NARUTO世界に転生したけど何か違う   作:野摸

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戦闘回。シーン転換多めになります。


11 瘴霧に燼灰・中編

 

「馬鹿ねェ、強がっちゃって。お陰で珍しい手土産が出来そう。アナタ達の先生にお礼が言えなくて残念だわ」

 

 樹上からこちらを見下ろし、くノ一の分身は余裕たっぷりに笑う。本体のような焦りは見当たらない。

 

 ソレらは端から自分達を潰すため、そこにいた。

 

「まーた皮算用か?」

「水分身の派生なら本体には劣る筈……ハッタリでしょう」

 

 ご丁寧に三体分、下忍一人に一体で事足りると言いたげな侮りの言葉。そしてついまともに受け答えしてしまうこちらの二人。

 

 ヒノメもマシロも、そういうポーズだと分かっている。だが、露骨に注目されてしまえば警戒に身を固めてしまうのも無理はない。

 

 それでは相手の狙い通りだ。

 

「あんなの、さっき言えなかった捨て台詞の代わりだよ」

 

 アオイがきっぱりと断言する。

 

 こういう手合を怒らせる方法は知っていた。そしてその後に取る選択も、分かりきっている。

 

 自分に注目が集まるのを感じながら、地面を蹴ってアオイが一人前方へと躍り出た。そのまま、冷ややかな目で分身達を見上げる。

 

 普段では考えられない大胆さにマシロが息を呑み、ヒノメはアオイの真意を見定めようとその背を凝視する。アオイは僅かな手振りで分身を煽ったかと思えば、更に駄目押しと、口を開いた。

 

「二人に気を取られてたら、私を見失うかもしれないよ?」

 

 挑発には十二分、標的は定まった。

 

 分身が背中の忍刀の鯉口を切り、対応するようにアオイは胸の前で両手の指を交差させる。膨らむ心拍を抑えつけ、小さく笑った。

 

 長く焦らされた分、ここらで鼻を明かしてやろう。

 

(今度こそ──)

 

「……そんなに死にたいなら、アンタから殺してあげるわよ……!」

 

 下忍の胸の内など知る由もない。分身達がたちまち散開し、間髪入れず溶解液が宙を舞う。

 

 狙うは、一人。

 

 身の程知らずを切り裂かんと、凶刃が翻った。

 

 

 ───

 

 

 林を駆ける影が、脇目も振らず突き進んでいく。

 

「……早く、早くッ! ……」

 

 うわ言のような声に乱れた呼吸が混じり始める。

 

 木々の隙間からは、霧に覆われたシルエットが覗いていた。霧の発生源は橋の上だ。再不斬がその中心で戦っていることは分かる。しかし、優勢か劣勢か……状況は、何も掴めない。

 

 遠い。いつもなら何も感じない距離が。こんな時に限って、嫌な想像ばかりが胸を締め上げる。

 

 任務を言い渡された時は、またとないチャンスだと思っていた。だが今は彼らと自分を隔てる立場の違いが、煩わしく、たまらなくもどかしい。

 

(まだ、まだ霧は残ってる……二人は生きてる!)

 

 ──バキッ! 

 

 跳躍のために蹴り付けた枝が音を立て抉れた。焦りのあまり、くノ一はすでに気配を殺すことも出来なくなっている。

 

 お願い、どうか間に合って。彼らの──私の希望を、奪わないで。

 

 その思いが誰に向けた嘆願だったかも分からない。

 

 あるいは……そうやって願いにしがみつくこと自体が、目的にすり替わっていたのかもしれない。

 

「……!」

 

 進む先に場違いな人影が浮かぶ。例え霧でぼやけていようと、もうその姿は脳裏に焼き付いてしまっていた。

 

 これで一体、何度目だ? 

 

(お前は……お前さえ、いなければ……!)

 

 私だって──

 

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 アア 忌々シイ……! 

