トレーナー学の授業だが、どうやら中々に受けたいという生徒が多いらしい。
現役ポケモン博士の授業というネームバリューがデカいのか、とりあえず受けられる授業全部受けるタイプの変態が多いのか。どちらにせよ、学ぶ意欲が高いというのは実に素晴らしい。
……その分僕にかかるプレッシャーもずんずんと重くなっていくのだが。
「はい、皆さんグラウンドに集合してもらってすみませんね、今日は激しいことをするので」
今日の授業は教室ではなくグラウンド、ポケモンに色々と活動してもらう必要があるのだから当然だ。
「さて、前回のちょっとしたアンケートの回答、ありがとうございます。絶対にダメなことを書いた人がいなくて僕も嬉しかったです」
ポケモンを手下扱いだとか、勝負で勝つために必要なのはインチキだとか、そういう人としてどうかと思うラインを選ぶ人がいなくて本当に良かった。
……そういう人間は、ポケモンたちや周囲の人間を不幸にする。あいつらみたいに。
っと、いかんいかん、授業の方に集中しなくては。
「さて、では本日の授業ですが、ポケモン勝負―」
僕がそう口を開いた時、目がキラキラと輝いた少女がいたが……。あれは強者だ、多分僕より強い。
だが残念、ポケモン勝負が好きそうなガールよ、今日はバトルはしません!
「以外でのポケモントレーナーの活動です」
ポケモンは多種多様な存在だ。今もまたどこかで新種が確認されているとすら思えるほどに。
だからこそ、ポケモントレーナーの活動も多種多様になっていく。ポケモン勝負などその一端にすぎない、それだけがトレーナーでは断じてない。
「さて、ポケモン勝負以外でのポケモントレーナーの活動、皆さんに縁が近いところではそらとぶタクシーでしょうか」
そらとぶタクシー、ゲームではソード・シールドで登場した移動手段。ガラルだけでなくパルデアでも運航しているのを見て、秘伝要因がいらないんだなと納得した。
ゲームしてるときは中々に頭抱えさせられたものだ。いい時代になったモノである。
「パルデアではイキリンコ、ガラルではアーマーガアが活躍している仕事です、皆さんも利用したことがあるのではないでしょうか?」
そう僕が問いかければ多くの学生たちは首を縦に振り、利用してきたことを伝えてくれる。
もちろんこれもポケモンを運用するのだから、ポケモントレーナーとしての活動になる。しかもこの仕事、危険地帯であっても突撃しなければならないのだから恐ろしい。
凶暴かつ強大な力を持ったポケモンの群れに、お荷物担いだ状態で突撃など考えるだけでも嫌になる。
彼らは本当に偉大なポケモントレーナーだと言えるだろう。
「さて、今度はパルデアの外に目を向けていただきましょう」
さてさて、本題はこちら。僕はポケモンの入ったボールを一つ手に取り一匹のポケモンを出す。
「カモン、サーナイト!」
ホウエン地方で捕獲したサーナイト、しかもただのサーナイトとは違う!
「あの立ち振る舞いっ、格好いいぞ!」
「普通のサーナイトとは全然違う美しさだ!」
「きゃー、あの子すっごくかわいい!」
「一目見ればわかるわ、あの子の中から滲み出す知性!」
「しかしながら、その根幹を占めるのは何物にも負けないたくましさだ!」
あぁ、この歓声が心地いい。パルデア出身の彼らにはきっと未知の感覚だろう。
「これより僕とサーナイトが見せるのはポケモン勝負とはまた別の、しかし同じほどに競い合う世界。ホウエンやシンオウで特に猛者の多いポケモンコンテストの振る舞いです」
ポケモンコンテスト、ポケモンの魅力をどこまで引き出せるのかを競い合う競技会。地方や会場によっていくつかの違いはあるが、やはり根幹は魅力を引き出すことである。
そして僕のサーナイトは、特にその魅力の引き出しに全力を費やした子だと言えるだろう。
その辺りのコツはコンテストを目指すものにしか理解できない部分、故にコンテストのないパルデアではあまりにも格が違うポケモンに映るのだろう。
「サーナイト、まずはサイコキネシス!」
そう僕が告げると共に、カバンの中からおいしい水を取り出してはふたを開けてぶちまける。
するとその水をサーナイトはサイコキネシスで操り、空中に浮かべていく。その光景は見慣れた僕でもなかなかに幻想的、だけど―。
「サーナイト、そのまま10まんボルト!」
魅せるのはまだ終わっていない。浮かび上がらせた水に向かって強烈な電撃が加えられる。ポケモンのタイプ相性であれば、それはただの効果抜群、しかし水はみずポケモンの出した者でも何でもない、おいしいだけの普通の水。
生じるのは電気分解による、水素と酸素―。
「続けてマジカルフレイム!」
さて、水素と酸素に火を近づけるとどうなるか、など義務教育を受けただけの子どもでも知っている。
そう、水素爆発の発生だ。
その爆炎の中にサーナイトは飛び込んでいく。
見ている学生たちもドキドキしているようだ。はた目には鍛えられたほのおタイプのポケモンの大文字をも超えているような勢いだから当然だ。
だが実際の所、サーナイトは炎をサイコキネシスでそらしているのでダメージはない。
「さぁ、フィナーレだ!」
僕の言葉と共に、爆炎は宙に上っていく。サーナイトがそのまま浮かび上がらせ、派手にやっても被害が出ないようにすれば―。
「マジカルシャイン!!」
指示と共に、爆炎が光によって花火のように弾けていく。
やはりド派手なことは大事だ、わざわざムーンフォースからマジカルシャインに技を覚え直させたかいもある。
「ご覧いただきありがとうございました」
ちょっとした演技を終えれば、僕とサーナイトは学生たちの前で軽くお辞儀をする。
すると、学生たちはいっせいにワーッと盛り上がり、大量の拍手までもらえたではないか。
やはりコンテスト、コンテストは万人に受ける。……とはさすがに言い切れないが、最上位勢のポケモン勝負よりかは理解しやすい部類になるだろう。
魅せるためには、見せることを意識しなければならない。結果論として何をしているのかというものは見やすくなるのだ。それに、純粋な勝ち負けは出なくとも、すごいことをやっているという派手さもでやすいしね。
「ありがとう、ありがとう! さて、このような風に演技をしたり、ポケモンと踊ったりしてポケモンの良さを競い合うのがポケモンコンテスト、その参加するトレーナーをポケモンコーディネーターなんて呼んだりします」
コーディネーターはアニメ初の言葉だったはずだが、こっちでは普通に使われていたりする。ゲームメインではあるが、案外アニメとか他のメディアの要素も混じっているらしい。
さすがにかの前世で世界一有名なマサラタウン出身のピカチュウを相棒にする彼の存在は確認していないが、もしかしたら彼もいるのかもしれない。
「パルデア地方では勝負以外の分野はまだまだ未開拓な部分も多いでしょう、ですので皆には新しい世界を切り開く第一人者にもなれるということです」
僕の締めの挨拶とともに授業終了のチャイムが鳴り響く。たった二つしか紹介出来ていない。派手に見せすぎたか?
「さて、では皆さんに課題として他にはどんなトレーナーとしての活動があるのか、いろいろと調べてみてください。テストには出ないですが、皆さんのこれからにきっと役に立つはずですよ」
実際問題、ポケモン勝負で壁にぶち当たった僕を救ったのは、別の道だってあるということを理解できたことだ。頭ではなく魂で。
きっと彼らも、そうなる時が来るだろう。
しかし、僕の授業を受けに来る帽子の少年少女……、どこか僕の友人を思い出す。なぜだ?
結構まじめにバトル以外の楽しみ方っていう意味でコンテスト大好きでした。