TS転生先でSenkaされてもしぶとく生きる   作:テレホマン

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 凄く間が空きましたが、復活しました。
筆が遅いですが、少しずつ更新できたらと思います。



第9話 払暁

 ファンタジー異世界農家の朝は早い。

山の向こう側がまだ暗闇に支配されている時分、家畜が目を覚ます前に起床する。

 

 1日の始まりは雑用からだ。女は水汲みや教会の種火を貰って昨日の残りを朝食に作り替える。

男は村の周囲に侵入者の痕跡が無いかの確認と見回りだ。辺鄙な村では自力救済が基本だからね。

 

 朝食を手早く済ませたら、昼まで一仕事だ。

女は洗濯や昼食作りといった家事から家畜の世話、薬草や山菜等を採取したりする。

男は農業や伐採、建物の補修といった力仕事全般が担当だ。

意外な事に、男と女で正しく分業がなされている。効率は大事、はっきりわかんだね。

 

 北にある山脈で一際高い、バウストクルツ山の真上に太陽が鎮座すると真昼だ。

この時間迄に一旦村に戻ってくるのがルールで、事前の申告なく戻らないと一大事になる。

不慮の事故をはじめ、野盗や人攫い・魔物による被害を想定しないといけないからだ。

 

 戻ってこない場合は、村の男衆で捜索隊を組んで山狩りだ。

少ない人的資源を失う訳にはいかないし、襲撃の前触れの可能性もあるからね。

捜索は魔物や賊と遭遇する可能性もある。命懸けだし、繁忙期だと時間損失も大打撃だ。

 

 だから小さい頃からこのルールに関しては、親から徹底的に躾をされる。

軽い気持ちでルールを破った悪童達は、翌日顔と頭の形が変わっていた。

人はこうして大人になるんやなって。

 

 家族と昼食をとったら、繁忙期でない場合は子供は自由時間になる。

近しい者や兄弟で集まり、村の広場や近くの沢・教会に行ったりするのだ。

教会では、生き字引である高齢な神父様が色々なお話だけでなく、作法とかも教えてくれた。

 

 ()は好奇心旺盛だったらしく、記憶を辿るとかなり教会に入り浸っていた。

都会に憧れる田舎のギャルみたいに、未知の刺激や情報に飢えていたのだろうか?

ただ、一介の村娘には不釣り合いな教会での濃密な時間は、()()()()がこの世界への理解を深める材料になった可能性が濃いすか?

 

 太陽がバウストクルツ山から完全に離れたら、村や家に戻るルールだ。

山間部はあっという間に暗くなるからね。科学技術の進んだ前世でも、毎年多数の山岳遭難が発生する事を考えれば、こちらの世界での危険性は言わずもがなだろう。

 

 1日の出来事を話しつつ夕食をとり、緩やかに食後の時間を過ごしたら明日に備えて就寝だ。

親の寝室から何か声が聞こえてきても気にしてはいけない。明日の英気を養っているんだろう。

近いうちに、新しい命も養う事になるかも知れんな。ガハハ!

 

 こんな毎日が、オレの生まれた村では営まれていた。

ファンタジー異世界の辺境の村って、江戸時代の東北の農村みたいに冬に女衒(ぜげん)*1に子供を売らないと生きていけない貧困層っていう勝手な印象があったが、そんな事はなかったぜ。

 

 今生のオレは、結構恵まれていたんだなぁ。失って初めて分かる、この有難みよ。

前世の親は糞くらえだったが、今生の親には貰うばかりで何もお返しが出来なかった。

いや、母親は生きている可能性はある。その場合は死んだ方がマシな目にあっているが……。

 

 まずは母親の生死を明らかにする必要があるだろう。

そして死亡が確認出来ないなら、苗床から保存食にジョブチェンジする前に救出したい。

猶予は少ない。教会での生活含め、身の処し方を決めて早く行動に移さねばならない。

 

 

 

 

 

 お早う御座います、エヴァンジェリンです。

色々と身の処し方を決めたので、早速実行に移していこうと思います。

 

 オレは今、手にした燭台の弱々しい灯りを頼りに、真っ暗闇の教会の中を歩き回っている。

村の起床時間だと、この街の人は皆スヤスヤよ。脚がまだ本調子ではないが、仕方がない。

 

 金目の物を盗んでドロンする訳ではないぞ。オレの信条*2に反するし、何より差別で死ぬ。

オレが探しているのは井戸と掃除用具だ。そう、まずは掃除をしようと考えたのだ。

 

 別に勤労精神に目覚めた訳ではない。働かずに生きていけるならそうしたいのが本音だ。

神父様には往生せい、じゃなかった養生せいと言われたが、信じてはいけない。

本音と建て前を(わきま)えなかった結果、前世で酷い目にあった事があるのだ。

 

 それはある日突然、朝礼で管理部門の偉い人から有給休暇を規定日数以上取れという話がされた時の事だった。

さぶろくキョーテーだか働き方改革だか知らんが、御上(おかみ)*3の決め事らしい。

それを聞いたオレ達は、テンション爆上げだった。有給休暇……実在したのか!

 

「えっ。今日から全員有給休暇を取ってもいいのか!!」

「ああ……しっかり取れ。おかわりもいいぞ!」

「Foo↑ 連続して取っても?」

「遠慮するな。今まで使えなかった分、たっぷり取れ……」

「うめ……うめ……うめ……」

 

 上司や先輩は、それはそれはもう喜んで有給休暇を取得した。勿論、オレもだ。

取得日によって人手不足になり困る事もあったが、それはお互い様だし何より些細なミスをしてもヤキを入れられる事が無くなった。

何か職場の雰囲気が良くなった気がする。心の余裕って大事なんやなって。

 

 しかし、数ヶ月経ち夏が近づいた、査定の時期にそれは起きた。

 

「ただ今よりノルマ確認及び勤務評価を実施する!!」

「そう……(無関心)」

「ノルマ未達者は論外! 加えて有給取得日数に比例して勤務評価を変動させる。

 いやしく限度一杯休んだ奴ほど低評価は続く! 心配するな、チーム毎に連帯責任だ」

「ファッ!? クゥーン……(絶命)」

 

 オレ達のチームは、ノルマは達成していたものの全員が有給休暇を使い果たしていた。

その結果、全員暫くの間給与明細を貰う度に深い溜息をつく日々を過ごす事になった。

 

 これじゃ、オレ……ノルマを守りたくなくなっちまうよ……。

でも、ノルマを守らないともっと酷い目にあうからね。あなた(会社)って本当に最低の屑だわっ。

 

 こうして、有給休暇はオレ達の心と財布に大打撃を与えて消滅した。お前……消えるのか?

残ったのは、騙し討ちをした会社に対する不信感と、長きに(わた)るもやし生活だけだった。

結局、有給休暇を取得しても()()()()()()()()という手続きが暗黙の了解となった。

 

 これが会社の本音、資本主義って奴ですよ。

労働者を薄給で扱き使い、利益をあげてナンボという世界。

金金金! 人として恥ずかしくないのか。

 

 という訳で、賢いオレは建前に騙されずに、脚を引きずりながらも健気に働くのですよ。

役に立つ奴だと実際に行動で示し、早く色々と便宜を図って貰える関係を築くのだ。

 

 健気な姿で同情も買えると尚良い。同情するなら金をくれ! 他にも色々くれ!

いや、黒目黒髪のオレを匿うだけで相当なリスクだ。流石にあれもこれもは厚かましいか。

自由時間を貰って自分で稼ごう。おちんぎんしゃぶらせて下さい?

 

 何とか倉庫っぽい部屋を見つけた。雑巾と木桶をもって井戸から水を汲んだら礼拝堂へ行く。

このクソ広い礼拝堂に沢山ある長椅子や、祭壇や女神像を綺麗に水拭きするのだ。

 

 拭き掃除は得意だ。

下っ端社員が出社したらやるべき最初の仕事は、上司や先輩の机拭きだったからな。

熟練の技を見せてやるぜ。

 

 

 

 

 

 大体3~4時間程経っただろうか。太陽が姿を現し、教会内に光が満ち始めた頃。

暗くて見えなかったが、結構汚かったのだろう。汚れた雑巾とオレの部屋着に反比例するかの様に、ピカピカに生まれ変わった礼拝堂がそこにはあった。

 

 ぬわああああん疲れたもおおおおん。

この体非力すぎんよ~。いや、歳相応というべきかな。

長椅子にだらしなく寝っ転がりたい誘惑に耐えつつ、艶々になった女神像に祈りを捧げる。

 

 生き残れた事に対する感謝を捧げるが、本当はこんな目に合わせやがってと罵倒したい気分だ。

悪い事も試練として乗り越えられる様に祈る? 確かに()だったらそうしていただろう。

しかし、()()は日本人だ。悪い事があったら普通に神様に文句を言いたいのだ。バーロー。

 

 葛藤しつつ祈りを捧げていると、奥側の扉がバーンと勢いよく開かれ修道女が入ってきた。

あれは……フィロメナという名前の異世界特有のエロボディ修道女(空想上の生き物)だ。渾名はサキュバス。

 

 彼女はピカピカになった礼拝堂に目を見張った後、掃除用具の隣に跪いて祈りを捧げているオレを見て、諦めた様に溜息をついてこちらへ近付いてきた。

 

 しっかりと仕事をしたうえで祈っているので、いきなり穀潰しとか文句を言われたりはしまい。

……しないよね?

祈りを中断し、ゆっくりとフィロメナの方に向き直ると同時に、両頬に手が添えられた。

 

「ふぁほ、ふぃほふぇあふぁふぁ?(あの、フィロメナ様?)」

「昨日の今日でこんな事を……。神父様の仰る通り、体を労わらないといけませんよ」

「ふぁひ(はい)」

 

 顔を寄せてオレの目を覗き込みながら、両頬を軽く引っ張るフィロメナ。

オレが素直に返事をすると、目を閉じてニッコリと擬音がつきそうな笑顔を浮かべた。

温厚な人柄を表す素敵な笑顔だ。思わずお姉さまとお呼びしたくなったぜ。

 

「色々と思う所があると思いますが……。遠慮せずにまずは私達に相談してくださいね?」

「サーモン」

「まずは私達に相談してくださいね?」

「ふぁふぁひふぁひた!(わかりました!)」

 

 ふざけた反応をしたら、素敵な笑顔のまま両頬を強く引っ張られた。イタァイ!

しかし、よく見ると閉じた瞼がうっすらと開いてこちらを見つめている。

ヒェッ……。やだ怖い……やめてください……アイアンマン!

こんなんホラーですやん。逆らわんどこ……。

 

「もうすぐ神父様がいらっしゃいます。まずは着替えて朝食にしましょう。

 その後で、今後の事も含めて色々お話しましょうね。遠慮は駄目ですよ?」

「イエスマム」

「うふふ、何ですかそれ。普通に呼んでくださいね」

「アッハイ。お姉さまとお呼びしても?」

「勿論。私もリンと呼びますから。これから宜しくお願いしますね」

「コンゴトモヨロシク……」

 

 どうやら、建前ではなく本音でオレを労わってくれるようだ。

領主を交えた決め事だからこそ、預かる以上はちゃんと面倒見てくれるって事かな。

本当に有難い。約束を守るという事は、役に立てば相応の見返りも期待できるという事だ。

 

 礼拝堂の掃除も行き届いてない状況ならば、結構な人手不足だろう。

そんな所に、即戦力のオレ参上! 寮の切り盛りをした前世の経験が活きるぜ。

文明レベルの違いや力仕事が厳しいという点はあるが、色々と効率的に対処出来る筈だ。

 

 更に、オレは教会の作法も完璧だ。実際の儀式とかは未経験だから、知識上の話ではあるが。

尚、太陽神教の作法もできるのは秘密だ。そんな事言ったら、異端やスパイ扱いされるからね。

う~ん、そうすると本当に村の神父様の存在は謎だな。何者だったんだろう?

 

 とにかく、オレのやるべき事は変わらないし明確だ。後は遮二無二突き進めば良い。

それに、労働環境も前世に比べればよっぽどマシだ。勤労意欲が沸くってもんだ。

 

 そう考えると、窓から差し込む太陽の光もオレの未来を祝福している様に思えるぜ。

エヴァンジェリン大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!!

 

 前世を思い出したオレに、もう死角はない。

そんなふうに考えていた時期が、オレにもありました。

 

 

 前世での経験不足や異世界の特異性を、オレは改めて思い知るのであった。

 

 

*1
女性を遊郭等の売春労働に斡旋する仲介業者のこと。人買い。この世界なら奴隷商人のこと。

*2
人情はともかく、義理は大事にすべきというもの

*3
貴人や主君に対する尊称。ここでは、政府や役所のこと

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