ひざまくらから数日後の放課後
「いよいよ来週はオークスだな!」
『あぁ、これだけは何がなんでも譲らん!』
「うん、その意気だ」
『今日のトレーニングは?』
「もう、スピードもスタミナもパワーも申し分なく伸びてるからね」
「後は怪我に注意しながら、本番の駆け引きを想定して仕掛けのタイミングを調整しよう」
『了解だ』
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ミーティング
「コレが今日の映像ね」
「エアグルーヴは最後の直線の段階で—」
『ふむ、分かった』
『要は末脚を存分に活かすために直線までのレースは位置取り調整に使え、ということだな?』
「そゆこと」
「今の状態のエアグルーヴなら、この作戦でも逃げられたりしないはずだ。最後の最後に必ず差しきれる!」
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オークス当日
『ではトレーナー行ってくる』
「あぁ、エアグルーヴなら大丈夫だ」
「最後まで諦めず、自信を持って走れ」
「お前は女帝だ、女帝エアグルーヴだ」
「世代の頂点に立ち、女王を越えるのは他でもない、うちの女帝だと皆に知らしめてやれ!」
『当然だ』
『貴様は何も心配せずに、ライブとインタビューのことでも考えておけ。』
「そして一番人気はティアラの一角、最初の桜花賞を制したエアグルーヴです!!」ワァー
ガコンッ!!
「ただいまゲートが開きました、各ウマ娘順調に飛び出して行きます!」
「曲がって最後の直線!一体抜け出すのは誰なのか!!」
「おおっと!ここでエアグルーヴです!!一番人気エアグルーヴがものすごい末脚で迫ってきた!!先頭4番逃げきれるのか!?エアグルーヴが来た、エアグルーヴが来た!!エアグルーヴ!差しきってゴールイン!!」
『聞こえるか、この歓声これが理想というものだ!』
「やったね!エアグルーヴ!!」
『あぁ、だがあと一つ』
「うん、秋華賞だな」
「秋までまだ時間はある、ゆっくり確実に調整しよう」
「もしかしたら史上初、無敗のトリプルティアラも夢じゃないぞ!」
『そう逸るな、たわけ』
『では私はライブに行ってくる』
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その日の夜
ダイナカール「エアグルーヴ!おめでとう!!」
「ついにオークスを勝ったのね!」
『はい、お母様。ありがとうございます。』
『ですが、私はこれで満足するつもりは露程もありません』
「まあっ!貪欲な子ね?」
「一体誰に似たのかしら?」
『女王を越えるためにはこんな所で胡座をかいては居られませんから。』
「そう」
「でも忘れちゃダメよ?」
『?』
「あんたがここまで来られたのは何もあんただけの力ではないでしょう?」
「トレーナーさんとはどうなの?上手く行っているの?」
『えぇ、私の理想の杖ですから』
「ふふっ、そう、なら良かったわ♪」
『それでは、もう遅いので』
「えぇ、トレーナーさんにヨロシクね!おやすみ、エアグルーヴ」
『分かりました。おやすみなさい。』
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私だけの力ではない
そうだ、彼は私のために文字通り身を削って仕事をしてくれている
仕事?
仕事なのか?
毎朝 早くから朝トレと花の水やりに付き合い
昼休みや放課後には私の後輩の指導をし、
生徒会業務の手伝いもしている
これは 彼の仕事だろうか
違う
トレーナーにそんなことをする義務はないはずだ
私のため、ただ私のためだけに彼は己の時間も、体力も使っているんだ
なぜ そこまでしてくれるんだ
私は 彼に返せるものがあるのだろうか
わからない
『はぁ』
ファ「どうしたのグルーヴさん?」
「こんな嬉しい日にため息なんてついて?」
『いや、最近はどうにもわからないことが増えていてな』
「わからないこと?」
『あぁ』
『先ほどお母様に言われたのだ』
『私がここまで来れたのは、私だけの力では無いだろうと』
『それは私も分かっているんだ、まぁ、先程まで失念していたのもまた事実なのだが』
「それなら何がわからないの?」
『私が彼に返せるものはあるのかと』
『彼はトレーナーとしての業務の範疇を優に越えた働きをしてくれている』
『だが、だからこそ、そんな彼に返せるものがわからないのだ』
「う~んそれは難しいね、私もトレーナーに恩返ししたいけどなぁ」
「でも結局はレースでしか返せないのかも」
『レース、か』
「トレーナー達が私たちのためにしてくれているのはレースで勝つためでしょう?」
「ならば私たちウマ娘はレースで勝つことでトレーナーに返すしか無いんじゃないのかなぁ」
『そうか、』
「あっ!でも直接トレーナーさんに聞いてみたら?」
「お礼をしたいけれど、何かしてほしいことはないかって」
『なるほどな、参考になったありがとうファイン』
「ううん、グルーヴさんのためだもの♪」
『いづれファインにも礼をせねばな』
「そ れ じゃ あ♪」
「グルーヴさんの恋の行方を教えてほしいなぁ♪」
「ねぇねぇ、あれからトレーナーさんとはどうなったの?」
『なっ、何もない!』
「でも、トレーナーさんとお出かけしたんじゃなかったの?」
『お出かけ、というか奴の家に行って家事をしてやっただけだ』
『少し外に出て食事や買い物はしたが』
「えぇ!?グルーヴさんトレーナーさんのお家に行ったの!?」
『あっ、あぁ』
「それってお家デートって奴じゃない!?」
『でっ、デートだと!?』
「ねぇねぇ、他には?どんなことしたの?」
『一緒に料理をして夕食も共に摂った』
「良いなぁ、なんか新婚さんみたいだね♪!」
『なっ、しっ、新婚だと!?』
『結婚などしていないぞ、断じて!』
「もうっ!知ってるよ~」
「そもそも付き合ってすらいないのでしょう?」
『まっ、まぁな』
『そもそも私たちは生徒トレーナーは教師』
『子供と大人の関係だ。恋愛などまずいだろう』
「そうかなぁ?お互い合意の上なら良いのではなくて?」
「第一トレーナーさんのお家に行ってる時点でそんなこと言ってられないでしょう?」
『くっ!』
「それで?他にはどんなことを?」
『…ら』
「えっ?」
『だから、』
『ひざまくらをしたんだ!!』
「ええっ!?お付き合いもしていないのに?」
「グルーヴさんが忘れてるだけで実はお付き合いしているんじゃないの?」
『そんなわけが無いだろう』
『以前友人に聞かれたときに彼はちゃんと否定していた』
「そっかