クリスマス装飾の準備も無事に終わり、自宅で冬休みの課題をこなしているエアグルーヴを見て、あぁそういえばこの娘も学生なんだった。と、よくわからない感情に浸っていた。
一線を越えてしまった罪悪感からかもしれない。
「エア?宿題やってんの?偉いねぇ」
『この同棲生活を始めるにあたって約束しただろう。』
『というか、そもそも春翔さんが提示したルールだろう?』
そう彼らの中にはいくつかルールがあった。
・課題は最優先で終わらせること
・普段の勉強も欠かさずに続けること
・スケジュールが混雑していたら相談すること
・体調不良の時はごまかさず素直に休むこと
・トレーニングも欠かさないこと
・以上のルールを一度でも守れなければ、普段の週末も含め同棲生活は解消すること
これが春翔がエアグルーヴに提示したルールだった。もちろんエアグルーヴも同意している。
だが、エアグルーヴも春翔に約束を取り付けさせた。
・仕事が忙しいときはちゃんと報告すること
・仕事や友達との付き合いであれば飲みに行っても構わないがちゃんと連絡をすること。
・辛いときや悪夢を見たときには、エアグルーヴが眠っていても起こしてちゃんと相談すること
・体調不良は素直に申告すること
・どれだけ忙しくても日付が変わる前にはベッドで眠ること
・食事は毎日三食とること
これには渋々ながら春翔も同意した。
そして、それとは別に2人で決めた生活のルールもあった。
・家事は基本的に分担制で行うこと
・常に相手に対する感謝の気持ちを忘れないこと
・気持ちはちゃんと素直に相手に伝えること。
その他にも暗黙の了解のような細かいルールはあるがあえてリストアップするならばこのような感じになる。
『むぅ。』
「どした?」
『いや、少し難問がな』
「どれどれ」
『…分かるのか?』
「…もしかして俺のことバカにしてる?」
『そういうわけではないのだが、春翔さんは教員ではなくトレーナーだろう?』
「やっぱりそうじゃん!」
『なっ、なぜそうなるのだ!?』
まず、中央トレセンのトレーナーになるには東大合格よりもさらに難しい試験を受け、理事長の面接を合格しなければならない。
春翔はそれに現役で一発合格しており、大学やトレーナー試験も首席なのだ。
そんなことを知らないエアグルーヴが心配しているのは、彼女がトレセンの中でも最上位のクラスに在籍しているからだった。学業、レース共に優秀でないとまず入れないクラスだ。つまり授業内容も難しい。
「まあ、いいから見してみ」
「ん、こーゆうタイプね」
「じゃあさ、エアはどうしてこの問題が難しいと感じたと思う?」
『分からない単語がある、代名詞が多すぎる、一文が長い、語群が多すぎる』
彼女が解いていたのは長文の中に語群があり、文章の流れに合うように並び替えろという問題だった。
普通は並び替えるのは一文だろうが、3文も並び替えなければならなかった。
要するに 大体一段落分だ。
「オッケー大体あってると思う」
「そしたらさ、単語の意味はまずおいといて、何ならこの問題ごとほっといて、この塊の前と後の塊でどんな話してそうかわかる?」
『上はサキの留学についてでアドバイスを求めてる』
「そうだな大体そんな感じだ」
「じゃあ、アドバイスを求められたらどうする?」
『返事するな』
「だよな?ってことはまず、Ms,whiteは返事するんじゃね?」
『なるほど』
「これが書くこと①な」
「んで、下は?」
『サキが留学に行く目的?理由?を述べてホワイト先生に感謝を伝えているな』
「そーだろ?」
「なら、なんでサキは留学に行く目的について話したと思う?」
『理由を聞かれたからか?』
「そゆこと」
「これが書くこと②な」
「これで2/3の内容がわかったってことで後の1/3は消去法で何とかなりそうだろ?」
『あぁ』
「そしたら楽そうな方だな、②の方から英訳してくぞ」
「サキは理由を聞かれたんだよな?ならなんて聞かれたと思う?」
『なぜあなたは留学するのですか、とかか?』
「たぶんそんな感じだろ。じゃあ書いてみて」
「次な?①の方考えるぞ」
「サキにDo you -?で聞かれてるよな?その時ってどうやって答えるんだっけ?」
『まずは肯定か否定をするな』
「なら、それに使えそうな表現探して書いてみよっか」
「んで、最後だな」
「後は残りの単語並び替えるだけだが、」
『その肝心の意味がわからなくてはなぁ』
「ふっふっふっ、まだまだお子ちゃまだなぁ」
『なんだ急に』
「どこにも日本語訳しろなんて書いてないぞ」
「まずは動詞もしくは主語をみつけてみろ」
『動詞は…わからんな。だが主語はitか?』
「そうだな。動詞は"わかんない"んだよ」
『…どういうことだ?』
「動詞がわかんない、でも他に動詞っぽいものも見当たらない」
「ってことは動詞はエアがわかんない単語なんじゃないか?」
『!だが、コレとコレも分からないんだ選択肢が2つあっては…』
「そんなエアちゃんに朗報です。この文の主語はitだろ?んでもってココではずっと現在の話をしている。ってことは動詞の最後にアレがついてるの選べばいんじゃね?」
『Sか!』
「後はできるな?」
『あぁありがとう』
『終わったぞ』
「よしっんじゃ会議するぞ」
『唐突だな』
「議題はクリスマスだ」
「なにしたい?」
『特別なことはしなくとも私は春翔さんと過ごせればそれで満足だぞ?』
「それは俺もそうだけど、せっかくなんだしさ。何かあるだろ?クリスマスっぽいの」
『ずいぶんざっくりだな』
『世の中の恋人たちはクリスマスデートというのをするようだが…』
「エアは?したい?」
『したいか、したくないかで言えばしてみたいが?具体的にどんなことをするものなんだ?』
「まあ、俺がよくするのはイルミネーション見に行ったり、いつもよりお高いレストランで食事したり、お互いにプレゼント送ったり後はお泊まりして夜通しうm『わかった』」
『よく、わかった』ションボリ
「エア?どうしたの?」
『…春翔さんは、ずいぶんと、女性経験が、豊富なんだな…』ションボリ
「…エア…それは…ちが、くは無いんだけど…」
「…なんというか」
『いや、すまない。私のくだらない嫉妬なんだ。』
『むしろ、春翔さんみたいに優しくてカッコよくってなんでも出来ちゃうような人に彼女がいない方が不自然で…』
『すまない。別に困らせたいわけでも、何かして欲しいわけでもないんだ。すまない。』
「エア…」チュッ
『!』
ギュー
「ごめんね。エアが謝ることないんだよ。俺だってエアの元カレとかの話聞いたら、きっと人生終わらせてしまいたくなる位つらいと思う。ちゃんと配慮出来なかった。ごめん。」
『じゃあ。全部、全部私で上書きしてくれ。』
『もう、私以外は思い出せないくらいに愛してくれ。』
「…エア。わかった。エアも一生忘れられないくらいのクリスマスにしよう!」
『!あぁ楽しみにしている』