「只野准尉、貴方の事を教えて下さい!」
過去を振り返ってみたが、童貞を拗らせた夢が終わる筈もなく。 人間そっくりな彼女は笑う───アンドロイドの一言一句に警戒して言葉を返す。
「教えろって……どうせ、俺の事は調べてるんだろ。 それとも、この時間軸には存在しない話でも語ろうか? 自慢にも出来ない最悪最低な臨死体験なら、"
皮肉混じりに出方と疑問を伺う。 つまり、本部といいコイツといい、どういう意図で基地でなく料亭に誘い、質問をするのかと。
すると、彼女は人間臭くキョトンと表情を浮かべて……突然に吹き出した。
「くくっ、あはっ、ははは! そうですよね。 意味分かんないですよね! 経験の無い出来事ほど、正解なんて分からないんですから! アハハハ!!」
容姿の整った彼女は、白無垢に似合わず声高らかに笑う。 その様子は自然と周囲の人間からも笑みを引き出す力があるかに思えた。
ただ彼女がいう未経験という指摘は、俺にとっては恐怖の様なものを感じさせる。
なんでこの娘は笑う? 何が面白い?
そもそも───彼女は本当に楽しくて笑っているのか?
少なくともアレだ、童貞の件ではないとしたい。
「ふぃー、楽しかった。 じゃ、先ずは自己紹介から始めましょうか。 私はEDF戦略情報部所属のプロトタイプ アンドロイド、一応スカウト所属、トワと云います。 貴方の名前は?」
彼女、トワとやらは仕切り直す。 自分が名乗ったのだから次は貴様だと。 正直、彼女は俺を舐めているとしか思えなかった。 辞令遊びは好きじゃない。 名乗ったのだからテメェも名乗るのが当然だとする、この手法。 一見、筋が通っているが、実は違う。 コイツ、自分の情報など一切出してないのだ。 逆に此方の情報ばかりを抜こうとしているのである。
戦略情報部所属とか、アンドロイドだとか。
そんなもん渡された資料通りだ。 理解の遥か上を往く技術の塊に舌を巻くが、それまでだ。 さっきまでちゃんと見てなかったが。 だが俺が知っているか否かに関わらず、少し齧れば済む値打ちの無い情報でしかない。 お人形様は何1つ俺に打ち明けていないのだ。
「
そしてワイ、雰囲気に負けてホイホイ名乗る。 本部の罠場にいる時点で、俺は彼女の手の平である。
悲しいかな、当戦場からは逃げられないし、逃げようにも、謎の圧を放つトワに既に屈し掛けている、煙に巻くという発想をした頃には手遅れだった。
「へぇー、バイオテロの根幹に迫るのに?」
「買い被るなよ」
「そうだね! 自由行動の問題児だもんね!」
揚げ足取って来るんだけど、このメスガキ。
話の主導権は取れそうにない。 というか仮にも上官に対する態度か、コレが。 マリス先生が如何に屑かがよく分かる。
「それで只野准尉は、どうして除隊せず戦場に立ち続けるの? データベースを見てすぐ分かったよ。 あぁ、この人、生き残りたいなら後方支援に回れば良いのにって」
「もう只野で良い……その通りだが、分かるだろう。 天下のEDF様が兵士の待遇改善に耳を傾けるかってんだ」
「イドニアは酷かったもんね!」
「凡ミスで死んだ事があったよ。 それで俗世からサヨナラ出来たら良かったんだが」
お人形様には、この気持ちは分かるまいと目を向ければ、トワは意外そうに目を丸くした。
「只野は終わりたかったんだ?」
「そうとも。 俺達や著名人がどんなに頑張ってもバイオテロは続くだろうからな、何せ元凶が同じ人間だ、自然災害じゃない」
「ふぅん……戦い疲れてるんだね」
疲労感を露わにした声色で呟いた。
ふと、顔を上げると、彼女の大きな瞳と視線が交じる。
「───でも私が来た。 ご
繰り返す死生で精神が摩耗している俺としては、記憶にない彼女の存在に救いを求めたいが。 取り敢えずEDFの名付けセンスは趣味が悪いとする。
その癖、彼女は慈愛に満ちた目で見つめてくる。
嗚呼やめてくれ。 気分が悪くなる。 その作り物のぬるま湯も、死ねば無かった事になるのだから。
「自愛? 機械に愛だなんだの分かるのか?」
だから拗ねる様に、捻くれる様に、彼女に大人気なく意地悪したのは許して欲しい。
そんな俺に彼女は、トワは、ただ微笑む。
その感情の意図が読めない。 どこまで行けども作り物なのだから、後は人間側の受け取り方の問題でしかないとでも言いたげだ。
だからこれは勝手な解釈だ。
彼女は……俺に求めて欲しいと思っている。
童貞のキモい妄想だと唾棄して貰って構わない。
そう自惚れさせてくれるだけの人間性を、機械は感じさせてくれた。
ひと息入れる様に、逃げる様に、俺は視線を外して和食を口にする。
懐かしい物を味わいたい筈なのに、味覚まで遠くに逃げて困る。 それでも胃が食べ物を受け付けた事で多少は頭の回転が良くなり爽快になったが───正面で俺と同じ様に飯を咀嚼する人形を見て……再び重なった視線に彼女の目を細める姿に、言い難い不安と気持ち悪さを覚えた。
機械の癖に食えるのか、とか。
そうした疑問もだが、人間を、俺を真似てくる人形は不気味だった。
「そんな目で見ないで欲しいな。 人間を模している以上、行動もそれらしくして仲良くならなきゃって学んできたんだから。 仲良くなりたい相手と同じ食事をしたり遊んだり、そうすれば人間は気を良くするんでしょ?」
感じた温もりを返して欲しいと思ったね。
やはりコイツは機械であり人間ではない、愛なんて知らん、そう思いたく無いだけの発言をしたからな、見下している様な言い回しが好きになれん。
「…………マリスに何を教わったのか聞きたく無いし興味もないが、人間含めた生物全てが同じ存在とは思わない方が良いぞ」
「あはは、他の人間には通用したのになぁ。 相手の真似をしてるとね、特に男性には効くんだよ? 私って結構可愛くデザインされてるみたいだし、それもあるんだろうけどね、同じ物を口に入れたなら直ぐ感想を共有出来るし、会話も弾むし。 訓練とかプライベートの空間とかでもね、何かを教えてくれたら微笑むの。 するとね、男の人って頼られてるって思って機嫌良くなるんだぁ」
「だから?」
「うーん、なんで君は機嫌悪くなるのかなぁって」
「何度も言わすな、全てが同じ存在じゃない」
「あはは、相手が機械だって既に知っているからかな……まぁホントだとしても……そんな顔されるとね、私も同じ顔をしちゃうんだよ」
彼女は新しい玩具を見つけた子供の様に目を輝かせ、前のめりで視線を外さない。 その瞳には俺の不満顔が映る。
「これから私の魅力を教えますよ、覚悟の準備は良いですか♡」