への反抗を掲げる者達の一部が罹患するという病理……それこそが厨二病!
とりわけ瑛理は重症であった。
右眼を覆う黒眼帯はマストアイテム! 勝手に制服に手を加えモノクロ仕様に改造し、スカートに至ってはアシンメトリーに仕上げている。
その出立ちは正に、それはもう取り返しのつかないステージまで進んでしまった哀れな厨二病女子高生15歳であった。
だがしかし、いくら瑛理が重度の厨二病患者とはいえ、別に常識や人並みの羞恥心をありもしない前世に置いてきたわけでは断じてない。
故に開口一番、瑛理はこう思った。
(失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したァァァーーー!!!)
何も輝かしい高校デビューに賭けていたのはひとりだけではない。
瑛理もまた今日この日にわりと全霊をかけて友達を作ろうとしていたのだ。
だが悲しいかな、中学時代に友達と言える人間が1名しかいなかった瑛理にとって自己紹介とは棒高跳びぐらい高いハードルであったのだ。
それゆえ見事にテンパった挙句、(インパクトのある自己紹介をしなければ……!)と空回りした末に降臨したのが今時珍しいぐらいにコッテコテな厨二病自己紹介だったのである。
全ては日頃妄想し続けたカッコイイ名乗り口上のせい。
もはや彼女の言語野はオートで厨二病セリフに変換される域にまで達しているのだ。
恨むなら己を恨め黒乃瑛理。
(ど、どうしよう。目の前のダーク★リベリオンさん固まったまま動かない……! い、痛い……周囲からの視線が痛いぃ〜!!)
(失敗した失敗した失敗した失p以下略)
当然、他に類を見ないコミュ障2人にこの
結局は無言で椅子を引いて着席した瑛理によって最悪の幕引きを迎えたのであった。
((ああぁ〜〜〜! 私の青春ドキドキ高校ライフがあぁ〜〜〜!!))
今すぐ処刑台に登ってギロチンで頭吹っ飛ばしたい2人の内心だけは、びっくりするほど噛み合っていた。
☆☆☆
そんな悪夢のような初対面から数えて1ヶ月、彼女達は尚も気まずい学校生活を送っていた。
「あっ、闇に呑まれよ……」*2
「ヒッ、うェ、うぇひひ……」
「…………」
「…………」
このような会話とも呼べない言葉のすれ違い通信を繰り広げているだけなので仕方ないと言えば仕方ないのだ。
自己紹介という名の公開自殺を執り行った後、彼女達は晴れて〝1-2 話しかけにくい女子二大巨頭〟として君臨することとなった。
是非もないよネ。
一方は登校初日からピンクジャージで学校に来襲、話しかけたら勝手に灰になって燃え尽きる系コミュ障陰キャぼっち。
そしてもう一方は登校初日から改造制服とオシャレ眼帯&痛いアクセサリーで完全武装したどこからどう見ても地雷でしかないオタク丸出し厨二系女子。
これに臆することなく喋りかける人間がいたとしたら、失礼だが逆に正気を疑うぐらいだ。
だって話しかけにくいを通り越して普通に恐怖を感じるレベルなんだもの。
だがしかし、そんな当事者2人がお互いに抱く印象はこの1ヶ月で若干変わりつつあった。
ぼっちとは常に周囲に気を張り巡らせるもの。
なぜなら自分が周りの人間からどう見られているのか逐一気にしていないと生きられない生態であるが故に。
そんな生態をしている関係上、ひとりも瑛理も人一倍他人の観察だけは得意としていた。
例えば、たまーにある授業の予定変更でいきなり化学の授業がPOPした日のこと。
瑛理の前席の女子生徒がとある一言を発した。
「やっばー! 今日化学の授業あんの!? 教科書家に置いてきちゃったー!?」
ひとりはそれを聞かなかったフリをした。
自分は人見知りだし、声をかけたらコミュ障が発動するし、何よりこんな自分に話しかけられても迷惑以外しないだろう、と。
しかし、隣の瑛理は自分の教科書を女子生徒に差し出しながら話しかけていた。
「む、それなら我が輩の闇の教典を使うがいい」*3
「あ、え。アリガトウゴザイマス……?」
「フッ……謝辞などいらぬよ。本日の未来予測は万全に済ませてある……我が輩のことなど気にすることなくその魔導の書を振るうがいい」*4
「ど、どうも……?」
この人、意外と親切なんだなぁとひとりは思った。
瑛理は確かに話しかけづらいという要素がオタクファッション着て歩いているような存在だが、落ち着いている普段の状態ならば結構気さくにコミュニケーションが取れる人間なのだ。
ただし言動がバグっているのはデフォなので相手に引かれて会話が弾むことは一切ないのだが。
それで落ち込んでまたあがり症が再発するまでお約束である。
