ドールズフロントライン ~サムライ/ドライブ~ 作:弱音御前
どうも、弱音御前です。
サムライ/ドライブ、今回はウェスカーチームのお話となる第6話です。
ワルサーと9A91という普段はあまり関わりなさそうな2人の活躍、存分にご覧ください。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~
ELID徘徊区地下連絡道 ウェスカーチーム
音をたてず、気配を殺し、息を潜め、独り、深く静かに潜る。
グリフィン基地内で、自他ともに認めるトップクラスのスナイパーであるワルサーにとって、
それは基本にして鉄則といえる言葉だ。
戦闘中はもとより、基地での生活においてもワルサーはその鉄則に従うように心がけている。
・・・決して、ぼっちで寂しい生活を送っているだけだとかいう核心をついてはいけない。
そんな彼女にとって、今回の任務で教官としてウェスカーを、同僚として9A91があてがわれたのは運が良かったといえるだろう。
「私は姉と違って一撃必殺を信条としている。2人にはELDに対してのステルスキルを指導する
つもりだ」
HQから出発する際に簡単に説明をしてから、ウェスカーは全く会話をすることなくワルサーと9A91を先導して進行し続けた。
目的の地下エリアへと入る直前、遠くから爆発音が聞こえてきた。
他のチームはかなり派手に戦闘をやらかしているのだろう。スマートな戦い方を好むワルサーは、実に騒がしそうなあちら側でなかったことを幸運に思う。
「ライトの使用は禁止だ。夜目が効くのならそれでいいが、暗視装置を使うのが賢明だろうな」
エリア内に縦横無尽に張り巡らされた交通道路は車両の運用に不可欠である一方、歩行者に
とって移動を妨げる障害となっていた。
道路を跨ぐように歩道橋を設けることで解決を試みた時期もあったようだが、それでも間に合わなくなった末に考えたのが、エリア全体に広がる広大な地下連絡道の整備であった。
蜘蛛の巣状に整えられた地下道はただの通り道というだけではなく、多くのテナントが立ち
並ぶ、一種の地下都市として繁栄していたようである。
しかし、幾度かの戦闘に巻き込まれ、廃墟と化した今となっては当時の栄華を重ねる事すらも
難しい。
地下水のパイプラインから漏れ出した水がコンクリートを侵食し、暗く湿った環境にはカビなどのバクテリアが生息し放題。
光が一切届かない、真っ暗な通路の隅や瓦礫の端には、きっとネズミとか得体のしれない生物とかが無数に潜んでいるに違いない。
いくら任務とはいえ、できれば足を踏み入れたくはない場所だ。
誤って銃を落としたり壁にぶつけたりして汚してしまわないように、とワルサーは自然と銃を
抱きかかえる腕に力を入れなおす。
地下道に足を踏み入れてから2キロほど進んだだろうか、先頭のウェスカーが突如足を止め、
ハンドサインを送ってきた。
サインに従い、屈みこみ、手近な遮蔽物へと身を隠すワルサーと9A91。その2人の後に
ウェスカーが続く。
「前方100メートル先のロータリーにELIDの群体が3つ。それぞれ、4体、6体10体の群体だ。確認できるか?」
ロータリーというのは地下道における交差点で、円状の広場のようになっている事からそう呼ばれている。
ウェスカーの話では、100メートル先にそのような場所があるそうだが・・・いかんせん、
ワルサーにはその輪郭すらも視認できない。
夜目は効く方なので、ここまで暗視装置無しで歩いてきたワルサーだが、これは暗視装置が
あったって苦労するだろう。
「そんな遠くのもの、この暗さで見えるわけないじゃない」
「ワルサーに同意です。集団は輪郭だけ視認できますが、数は把握できません」
ところが、9A91にはロータリー内の集団は視認できているようである。
夜の女王の異名を持つ〝グローザ〟と肩を並べる程の夜戦の手練れ、9A91のスペックは流石といったところ。
でも、そんな些細なところで負けたのがワルサーにはちょっとだけ癪なのである。
「9A91は夜戦に強いのだな。ふむ・・・9A91は敵集団に近づき襲撃。ワルサーは遠距離からの狙撃で9A91を援護しろ。10分間、私は手出しをしない。どこまでやれるか、見せてくれ」
ウェスカーは黒いロングコートにサングラスと、威圧的な装いをしているが、当基地の戦術人形G41と変わらないくらいの体躯の人形である。
自分よりもチビッこい相手が偉そうな態度をとっているからといって、いちいち腹を立てるほどワルサーはひねくれた性格はしていない。
ただ、実力も良く分からない相手に上から目線で言われるものだから、ワルサーは少しだけ面白く感じないのである。
これで自分達よりもELID退治の手際が悪かったものなら、この作戦を承諾した指揮官も含めてどれだけの文句をぶつけてやろうかと、ワルサーは頭の隅っこでそんな事を考え始めていた。
「了解。そういう事だから、行くわよ、9A91」
傍らにいるはずの9A91に声をかけるが、返答がない。
不思議に思って視線を向けると、そこはすでに真っ暗闇。
「もう行ってしまったぞ。キミも位置について、しっかり援護してやれ」
相棒に無言でさっさと進んでいくとは、なんという協調性の無さか。
溜息交じりにワルサーも移動を開始する。
