異世界転生なんてものをしてようが、人生であることに変わりはない。どんな世界に生まれようとも、生きて死ぬってのは大体の生き物が経験する流れだろう。前世の神話では神さまだって死ぬ話がいくつもあった気がする位だ、大体死ぬんだろう。
……だから、まぁ異世界転生しても人間はそう変わらないし、やらかしなんて絶対どこかでしている。
「ねぇ、ヒイラギ先生」
あぁ、だから少年よ―。
「もしかして、あの歌うポケモン博士さんですよね!」
俺の黒歴史を触るのはやめてくれ。
歌うポケモン博士、インターネット上に数年前存在した歌い手と呼ばれる存在の一人。カントー地方出身、マサラタウン育ちを自称しており、オリジナルの歌を歌っていた少年である。
結論から言えば俺のことだ。
ポケモン博士になる勉強をするために徹夜していた俺が、一時の気の迷いでネット上にある歌を歌って配信したのである。
前世で放送されていたアニメ、しかもこちらの世界には絶対に存在しないソレを全力で歌った。自身がトキワの森で捕獲した、ジム巡りで共に戦ったピカチュウにも参加してもらった。
想像以上に受けたその曲名は『めざせポケモンマスター』である。
言うまでもなく、アニメ『ポケットモンスター』の初代オープニングテーマ。
……配信したソレが受けたが、さすがにいろいろ罪悪感を感じて1週間で消した。
オリジナルと言いながら全然オリジナルでないのだから、まぁ消して当然だろう。
「本当にポケモン博士になれたんですね!」
だから、うん。そんなキラキラして目で見ないでほしい。
授業と授業の合間、ある種休憩時間の僕にとんでもない爆弾はぶつけられた。
黒歴史を掘り返してきたのは、どこかマサラタウンで共に育った友人の一人を思わせる少年。転入生のハルトくんだ。
彼曰く少なくとも、僕の黒歴史を知っているのは彼だけらしい。本当にありがたい。
しかし、わざわざそれだけを言いに来たのか? 僕はそう問いかけようとして―。
「先生のおかげで、僕はポケモントレーナーになりたいと思ったんです」
何だか知らないが、僕は少年を一人導いていたらしい。
いや、言うまでもないだろう―。
「なら、君が目指しているのはチャンピオンよりも上の上?」
「はい、ポケモンマスターです」
前世の世界で少年少女に、そして僕に夢を与えたのと同じことをしていたのだろう。
あぁ、偉大なるサァートシくん、君が僕にしてくれたことを僕は彼にしてあげたのか。
「ははははっ、デカく出たな?」
「夢を見るならせっかくならでっかくって思って。それにネモに誘われたんです、ジムバッジを集めないかって」
ジムバッジ、ある種ポケモントレーナーとしての実力の証明書。僕も、言ってきた地方のバッジを集められるだけ集めたい、そしてトレーナーとしての実力を保つためと、趣味と実益を兼ねてジム巡りをしている。
そしてこのパルデアのアカデミーでは、課外授業である『宝探し』でジム巡りをする生徒も多いらしい。その大半は途中で断念してしまうそうだが。
パルデアの地図を見て、なんで1か所町がじゃない場所にあるのかと困惑を隠せない僕がいる。
まぁ、何かしら意味があるのだろう。
「ふふっ、いいねぇ。55個ジムバッジを持っている僕も応援しているぜ」
「自慢ですか?」
「少なくとも僕は超えてくれってことだよ。僕はむしろ一番集め終わってないといけない、地元がそろってない」
最難関、マサラタウンに最も近いジムのバッジだけは今も持っていない。
今ジムリーダーをしている、友人には勝てる気がピンとこないし。その1個前は……戦いたくない―。
「先生?」
思考の海に沈もうとしていた時、ハルトの声が聞こえて僕の意識が現実に帰ってくる。気が付いたら僕の右手が震えていた。
あぁ、ダメだ奴らを思い出すと勝手に震えだす。
「あの、僕何かおかしなことを―」
でも、それ以上に学生にこんな不安な顔をさせるなど、教師として論外ではないか。
彼のような人たちを導くのがポケモン博士だろう!
「いいや、ちょっと嫌なことを思い出しちゃっただけさ、大丈夫」
実際問題、もう奴らは壊滅した。残党がいても、僕のポケモンが一緒にいれば大丈夫だ。
なんてのは現実逃避かもしれないが……、でもある意味一番あこがれのポケモントレーナーは、そんな悪い奴らに絶対に立ち向かうだろう。
そして、多分―。
「あぁ、そうだハルトくん。君に僕からお願いがあります。受けてくれますか?」
至極真面目な顔で、僕は彼に問いかける。そんな彼もまた僕に対して、年齢にしては大人びて見えるほどに真面目な顔で、首を縦に振った。
おいおい、僕はまだ中身を言っていないというのに―。
「困ったことがあった時、是非とも僕に助けを求めてください」
「へ?」
さて、お願いと言ったから何かを頼まれると思ったのだろう彼は、まるでタネマシンガンをくらったムックルみたいな目でこっちを見つめていた。だが、それでいい―。
「僕はカントーにいた時、オーキド博士や頼りになる友人に何度も何度も、それこそ恥ずかしくなる位助けられてきました。それだけではないです、ジョウトでも、ホウエンでも、シンオウでも、イッシュでも、カロスでも、アローラでも、ガラルでも、他の地方でも、僕はいろんな人に助けられてきたんです」
「助けられて―」
「そして、その分僕も助けられる範囲でいろんな人を助けてきました。すると嬉しいんですよ、助けられるのも助けるのも。きっときっと皆嬉しい方がいいのです、だから是非とも僕を頼ってください」
その言葉に、どこか納得が言った様子で彼は、大きく首を縦に振った。なるほど、それはそれは良いことだ。
「あぁ、特に危ない場所に行く時と、危ない人にかかわる時は特にです。なんちゃら団ーとか、全力で相手しますから」
「なんちゃら団って、もしかしてスター団?」
「ん? もしかしてパルデアにも悪の組織いるんです?」
僕の発言になにかツボにはまった様子で、彼は大きく笑ったかと思えば簡単に説明してくれた。
どうやらスター団とは、アカデミーの不良集団らしい。なるほど、それなら大したことはない、ガラルのエール団に比べればまずいかも知れないが、それでも僕の懸念寄りはマシ……と言いたいが、そこに何か紛れ込んだりするとなぁ……。
できる範囲で調べるべきか? なんて思案していれば―。
「そうだ、先生僕からもお願いいいかな?」
なんて彼は問いかけてくる。ふむふむ、早速頼ってくれるというのなら、僕も喜んで力になろう。
「良いですよ、それで一体なんです?」
「先生の歌、好きだから配信してよ!」
……あぁ、応えるべきかどうすべきか―。
やっぱり、めざポケはいいよね。