今回は長い上に関係性の捏造+オリキャラや原作では名前がなかった人物も出ます。そしてあとがきに四班のプロフィール置いてます。
タグの付け方や、これはどうなのといった点があればご指摘頂けると幸いですm(_ _)m
集合場所への道すがら、背後に迫る気配があったかと思えば、平手の衝撃を勢いそのまま受けてしまった。こんな雑な絡み方は一人以外あり得ない。地味に痛む背中を庇いながら、何事だとじゃじゃ馬の方を睨み付ける。
振り抜いた腕を隠しもしないヒノメは意外に真面目な面持ちだった。抗議の言葉が喉元で止まる。そんなマシロにヒノメはポツリと言った。
「これで相子な」
「は?」
「痛み分け」
何のつもりだとか、そもそも喧嘩すらしてないだろうと言う隙もない。ヒノメが視線をやった先、困惑した様子のアオイを目にすれば嫌でもその意図が分かってしまった。
「……随分無茶したみたいですね」
「負けなかったのは、二人のおかげだよ」
「僕がもっと冷静なら勝てたかもしれませんよ」
「そんなこと言ったら私だって負けてたし」
手中の鈴を見せながら、アオイは遠慮がちに笑う。努めて普段通りに振る舞おうとしている。マシロに力不足を恥じる暇は無いらしい。
「アオイ。負傷は仕方ないとしても、隠すのは無しでお願いします」
「……ごめんなさい」
すっかり切り替えた様子のマシロに、アオイも観念して正直に怪我の具合を申告する。医療忍者の顔こそマシロの本分であり、怪我人であるアオイはそんな彼にとても頭が上がらなかった。
「意識したら痛くなってきた」
「いい薬だな。後でレバーも摂らせてやる」
「うええ」
治療中のアオイが見せたじっとりした視線と、それをどこ吹く風で受け流すヒノメの様子は演習前よりもずっと気安い。マシロはそんな二人を程ほどに宥めるが、マスクの下の口元は自然と綻んでいた。
「先生どうなったんだろ」
「見た感じ変わり身使わされたっぽい」
「まあそうなりますよね」
実際は僅差でリーの鈴取りの方が先であったが、現場を眺めるだけのヒノメには判別しようがない。忍具の雨を向けられたスバルに同情するばかりである。
「……さて、戻りましょうか」
二人と同様に一仕事終えた気でいるマシロを待ち受けるのは、泥だらけのまま待たされて不機嫌度MAXなテンテンであった。彼の平穏はどうにも長続きしない。
──
報告やら所用やらで人が抜け、アオイ以外の下忍達はテンテン主導で銭湯を訪れていた。入り口前でリーの勘違いが発覚する珍事は起きたものの、概ねリラックスした時間を過ごしている。
「あ~極楽~」
「お加減はいかが?」
「うん、ちょうどいい! なんでこんなにマッサージ上手いの?」
湯船に浸かって開放的になったところ、マッサージが特技だと言ったヒノメの提案で始まった肩もみ。最初は半信半疑だったテンテンも、今ではすっかり脱力してその身を委ねている。力加減もさることながら、柔拳を用いた指使いは抜群の効き目であった。
「自分でもやってるし、最近はアオイにもやってるしな」
「へェ~」
泊まり掛けの任務が多い四班でもマッサージは評判が良く、毎度恒例となっていた。そういった地道な交流の甲斐あってか、ようやっと人見知りを拗らせているアオイの壁を崩せた気がする。想定外があった感も否めないが、前進が見られたことは喜ばしい。
「そういえばさあ」
「ん?」
「演習前にアオイ一人だったでしょ? なーんか元気無かったのよね」
言外に「何か知ってる?」と尋ねるテンテンの目に、ヒノメの手が止まる。湯に肩まで浸かり直してあー、んー、と返答に詰まる様子が何だか珍しい。浴槽の縁に手を掛けつつ、テンテンはそんなヒノメを観察していた。
「今日さ、アカデミーの方で卒業試験があったらしくて」
「ああ……もう一年だもんね」
「そこでアオイの知り合いに何かあったんじゃねーかと」
何か、なんて合否以外無いだろうにはっきりしない言い方だ。誰かも分からない後輩よりも、いつになく言葉を濁す目の前のヒノメの方が気に掛かる。
「それで落ち込んでるかもってこと? ……というか、何か詳しいわね」
ちょっとした鎌掛けのつもりだったが、ヒノメは普通に頷いた。
「オレ達も他人事じゃない」
「達?」
「日向的に」
成る程、触れにくい訳だ。ネジと関係があって自分やリーにも波及したりするのだろうか。テンテンとしてはもっと聞きたい気持ちもあったが、ヒノメはそれ以上何も言わない。落ち着き無く水面をちゃぷちゃぷ揺らして遊んでいた。
「ま、今気にしても仕方ないってことよね」
「何か悪いな」
「別に~?」
そろそろ良い頃合いだと、どちらからともなく湯から上がる。少し気だるげなヒノメの、髪を纏め上げた横顔と首から下のラインに目がいった。何がとは言わないが良好そのもの。正直総合的には負けている気さえする。
(どこをどう見たって男には見えないでしょうが……!)
