TS転生先でSenkaされてもしぶとく生きる 作:テレホマン
今回は、突然名前の出てきた王国と公国の成り立ちを説明するぜ。
村の生き字引みたいな高齢の神父様から聞いたお話だが、所々で裏話とか小話を挟んだりして
子供が聞いていても飽きずに面白かった。
どんな内容であれ、子供と上手く向き合える人をオレは尊敬している。
ここら辺は、前世の親のせいかも知らんね。
神父様のお話を聞いていたのは、別にオレが勉強熱心だからとかではない。
この世界はとにかく娯楽の種類が少ないから、稀に来る旅人や行商人に外の話を聞くのも、
一種の娯楽だったのだ。
そんな訳で、仕事の手伝いが無い時はそれなりに教会に入り浸っていた。
神父様は、太陽神教の教義とか王国側の知識も豊富だった。
今考えると、色々と知り過ぎたが故に左遷されたんじゃないかと邪推しちゃうね。
さて、今でこそ王国と公国は非常に強い緊張状態にあるが、元々は統一国家だったそうだ。
この両国の建国と仲違いには、信仰する神……つまり宗教が大きく影響している。
グランリーフ王国の歴史は古く、建国は2千年以上前とされている。
太陽神に導かれし光の使徒、初代国王クレア=グランリーフにより建国された。
彼は太陽神の子孫といわれ、神の威光をその身に宿し、様々な奇跡を起こしたといわれる。
その奇跡の残滓は、眩いばかりの黄金の髪と
人間の遺伝子にまで自分の色を刷り込むとか、この世界の神様ヤバくない?
代を重ねながらグランリーフ王国は版図を広げたが、ある地方では頑強な抵抗にあった。
それが、パーシアン地方である。現地民は土着の神を頑なに信仰し、入植も改宗も拒絶した。
さて、畏れ多くも太陽神に歯向かう異教徒を見つけたらどうするか、皆は分かるかな?
そうだね、魂の救済(物理)だね。
時の王弟マレル=グランリーフは、パーシアン地方の征服を「約束の地の奪還」として呼びかけた。この呼びかけは王国中を熱狂させた。
彼は、国内の教会・貴族・民衆勢力を糾合し、大兵力として纏めあげてパーシアン地方へ雪崩れ込んだ。十字軍かな?
この時に少なくない地域で非人道的な行いが為された。
略奪・暴行はもとより、目につく現地民を皆殺しにしながら進軍する集団もあった。
やめなされ……やめなされ……
この行いは、パーシアン地方の国力の低下と現地民に強い禍根を残し、後の統治に大きな影響を与えることになった。
やっぱり十字軍じゃないか(呆れ)。
パーシアン公爵号を賜ったマレル=パーシアンは、現地民に強く配慮した融和・同化政策を取らざるを得なかった。
この方針は、パーシアン公爵領の基本政策として受け継がれる事になる。
長年の徹底した融和政策は、新たな価値観や文化、そして宗教や民族意識を醸成するに至った。
太陽神の教義は土着の信仰と悪魔合体を果たし、秩序と善を司る太陽神は何時の間にか女体化させられ、豊穣を司る太陽の女神と化した。
元の面影はどこにもない。この国すげぇ変態だぜぇ?
前世でも、神どころか無機物まで女体化する国に住んでいたので、妙な親近感を感じますねぇ!
パーシアン公爵領で、太陽の女神という解釈不一致の分派が存在するという話は、諸国を巡礼する信心深い信者達からグランリーフ王国の教会へ伝えられた。
女体化なんて、眼鏡の有無の違いみたいなもんじゃろ? 大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ。
時の教皇はこの事実を重く受け止め、パーシアン公爵領各地へ異端審問官を派遣した。
異端審問官は、秘密裏に信仰の実態を突き止めるよう言い含められていたが、複数人が事件を起こした。
事実確認の途中で神父や修道女と口論になり、逆上して相手を殺害したのだ。
畏れ多くも、太陽神を侮辱する様な輩は死んで当然だよなぁ? 怖いなー、とづまりすとこ。
領主や女神教は追っ手を差し向けたが、多くの異端審問官が逃げおおせた。
彼らは、神殿騎士から選抜される屈強なエリート集団なのだ。
逃げおおせた異端審問官達は、信仰の実態と己の命の危機について報告した。
神父や修道女を殺害した罪? 異端や異教徒は殺しても問題ない、むしろ功徳、ヨシ!