身を屈めたまま慎重に歩を進め、通路の端に転がっていた小型車両の残骸の影に陣取ることに決めた。
ウェスカーが言っていたロータリーまでは、50メートル強といったところか。
依然として目視できる距離ではないが、進んできた歩数から考えればそんなものである。
車体を台座の代わりにして銃を構え、スコープの電源を入れる。
こんなこともあろうかと、暗視装置付きのスコープを装備してきたのはワルサーの勘の良さの
賜物。
スコープを覗き込むと、さっきまで何もない黒色だった景色内に、淡い緑色の輪郭が映し出された。
(うわぁ・・・ウェスカーが言ってた通り、結構な数がいるのね。アテもなくフラフラと歩き周って、気持ち悪いったらないわ)
まずはELIDの数と距離を確認する。
射線はクリア。地下道なので、風の影響を考慮する必要はない。
セーフティーを解除し、トリガーに指を添える。
狙撃準備が整ったところで、ようやく援護対象となる9A91の動きへ目を向ける。
(もうあんな位置まで近づいてる。手際は流石ね。仲良くなりたいとはこれっぽっちも思わないけど)
9A91は指揮官しか眼中になく、出身を同じくする特に仲の良い人形としか交流がない人形として基地では知られている。
ワルサーとて、仲良くなろうと思って任務に就いているわけではない。やるべきことだけキッチリとやってくれる相手なら、性格とかは気にすることも無いのである。
銃を構えた9A91がELIDの背後へと近づいていく。
自らに迫る危険など知る由も無く、ヨタヨタと歩き周るELIDに銃口を突き付け、そこで強い光が3度明滅。サイレンサー特有の空気が吹き抜けるような音がワルサーの耳にも届く。
直撃したのは間違いないが、胴体では致命打にはならない。
ELIDは着弾の衝撃でよろめくも、すぐに反転、背後に立つ9A91に襲い掛かる。
今の攻撃で仕留められなかったことにやや慌てた様子ながらも、9A91は狙いを頭部へと
変更。今度こそ、ELIDを仕留めてみせた。
(頭を狙えって、事前情報で教えられてたでしょ? 言われた通りにやってりゃあいいのよ)
トリガーを引きかけた指を戻し、ワルサーは静かに安堵の息をつく。
しかし、その安堵は長く続かない。
あまりにも静かなこの空間では、サプレッサーの音ですらも目立ってしまう。
9A91が発した音に気付いたELID達が、一斉に9A91の方へと歩みを進め始めたのだ。
正面から迫るELIDの対応で手一杯の9A91の背後から伸びる魔の手。
そうはさせまいと、ELIDの頭部にレティクルを合わせていたワルサーがトリガーを引く。
暗闇とはいえ、標的との距離は100メートルも無い。
あまりにも高い生産コストと引き換えに、類い稀な精密さを賜った名器WA2000にとっては、朝飯前の仕事である。
頭部から飛沫を撒き散らし、ELIDの身体が弾き飛ばされる。
立て続けに2体、3体と9A91の背後の敵を片付け続けるワルサー。
当の9A91は自分の背後でそんな展開になっている事に気づいているのだろうが、全く気にしている様子は無い。
それは、ワルサーの援護を信頼してくれている証か。
いけ好かない相棒ではあるが、向けてくれる信頼にはちゃんと答えるのがプロの仕事というものである。
(9A91も慣れてきたのか、手際が良くなってきてる。このまま押せそうね)
優位にたってきたことで、ワルサーの心に余裕が生まれる。
スコープに集中させていた神経が緩んだところで・・・自分のすぐ横から発せられる息遣いに
気が付いた。
「っ!!?」
咄嗟に身を翻した、その直後にワルサーの身体を指先が掠めた。
ほんの数舜でも遅かったら、間違いなく捉えられていただろうタイミングだ。
(ちぃ、近くに潜んでたか。迂闊だった)
完璧な仕事を信条とするワルサーである。初のELID戦とはいえ、敵の接近を許すなどという、
スナイパーにとってあるまじき失態を犯してしまったことに舌打ちをひとつ。
距離が近すぎて銃は使えない。そう判断したワルサーは上着のシースケースからナイフを引き
抜く。
逆手に構えたそれを、踏み込みと同時にELIDのこめかみへ突き立てた。
ブレードの半分ほどが頭部へ食い込むが、ELIDを仕留めるにはまだ至らない。
「大人しく! してろってのよ!」
両手で柄を握り、捻りこみながらさらに深く押し込む。
糸が切れた人形のようにELIDが地面へ崩れ落ちる。
地面に転がるELIDを跨ぎ、1体、また1体と暗闇からELIDが姿を現す。
どうやら、ワルサーが想像しているよりも遥かに多い数の敵に囲まれているようだ。
(この暗い中で、よくもまあ私の位置を把握できるわね)
スコープのレンジを近距離設定に切り替え、銃を構える。
1体につきキッチリ1発で仕留め、自分の安全をひとまず確保できた隙に9A91の様子を確認する。
敵の真っ只中とはいえ、さっきはあれだけ上手くやっていたのだ。ワルサーが少し目を離した隙に大変な事になっていよう筈も・・・
「んな、何やってんのよアイツは!?」
スコープに写るのは、ELIDに押し倒され、馬乗りにのしかかられている9A91の姿。
噛みつこうと迫る顔をなんとか押し留めているが、そうしている間にも彼女の周りにはどんどんとELIDが集まってきている。
(そんなの早く振りほどきなさいよ、バカ!)