隣のヒノメがサラシで胸の膨らみを潰していくのを勿体なく思いながら、自分の下着のサイズを今一度確認する。買い換えにはまだ早かった。
暖簾をくぐる前の一幕が脳裏に浮かぶ。
様々な要因が重なってヒノメを女形──つまり男だと勘違いしていたリーによる呼び止め事件(アオイがその場に居合わせていたらリーを見る目が変わっていたかもしれない)。それもタイミング悪く、そこそこ利用者の多い時間帯のことだ。
テンテンはヒノメを引きずりながら半ば勢いでその場を後にし、誤解の訂正はマシロに丸投げさせてもらった。ネジは我関せずか、意外と口を出すのかで微妙なところだ。そして肝心のヒノメは勘違いに怒るでもなく、紛らわしい言動をしていたことを謝るでもない無関心。昔の発言を鵜呑みにしていたリーに少々呆れるだけ。
うむむ、と理解できない生き物について考えるテンテンをヒノメが不思議そうに見ている。真新しいTシャツに髪を下ろした姿が新鮮で、本人には言えないが改めてネジとの血縁関係に納得した。そして思うことが一つ。
「気にしたら負けってことにする」
「はい?」
何にでも理解の及ばないことはある。話の通じない部分があっても良いじゃない、人間だもの。
どこかすっきりした表情のテンテンがささっと着替えを済ませる傍ら、今度はヒノメの方が訳が分からず困惑していたという。
──
ギリギリまで粘った中抜けが空振りに終わり、気落ちしながら戻ってきたアオイだったが、銭湯前で繰り広げられる光景には思わず呆気に取られるしかなかった。
「このままでは僕の気が済まないんです!」
「もういいって言ってんだろうが!」
誰かに状況を説明してもらいたかったが、皆どこか遠い目をして視線が合わない。別行動中に何があったというのだろう。声こそ荒げているが、喧嘩ではないことは辛うじて分かる。でもそれ以上が分からない。
「……テンテン」
「ごめん、何も聞かないで」
ケジメがどうとか、責任がどうとか穏やかじゃない。押しが強いのはリーでヒノメの方は引いている。「今日はヒノメの珍しい様子が見れるな」とアオイが場違いなことを考えていたら、不意にそのヒノメと目が合った。
「アオイ、コイツ何とかしてくれ!」
「え」
アオイが事情に疎いのを良いことに、ヒノメはさっとその無防備な背中に滑り込んだ。至って真剣に誠意を見せようとするリーと嫌がって避けるヒノメ。そしてそれに挟まれるアオイの並びだ。本当に何があった。
ネジとヒノメの喧嘩を見兼ねて仲裁に入ることはあっても、当人から仲裁を頼まれたのは初めてだ。というかこれは所謂肉盾扱いではないだろうか。
「よく分からないけど、リーはヒノメに何かしたの?」
「はい。それはもう、失礼なことを──」
「だからどうでも良いんだって、何も気にしてねェから、なあ!」
目でマシロとテンテンに確認する。疲れた様子で頷かれた。ずっとこの調子だったらしい。ネジはお前が何とかしろと言わんばかりに視線を逸らしてしまった。薄情者。
「それでリーはどうしたいの?」
「謝罪と……罪滅ぼしのためにヒノメの為に何か出来る事をしたいんですが、『何も要らない』と言われてしまって」
「だってコイツ『土下座する』とか『殴っていい』とか言うんだぜ!?」
「わあ」
随分と激しい例えだが、リーはそれだけ悪いことをしたと思っているのだろう。ただ、それを真に受けて固辞するヒノメはなんだか
(なにかあるよね)
リーが気付いていないだけで、ちゃんと詳細を問い詰めれば案外ヒノメにも非があるのではないか。そしてヒノメは口にしないだけでその自覚がしっかりあるのではないか。勝手な印象ではあるが、どうもそんな気がしてならなかった。
