エリアゼロの調査録   作:聖成 家康

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今回グロ強めです。え……ポケモンなのに?


3 『何者ダ』

 

 ドンファンに運んでもらい、辿り着いたのは謎の建物であった。

 

 無機質な白い六角形。それが四つほど並べられた建物。

 彼をボールに戻して、その建物に足を踏み入れる。

 

 開いた自動ドアの先には、薄暗い部屋が広がっていた。

 無機質な壁に囲まれて、タンクのような装置が奥に聳え立っている。

 

 タンク前方にあるテーブルの上には、ノートや紙が散乱していた。

 

「人がいたの……?」

 

 明らかに人工物だった。

 エリアゼロで人が生活しているなど、あり得ない。立ち入ることすら難しいのに。

 

 シディアはテーブルに散らばるノートを一冊手に取り、ペンライトを咥えてペラペラとページを捲る。

 びっしりと、何かの記録が残されている目で追う程度にしていたのだが、気になる部分がいくつもあり、ついつい手が止まる。

 

「テラスタル……?!」

 

 それは、パルデア独自の現象。

 ポケモンの頭部へ結晶が作り出され、タイプが変わる不思議な現象だ。

 原理は、どのトレーナーであれどいまいち理解していなかったが、このノートによればエリアゼロでのエネルギーを利用したものらしい。

 

「……つまりは、テラスタルオーブを作った人がここ(大穴)に……?」

 

 独り言を呟きながら、ノートを読み進めた。

 

 

 ――刹那、背筋を凄まじい悪寒が迸る。

 

 

 最悪な気配を察知して振り返った時には、既に身体は床に伏せて、身動きが取れなくなっていた。

 

 

 自身に覆い被さる存在を見て、絶句する。

 

 それは、デリバードというポケモンに酷似した、機械。

 電子版に映る瞳は、虚ろで恐ろしく、メタリックな赤い装甲は酷く冷たい。

 そして、愛らしいフォルムの頭部が身体と分断し、バネのような物で繋がれゆらゆらと揺れている。

 鉄の包を持ったそのポケモンは、身体を凍えさせる不気味な鳴き声を上げる。

 

 鋼鉄の羽で、彼女の華奢な首を押さえつけ、絞め殺さんとばかりに圧迫する。

 

「か……は……」

 

 奴の身体を殴るも、微動だにしない。

 

 必死に藻掻いて、藻掻いて、ポーチから取り出したモンスターボールを奴の背後に投げる。

 

 ボールから飛び出したポケモンが、鉄の包へ突進し、無機質な壁に凹みができる程に吹き飛ばした。

 

「けほっ……けほっ……」

 

 彼女を気遣うメブキジカ。白い毛から仄かに漂う冷気が、火照った身体を鎮まらせてくれる。

 

「外に出よう、メブキジカ」

 

 メブキジカを一度ボールへ戻し、外に出てからまた繰り出す。

 

 鉄の包はすぐさま追いかけてきて、彼女らの前に立ち塞がる。

 

「メブキジカ、つるぎのまい!」

 

 彼女の掛け声と共に、メブキジカは激しく、雄々しく舞い、精神を昂らせた。

 

「やるよ……しねんのずつき!」

 

 メブキジカの二対の角の中心に、紫のエネルギーが集中する。

 そのエネルギーを角に纏い、メブキジカは物凄いスピードで突進する。

 

 空気が轟き、凄まじい風圧が辺りを駆け巡り、土埃を巻き起こす。

 

 角は鉄の包を激しく穿つ。

 

 されど奴の身体は強固で、大きく仰け反ったものの、油断をしていないからか二、三歩退いただけであった。

 

(デリバードはこおりタイプ……だけど)

 

 地を這う蟲の例があると、とてもデリバードと全く同じだとは思えない。

 しかも、彼女のメブキジカは、弱点をつける技が限りなく少なかった。

 されど、ここで安易に引くのは危険だ。

 

「メブキジカ、もう一度つるぎのまい!」

 

 メブキジカが再び、激しく舞を踊った。

 

 だが鉄の包はそれを許さない。

 

 大きく開かれた口から、凍てつく光線が放出され、隙だらけのメブキジカを穿つ。

 

 攻撃は直撃かつ、急所に当たったようで、メブキジカは激しく血を吐きながら地面と激突する。

 

 やがて、凍てついた冷気は硬化し、氷柱のように鋭い結晶と化し、メブキジカの腹を貫いた。

 

「…………!」

 

 理解が追いつかず、彼のしなやかな身体が地にひれ伏してから、ようやく腹元から声が出る。

 

「メブキジカッ!!!!」

 

 鉄の包は彼にトドメを刺そうと、再度れいとうビームを放つ。

 

 

「っ……ムウマージ! マジカルフレイム!」

 

 

 命令と同時にボールを放ち、ポケモンを繰り出す。

 