教皇は激怒した。必ず、かの邪知暴虐な異端者共を除かねばならぬと決意した。
彼はパーシアン公爵を異端審問にかけるべく、国王を動かし公爵の王都召還を要請した。
しかし、同公爵エグザス=パーシアンは、既に状況を把握していた。
秘密裏に戦争準備を進めつつ、のらりくらりと王都への召還命令を躱し時間を稼いだ。
堪忍袋がしめやかに爆発四散した教皇は、王国の動員に先んじて聖戦を宣言、王国中の教会に聖戦への参加を呼び掛けさせた。
前回と違い、今回の参加者は少年少女の割合が多かった。
数百年前の同十字軍の言い伝えに憧れるもの、次男や三男で家を継げないもの、純粋に神の威光を異端者に知らしめたいもの、貧しい生活から抜け出したいもの、熱狂に流されて参加したもの。
理由は様々だが、言い伝えや救いと名誉が混ざりあり、理想と現実に
この青臭い熱狂を統制できる人物はおらず、熱狂に巻き込まれた諸侯も先走る結果となった。
これを統制できた、マレル=グランリーフ王弟殿下は有能だったんだなぁ。
彼等は主力である王国軍や神殿騎士団・大貴族の軍を待たずに、パーシアン領へ雪崩れ込んだ。
しかし、諜報を密にし、手ぐすね引いて待ち構えていた公爵軍により、散々に打ち破られた。
諸侯の軍は優先的に攻撃され、逃げ惑う少年少女の多くは降伏又は捕縛されて奴隷となった。
この大量の奴隷獲得が、後のパーシアン領の人口爆発と発展の要因になるとは皮肉なものだ。
敗戦とはいえ神の旗の下で剣を振るえた分、前世の少年十字軍よりはマシ……なのだろうか?
この大敗を聞き、ヒエッヒエになった諸侯、慎重になった王国軍、依然士気MAXの神殿騎士団と、グランリーフ側の足並みが乱れる事になった。
軍議で結論を出せず時間だけが過ぎていく中、パーシアン側は別動隊を他方面へ派遣し、都市や拠点の電撃的な攻略を行った。
己が領地を空き巣されては堪らぬと、浮足立った諸侯の一部が早期決戦を叫び、同調した騎士団に押される形で王国軍は進軍を決定した。
しかし、場当たり的な決断は、上手くいかない事の方が多いのが世の常である。
こと戦で敵地において、情報戦で遅れを取っていれば尚更だ。
その結果、待ち伏せ・伏兵・奇襲に夜襲に後方攪乱と、昼夜を問わず一方的に攻撃され続けた。その中で、集中的に狙われた神殿騎士団が甚大な損害を被り、諸侯の軍にも少なくない被害が出始めると、「あれ? これもう勝てないんじゃね?」という考えを誰もが持ち始める。
こうなると、もう組織としての軍は終わりだ。
命が惜しい雑兵は逃げ出すし、名誉と信仰を重んずる貴族でも保身を考える。
逃げるのが遅いと、強制
信仰に殉ずるんだ、嬉しいダルルォ?
かといって、逃げるのが早すぎると家門の恥であるし、信仰心をも問われる事になる。
最悪、敗戦の責まで取らされかねない。
それらの思惑が重なった結果、名誉と信仰と命を天秤にかけたチキンレースが開催された。
口では勇ましい事を話しつつも、直接的な言葉を用いずにそれとなく相手に退却を勧めるのだ。
「押すなよ! 絶対に押すなよ!」と言って、誰かが押してくれるのを待っているのである。
真っ先に退却して、民衆に噂とかされると恥ずかしいし……。
こんな状況は、パーシアン側からすればボーナスゲームだ。雑兵が少なく大将格を狙いやすい。
従士なら長く使える屈強な労働奴隷、貴族なら身代金、王族に近い血筋であれば交渉材料になる。
結果、神殿騎士団は壊滅し、多くの貴族が捕縛された。
中でも、総大将である現国王の甥を捕縛できたのは
これにより、停戦交渉の優位性が決定的になったのだ。
しかし、交渉は難航した。
パーシアン側は独立と占領した地域の現状追認を求めたが、王国側はこれに粘り強く抵抗した。
豊かな中南部を割譲するのが惜しいというのもあるが、そこを抑えられると王都への距離が
ぐっと近くなるので、国防上看過できないのだ。
どうしてこの粘り強さを聖戦の時に発揮できないんですか?
交渉の結果、占領した中南部を返還する代わりに、北部の中心都市アプリオスを含んだ
アプリオス地方一帯が割譲される事になった。
この都市は、対グランリーフ北部戦線の最重要拠点として、
こうして、最高統治者の祖を同じくする両国は、信仰する神と共に分かたれた。
片や、独立戦争で大打撃を被った元征服国。片や、異教徒として被征服の歴史が色濃く残る国。
両国に共通するのは、親しい者を失った悲しみと、奪った相手への強い憎しみだけである。