「じゃあさ、もういっそのこと“ずっと反省する”とかどう?」
「な、なるほど?」
「待て待て待て。無しで良いんだよ、要らん発想挟んでくんな」
アオイの提案にほとんど納得し掛けるリーだが、ヒノメがまたも強く拒絶する。しかし、アオイを間に食い込ませたのは他でもないヒノメだ。文句があるなら自分の判断ミスを恨んでほしい。そんな思いを込めてアオイは更に言葉を重ねる。
「“記憶して忘れない”ことが反省の証ということで。ヒノメが特に何かする必要は無いんだよ」
どれだけ穏やかな口調でも、ヒノメにとってそれは無慈悲な通告でしかなかった。
明るい表情で早速手帳に何か書き付けるリーと、それを止められず苦虫を噛み潰したようなヒノメはまるで対照的だ。見た目にはどっちが謝る必要があったのか本当に分からない。
『これからよろしくお願いします!』と握手を求めるリーに、表情の死んだヒノメは力なく手を差し出すのみ。お構い無しにガシッと交わされた手と手は何かを暗示しているように思えてならない。
何だこれ。
こんなものでどうでしょうと、外野を確認すれば上向きの親指が二つ。呆れが全面に出た表情が一つ。約一名の基準が厳しいだけで、大体好評の結果といえる。
「いやー、知らないって強みにもなるのね」
「単純さも美徳の内ということでしょうか」
「まるで意味が分からん」
アオイにだって分からない。本当に何だったんだ。
──
所変わって『焼肉Q』。店内はちょうど家族連れで賑わっているようだった。
ガイとスバルにより予約時間ぴったりに受付を済ませ、案内されたのは六人程が座れそうなテーブル席が通路を挟んで二つ。班で別れて座るのかと思えばどうも違うらしい。
「後から人が来るのよ。私やガイの知り合いが何人か」
「もしかして、演習の“助っ人”?」
ガイ曰く横の繋がりとのことだ。大人の言う顔を合わせておいて損はないという人物がアオイにはあまり想像が付かなかった。結局男女で別れて着席することになり、一番奥のアオイの隣がスバル、その向かいにテンテン、ヒノメが並んでいる。スバルとヒノメの隣にはまだ一人ずつ座れる余裕があった。
真ん中の網が暖まっていくのを感じながら、皆でメニュー表を覗き込んでいる間にその待ち人達は現れた。男性が三人、女性が一人。そして下忍の中に、その内の一人を見て嫌そうな顔をする者が二人いた。
「……何故叔父上がここに?」
「知り合いって、おっちゃんかよ」
「お呼ばれしたんだ。そう構えるな」
反応したのはネジとヒノメだ。つれない態度に慣れた様子でいるのは二人の兄貴分を自称する日向トクマという。親戚なだけあって顔立ちも雰囲気も何となく二人と似通っている気がする。
「失礼。遅くなりました」
「悪いな、一人追加だ」
「ごちになりまーす!」
上からガイのかつてのチームメイトというエビスと不知火ゲンマ、スバルと親しげなくノ一はみたらしアンコである。どうもアンコは飛び入り参加らしい。横の繋がりと聞いていた通り、随分と気安い間柄のようだ。
「先生のチームメイトは?」
「また機会があればね」
忍として長く活動していれば、知り合いもそれだけ多くなる。本日揃った四名は皆“特別上忍”であるとのこと。そう言えばスバルも特別上忍だった期間が長いと言っていた気がする。
演習の助っ人だったのはエビスとゲンマの二人で、実は審判役を担っていたらしい。アオイはその存在にほとんど気付いていなかった。その二人はガイのいる向かいのテーブルに着席する。
「そう言えば、ミズキいないの?」
