これから先ヒノメは胃痛枠となります。
※後書きにイラスト有り。苦手な方はご注意下さい。
7 血と行く先
四班結成から一年が経ち、ルーキーの存在に改めて初心を思い出した頃。
「今日こうしてお前達を呼んだのは、大事な話があってのことじゃ」
緊張感漂う火影邸の一室。目の前には三代目だけでなく、ご意見番の二人と厳格そうな老齢の男性が揃って待ち構えていた。
壁際には暗部も控えており、じっと待機のまま地蔵のようにその場で佇んでいる。
朝一で呼び出しを受けた四班の下忍三名は、その尋常ではない雰囲気に大層不穏なものを感じた。前日から不在にしているスバルの安否について今から何か言われるのではないかと思い、嫌でも背筋は伸びて表情が固くなる。
だが三代目はその懸念をあっさりと否定した。
「スバルについては少々任務で遠出しておるだけじゃ、よって心配は要らん……しかし、用件はより重要な“お前達自身”にまつわることじゃ。心して聞いてほしい」
スバルではなく、自分達について。わざわざこんな場で一体何を話すというのか。話の予想が付かないなりに、下忍の中ではアオイが一番冷静だった。
三代目の目が二人の間を行き来する。
「マシロ、アオイ……単刀直入に言う。訳あって別々に生活させていたが……
お前達は双子として生まれた実の兄妹なのじゃ」
「……は?」
「まじかよ」
呆然と、少しの納得。アオイは今も玄関に置いてある父の写真を思い出した。髪と目の黒色は、確かにマシロと共通している特徴だ。そしてアオイは母親については何も聞かされずに育っている。「何かある」とは、前々から分かっていた。
「どうして、今になってお話ししてくれたんですか?」
「これには深い事情がある。それもこれから順に話そう。じゃが……」
三代目の視線が痛ましいものを見る目でマシロの方を向いている。アオイがつられて隣を窺った時、マシロは項垂れるように下を向いていた。
「……
老齢の男性が小さく呟く。
「え、……え?」
「だから、日向に……」
ゆっくりと、顔を上げたマシロと目が合った。どこかぼんやりと観察するような眼差しに覗き込まれる。
赤い双眸が、じっとアオイを見据えていた。
「……僕の目、今どうなってます?」
少しだけ笑って、マシロが柔らかい声でアオイに問い掛ける。いつも通りを装う様子が反って不気味だ。そしてそんな感想すら、きっと全て見透かされている。
「虹彩が赤くて、巴の模様が浮かんでる……」
「分かった。ありがとう」
ふっと赤色が消え、黒色が戻った。それでもマシロの目にいつもの穏やかさは欠片も見当たらない。
「ヒノメは僕らのこと知ってました?」
「知るわけねェだろ、初耳だ」
「そう」
少し満足したような声色で、マシロは再び三代目に向き直る。もう自分の身に起きた変化を理解して、受け入れていた。
「すみません、取り乱してしまって」
「いや、無理もない……」
そんな場合では無いのに、苦し気な声に何故かアオイの方が三代目に同情したくなる。
「どうか続きを聞かせて頂けますか?」
マシロの変わり様はそれだけ劇的だった。
──
『自分の置かれた状況と選択肢を、分別を以て理解できる年頃になったと判断した。だから伝える』
そうやって三代目が語った『深い事情』は、例え分別があろうと俄には受け入れがたい内容だった。語ることを躊躇うのも無理はないと、アオイは一通り聞いてからも事態の深刻さに言葉が出ない。
「……“父さん”、か」
マシロは口の中でその言葉を何度も繰り返していた。初めて名前を知れた。自分にも父親がいたと、当たり前のことが分かった。その事実を噛み締めている。
──
兄妹の両親は父親が“うちはアサギ”といい、母親が“美空マスミ”といった。
アサギは十二年前の事件で殉職しており、マスミの方はそのもっと前……アオイ達双子を産んだその日に亡くなっている。兄妹は物心付く前には孤児であり、普通なら孤児院や親戚に預けられる境遇だ。しかしそれはとある理由によって容認されなかった。
双子を別々に養育・監視しなくてはならなかった理由とは、“詳細不明の禁術”による。
アサギの婿入りという形で結ばれた夫婦の関係は、生まれた我が子を巡って破局した。マスミが生まれた子供に禁術を施し、そしてそのまま死亡してしまったからだ。
現在の見立てではその禁術を、身体に刻み込んで後々効果を発揮させるタイプの術だろうと想定している。つまり遅効性の毒や時限式の爆弾のようなものであろう、と疑いを持たれている。
自分の命を代償にするような術を、夫に相談もせず自分の立場も省みずマスミは独断で使った。妊娠中に異常行動の兆候はなく、誰から見ても母子ともに健康であったとされている。そして術の詳細も目的も不明なまま、アサギも九尾事件の夜に亡くなってしまった。
アサギは写輪眼を持たずして実力を認められ、四代目火影の右腕として補佐役に任命された男だった。
マスミは若いながらに美空一族の当主であり、医療忍術含む多種多様な忍術に精通した才女だった。
優秀だったアサギでもマスミの真意が分からないなら、そもそも美空一族の方に特殊な事情があった可能性が高いと、今現在はそう推測されている。
里としては当然マスミの不可解な死と今の実際を把握したい。マスミが背信行為を働いていたのならそれを暴かなければならないし、美空一族に相伝の事情があるのなら、子供に正しく継承されるべきであるという見解だ。
美空は最も謎に包まれた一族とされ、現在は離散して実態を無くした状態とされている。その中で権利や責任を継ぐとしたら、当主だったマスミの子がその筆頭だろう。
悩ましいことに、マシロの方は数年前に壊滅したうちは一族の血継限界も継いでいることが分かった。写輪眼を開眼させた以上、必然的にうちはの末裔としての生き方も強いられることになる。
美空一族について進んで謎を解き明かすのか、一切を放棄し闇に葬るのか。
本人達が選ばなかったとしても、里は独自で謎を追究する構えだ。つまり自分達で能動的に動くか、他人に真実を握らせるのを良しとするかの二択とも言える。
二人に明かされた情報とは、生涯付きまとう血筋という問題であり課題であったのだ。
──
「……ここまで聞いておいてなんですけど、
聞いたこともないヒノメの丁寧な口調にアオイが静かに驚く中、三代目はいいや、とヒノメの疑問を否定する。
「構わん……というより、三人のうち二人が共有する情報をそのまま抱えておくのは不可能じゃろう。ならば最初から話を通しておく方が都合が良い……日向一族というよりは、二人の仲間として話に付き合ってくれると助かる」
「そう、ですか。それなら良かった」
かなりの困惑が現れた様子ながらも、ヒノメは三代目直々の許可を得て少し気が楽になったようだ。
「その上でもう一つ聞きたいことがあります」
「ほう。一体何じゃろうか」
「相伝が途絶えることは、残念ですが“よくある末路”の一つです。そして美空一族はそれを回避する努力をしていなかったような印象を受けました……あるいは、“意図的に離散を選んだ”のでしょうか?」
「ほう、流石に聡いな」
ヒノメの指摘に、それまで静観していたホムラが感心し素直に称賛する。急に注目されたことで、ヒノメは怯んで口をつぐませてしまった。
当人達が伏せて隠したものを、わざわざ掘り起こそうとしている。どうもマスミの一件だけがその理由のようには思えない。漠然としていた謎が途端にキナ臭くなってきた。
「……そうじゃな。それも含めて、続きを話そう」
──
古くから火の国の大名家に仕え、そして木ノ葉隠れの里の創設時には大名側の要求で参入が決まった一族。それが美空であり、創設期より以前では“見空”であったと古い書には記されている。
かつて大名が戦力として他にも忍一族を雇っていたことを考えれば、戦闘よりも情報の扱いに特化した一族であろうことは窺える。そして事実、木ノ葉における歴代の当主は皆博識かつ知性を重んじる人物だったという。つまりまあ、生粋のインテリ一族と想像されている。
大名との繋がりが深い故に、里の政権を取って忍達を率いたりはしない条件で参入が認められ、大名と里との疎通を図り、火の国繁栄の為に尽力する。それが美空一族の負った使命だ。
そして“確かに存在しているのにその形が分からない”ことで、謎が多いとされている。分かっているのは他の忍一族と表立って対立するような存在でないというだけ。
当主以外が“美空”を名乗ることはなく、一族の全容を把握しているのも当主のみ。「一は全、全は一」だ。美空の当主というのは矢面に立つための実力を備えた者が務めるものであった。当主以外に自分から権利を主張するのは仕組みとして想定していない。
だから、マスミがそんな立場を誰にも継がせず投げ捨ててしまったのが不可解、という話なのだ。情報の抱え落ちと言うだけでなく、たった一日で全てを裏切るような真似を仕出かした。一体何が彼女をそうさせたのか、解明を求める声は多い。
──
「真相解明は、まさか大名直々の……」
