肝試しから10日後
夏合宿は残り2週間だが、札幌記念に出走予定のエアグルーヴは1週間後にはトレセン学園に戻ることになる。
つまり、それは彼らに残された最後の時間とも言えるのだ。
この1ヶ月半の間いったい何をしていたのか。
トレーナーはエアグルーヴと気まずくならないように必死で、エアグルーヴはルドルフに言われた通りスキンシップを増やそうと、いつもより近くに座ったり、しっぽを絡めたりもしているが効果は見られない。
告白の、「こ」の字すら現れない。いや、正確に言うと現れそうなタイミングで押し戻されたのだが。
だが、天はそんな彼らに最後のチャンスを与えた。
夏祭りだ
ルドトレ「というわけで春翔くん?」
ブラトレ「分かってるよな?」
ルドブラトレ「「これがラストチャンスだぞ?」」
春翔「わかってる」
ルドトレ「ほんとかぁ?」
ブラトレ「じゃあ約束しろ」
春翔「何をだよ?」
ブラトレ「お前、これで告白出来なければ、エアグルーヴを諦めろ」
春翔「!?」
春翔「おまえ、まさか…」
春翔「エアグルーヴのこと狙ってんのか!?」
ブラトレ「ちげーよ!」
ブラトレ「こんだけ俺らも協力して、期間も決めて追い込んでんのに出来ねぇんなら、その程度の思いってことだろ?」
ブラトレ「そんなの付き合えてもエアグルーヴが可愛そうだろ」
ルドトレ「分かってるな?春翔?」
春翔「…わかった」
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ブライアン「はぁ。もう夏合宿は終わるぞ?告白はいつになるんだ?」
ブライアン「あんたの夏合宿はいったい何月まで続くんだ?」
『そ、そういわれてもだなぁ』
ルドルフ「まあまあ、落ち着くんだ。」
ルドルフ「だが、ブライアンの言う通り時間がないのも又事実だ。どうする?エアグルーヴ」
『ど、どうとは?』
ルドルフ「夏合宿終了までに想いを告げると決めたのは君自身だったはずだ。もし、それが出来なければどうするつもりなんだい?」
ルドルフ「ズルズルと引きずり続けるのか、合宿を終えたらキッパリと諦めるのか」
『いや、です』
ブライアン「なら、やることは決まってるだろう」
ルドルフ「幸い明日の夜から夏祭りだ。花火も上がる予定だ。彼と一緒に行ってくると良い。」
『会長…』
『ありがとうございます。今度こそ良い報告が出来るよう頑張ります。』
春翔の寝室
「終わったよ」
『ん、今日もご苦労だった。ありがとう。』
……
…………
………………
「『あの!』」
「エアグルーヴからどうぞ」
『貴様からで良い』
「じゃあ」
「明日の夜さ、夏祭りあるだろ?一緒に行かないか…?」
『!?』
『あ、あぁ』
『生徒会の見回りが終わってからなら大丈夫だぞ』
「なら、良かった」
『や、約束、だからな!』
「もちろん」
「じゃあ次エアグルーヴどうぞ?」
『へ?』
「?なんか言いたいこと有ったんだろ?」
『い、いや、いい。忘れた』
「そ、そうか」
『そうだ』
『それでは、また明日な』
「あぁ。おやすみ」
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誘って、しまった
明日
明日が正真正銘のラストチャンス
これを逃せば次はない
確実に、何があっても必ず
エアグルーヴに想いを伝える…!
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はぁ、明日
明日ついに、
私のバ生で初めての告白だ
初恋は実らない、だと?
上等だ
私がそんなものいくらだって実らせてやろうではないか
私は女帝だ
女帝エアグルーヴだ!
始まったレースを途中で棄権などするつもりは毛頭ない
必ず彼に想いを伝える…!