一通り自己紹介も終わった頃、スバルの隣に腰掛けたアンコの口から馴染みのある名前が出た。ミズキはアオイ達六人共通の、アカデミー時代の担任教師である。
「声は掛けたけど、それっきりね」
「久しぶりに話せるかと思っていたんですが」
ヒノメの隣に落ち着いたトクマも、残念そうにしている。おそらく誰もが元気な姿は見掛けていた。四班も前の任務報告時に受付で顔を合わせたところだ。
「忙しいのかなー」
「案外このメイクで引いてたりね」
「今更?」
「評判悪いのは確かでしょ~」
注文が届き始めればそれ以上事情を深堀りすることもなく、話題は流れていく。アオイの取り皿に程よい焼き加減のレバーが山積みになっているのを除けば、楽しい食事会だった。メインの肉よりも、アンコがあれこれと注文したサイドメニューの中から好きなものをスバルと分け合って食べるのがアオイの性に合っていた。スバルがアオイのペースを把握していたのも気楽な理由だ。
「そのシャツ、皆でお揃いなのか?」
「演習やって、その参加賞。良いだろブルー。火のマークが水流っぽいけど」
「お前とネジで逆のが良かったんじゃ……」
「早いもん勝ちだし」
スバル曰く粗品のTシャツは前面に白抜きで火の意匠が入ったシンプルなデザインで、違うのは色だけだ。演習結果で鈴取り役、援護役、防衛役の順に好きな色を選ぶことになって白、赤、橙、緑、青、赤紫の中からヒノメは青を取り、狙ったわけでもないのに三班が暖色で揃っている。
「二人って家でも喧嘩してます?」
「喧嘩以前の問題かな。なあ、ヒノメ」
テンテンが積極的にトクマへ話し掛けるせいで、間に挟まれたヒノメがレタスをむしりながらげんなりしていたのが印象的だった。まあ誰でも家での様子を身内から漏らされて良い気はしないだろう。それはネジも同じだったようで警戒するような視線が度々飛んで来るのが分かった。隣に座るマシロがそれに気付いて笑っている。
向かいのテーブルは今年の卒業生の情報であったり、専門的な相談であったり今後に影響しそうな話題で盛り上がっているようだ。アオイからはどうしても距離があるので、内容の詳細は分からない。
こちらはヒノメの趣味が料理だと明かされたところで、自分ばっかり聞かれるのは不公平だとテンテンやアオイも趣味を打ち明けることになった。ただ、アオイは「鍛練か掃除」と言ってしまい「コイツマジか」という視線をもらってしまった。嘘ではないが言わないだけで手芸や読書も嗜んでいる。そんなに面白みを提供できないから出さないだけで。
一方でテンテンは占いが趣味だという。奥深くいくらでも話を繋げられそうなジャンルかもしれない。ヒノメは都合がいいと乗り気だったが、自分の星座や血液型を言う段階になってそれが思い違いだと気付いたようだ。結局弄り倒されたのはヒノメだけであった。
「やー、昔の私達もこんなんだったのよね。嘘みたい」
「恋しくなった?」
そろそろラストオーダーにしようかと、下忍から回ってきたメニュー表をスバルがひっくり返して眺めている。注文はすぐに決まった。
「まさか。なんだかんだ今のが楽しいもの。そういうあんたは浮いた話の一つくらい無いわけ?」
その問い掛けで流れが変わったのを感じる。スバルもトクマも目線が不自然にメニュー表に固定されていた。スバルはもう頼むものも無い筈なのに。
「目下仕事が恋人よ……トクマは?」
「いやー、オレも別に……冷麺一つお願いします」
「シケてるわね~……よし。スミマセーン、注文お願いしまーす」
本当か嘘はともかく、この場で尻尾を出す愚か者はいなかった。アンコも内心アルコール無しだとこんなもんだろうとは思っている。