 稲妻を迸らせながら出てきたムウマージが、炎の渦を作り出して、竜巻の如く発射した。

 

 

 粒子を散らしながら、二つの線が激しくせめぎ合う。

 

 灼熱が凍てつく冷気をも焼き尽くし、鉄の包を焼き焦がした。

 

 しかし、あまり効いていない様子であった。

 

「ムウマージ、チャージビーム!」

 

 続け様に、稲妻迸る高圧電流を奴に向けて照射。

 勢いよく空気を切り裂き、突き進んでゆく電子の数々が、鉄の包の躰へ到達する。

 

 すると、凄まじい反応を引き起こし、黒煙を噴出しながら、鉄の包が爆散する。

 

 ムウマージに庇われ、爆風を逃れたシディアは、奴の安否を確認する。

 

 頭と体が、今度こそ分断されて、力なく横たわる奴の姿がそこにはあった。

 倒せたのだ。

 

「っ……」

 

 見るのが恐ろしくて、避けていた事をふと思い出す。

 貫かれる瞬間のメブキジカの顔がフラッシュバックして、目眩がしてくる。

 

 ゆっくりと振り返れば、そこには寄ってきたアーマーガアに啄まれる、メブキジカの亡骸が転がっていた。

 

 抉れた腹から大量の血を流し、光無き瞳で虚空を見つめている。

 

「ぁ……」

 

 血の気が引いた。

 

 小さくて、可愛らしかったシキジカの頃から育ててきた。泣き虫だった彼との思い出が、ぼろぼろと崩れ落ちていく。

 

 酷い。

 

 野生のポケモンでも、荒々しい攻撃はするが、殺すまでには至らない。せいぜい立てなくなる程度の攻撃だ。

 

 されど、あのポケモン――否、機械は違った。

 殺すために攻撃した。あそこで冷気を結晶化させるなど、意図が無ければありえない。

 

「ぅ……ぁ……」

 

 声に鳴らない悲鳴が滲み出てくる。

 がくん、と膝から崩れ落ち、地面に蹲る。

 

 ムウマージの暖かい手が、背中を撫でたのを感じた。

 

 ――ここにいたら、優しいこの子までも失ってしまうかもしれない。

 

 そう思うと、途端に恐ろしくなった。

 

 ムウマージも、ドンファンも、エルレイドも、大切な仲間だ。

 

 トレーナー(自分)が大穴に落ちたせいで、彼らを危険な目に合わせてしまう。

 

 自分の不甲斐なさに、涙が溢れてくる。

 

「ムマァ……」

 

 蹲ったままの彼女を引っ張って、ムウマージは建物の中へ運んでやった。

 

 その際、ムウマージはメブキジカの亡骸へ目をやった。

 

 アーマーガアに、見るも無惨な姿になるまで食い荒らされた、目を背けたくなる光景であった。

 けれども、どこか悲しげな表情で見つめる彼女には、ゴーストポケモンにしか見えない何かが、見えるのかもしれない。

 

 言葉としてそれを表現できないムウマージは、シディアに慰めの言葉すら、掛けてやれないのだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 建物内のベッドで眠り呆けていたシディアは、むくりと身体を起こした。

 

 この部屋は薄暗いためか、昼夜の感覚が狂ってしまう。今が夜なのかすらも分からない。

 ――ふと、メブキジカの姿が頭を過る。

 目頭がみるみる内に熱くなって、後悔、罪悪感、悲哀、ありとあらゆる感情がぐちゃぐちゃになって、胸に詰まった。

 

「ムゥゥ?」

 

 すぐ側で、ムウマージが心配そうに覗き込んでいたために、驚いて声を上げてしまう。

 

 「驚かせたかしら」と目を細めて、小さな手で口元を覆った。

 彼女に怪我はないようだった。

 

 ムウマージは、初めは人が嫌いなポケモンだった。

 子供であったムウマを虐待された挙げ句、何処かのトレーナーに捨てられた。

 シディアが引き取ってからも、人嫌いは当然続いたが、何とか彼女だけには心を開くようになった。それどころか、シディアを我が子同然のように扱う。

 

「あぁ……私、ずっとここで寝てた? ごめんなさい、貴方もボールで休みたいでしょうに」

「ムウ……」

 

 彼女をボールへ戻そうとすると、その胸元へ、すっ、と抱き寄せられた。

 ゴーストポケモンは冷たい。けれど、何故だかそれが心地よい。

 

「……ありがとう」

 

 




『仲間のポケモンが一人死んでしまった。
その子を小さい頃から育ててきたからか、ショックが大きい。
エリアゼロに住むポケモンらしからぬ生物は、“本気で”殺しにかかってくる。温厚なデリバードに似た、鉄の包らしき生命体でさえ殺意は十二分にあった。
此処で生きられるのも、時間の問題だろう』
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