原作完結前の中二病真っ只中(10年以上前)に書いていた夢小説の設定を元にしてます。
1 下忍の日常
火の国木ノ葉隠れの里。よく晴れた日の午後。
火影邸の裏手に位置する
子供──水戸門アオイは正規部隊に所属する下忍の少女だ。名前通りの青い癖毛が特徴で、本人はそれを嫌ってフード付きの上着ばかり着ている。
屋根から屋根へ飛び移る様子は身軽ながらも落ち着きがなく、何やら相当焦っていた。
──
アオイが
出張帰りのアオイがその存在を思い出したのは任務完了報告の時だ。
いつもなら穏やかに出迎えてくれる里長が、今日は珍しく任務受付を留守にしていた。
あれ、と違和感を抱いた瞬間、ゾッと嫌な汗が浮かんだ。
後輩の一人にはアオイの幼馴染もいて、前々から、卒業出来たらお祝いをしようと約束していたのだ。
(忘れてた、なんて言ったら絶対拗ねる……!)
とっくに試験は終わっていて、待ち惚けを食わせているかもしれない。
「──はい、それじゃ報告完了。これから一時間は自由行動ね」
「すみません、ちょっと忍者学校の方行ってきます!」
「ではまた後で」
「気ィ付けてなー!」
一息つく間もなく飛び出して行った背中に、同班のチームメイトは何だか珍しいなと顔を見合わせる。真面目に話を聞いているようで、退出するタイミングを見計らっていたとは知らない。
黙って見送った担当上忍はさらに言葉を続けた。
「次は三班との演習だから、そのつもりで用意をしてくるように。以上」
いつもならこれで解散となるところだが、それでも下忍二人は動かない。次の言葉はまだかと、上忍を見つめる。
「先生?」
「……遅くなるならこっちで回収する」
「よっしゃ」
言質が取れた二人はいそいそと退出していき、一部始終を見守っていた受付係は愉快そうに笑う。
上忍は肩を竦めて見せるも涼しい顔だ。その手にはいつの間にか書類の束を持っていた。
「私も失礼しますね」
「ええ。いつもありがとうございます」
こんな日ぐらいはゆっくりしたいものだが、寄越してきた相手が不在となれば何も言うまい。
(今日中に終わればいいけど)
本日の業務はまだまだこれからであった。
──
アオイが忍者学校までたどり着いた時、既に校舎前は新しい額当てを装着した生徒とその保護者で賑わっていた。
正規の下忍には場違いな雰囲気に、どうにも居心地が悪い。遠目から目当ての幼馴染──うずまきナルトを探すがどこにも見当たらなかった。
何か知っているだろうかと、人混みの中並んで佇む男性二人に歩み寄る。
「こんにちは。三代目、イルカ先生」
「おお、戻っておったか」
「任務上がりだな? お疲れ様!」
里長の三代目火影こと猿飛ヒルゼンと、若い男性教師であるうみのイルカだ。
人好きのする顔で笑いかけるイルカに、アオイも笑みを返す。
「お疲れ様です。あの、ナルトを見ませんでしたか?」
ナルトの名前が出た途端、二人の顔がさっと曇る。どう考えてもそこに良い意味は無かった。
「ナルトなら、もう帰ったようじゃな」
「あー……試験は分身の術だった、んだが……」
イルカは途中で言い淀んだが、おおよそ言いたい事は察した。
「……もう少し探してみますね。お邪魔しました、失礼します」
──
ナルトの家まで様子を見に来たが、チャイムやノック、ドア越しの呼び掛けにも応答は無かった。
物音どころか気配もない。居留守というわけでもなさそうだ。
「どこほっつき歩いてるんだろ」
正直ホッとした。
落ち込んでいるナルトに掛ける言葉を、アオイはまだ用意出来ていない。下手をすると余計なことまで言ってしまいそうだった。
(またガミガミ鬱陶しいって言われるよ)
本人がいない以上、今は出来ることがない。
このまま待っている訳にもいかないし、どうやって時間を潰そうか。
「そうだ、買い物」
何が足りなかったか思い出しつつ、財布を取り出して中身を確かめた。資金は問題ないのでそのまま商店街へ向かう。
ついでに気分転換できたら、と軽い気持ちだった。
──
(買いすぎた……!)
左右の腕と、背中に掛かる重みにげんなりする。
要るものをあれもこれもと、手に取っていたらこれだ。任務上がりなのだから、一度荷物を置いてからくるべきだった。
買ってしまったのだから仕方ない。そう自分に言い聞かせ、なんとか自宅方面へ足を向けた。
その時。
「アオイ? どうしたの、その荷物!」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには同期の二人がいた。
ぱっちりした目とお団子ヘアが可愛い少女がテンテン、長髪と独特の白い眼を持つ少年は日向ネジだ。
揃って呆れた顔をしている。
「準備じゃないな、それ。お前今何やってる?」
「自分の買い物だけど……準備?」
「聞いてないの? この後班対抗で演習なんだけど……」
演習。言われてはっとした。
「……聞いてました」
任務前にも任務先から発つ前にも、担当上忍から告知されていた。だから体力を温存しておけ、と。受付の顔ぶれを見るまでは確かに意識していたのに。
「忘れていたのか?」
ネジのまさか、という視線に何も言えず黙って頷くしかなかった。ここまでくると言い訳すら思いつかない。
ナルトへの心配は一旦保留にするしかないだろう。このままではチームメイトにも迷惑を掛けてしまう。
「これ置いてくるよ。ごめん、先行ってて」
「待って。片方持つわ」
「でも──」
「こっちはガイ先生とリー待ちだから丁度良いのよ」
テンテンが示す方向に意識を向けると、確かに二人の熱い掛け声が聞こえてくるような気がする。
「ほら、もう半分はネジね」
「え?」
そちらに気を取られていたら、袋を左右二つとも回収されていた。
「何でオレが」
「テンテン、本当に良いから……!」
「じゃあネジは先に演習場行ってれば?
「……」
険しい表情で押し黙ったネジは、テンテンが差し出す袋を渋々受け取った。こちらに向ける視線が「さっさと案内しろ」と雄弁に語っている。
アオイのチームメイトと待機時間を過ごす方が余程嫌らしい。
「さ、行きましょ」
「……よろしくお願いします」
にっこりと、しかし有無を言わせない圧に負けた。荷物を背負い直し促されるままに歩き出す。
……これでよかったのだろうか?
「結構重たいけど、何買ったの? 非常食?」
「ううん、いつもの買い置き。少なくなってたから補充しようと思って」
自炊の習慣がないので、缶詰やレトルト食品に頼りきりだ。ささやかな意地で買った米二キロ分は背中のリュックに詰まっている。
「普段がこれか。道理で貧相な訳だ」
「そこはスレンダーって言いなさい!」
「いいよ、事実だし」
これでも昔よりマシになった方なのだ。しかしそれを言ったら間違いなく藪蛇なので、黙っておく。
「そんなことより、三班の話聞かせてよ」
あからさまに話を逸らされたことは指摘せず、聞いてよ、とテンテンは愚痴るように話し始める。それでも声音は優しかった。
道中は最近受けた任務を中心とした近況報告で盛り上がった。主に話すのはテンテンとアオイであったが、たまにネジの補足や訂正も入る。
階段を上がった集合住宅の二階。荷物を玄関先に置いて、ほっと一息吐いた。要冷蔵の物は買っていないので、急いで片付ける必要はない。
「手伝わせてごめんね、よかったらお菓子でも……」
「いーの! 好きでやってる事なんだから」
「でも」
「いつまでそうしている気だ?」
「……すぐ用意してくるね」
こうもばっさり切られると、それ以上続けることは出来なかった。テンテンから「またあとで」と目配せが飛んできたので頷きを返す。
「演習まで引きずるなよ。さっさと切り替えろ」
最低限装備を整えてきたアオイに、ネジが念を押した。普段からネジは素っ気ないが、こういう時は有難いのかもしれない。
「いい加減鬱陶しい」
「ハイ」
別にそんなことはなかった。
──
「来た来た。アオイ、テンテン!」
「お二人も一緒だったんですね」
演習場の入り口に見えたのは、アオイのチームメイトである日向ヒノメと
前髪がぱっつんでポニーテールの少女がヒノメ。一つ結びを左手側に垂らし、マスクを着用した少年がマシロである。
ヒノメの方がやんちゃな口調で、対してマシロの方はゆるい敬語だった。
「……お前の目は飾りか節穴か?」
悪気があるのかないのか、ヒノメの態度はネジの癇に障ったらしい。一方ヒノメの方もネジの発言はスルーできなかった。
「なんだよ、お前より視野は広いぞ」
「寝言は寝て言え」
「あ?」
どちらも折れる気はないようだ。一触即発の空気が流れる。
「もー! 出会い頭に喧嘩売るの止めなさいったら!」
「まともに相手しなくてもいいでしょう?」
テンテンがヒノメを、マシロがネジをそれぞれ抑える。
同じ日向という姓から分かる通りネジとヒノメは親戚だ。
そしてマシロはその日向一族の
「頭が弱いと言葉も分からないか?」
「はー? お前が朴念仁なだけだろーが!」
「まだ言うの!?」
しかし色々と相性の悪いネジとヒノメは犬猿の仲でいがみ合いが多く、ツッコミ役のテンテンと冷静なマシロが仲裁に入るのが恒例のパターンとなっている。
それでもダメな場合、リーが物理的に引き離すことで落ち着かせようとし、アオイがもう片方を宥めるまでがお約束であった。
しかし今日に限っては様子が違った。
「二人って本当は仲良いよね?」
呑気なアオイの発言に、一瞬場が凍った。
「おや鋭い」
「マシロふざけんなよ!」
「どう見たらそうなる!」
睨み合いを続けていた二人がさっと距離を取る。テンテンとマシロからは鳥肌が立っている様子がよく見えた。
「天然って怖いわー」
「まあ結果オーライですかね」
また呆れられてしまった。マシロだけは愉快そうにしている。取り敢えず剣呑な雰囲気は無くなったのでそれで良しとしたい。
暫く自分の腕を擦っていたヒノメだったが、ふと何か思い付いたように手招きでアオイを呼んだ。
何の気なしにアオイが寄れば、ヒノメは傍らのテンテンも巻き込んで二人に抱き付いてきた。
「そうそう、これがやりたかったんだ。両手に花!」
ご機嫌な様子で頬を寄せる様子は、つい先程までネジ相手にガンを飛ばしていたのと同一人物とは思えないほど愛らしい。
「これだと全部花なんじゃ……」
「私が花はちょっと……」
「何言ってんの、可愛い子はもれなく花さ」
ヒノメがキメ顔で言ってのけたが、腰に回された手の動きが怪しい。
「セクハラやめい!」
「ごめんて!」
テンテンから即座に脳天チョップの制裁を食らうも、ヒノメは心底楽しそうにけらけら笑っている。その様子にアオイも釣られて笑ってしまった。
「ヒノメがやると様になりますね。一応女性なのに」
「中身は男だろ」
冷めた目で男二人に扱き下ろされようが、ヒノメはまるで気にしていない。むしろ笑みを深めたように見えた。
不意にヒノメがアオイの方を向く。
「アオイはどっちが良い?」
「どっち?」
まるで食べ物の好みを聞くような口振りだが、単純な二択を問われたような気はしなかった。
ヒノメを見つめ返すとしっかり目があう。
「こら、からかわないの」
「オレはいつでも
「どの口が」
テンテンに小突かれ、ネジに睨まれ、ヒノメはつまらなそうに口を尖らせた。
「一緒ですよ。どうせモテないんだから」
マシロは既に興味もなさそうだ。気安い仲とはいえ扱いがぞんざい過ぎてはいないか。
「オレの魅力が分からん奴なんて願い下げだわ。な、アオイ?」
「うん?」
「……まあこれからだよな」
小さい呟きが聞こえたが、アオイにはなんのことかよく分からなかった。
そうこうしていると、約束の時間になっていたらしい。
──ウオオオ!!
地響きのような音と雄叫びがしたかと思えば、三班の担当上忍であるマイト・ガイとその教え子のロック・リーがこちらへ全力疾走して来るのが見えた。
濃い眉毛におかっぱ、その上全身を緑色のスーツに包み、オレンジ色の脚絆まで揃えている。本当に他人なのかと思いたくなる程よく似た二人だ。
既に見慣れたとはいえ、猛スピードで向かってくる様子は中々迫力がある。
「「ゴォーッル!!」」
「お待たせ」
師弟の到着に気を取られていると、すぐ後ろから女性の声が聞こえた。
驚いて振り返ると、いつからそこにいたのか、アオイ達四班の担当上忍であるむつらスバルが紙袋を片手にこちらを見下ろしていた。
銀髪碧眼、並んだピアスに強気なメイク……こちらもこちらで凄みがある。
「ビックリした」
「スミマセン! 遅くなりました!」
「ホントよ全く!」
「すまんな!」
「その袋何?」
駆け寄ってきたリーを交えて六人が横一列に並び、上忍達を見据える。
「演習用の小道具よ……ほら」
言いながら、スバルは持っていた紙袋を広げてガイの前に差し出した。中を覗いたガイが首を捻る。一体何が入っているのだろう。
「ん? どこだ?」
「手前の方」
「お、これか!」
がさごそという音と共に袋の中からガイが目当ての物を取り出す。そして下忍達に向き直りニッと笑いかけた。
「よォーし! では早速、演習を始めるとするか!」
そう言って突き出されたガイの拳と、合わせて聞こえる微かな音。
手には紐に繋がれたスズが二つ。
「今回のターゲットはこいつだァ!」
※2023/11/10に加筆修正
アオイのキャラはアニメ版の主題歌から思い付いたものです。
オリ主は一応アオイですが、小説タイトルの転生者はヒノメ。