大人の白々しい会話も聞いている分には面白いものだ。興味の矛先がこちらに向かわなければ言うことは無かった。
「ほらほらお姉さんに教えてごらんなさい。どんなのがタイプ?」
「ま、真面目な人とか……?」
「王道だけど主観的で幅がある回答ね」
「いい加減会計行くわよ」
座席の順番は大事だなと、全体を通して学んだアオイであった。
──
『焼肉Q』で解散した下忍達はそれぞれの帰路に着いている。トクマもそれにともない、二次会の誘いを断ってネジ達と一族の屋敷へ戻ることにした。トクマやマシロが取りなそうとしても仏頂面二人が態度を改めることはない。比較的明るい夜道で、不揃いの歩幅が歪な影を作っていた。
そんな状態で屋敷の門をくぐった際、四人を出迎えたのは見知った顔だった。
「皆、おかえりなさい」
「遅かったわね」
落ち着いた雰囲気の女性が日向ニシ、そして隣に控える少女はその姪のイヨである。挨拶を揃える中、ネジは訝しげにニシを見つめていた。
「何か用ですか、母上」
「いいえ、今日は仕事が早く上がったものだから。たまにはいいでしょう?」
「はあ」
素っ気ない息子に朗らかに笑い掛ける母親といった親子のやり取りは、一見微笑ましいようでその実相当な隔意がある。邪魔する訳にいかないそのやり取りを横目にしつつ、ヒノメはイヨに向き直った。
「で、イヨ姉の用事は?」
「用事は? じゃない。洗濯したいから早く着替えて。後ついでに前髪も整えたげる」
「ぐェーめんど……」
「いい加減目に刺さりそうで見てられないのよ。あ、マシロくんも籠に出しておいてね。後で取りに行くから。叔父様の分はまた別でお願いします」
「ああ、分かった」
「いつもありがとうございます」
完全にイヨのペースに押し切られたヒノメが洗面所に連れ去られていく。イヨなりにヒノメを可愛がっているのは分かるが、どこまで本人に伝わっているかは不明だ。
「イヨちゃんはいつも元気だな」
「二人とも仲良しでいいわね」
「アレは騒々しいだけでしょう……オレは部屋に戻ります」
いい加減、自室に戻って落ち着きたい。そう思って、ネジが廊下の先に目をやると、人影がこちらにやって来るのが見えた。月明かりによってそれが誰かすぐに分かってしまい、不意に出くわした相手に一瞬舌打ちが漏れそうになる。何とか表情を繕うが今日はとことん厄日だなと、内心は荒みきっていた。
廊下の奥から現れたのは黒い装束を纏ったコウという青年だった。ネジやマシロより少し年上で、いかにも従者といった雰囲気をしている。そして実際日向宗家の嫡女ヒナタの従者であり──ヒノメの実兄でもある。
形だけの礼は示したものの、ネジは譲ることなくコウの脇をすり抜けるようにその場を後にした。その背中に母親の咎める声は届かない。
「夜分遅くに失礼します」
ネジの態度には特に反応せず、コウは自分の役割に忠実だった。
ニシとトクマへの事務的な伝言は快く了承され、あとは妹への用事を残すのみ。しかし、当人は入れ違いになって暫く戻って来ないらしかった。
「コウさんの都合がよろしければ、僕が代わりに伝えておきましょうか?」
「いや、急ぎの用でもないんだ。大人しく出直すことにするよ。部屋に行けば会えるだろうし」
マシロに少し砕けた様子で話すコウは、自分に労いの視線が向いているのに気付いて小さく咳払いした。いけない。ついうっかりしていた。表情を引き締めるが、今更取り繕ったところで大人二人は微笑ましいものを見る目をやめてくれない。
それを向けるべきは自分ではないと、厚意を無下にせずに伝えるにはどうすればいいのだろう。どうしたら気付いてくれるだろう。