 

 

 

 

 ───

 

 

「!?」

 

 殺意を込めた一太刀が空を切り、下忍の残像が僅かな隙間を抜けていく。

 

 くノ一は久しく忘れていた。力で圧倒するだけでない戦術における機転を。弱者の足掻きにも時には意味があることを。

 

 襲われる側も襲う側も、肝心なその瞬間にこそ隙はできるもの。

 

 喉元に迫る刃も、浴びせかけられる溶解液も、下忍は印を結ぶ振りをしながらチャクラを練り、避ける算段をつけていた。そして何より……

 

(このガキ、私の動きを完全に捉えて……!)

 

 下忍の目は確実に攻撃の軌道を読んで、動きを決めていた。

 

 半ば呆然と分身は目立つ青色を辿る。ちょうど、ソイツもこちらを見下ろしていた。

 

「これで、()対三だね」

 

 視線の先。逃げおおせた下忍……アオイが()()、それぞれ敵と仲間双方に注意を向けている。悠々と影分身を作り出し、戦況を俯瞰している。

 

 さっきまで追っていたはずの獲物が、二つ。どちらが本体か、もう判別できない。

 

 自分が、翻弄された? 

 

(こんな、こんな下忍が……!)

 

 本体から切り離された使い捨ての存在にその気付きを残す手段はない。気に留める者もいない。

 

 得るものもなく削れるだけの戦いに身を投じる。それが、分身に与えられた役割だった。

 

 

 ───

 

 

「止まりなさい」

「……どれだけ私の邪魔をすれば気が済むわけ?」

 

 獣の唸りじみた声に、今にも爆発しそうな激情と積み重なった鬱屈とがじくじくと漏れだしていた。

 

「そんなつもりはない」

 

 首を振り、スバルは続ける。自分の部下を残してきたことも何ら気にしていないようだった。

 

「このまま再不斬達に合流するのは無謀だわ。今割って入っても、彼らはあなたを仲間だとは──」

「そんな事分かってるわよ!!」

 

 悲痛な響きだった。

 

「いいから、さっさと退け! じゃなきゃ辺り一帯ぐちゃぐちゃになるわよ、それでもいいのッ?!」

 

 焦燥に呼吸が乱れ、その声音は不安定に揺れている。口にしているのは恫喝の言葉であるのに、その姿はあまりに哀しく痛々しい。

 

「落ち着いて話を聞いて。()()()()()くれれば悪いようにはしない。だから──!」

 

 振り抜いた一閃は確かに間合いを詰めた筈だった。なのに、届かない。

 

 

 ──ザプン! 

 

 

 ぐわん、と世界が揺れる。

 

 支えを失った浮遊感に、ヒヤリと纏わりつく液体の感触、遅れてやってくる磯の匂い。

 

「ッ、!」

 

 くノ一は咄嗟に足裏へチャクラを纏わせ、崩れきる前に何とか体勢を立て直す。状況を頭で理解するより先に、体は嫌でもその場に適応していった。

 

 開けた視界に映るのは途方もない水面……見渡す限りの大海原だ。

 

(幻術? 違う、これは……)

 

 潮風と波に揺られる感覚が、音が、滴る雫が。濡れた布が肌に張り付く不快な重みが……全て、どこまでも本物だ。

 

「ここなら影響は少ない」

 

 あの女の声が、耳に届く。

 

 くノ一がバッと後ろを振り返れば、憎たらしい姿が変わらずそこにあった。

 

 装束に濡れた様子はなく、それが当然だと言うような余裕のある佇まい。そして女……スバルは、背に隠すようにあの橋とくノ一との間に立ち塞がっている。

 

 島の海岸線は遠く、近くにまともな足場は存在しない。

 

 ほんの瞬きの間に、身一つで沖合いへ放り出されていた。いっそ幻術であってほしい異常事態に肝が冷える。

 

(こんな、インチキみたいな話があっていいわけ……

 

 ──まさか、いや、そんなはず……)

 

 かつて耳にした異名の、その由来と脅威、年長者達からの畏れられ方を思い出す。一度可能性が浮かんでしまえば、もう頭から追い出すことはできなかった。

 

 何か、何でも良い、否定する材料を……

 

「これで条件は五分かしら」

「ッ、虚仮にして……!」

「違う。あなたを脅威と思えばこそよ」

「足場が揃えば脅威じゃないとでも!?」

 

 理不尽な瞬間移動にはぐらかされ、忘れていた。そうだ、こいつを排除しなくては。でないと──

 

「あなたは今感情に流され自分を見失っている。このままだと、何をしようがまともな結果にはならないわ」

「ッ、……!」

 

 反論したいのに言葉が出ず、胸が詰まった。

 

 お前に何が分かる? 私の、何を知っている? 