「大名はマシロ、お前を暫定で美空の代表と扱うと決めている。この際実力については問わないとのことだ」
お飾りでもいいから、その地位に誰かを据えたい。それが何も知らない無力な子供であっても関係ない。そう言っている。
「……そんなに、“名前”が必要ですか」
「さよう。そして二人とも。その大名からの指名でお前達にはとある任務に参加してもらうことになった。いつも通りスバルが引率し、ヒノメにも同行してもらう」
コハルが、三人の顔を一つ一つ確認する。ひきつった顔には「そういうことか」という思いがありありと浮かんでいる。まだスバルの図太さには遠く及ばない。アレなら顔色も変えず先立って目的地へ向かい、そろそろ戻ってくる頃合いだった。
「美空という肩書きは今も必要とされている。実態が無いと言うなら、新たに用意する必要もあるだろう。現状美空の機能不全は否めない。しかし、マスミがお前達に施した術如何によってはその機能の回復も見込めるかもしれん。だから追究を続けるのだ」
ご意見番としての熱意だろうか。ホムラは損なわれたものの回復に強い関心があるらしい。しかし、その熱弁の隣で三代目は微妙な顔をしている。
「ワシとしては……美空一族の在り方はさほど変わっとらんと思うんじゃがの。縁の下の力持ちなのは昔からそうなのじゃし」
「なら大名の方にもそう伝えればいい。それで納得されるなら儲けものでしょう」
「ううむ……」
コハルの冷静な指摘に言い返せない辺り、三代目もそれが理屈として通らないことは承知していた。
「……そもそも、だ。既に信用を無くした一族に頓着せず、きっぱりと諦め次世代の育成に注力する方が余程建設的だと思うが」
ご意見番とは反対側にいた男性が細い目を下忍達に向ける。特に注視するのはマシロだった。
ひりついた空気が場を支配する。
「次世代というなら、そもこの子達がそうじゃろう。スバルが指導するのなら、いずれ頼りになってくれる」
「またあの小娘か……まあいい、お前達は精々里の役に立つことを心掛けよ。いいな?」
男性の威圧的な念押しに口を揃えて応を返したはいいが、正直アオイ達にこの状況は辛すぎる。老獪な大人と正面から相対するには知識も経験もまるで足りていない。
「只今戻りました」
福音が聞こえた。とても聞き慣れたスバルの通る声がとても懐かしく感じる。噂をすれば、だった。
「スバル先生! おかえり!」
「おかえりなさい!」
「……お疲れ様です」
スバルと入れ違いになるような形で威圧的だった男性は用が済んだとばかりに部屋から退出していった。すれ違いざま確かにスバルを睨んでいたように思う。
「うむ、よく戻った。して首尾の方は?」
「現状滞りありません。依頼人の方は別室へ案内しております」
「分かった。では、面会を頼む」
「承知しました」
それまで静かに待機していた暗部も三代目の指示を受け出て行った。部屋に残るは三代目と四班とご意見番である。教え子達の視線を受けて、スバルは『一通り聞いたみたいね』と三人の様子を確認する。
「先生も、知ってたんですよね」
「そうよ。ずっともどかしく思ってる」
まだまだ伏せてある情報は多そうだ。マシロは少しいつもの雰囲気を取り戻し、ため息を吐いた。
「『求めるなら自分から手を伸ばせ』でしたっけ……僕達が知りたいことを聞いたら、ちゃんと教えて頂けますか?」
「邪魔立てはしない。今言えるのはそれだけね」
「……分かりました」
マシロが小さく頷き、二人のやり取りを見ていたアオイとヒノメも肩の緊張が抜けた。これでようやく平常の四班に戻れる。
「では、改めて四班に任務を言い渡すとしよう」
三代目の厳粛な声に再びすっと背中が伸びた。
「大名がお前達に参加を指名するのは、他国との交渉……
つまり
ヒノメ「帰っていい?」
名前出てないけどダンゾウいてます。
↓ふわっと設定まとめ
・シロアオ兄妹は監視対象として別々に育てられていた。
・兄妹の両親はうちはアサギと美空マスミ。既に故人。
・マスミは立場を省みず独断で子供に禁術?を使用。
・美空は里の裏方なインテリ一族。現在の実態は不明。
・大名家はマシロを当主とみなし、外交への参加を要求。
・情報を咀嚼するのに頭痛と目眩がしそう←イマココ
読みたいものと出来上がるものの差が激しくて、他の上手い人に全部お願いしたくなりますね。
※この下にイラスト置いてます。
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