(……それが分かったら
自分は自分だと割りきらなくては。妹の顔を思い浮かべて、気持ちを入れ換える。
「それでは失礼します」
遠ざかっていくコウやニシ達の背中を見送りながら、マシロは一人ため息を吐いた。家族のいない自分には彼らの気持ちを理解するのは難しい。そしてどれだけ近くにいても力にはなれないことがもどかしい。
そんな時、ふと困った顔をしたアオイの姿が脳裏に浮かんだ。「彼女ならこの気持ちを分かってくれるだろうか」と淡い期待を抱きつつ、マシロは自室に飾ってある写真をぼんやり眺める。
一年の思い出を振り返っているうちに、途方もなかった筈の孤独感はあまり気にならなくなっていた。
──
スバルがアオイの帰宅に同伴しているのは、他ならぬアオイに頼み事をされたからだった。
『いいわ。どうせ帰っても暇だしね』
至っていつも通りの態度で頷いた。内心の葛藤などおくびにも見せないで、目の前の下忍には分からぬ事情も飲み込んで、振る舞いだけは完璧にいつも通りを装った。
二人きりの帰路で、今日一日を振り返るアオイの表情は明るい。それを見守りながらも、スバルはアオイが目を輝かせた理由を真には理解していなかった。
『ナルトに、約束すっぽかしたことちゃんと謝りたくて……』
スバルの仕事の範疇にない本当に個人的なお願い。その依頼を何ら逡巡なく引き受けた事実が持つ意味にスバルは気付かない。
全てを覆っていても、一つ一つの行動は足跡のように本人へと続いているものだった。
──
放置していた荷物を手早く片付けながら、アオイはスバルの方をこっそり窺う。ベストを椅子に掛ける動作が自然で、まるで自分の家で過ごしているかのようだ。なんだかくすぐったい。
「ごめんね、先生。せっかく待っててくれたのに」
「そういうこともあるでしょう」
いつもは荷物の仮置き場にしていた椅子に人が座り、テーブルの上にはカップが二つ並んでいる。
アオイがスバルに“お願い”していたのは、ナルトと話すための勇気づけだった。具体的には会って話し始めるまで遠目で見守っていて欲しいという依頼。そして結果は、またも空振り。
「……多分、ふて寝かな」
『それか居留守』とネガティブな思考に陥ったアオイに、それが杞憂だと慰めることが出来ない。スバルが今こうしてアオイの部屋に招かれているのは、そうした後ろめたさの現れだった。元凶に対しての情はもう擦れて無くなっている。
「“悪戯小僧”の相手も大変ね」
カップを傾けながら、あえてナルトを遠い人物として表現する。アカデミーでの評価で言えば優等生気質と問題児気質の二人。その相性がよろしくないのは三代目も認めるところだ。それでも関係が続いているのは、本人なりの理由があるからだろう。ただ、教え子が落ち込む姿はやはり見ていて楽しいものではない。
「好きでやってることだし……やっぱり、心配だし」
「心配?」
「……ナルトにも友達はいるけど、気に掛けてくれる大人は少ないから……頭ごなしに怒られたら、すぐ反発して拗ねるし」
『私もたまにやっちゃうけど』という呟きは、カップの中に消えていった。表現は少し婉曲だが、里の人間の性質をよく承知している言い方に他ならなかった。三代目がアオイを“心配”だと評した理由がよく分かる。
「……もし、ナルトがまだ卒業を諦めていなかったら」
「?」
「本人が望むなら、補習ぐらいは引き受ける」
ぽかんとした表情のままアオイは目を伏せ、スバルの言う“もしも”に思考を巡らせている。しばらくして顔を上げ、ふふ、と微笑んだ。
「その時はよろしくね、先生」