 

(私は……私は、ただ……)

 

 開きかけた口からは空気だけが漏れていく。

 

「……」

 

 また、伽藍堂な眼差しに覗かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──プツンッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう黙れ。ここで死ね

 

 目障りな廃品(スクラップ)は跡形もなく処理するに限る。

 

 そう思い至れば、張り詰めていたものが途端に弛んでいくのを感じた。最初からこうすればよかった。

 

 印を組みながら、全身でチャクラを練りながら……ぎらつく瞳が、スバル一人を見据えている。

 

「……そう」

 

 もはや言葉に意味はない。

 

 全てを焼き払い、飲み込まんとする奔流だけがそこにあった。

 

 

 ───

 

 

 せっかく数を揃えたのだ、陽動と本命に分かれるのは定石。それが効率。

 

 ……そんなことくらい。

 

「ッ、見えてんだよ!」

 

 振り向き様にヒノメ渾身の空掌が炸裂する。不意を狙った分身の一体が脆くも砕け、酸の飛沫が放射状に散らばった。

 

 ジュッと音を立て、鼻腔すら焼けそうな刺激臭が辺りに立ち込める。今だけでもマシロのマスクを借りたいほどの酷い空気だ。

 

(もう吐きそう……)

 

 さっき払い落とされたクナイが一瞬で使い物にならなくなっている。スバルの忠告通り、いやそれ以上にどぎつい状況であった。

 

 僅かでも酸に触れようものなら痛みに身がすくんでしまうだろう。まさにその瞬間を狙われ、今も足場はジュウジュウ音をたて形が崩れていく。

 

 こんな戦い、長引かせてたまるか。

 

「超短期決戦しかねェ──アオイ! そのまま押し込めるか!?」

 

 答えようとするアオイは、油断の消えたくノ一の分身に阻まれ返事をする暇も貰えない。いつの間にか二人になったアオイのどちらが本体なのか、ヒノメでは判別が付かなかった。

 

「相手の動きには対応出来てる! でも決定打がない、トドメは僕らで打たないと……!」

 

 隣のマシロが双方の分身入り乱れるその光景に見当をつける。こうしている間も酸がばら蒔かれ、状況は悪化する一方だ。

 

(!)

 

 僅かな間を縫って、アオイの目が何かを訴えるようにこちらを向いた。よく見れば敵の残り二体のうち一体が、アオイとの交戦から距離を取り始めている。

 

 独特な印に、チャクラの収束。

 

 次に起きることは、ヒノメは()()()()()()()()()

 

(あの動き、は──)

 

 

 

 

スバルを襲った、理不尽の極み

 

 

 

 

身を隠せッ! ──あいつ、自爆する気だァ!!

「「!?」」

 

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 これは、いけない

 

 

 

 

 ───

 

 

 酸の霧と泡立つ波が戦場を彩る。

 

 ──! ドォン! 

 

 爆音が幾重にも重なり、大きな水柱があちこちから上がった。

 

 まだだ、こんなものではまだ足りない。

 

 血霧の忍に水上戦を仕掛けるなど、愚の骨頂。愚か者には、命を以てその判断の対価を払わせてやる。

 

「フフ♡ そこと……ああ、反対ね」

 

 最高酸度の沸遁の霧と、暗器に乗せた特製の起爆札は、着実にあの女の行動範囲を暴き始めている。移動術に仕込みが必要なこと、その範囲、数──もうネタは粗方割れていた。

 

「何が『条件は五分』、よ……舐めた口利いてくれちゃって……」

 

 まるで単なる事実を述べているかのような、あの胸糞悪い口振りを思い出す。暗器を投げる腕に自然と力が入ってしまった。

 

(──ほら飛んだ。もう、痛いならもっと顔に出しなさいよね)

 

 まあ、それでも許す訳は無いのだが。

 

 これだけ追い立てられようが、あの女は至近距離の溶遁を警戒してか一向にこちらへ向かってくることはなかった。隠密系はこれだから。

 

 飛んで、跳ねて。煩わしい。

 

「……あら?」

 

 爆発は読めていたであろうに、女の身が水面を転がり、いよいよその装束が海水を浴びた。一回、二回……もう、移動できる先はごく限られている。

 

(程度が知れるわ)

 

 そろそろこの単調な光景にも飽きてきたところだ。いい加減、あの女の苦痛に歪んだ面と、海の藻屑へ変わる瞬間を拝みたい。

 

「……フフッ」

 

 血霧であっても使用を憚られたこの術をくれてやる。場を塗り替える取って置きだ。

 

(焼け崩れて、溺れなさい……!)

 

 

 全部、全部。壊れて……なくなれ。

 

 

 

 

 ── 秘術・坩堝(かんか)(うず) !! 

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 

(大詰めね)

 

 相手が発生させた大渦が、マーキングを施した浮きを丸呑みにしていく。腐食性の高い酸性を帯びたチャクラが物理的に術式を破壊し、逃げ道を着実に絶っていった。

 

 一つ、二つ……反応が消える。代わりに辺りへ広がるのは殺意の塊のような毒の海。

 

 人一人殺すにはあまりに無差別だった。

 

(チャクラだって残り僅かでしょうに)

 

 今日に至るまでの疲労。島中に張り巡らした探知用の網。強酸の分身に、怒涛の攻勢から繰り出される広範囲を対象にした大技。

 

 どれも威力・精度は確かなものだ。しかし、それが彼女の目的意識を大きく狂わせてもいる。

 

 マーキングが完全に潰えた。彼女が再び酸の霧を放ち、すかさず別の印を結び出す。

 

 練り上がるのは高濃度の火遁チャクラだ。

 

(拡散系の印……誘爆狙いか)

 

 この場はもはや強酸の海。足元に纏わせるチャクラすら侵食される中、咄嗟に展開した水遁が制御しきれる保証はない。

 

(ならば)

 

 ──火遁・灰積焼

 

 黒い灰が酸の霧に混じっていく。

 

 着火には至らない。この一瞬、煙幕になれば十分だ。こちらも相手に対応すべく次の印を組み上げる。

 

 止まらないのなら、迎え撃つまで。

 

 

 

 煙霧越しにあの眼差しがちらつく。

 

 

 

 ───

 

 

 

 ──火遁・硝風(しょうふう)焔霞(えんか)!! 

 

 ──火遁・火龍炎弾

 

 

 

 爆ぜる空気が混じり合い──光と灼熱が、海面を迸った。

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 黒い背中が飛び出していく。

 

 "見つけた"

 

 分身が確かにそう言った。

 

 最後の印で術が完成し、チャクラが沸いた。咄嗟に幹へ背を預けた、その瞬間──

 

 ──ドンッ! ……

 

 大きな、しかしくぐもった重低音が響く。

 

 恐れていた飛沫や爆風は届かなかった。

 

「!」

 

 爆心地に人の姿はない。代わりに、人が容易く収まるほどの錆びた箱と、ただ地面に広がっていく液だまりだけがあった。

 

(あれは、積み荷の……!)

 

 唐突に現れた、ガトーカンパニーの貨物船でさんざん目にした鉄の箱。そしてまた煙に消える。

 

 ……爆発を……変化で防いだ? 

 

「やっるゥ!!」

 

 ヒノメが思わず歓声を上げる。

 

 喜びも束の間。

 

 ──水遁・水乱波! 