再び狙撃姿勢に入り、9A91の周りのELIDを撃ち抜いていくワルサー。
リロードの傍らで、自分の周囲に視線を向けてみる。
ワルサー側のELIDも徐々に距離を詰めてきている。
本来であれば、すぐにでもこちらの迎撃に移りたいところなのだが。
「・・・クソっ!」
自分に向けて迫る危機を無視して、ワルサーは9A91の援護を選んだ。
自分の身を第一に考えるというのが戦場での鉄則ではあるが、実際、こういうのは理屈ではなく、仲間を助ける為の行動に理屈は必要ない。
別に、私は単に一番効率が良い行動をとっただけだし。決して、アイツの身を案じたわけじゃないんだからね! と、ワルサーに問いただしてみればそんな答えが返ってきたことだろう。
9A91がELIDを振りほどき、態勢を立て直そうとしている。
彼女の周りにいるELIDをあと2体ほど倒せば、自力でなんとかなるだろう。
しかし、ワルサーの身もいよいよもって危険だ。
足音の主がワルサーに届くまで、あと2、3歩といったところか。
(ギリ間に合う。いや、間に合わせる)
恐怖を押し殺し、銃を携える両腕に神経を集中させる。
神業のようなエイミング技術で立て続けに頭部を撃ち抜いたのと、ELIDがワルサーに向けて倒れ掛かってきたのはほぼ同時だった。
「このやろっ!」
咄嗟にELIDの頭を腕で抑えつつ、片手でナイフを引き抜く。
切っ先を頭部に叩き込んでやろうと、腕を振りかぶって・・・そこで異変に気が付いた。
「? コイツ・・・死んでるの?」
そもそも死んでいるような相手なので、その言い方は語弊があるかもしれないが。
ワルサーに倒れ掛かってきたELIDはピクリとも動く様子がない。
それどころか、周りに目を向けてみれば、周りで群れていたELID達が次々と、まるで電源が切れでもしたかのように倒れている。
一体、何が起こったのかと、佇んだまま呆気にとられるワルサー。
「時間だ。ワルサー、キミの腕前は確認させてもらった」
そんな彼女に、いつの間にか近づいてきていたウェスカーは、背中で腕を組み、相変わらず抑揚のない声をかける。
「時間って・・・今の、アンタがやったの? どうやって?」
暗い中とはいえ、ウェスカーがELIDの集団に攻撃を仕掛けたのであれば、その気配くらいは察することが出来るはず。
けれども、ワルサーにはウェスカーが何をしたのか全く見当もつかなかった。
「次は良く見ておくことだ。今から、9A91の援護に行ってくる」
言うと、ウェスカーの姿が消えた。
「へ? 消え・・・ウソ!?」
比喩などではなく、本当に存在が消えたかのようにワルサーには見えた。
オバケを代表とするオカルトの存在を断固として否定するワルサーだ。何か仕掛けがあるに違いない、とすぐに思考を切り替え、ウェスカーが向かうと言っていた9A91の方へとスコープを
向けてみる。
そうして、そこで展開される光景を目の当たりにして、ワルサーはウェスカーの実力を知ることになるのである。
ワルサーはドルフロの中でも人気のあるキャラですが、当方の作品では何となく存在感が薄いですね。
まぁ、普段はスポットが当たりづらい人形の娘達を出したい、というのがモットーでもあるので、そこのとこはどうかご容赦いただければと。
次週も更新予定ですので、是非ともまたお越しくださいませ!
以上、弱音御前でした~