19時夏祭り会場入口
『すまないっ、待たせたな』
「ぜんぜんまっ…!」
『どうしたんだ?何か変だったか!?』
「いや、違うよ。むしろ、すごく似合ってるよエアグルーヴ」
『あ、ありがとう』
天使だ天使が目の前に居る
本気でそんなことを思ってしまった
目が覚めるような、それでいて穏やかな青い浴衣を纏った彼女はとても美しくて、一瞬、言葉を失ってしまった。いや、呼吸すら上手く出来てなかったかもしれない。これから、俺は彼女に…
フジやアマゾンの言う通り浴衣を着て良かったと思った。誉めて、貰えた、彼に。
それだけで、その事実だけで天にも登ってしまいそうなところだが、今日はそれどころではない。
私は今日彼に…
「とりあえず、まわろっか」
『あぁ』
「時間も時間だし腹減ったろ?何食いたい?奢るぞ」
『良いのか?では、ニンジン焼きを』
「わりぃちょっとトイレ行ってくるわ」
『では、ここで待っているとしよう』
「すぐ戻るから」
男A「おっ、可愛いおウマちゃんはっけーん!」
男B「ねぇ今暇でしょ?俺らと遊ばねぇ?奢るからさぁ」
『すまないが他を当たってくれ。人を待っているんだ』
男A「えー?ほんとにぃ?彼氏?」
『答える義務はない』
男B「おい、見ろよこの子おっぱいも大きいぞ!」
男A「ホントだwそんじゃ、失礼しまーす」
男B「ウマ娘は俺らに暴力振るえないもんな?ww」
『や、やめ「おいっ!!!!」』
男A「あんだぁ?おまえ」
男B「やんのかぁ、ゴルァ!」
「それはこっちの台詞だ。俺の女に手ぇ出そうとしてんじゃねぇよ!!」
お、俺の女…///
男A「はぁ?俺らが先に声かけたんだよいきなり来て、しゃしゃってんじゃねぇよ!!」ブンッ
『!?』
男B「なんだこいつ?威勢だけは良かったくせに。よっわぁww」
『大丈夫か!?』
「あぁ」
『貴様ら!』
「待てっ」
「少し大人しくしててくれ」
『だが、』
「大丈夫だから」
大丈夫じゃ、ないだろう 震えてるぞ
ほんとは怖くてたまらないんだろう彼も
なのにっ
「おい、一度しか言わねぇから良く聞け」
男A「なんだぁ?もう1発欲しいってぇ?」
「今すぐ俺の視界から消えろ。2度と関わるな」
「じゃないと」キッ
「ナニをするかオレでもわかんねぇからよ」ギロッ
男B「な、なんだぁお前急に」
男A「くそっ」
男A「いくぞっ」テクテク
「っエアグルーヴ大丈夫か!?」
「どっか、触られたり、ケガとか」
『大丈夫だから落ち着け!』
「すまないっ!俺が側を離れたばっかりに。怖かっただろう。すまない、本当にすまない!」
『結果として何もなかったんだ。それに貴様は何も悪くないだろう。私を守ってくれたんだ』
「でも、」
『この話は終わりだ』
『時間は有限だからな。夏祭りの続きを楽しむぞ!』
『そろそろ花火が上がる時間だろう』
「それなら、地元の方に良いスポットを教えて貰ったんだ」
『それは楽しみだな』
「こっちだ」
『すごい人混みだな』
「こりゃたどり着くのも一苦労だな」スッ
『?なんだ?』
「人、おおいから。はぐれないように」
『!あっあぁ。』ギュッ
なんだか、手、震えてるか?
それに少し、冷たい
緊張してくれているのか?
私と手を繋いで
テクテク
テクテク
「ここだっ」
『ほう、これは絶景だな』
パァン パチパチ
ヒューン パンッ
『綺麗だなぁ』
「あぁ」
『ありがとう』
『誘ってくれて、連れてきてくれて』
『本当にありが..!』ギュッ
『とれー、なぁ?』
「ゴメン」
「エアグルーヴ」チュッ
『!?!?』チュッ
ギュー
『トレ「ごめん。本当に、ごめん」』
「我慢、できなかった」
「こんなの、順番も違うし、俺らは教師と生徒だし、他にもイロイロ、間違ってるのかもしれないけどっ」
「エアグルーヴ」
「好きだっ」
「何よりも、誰よりも愛してるっ」
「幸せに出来るかはわからない、約束できないけど」
「一生涯大切にすることだけは誓える!」
「結婚を前提に、俺と付き合ってください!」
『あっ、ああっ』ポロポロ
『わだっ、わだしもっ』
『ぎざまがっ、あ"なたが、はるとさんが、だいすきだっ!!』
『だれよりも、やさしくって、つよくて、かっこいいあなたが』
『だいすきだっ!』
『さっきも"っ、あ"なたらって、ごわがったのに、手もっ、ふるえでだのに"っ、がまんじて、まもっでぐれてっ』
『ずっと、ずっと、いっしょに、いたいっ!!』
「ありがとう、エアグルーヴ」
「俺も大好きだ!」
「ずっと一緒に居よう」
『ほんとだな?約束だぞっ?イヤだって言っても離れてやらないぞっ?』
「それは、俺の台詞だよ?」
『春翔さん』
「うん?」
『もっかい、もう一回、して欲しい』
「!」
『ダメか?』ウワメヅカイ ウルウル
「駄目なわけ、ないだろ」
チュッ
いまはまだ
軽く、触れるだけ
なのに
どうにも離れがたくて
互いにすぐに次を求めてしまう
いつからこんなに貪欲になったのだろう
彼女の甘く、柔らかい唇を堪能して
どのくらいたっただろう
花火はもう、とっくのとうに終わっていて
屋台も閉じ、人も殆どいなくなっていた
「エアグルーヴ」
『す、すまない』
「いいよ」
「俺も、ずっとこうしたかった」
『花火、見れなかったな』
「また来年、一緒に見にこよう」
『服も汚してしまった』シュン
「良いよそんなの」
「エアグルーヴこそ、自慢のアイシャドウが崩れちゃったな」
『貴様のせいだ』
「ごめんごめん」
「遅くなるとまずいし、そろそろ帰ろっか」
『あぁ』ソデギュッ
「どうした?」
『その、ひとが…おおい、から…』
「!」
「あぁ、そうだな」
「ひどい人混みだ」