TS転生先でSenkaされてもしぶとく生きる 作:テレホマン
――――ダンフォース家。
マレル王弟殿下が、公爵領へ下向した際に付き従った忠臣。
以降、代々公爵家騎士団の団長を務める、武門の家柄として知られる。
独立戦争の際には常に先陣を切り、
公王陛下の信頼篤く、公国独立時に北部国境一帯から都市ウィルソードまでを含む、
ウィルソード伯爵号を授与される。
北部の中心都市アプリオスを守るかの如く配置されており、正しく公国の盾である。
う~ん、察するにイエナは武闘派貴族の上澄みって考えた方が良いかな。
あの身体強化魔法は、普通の貴族の強化魔法の比じゃないと認識しておこう。
何処かで、他の貴族の魔法を見る機会があれば良いんだが……。
だって、あれが貴族の標準の強化魔法だったら大変だぜ?
主戦場のあちこちで、三国無双みたいに平民の一般兵が飛び散る事になる。
陣形とか戦術も意味ないし、一般兵の死亡率はほぼ100%になるだろう。
村の神父様から聞いた、戦史や戦場描写とも一致しなくなる。
何より、オレの村に侵攻してきた王国正規兵達が、否定材料になっている。
あれはどう考えても密集戦闘するタイプだし、筋肉モリモリマッチョマンの変態達が、
ただのやられ役だなんて信じとうない!
「して、先導役や魔術師と思われる奴は居たか?」
「全員各兵種で統一された軍装をしており、見た限り特殊な見た目の者はおりませんでした」
「ふむ、用心深く偽装したのか、そもそも不要なのか。判断がつかぬな」
オレは今、村を占拠された時の王国軍の情報を話している。
まるでビデオカメラの様に、見て記憶している景色だけを忠実に伝える。
憶測や推測、自分の意見といったものは一切入れない。
見ていないもの、記憶が怪しいものはその旨を伝え、いい加減な事は言わない。
目撃者の証言は信用できない。NTSBもそう言っている。
何故なら、直近の出来事の影響や思い込み、知識不足等から事実と異なる脚色がされ得るからだ。
そんな証言を鵜呑みにすると、反対に真相究明の阻害要因となってしまうのだ。
それ故に、動画や写真といった、誤解に基づかない真実の情報が重要になる。
この世界には、そんな便利な物はない。多分、そんな魔法もない、と思う。
ならば、オレ自身がビデオカメラになる事だ!
今のオレは、正確に王国の軍事情報を伝える事でしか、自分の価値を証明出来ない。
一切の自我を捨て、記憶にある景色からあらゆる雑念を取り除き、真実のみを伝えるのだ!
これは、前世の業務指導の賜物だ。
報告にお前らの意見や推測は不要、あるがままの事実のみを報告しろというご指導だった。
考えたり判断するのは上司の仕事、必要があれば聞くから働き蟻は黙ってろって事ですね。
少しでも客観的でない内容が混じると、罵声と共に灰皿が飛んできた。
ステンレス製のペラい奴ではなく、殺人事件とかに使われる重量感溢れるゴツイやつだ。
そりゃぁ必死になって、客観的事実のみを伝えられる方法を考え続けましたよ……。
たかが情報提供でここまで必死になっているのは、オレの今後の為だ。
何の援助も得られずにここを放り出されたら、オレは間違いなく野垂れ死ぬ。
差別や偏見によって、誰ともまともに交流を持てなくなるからだ。
何故なら、黒目・黒髪は神の加護のない色とされているからだ。
この世界では、瞳や髪に神の加護が宿っていると信じられている。
それは、グランリーフ初代国王の逸話が有名だが、ほぼ事実とされている。
他国の王族も、信仰する神のパーソナルカラーに沿った瞳や髪の色らしいのだ。
グランリーフ王族は眩い黄金の髪と金色の瞳、パーシアン王族は透き通るプラチナブロンドだ。
太陽神とそこから派生した女神だから、色が似てるんだろうな。
王国側の教会は、女神の存在を絶対に認めないだろうけど。
もっと離れた国だと、赤とか青とか緑とか色んな色がいるらしいですぜ。
そういうのを聞くと、やっぱりファンタジー世界なんだと思い知るな。
そして、黒色を付与する神はいない。
正確には、人間や亜人に黒色を付与する神はいない。
だが、魔物の上位種にだけ、黒目や黒髪の存在が認められている。
つまり、力のある魔物だけに加護を付与する、おぞましいナニカによる色でもあるのだ。
そんな色の瞳と髪を持っていたら、そりゃあ無神論者か魔女だと言われますよ。
あっ、自分は無神論者で、それって大した事なくねって思ってる人いる?
それは日本の宗教観が特殊であって、一神教の地域での無神論者は全く違うんよ。
◆一般的な日本人が考える、無神論者の認識
神はいると思えばどこにでもいるし、いないと思えばいない。
私は神はいないと思っているけど、君が信仰する宗教や神を否定はしないよ。
◆欧米とか一神教地域での、無神論者の認識
キリ○ト像や神父に中指を立てながら「神とかいるわけねえだろ、馬鹿じゃねえの?」
これ位認識が違う。やべぇよ……やべぇよ……。
千年以上、異端者や異教徒と殺しあってきた連中だ。心構えが違う。
良い子の皆は、外国に居る時や日本文化に詳しくない外国人の前で、不用意に自分は無神論者だとカミングアウトするのは……やめようね!
