TS転生先でSenkaされてもしぶとく生きる   作:テレホマン

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第8話 ウィルソード

 あの後も色々と話をし、一応の納得をもってイエナと鎖帷子野郎は帰っていった。

オレが感じた疑問に対する答えや、オレにとって重要な事は以下の通りだ。

 

・雑貨屋の2階で気絶していたオレは、斥候の手によってお急ぎ便でここ(教会)に宅配された

・オレの身柄は、この教会預かりになる。期限は特に言われてはいない

・交わした便宜は図る故、くれぐれも約束を違えぬようにとの念押し

 

 教会から無策で逃げ出したら、手を下されるまでもなく野垂れ死ぬのは理解している。

それに、オレは人情はともかく義理は大事にすべきと考えている。

甘い考えは往々にして人を殺すが、義理は人の命を救ってくれる事があるからだ。

 

 オレは、義理が無い人間は人間じゃないと考えている。

そんなのは、本能の欲求のままに動くだけのケダモノだ。

 

 オレはどんなに落ちぶれようとも、心だけは人間でいたい。

だから、受けた恩は必ず返す(但し、まともな相手に限る)。

 

 という訳で、ハナからオレに逃げ出すという選択肢はないのだ。

鎖帷子野郎はずっと、寝ている耳元で蚊が飛び回ってる時みたいな顔をしていた。

ぶっ殺したくて仕方がないという顔だ。あいつ(鎖帷子野郎)が監視役か?

 

 最後に、改めて自己紹介をして情報提供という名の取り調べはお開きとなった。

窓の外から見える空は赤みが増しており、日が沈み始めている。

 

 結構な時間、取り調べを受けていたみたいだ。

とりあえず、生き残りの目が見えて一安心という所だな。

 

 小太り神父は、アタナシオスという名らしい。

う~ん、この人は外見で相当損をしていると思う。

何というか、妙にエネルギッシュで精力絶倫のエロオヤジって見た目なんだよなぁ。

 

 そのくせ、神父だから落ち着いた雰囲気を出そうとして、大きな動作を控えている感がある。

そうすると、外見と相反した落ち着いた所作がアンバランスさを強調し、何か不穏な雰囲気を醸し出しているんだよなぁ。

まぁ、見たまんまの腹黒種付けおじさんという可能性もあるから、要注意だな。

 

 サキュバスは、フィロメナという名らしい。

エロい体を隠しているが、隠しきれていないのに気付いてしまうともうダメだ。

特に修道服という性とはかけ離れた、素朴かつ清楚で神聖な服を着ていると尚更だ。

 

 う~む、エロい! もうこれしか感想が出てこなくなる。

盛りのついた中学生か? オレの性自認が揺らいじまうぜ……。

 

 鎖帷子野郎も名乗っていたが、光の速さで忘れた。

姓も名乗っていたぽいから、貴族の端くれだって事くらいか。

 

 嫌な事はさっさと忘れるに限る。そうしないと心が壊れるからな。

まぁ……本当に嫌な事は、忘れたつもりでもふとした事で思い出すんだけどね。

まったく、頑固な油汚れより性質(たち)が悪いぜ。

記憶消去の魔法とか無いかな? イキュラス・キュオラ!

 

「そろそろ夕飯にしようか。あぁ、まだ無理をしては駄目だよ。

 君はまず、体を治すことを最優先にしなさい。これからの事はその後だよ」

「うふふ。ご飯を食べたら、体を拭きましょうね」

「アッハイ」

 

 まだ下半身に違和感があるオレに、神父様は暫く養生しなさいと言ってくれた。

オレを不安がらせないようにっこりと笑ったつもりなんだろうが、ニチャァ……という

擬音が付きそうな禍々しい笑顔だったぜ。

 

 そこまで気を遣わせてしまう程、オレの足の状態は良くないのだろうか。

後遺症とかで足弱になったりしないよな?

そうなったら自立とか夢物語になってしまうので、ご厚意に甘えて養生しよう。

 

 という訳で、夕飯を頂いてフィロメナに体を拭いて貰ったら、ベッドに横になる。

ボーッと天井を見つめる。オレの村が滅ぼされて、今は大体2日後くらいか?

色々と激動過ぎて精神が疲れているが、今後の為に色々と考えないといけないな。

 

 

 

 ――――ウィルソード伯爵領首都、ウィルソード。

アプリオス地方の北西部に位置し、同地方の中心都市アプリオスと北方の村や町、及びグランリーフ王国との国境を繋ぐ中継地点として栄えている。

 

 グランリーフ王国との武力衝突の際は、北部方面の前線基地として機能する。

その戦略的重要性の高さは、公国の武闘派筆頭であるダンフォース家が領主として任じられている事から(うかが)い知ることができよう。

 

 この都市の歴史は古く、成立はグランリーフ王国初期の拡張期にまで遡る。

グランリーフ王国統治時代では、開拓者を意味する「プロトポロス」という名前で呼ばれていた。

その名の通り、最前線の入植地として作られたのが始まりだ。

 