 

 マシロが、最後の分身を狙い鋭い角度で術を放った。だが相手もそう簡単には当たってくれない。

 

「しまった、本体が……!」

 

 もはや戦闘の体すら無い。あれでは一方的な狩りだ。

 

 相手最後の分身は、完全にアオイだけを狙いその殺意を走らせている。獲物を探す横顔が獣のそれにしか見えなかった。

 

「ヒノメ、誘導をお願いします」

「! やる気か?」

 

 視線が交わる。もう後は無かった。一か八か、今は賭けるしかない。

 

「ッしゃーねェな!」

 

 ヒノメが地を蹴り付けた。地べたを覆う酸を避けながら、勢いのままに木の幹を駆け登る。

 

アオイ! こっちだ!

 

 位置が分かるよう、がむしゃらに叫ぶ。呼応するように酸から逃げるためだったアオイの足運びが変わる。

 

 紫の目が、真っ直ぐヒノメだけを見据えた。

 

 

 ───

 

 

 がら空きなアオイの背に、追いすがる分身はすかさず酸の液弾を構える。

 

「走れ!」

 

 警告が飛ぶ。液弾はアオイを掠めることなく通り過ぎ、そのまま着弾した地を抉り溶かした。

 

 急な加速で狙いが狂った! 

 

「ッ、ちょこまかと……!」

 

 速い。だが動きそのものは単調だ。もう足場もない今、下忍達が酸から逃れるには樹上を渡るしかない。

 

(撃ち落としてやる)

 

 後を追う分身が再び酸を構えた時、狙いに割り込むように水球が向かってくる。あの黒髪、見え透いた挑発を……

 

「アイツらの後でお前も殺してあげるわ!」

 

 挑発の裏、その二人が今にも合流しようとしていた。

 

(今度こそ)

 

 獲物の動きすら予測した連弾。もう逃げ場は無い! 

 

「──跳べッ!」

「ッ、……!」

 

 腕を広げるヒノメの胸に、アオイが迷いなく飛び込んでいく。

 

 一発目は木に弾け、幹を焼いた。

 

 だが二発目は……

 

 

  ──八卦空掌! 

 

 

  ──雷遁・感激波! 

 

 

 バチと、視界が白く弾け……

 

(ッ!? ──)

 

 

 それ以上、思考は続かなかった。

 

 

 ───

 

 

 ──バシャッ! 

 

 分身が崩れ、溶解液が無造作に跳ねて広がっていく。

 

「……」

 

 マシロは地面から手を離し、焼けた掌をそっとしまう。

 

 腕のウォーマーは当然お陀仏と化した。何故だか治癒も捗らない。

 

 ……まあいい。この程度で済んだとも言える。

 

 じわじわと地面を焼くその匂いがまた鼻腔を刺しても、誰も何も動かなかった。しゅうしゅうと鳴る微かな音だけが恨み言のようにその場に響く。

 

 抱き止められるまましがみついていたアオイが、沈黙するヒノメを見上げた。背に回された腕は力が籠もったまま微動だにしない。

 

「終わっ、た?」

「……ああ」

 

 一つも見落とすまいと白眼でこの場を透かそうが、酸によって焼け爛れた現場の被害を再確認するだけだ。もうどこにも、敵の気配は見当たらなかった。

 

「お怪我はありませんか?」

「オレは無い」

「私も、大丈夫」

 

 マシロが呼び掛ける声でやっと安全を実感する。二人は揃って木から離れ、慎重に着地した。少し震えていたのはどちらの足だったか。

 

「勝ったんだよな、オレ達」

「ええ……」

 

 ヒノメがおもむろにアオイの肩を押して距離を取った。くるっと後ろを向いて脱力、からの深い呼吸。

 

 そして──

 

「ィヤッタアァアアア──!! 」

 

 爆発。

 

「!?」

「あ、悪ィ。つい」

「違う、後ろ!」

「?」

 

 

 ──ゴオォ……

 

 

 振り返った先、林の向こうに火柱が昇る。

 

「……嘘だろ」

 

 遠い。なのに、はっきりと視認できた。それが発生した戦闘の苛烈さを想像してしまい、思わず身震いする。

 

「先生……」

 

 まだ戦いは続いている。

 

 そのことを、嫌でも痛感させられてしまった。

 

 

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