要らんトラブルを招きますぜ。無難にブッディストかシントーと言っておこう。
そして、オレの世界は一神教の国々で構成され、しかも人の命が高級羽毛並に軽い。
オレの瞳と髪の色は、相手の信仰している神を冒涜していると認識されてしまう。
又は、魔物が信仰するナニカを崇める邪教徒だと思われてしまう。
なお、ハゲは神に対する冒涜でも、加護なしでも何でもない模様。
遺伝とか生活習慣・環境によるものだからね、仕方ないね。
じゃあ、髪や眉を剃れば良いって?
女の身で髪や眉を剃っている時点で、もう目立ちすぎるし訳アリと自白してるゾ。
後は……剃るのは個人的にオレが嫌で、出来ればやりたくない。
母さんが好きだった髪だしね……色は変わっちゃったけど。
だから、隠して生活出来る拠点と、先入観に囚われない理解者が必要なのだ。
その為に、オレは全身全霊をもってビデオカメラと化し、価値を認めて貰うのだ。
まぁ……オレが見た内容自体に価値が無かったら、そこまでなんだけどさ。
それでも、最大限協力している姿勢と、有用性を少しでも認めて貰えるように全力だ。
「休憩がてら、別の話をしよう。そなたは、村を滅ぼした奴等に復讐したいかね?」
「村を襲った奴等の玉と竿を少しずつ削ぎ落とし、どれ位で死ぬか見てみたいですね。
実行犯ではない人達、彼等の家族や王国正規兵への復讐は望みません」
「そ、そうか……」
ニッコリ笑いながら話すと、鎖帷子野郎と小太り神父が青い顔して股間を抑えていた。
ヘイヘイヘイ~、ビビッてんのかオェーイ。
少しずつ削ぎ落とすのは、ドネルケバブを想像してくれ。
何回目に死ぬかなぁ~~~?
「そなたは天涯孤独の身となった訳だが、今後の身の振り方は決まっているか?」
きた! 少なくとも、オレの要望を聞くだけは聞いてくれるようだ。
あと、まだ母さんが死んだとは限らないんですけど……。
生きていたとしても、オレじゃ助ける事が出来ないから実質同じかも知れないが。
交渉では最初に吹っ掛けて、そこから調整して上々の結果で妥結するのが常道だが、
今のオレは何ら交渉材料を持っていない。
だから、もうノーガードでささやかな(?)お願いをするしかない。
「1年で構いませんので、この教会にシスター見習いとして置いて欲しいです。
そして、出来れば冒険者ギルドに渡りをつけて欲しいです」
「ほう、その心は?」
「信仰と理解ある拠点、そして将来の自立への布石です。この髪と瞳の色はどうあれ、
あたしは信仰を失った訳ではありません。そして、教会で一生を過ごす気もありません」
今のオレの身からすると、教会所属は最高の身分保障だ。
修道服で怪しまれる事なく髪を隠せて、同じ信仰であると相手に認識させる事が出来る。
後はオレの日々の行動で、敬虔且つ人畜無害であると示すしかない。
仮に黒髪がバレたとしても、ギリギリ飲み込んでくれる位の関係を築くのだ。
例えば、仲の良い友達や家族がカルト宗教かギャンブルにハマったとしよう。
でも、宗教勧誘や金の無心は一切しないし、自分への態度や行動は今までと全く変わらない。
身を持ち崩している様子も特にない。
これだったら、やんわりと忠告してあげるか、ギリギリ静観できるだろう。
最低でも、このレベルの関係を目指したい。
黒目を隠すのは……無理! この世界にカラーコンタクトなんてない。
出来る限り視線を合わせない様にして、暗い茶色系と誤認させるのが精々だろう。
眉は……幸いにも薄く細いので、そのままでも大丈夫かな。
定番のフードやただの布で顔や頭を隠すのは、論外だ。
アレって超目立つし、自分は怪しい奴ですって全力で自白しているのと変わらない。
コンビニにフルフェイスヘルメット装備して入店するレベルだ。
まともな村や町なら、自警団や衛兵に職質や任意同行(任意とは言っていない)されるだろう。
「それを叶えるには、少々足らんな。いずれ我々の手助けを約束して貰うが、宜しいか?」
「……身に余る光栄です。微力を尽くさせて頂きます」
「ならばよし!」
是非もなし。やっぱこうなるよね。
貴族や商人が、無闇に優しいだけの存在である筈がない。
タダより高いものはないのだ。
彼女の言う手助けとは、当たり前だがオレ個人の力をあてにしている訳ではない。
世論を強硬策に導く為の、プロパガンダの広告塔にするつもりだろう。
それは、広告塔の存在がアワレであればある程、効果が高い。
王国軍の襲撃の唯一の生存者。
家族を殺され、故郷を破壊され、天涯孤独の身となった少女。
本人は見目麗しく、今回の襲撃が原因で神の加護まで失っているとくれば、役満だ。
加護を失った理由は、各人が面白おかしく脳内補完するだろう。
神の加護を失っても尚、神に仕える姿は涙を誘うだろう。
そしてそれは、正義感の強い人達を死地へ
オレは自分の命を救うために、他者の命を差し出す悪魔の契約を交わしたのだ。