「ええ」
二人の関係にとやかく言うつもりはない。この
──
そろそろお暇しようという玄関先で、スバルはふと伏せられた写真立てに目が留まった。四班の集合写真はリビングの棚に飾ってあった。ならこれは──
アオイが手を伸ばし写真立てをそっと起こす。若い男性が一人で写る写真が納められていた。黒い癖っ毛の短髪と、切れ長の黒い目が特徴的だ。性差もあり共通点は少ないが、全体的な雰囲気と目元の印象がどこかアオイと似ている。
「お父さんの写真、日焼けさせたくないからこうしてて」
『ちょっと顔怖いんだよね』と言って、また元通りに伏せられたソレはかなり年季が入っている。アオイの曖昧な笑みに掛ける言葉は出てこない。スバルはいつも通りの無表情のまま、ドアノブを回す。
「それじゃあ、おやすみ」
ドアが閉じ、スバルは一人夜の静寂に包まれる。足元にくっきりとした影が伸び、大きな月が空を昇っていくところだった。
(満月か)
あの事件があった夜も確かそうだった。自分はちょうどアオイ達と変わらない年齢だったように思う。
(
いくら年月を重ねても彼らの背中に届いたとは思えない。追えば追うだけ遠退く気さえする。それでも喪失感だけはずっと胸に居座って離れなかった。
「もういいか、
里の公安を担う身である以上、感傷に浸っている暇はない。定刻よりも早くに現れた白面が、その用件を手短に伝えてくる。
「……分かった。すぐ向かう」
かつての少女も、今や里に欠かせぬ一角のくノ一だった。
──
『ナルト君が行方不明なんだ……!』
──
スバルが側に控えるのを黙認しながら、三代目は直属の暗部達に改めて指示を言い渡す。散開していくのを見送り、その厳粛な空気を解いて再び目の前の水晶玉に手を翳す。追うのはミズキの動向であった。
吉凶どちらに転んでも、親心としては苦しい決断を迫られることになる。幼い子のために、上の子を追放するのだ。何度経験しても苦しいものは苦しい。老体の身では手が回らないことも増えている。だからこそ、若い可能性には殊更関心を寄せるというもの。
今を生きる少年とかつての少年。両者を取り巻く環境はどんな未来を水晶玉に映すだろうか。
願わくば、その未来が明るいものであれ。
かつて自分達にそう願った者がいるように、ヒルゼンもまた同じ思いで“子供達”の行く末を案じているのであった。
(´-`).。oO(でも鼻血ブーなんだよな)
↓四班の簡易なプロフィール
日向ヒノメ(本名:ハリ)
忍者登録番号 012536
誕生日 9月20日(13歳・おとめ座)
血液型 AB型
性格 お調子者…行動的、律儀
好きな食べ物 薬味うどん、おはぎ(ぼたもち)
嫌いな食べ物 生のきゅうり
好きな言葉 表裏一体
趣味 料理、土いじり
美空マシロ
忍者登録番号 012510
誕生日 6月15日(13歳・ふたご座)
血液型 A型
性格 用心深い、苦労性
好きな食べ物 さば寿司、くず餅
嫌いな食べ物 オクラ
好きな言葉 自立
趣味 読者、動物の世話
水戸門アオイ
忍者登録番号 012546
誕生日 10月10日(13歳・てんびん座)
血液型 O型
性格 優等生、ナイーブ
好きな食べ物 よもぎ餅、柿
嫌いな食べ物 牡蠣
好きな言葉 成長
趣味 掃除、手芸
むつらスバル
忍者登録番号 010848
誕生日 4月23日(26歳・おうし座)
血液型 A型
性格 ミステリアス、物静か
好きな食べ物 ほうれん草のおひたし、麦茶
嫌いな食べ物 マヨネーズ
好きな言葉 創意工夫
趣味 写真、一服
参考元はオフィシャルブックです。データ見るだけで楽しい。