 入植が進むにつれ、街道の整備や治安維持、先住民の反乱対応等で軍隊も駐屯する様になった。

プロトポロス周辺が整備されると、西部以外の各地へ開拓団を派遣する入植拠点としての機能を持つようになる。

それらを取り纏める行政機関も設置された結果、プロトポロスは拡張され続けて北部の物流の中心地といわれるまでに発展したのだ。

 

 しかし、時間が経つと状況は変わるものである。

何十年・何百年という時と共に入植が進むと、より奥地へと入植拠点が移ろうのは当然の事だ。

 

 東部や中央・南部へのアクセスが良いアプリオスが整備されると、交易拠点としての利便性も含めてその地位を譲る事になった。

 

 その後は往年の繁栄は無いものの、北部の中継拠点としての価値は失われず、アプリオス地方の代表的な都市の一つという地位にあり続けた。

 

 独立戦争後は講和条約に則り、アプリオス地方一帯の割譲に伴いパーシアン公国に属する。

割譲後は、すぐに強引なまでの区画整理・城壁や防衛設備等の構築が行われると共に、エグザス公王陛下の御意向により都市名が「ウィルソード」に変更される。

 

 割譲後はグランリーフ王国との交易の玄関口であり、武力衝突時の前線基地にもなる事から、経済面・軍事面での重要度が大きく増加した。

その結果、良くも悪くも多くの人が集まる都市となっており、今やアプリオス地方第二の都市と言える賑わいをみせている。

 

 

 

 オレの知ってる知識だと、こんな所だな。

しかし、エグザス公王陛下も思い切った事をなさる。

グランリーフ王国との国境に近い都市の名を、我が意志たる剣(ウィルソード)にするなんて。

 

 これは講和成立後も、グランリーフ王国に剣の切っ先を向け続けるという意味だ。

要約すると「かかってこい! 相手になってやる!」ってコト。フィンランドかな?

戦争だ! 閣下、性根の腐ったブタ野郎のソ連が宣戦を布告しました。

 

 だが、この世界ではそんな事にはならなかった。

何故なら、当時のグランリーフ王国は大打撃を被った直後だからだ。

反撃出来ないのを見越してやってるのも、ポイント高いっすね。

 

 聖戦を主導していたグランリーフ王国の教皇なんか、屈辱で憤死したかも知れない。

それを良い感じのエピソードに改竄(かいざん)して、列聖とかしてたら草生えますよ。

 

 この敵対関係の継続によって、今回オレの村が滅ぼされるに至った訳だが……。

一神教同士の争いって、相手を滅ぼすか同化するまで止まらないから、仮に友好関係を結ぼうと努力したとしても結果は変わらなかっただろう。

王国の教皇様が激おこぷんぷん丸だから、言わずもがな。

 

 それだったら、敵を敵だと明確に国内に示す方が色々と正しいし捗るだろう。

こっちを殺す気満々な奴と、仲良くしようと努力する事程無駄な事はない。

 

 えっ? 自国を滅ぼす気満々の敵国も含めて全方位土下座外交して、いいように搾取され続けても満足しているドM国家があるって?

またまた御冗談を。そんなアホな国があったら見てみたいですよ。

 

 話を戻すが、ウィルソードはグランリーフ王国との交易拠点でもある区画整備された大都市で、

城壁等の防衛設備も完備した軍隊も駐留できる要塞都市なのだ。

う~ん、この欲張りセット感。

 

 しかし中世ヨーロッパ程度の文明力なのに、そんな人口密度で大丈夫か?

大丈夫だ、問題ない。いんや、問題しかない。

何がって? そりゃぁ勿論、衛生環境ですよ。

 

 例えば、花の都パリはナポレオンの都市改革があるまで、鼻の曲がる都パリだったんすよ。

無秩序に拡大したパリは、畑や家畜(豚)といった糞尿の受け手が全く足りなくなった結果、

おまるに貯めた汚物を窓から外に放り投げるのが日常だったらしい。

 

 もう街中、糞まみれや。やはり大勢で糞まみれになると最高やで。

糞まみれどころか、ペストとかの感染症も度々大流行したそうな。この世の地獄かよ。

 

 そして、街中の汚物との接触面を減らす為に生まれた靴が、ハイヒールだ。

その由来からも、今と違って当時は男が履いていたのだ。

こんなに知ってても何も嬉しくない雑学は初めてだぜ。

 

 更に庭園が有名なヴェルサイユ宮殿でさえも、当時は野糞されまくりで超臭かったらしい。

こんなんおハーブ生えますわ! ヤック・デカルチャー。

 

 現代人の衛生観念を持ったオレが、そんな都市に放り込まれたら頭がおかしくなって死ぬ。

尚ここのトイレは設置式で、多分汲み取り式……だと思う。おまるではなかった。

とりあえず、足が治ったら見習い修道女としての仕事を覚える前に、街を案内して貰いたいな。

 

 

 まだ、色々と考えを整理しなければならない事が沢山ある。

しかし、理解ある生活拠点を得たという事実が、オレを心地良い夢へと誘ったのだった。

 

 

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