ひとりから見た瑛理は、いつも周りに対して気を配っており、掃除の時間は率先して水を汲みに行ったり、日直の仕事は誰よりも真面目にこなしたりしている。
普段のガワが味付け濃すぎて気づいている人間はほとんどいないが、実は気遣いができて優しい人なんじゃないか、とひとりはそう感じた。
ひとりはそれを勇気ある行動だと思っている。
自分にはできない、そんな前向きに取り組めない。
そう思って縮こまっている、自分のなんと情けないことか。
そう考えてしまって、気まずさもあり瑛理との会話はどうしてもちょっと気後れしてしまう。
あわよくば自分と同じぼっちの彼女とは友達になれそうだと思っているのだが、初対面のトラウマがよぎってどうも上手くいかないのだ。
対して瑛理から見たひとりはどうかと言うと。
(うわ……今日の後藤さん、ピンクジャージの下に厳ついシャツ着てる……!? しかもめっちゃ目立つギターケース背負ってるし)
普通にやべー奴だと思っていた。
瑛理もまた他人の機微には敏感だ。
常日頃から周囲の顔色を伺って生活している。
とりわけ隣の席に座っているひとりに関してはよくその奇行に度肝を抜かされている。
特に先生に名指しされただけで顔面が土砂崩れを起こしたことは記憶に新しい。
その日は鏡で顔を見れないぐらいの軽いトラウマになったほどだ。
最近は慣れ始めて紙ヤスリを常備しはじめているが。
だからこそ瑛理は今の関係を惜しいと思っている。
彼女、後藤ひとりと友達になっていれば、さぞや面白い高校生活が送れただろうに、と。
家族との折り合いが悪い自分にとって、学校以上に楽しい居場所はそうそうない。
例え友人にほとんど恵まれておらずとも、家にいるよりは彼女にとって数億倍マシなのだ。
だからこそ高校生活を良いものにしたいとの思いが暴走して初日はやらかしてしまった。
逆にあれ以上の失敗はないだろうと思うことで最近は普通(瑛理視点)にコミュニケーションを取れ始めているが、隣のひとりに対しては初日のことで罪悪感を感じ、未だに少し気後れしていた。
ぶっちゃけ黒乃的に後藤ひとりのファッションはアリよりのアリなのだ。
醸し出されるやべー奴感が結構気に入っているのだ。
ただ者じゃない感ビンビンするので好きなのだ。
だからこそ初日のやらかしが悔やまれる。
最近の悩みは大体それだ。
もし後藤ひとりと友達になれていれば。
彼女と分かり合えていれば。
(毎日がもっと楽しかったろうに……なーんて、ね。)
瑛理はそう考えつつ教室を跡にした。
今日は彼女に1人しかいない友人の晴れ舞台らしいのだ。
観客席で冷やかしに行ってやろうと、サイドテールに結んだ黒髪を揺らしながら下北沢へと向かうのであった。
☆☆☆
(『ごめーん!私やっぱりバンドできないよー!!(T ^ T)』ってマジで言ってんの……? 普通に大問題じゃん……)
薄暗いライブハウスの観客席、ペンライトを両手に構えた状態で瑛理は死んだ目をして虚空を見つめていた。
それもそのはず、ライブハウスに到着し、今日この場所で初ライブを行うという中学時代からの友人の登場今か今かと待っている最中にそのようなロインが投下されたのだ。
瑛理は普通に二度見ぐらいした。
やってることドタキャンのそれなんだもの。
しかもギターでボーカルでしょ? 大役じゃん……。
とんでもないことやらかしてるよあの子、と内心冷や汗をかいている。
(はぁ、全く……心配だな。自分をあんまり責めてないといいんだけど。いっちゃん、今日は逃げちゃったみたいだけど放課後に沢山練習してたからなぁ……。この後慰めに行ってあげないと。メイド服でも着せて元気づけるか)
なぜメイド服を着せれば慰めになるのかは瑛理の出力回路がバグっているため誰にもわからないが、とにかく彼女は友人を心配していた。
(でもせっかくお金払ってチケット買ったしライブ見てからにしよ)
それはそれとして瑛理は守銭奴の心に負けていち早く友人のもとに駆けつけるのではなく目の前のライブを取った。
(いっちゃんの出る予定だったバンドは確か……)
「えーと、初めまして! 結束バンドです!」
(そうそう、このバンド……)
事前に友人から聞いていたバンド名が出たことでようやく現実に帰還した瑛理を迎えたのは、等身大の完熟マンゴー段ボール仮面であった。
瑛理は両手で顔を覆った。
「フッ……よもや我が輩の魔力がこれしきのことで尽きようとは……。今日のところは大人しく魔界へ帰投するとしようか……」*5
一気にSAN値が削られた瑛理は、とりあえず友人への慰めは明日に持ち越そうと思い直し、死ぬほど音ズレしてるバンドの演奏に身を委ねるのであった。