ライカン退治
人形は夢を見た。
人類が原始的な猿で生存競争の底辺であった頃。
ただただ石と棒を握り、圧倒的な力を翳す猛獣に日々怯え、ひたすら種の存続だけを願っていた時代。
暗く、寒く、ひもじく。 明日には死が迫った時。
彼らの前に現れた『かの者』。
かの者は人智の及ばぬ力を操り、導き、文明を授け、生存する術を教えてくれた。
呆れるほど脆い人間に力を授け、星の覇を与えてくれた。
『かの者』が故郷へ帰る時、人々は感謝し、崇め、壁画に書き記した。 自分たちをここまで育ててくれた『かの者』に、自分たち栄華を授けてくれた『かの者』に、次会う機会があるとするならば。
返しきれぬ恩を、僅かばかり返そうと。
そして永き歳月の果て『かの者』は再臨。
人類の抹殺を開始したのだった。
「獣と交渉なんてしませんよ、私は」
アンドロイドは歪な命を奪う。
自然にいない存在を。 いちゃいけないと。
いると都合の悪い存在を次々消した。
効率的に。
害虫駆除の様に。
その様はプライマーと似ているのかも知れない。
ただ願わくば。
伴侶たる只野准尉の魂が解放されます事を。
■ルーマニア トランシルヴァニア地方 寒村■
「何処なんだ、いったい……」
イーサンは夜の雪山を彷徨っていた。
訳も分からずクリス率いる武装集団に家を襲撃され、目の前で妻を殺され、生まれて半年の娘ローズマリーを攫われた。
銃床で殴られ気を失い、次に目が覚めたら武装集団の仲間らしき死体が1、2体と護送車が転がっていた。
つまり訳が分からない。
転がっていた書類に目を通せば、サイトBなる場所に運ばれている最中だったらしい。
ところが目覚めの惨劇を見るや何者かに襲撃された様だ。 ここに居るのは危険か。
そうして当てもなく、道らしき道を探しながら進む内に日が昇り始め、目の前に城と村が広がるのだった。
「城に村? 火の手も見える。 なんなんだ」
惨劇に次ぐ惨劇。 混乱するばかり。
それでも棒立ちも危険だと、前に進む。
此処が何処かを調べるにも、娘を取り戻す為にも、イーサンは止まってられないのだ。
「ヘイ、イーサン!」
そこにいつか懐かしの呼び声が。
見ると、疲れ気味に手を上げて近寄る兵士が。
警戒の色を刹那的に出すイーサンだったが、やがて思い当たる人物だと声を出す。
「タダノ? EDFの只野なのか?」
「そうだよ。 奇遇だな」
などと言う彼だが、偶然な訳がない。
ある程度知っている節を見せた只野だ。
今回の事件も彼が関わっていると見るや、鬼気迫る表情、剣幕で掴みかかり訴える。
「何が奇遇だ、本当の事を教えろ!」
「落ち着けイーサン」
「落ち着いてられるか! 俺の家族が襲われて、ミアが殺されたんだぞ! 娘のローズはクリスに攫われた! お前も関与しているのか、教えろ!」
「それを伝える為に俺が来たんだよ」
努めて冷静な只野に説得され、イーサンは漸く力無く「すまん」と手放した。
気持ちは分かるが、同情している場合じゃない。
「……クリスが襲撃したには理由がある」
ホラーあるあるな、真実を濁す真似は此処ではしない。 淡々と伝えるのみである。
「どんな? 俺達を守ると言った奴が裏切るだけの理由があるのかよ」
「ミアが殺されたと言うが、本物じゃないんだよ。 ミアに擬態したミランダって生物兵器だ。 ローズが生まれた後、本物と入れ替わっていたんだ。 クリスはソイツを殺す為に襲撃した」
「なっ……そんな、嘘を吐くな! それなら俺に教えてくれても良かった筈だ!」
「あのゴリラは民間人を巻き込んだら、ややこしくなるからと何も教えなかったんだ」
「そんな……じゃあ、本物のミアは?」
「生かす理由もない、と言いたいが。 どうしてか生きているんだな。 この村の何処かに監禁されている」
「ローズ、ローズマリーは!?」
「ローズも生きているよ」
『4つにバラバラにされてるけどねぇ!』
ここで敢えて言いたくない事も言うは、血も涙もない人形だった。
コイツこそバラバラにされて然るべき悪意だ。
幸いなのは無線越しでイーサンには聞こえなかった事である。 聞かれていたら、それこそややこしい事になったであろう。
「黙れ。 大人しく村の監視に努めてろ」
『はーい』
「誰と話してるんだ」
「村外れにいる仲間だよ」
「EDFか? クリスか?」
怖い表情は拭えないイーサン。
クリスに一言は言いたいのだろう。
残念ながら、彼とは連携していないが。 今は。
「EDFだよ。 クリスらBSAAはいない」
「……どっちにしても助けてくれるのか?」
「助けるさ。 ルイジアナの時みたいな戦力は用意出来ないが、武器弾薬の提供はする」
そう言って、イーサンをコンテナが積まれた場所へ案内する。 村はその後だ。
「取り敢えずPA-11を持て。 あの村にローズもミアもいる。 ただ村にいる誘拐犯共はイカれた生物兵器だ。 いざとなったらソレで身を守れ」
「くそっ、ルイジアナで終わったと、家族を守れると思ったのに……俺はまたしても」
「まだ何も終わってない。 共に助けるぞ」
「ああ、イカれた奴らに1発喰らわせる」
と、またもここで無線が。
人形からだったが、何やら嬉しそうだ。
『ごっめーん! ハイゼンに捕まって4貴族の前に引き摺られちゃった!』
「ファッ!?」
まさかの事態である。
人形は悪びれも慌てもなく話し続けた。
『ミランダ司会の雑な貴族会議の末にね、ドミトレスクに始末される事に決定しちゃった! 今、お城の中を逃げ回ってる!』
「……そうか頑張れ。 じゃあな」
応援だけして通信を切った。
頭痛がするが、吸血鬼相手なら何とかなるか。
「おい、助けがいるんじゃないのか?」
雰囲気に優しいイーサンが尋ねるも、只野は呆れ顔、疲れ顔で首を振る。
「いや良いんだ。 放置しても死なんだろう」
なんたって機械だし。
血、ないし。 あってもオイルか何かか。
少なくとも人間とは違うだろう。
その事実を知れば笑劇の鬼ごっこな訳だ。
ハイゼンベルクは事実を知って譲ったな。
そしてドミトレスクらは知らずに追い回してる。
今頃笑ってるだろうな、ハイゼンの奴。
只野も薄ら笑みを浮かべて思うのだった。
更新未定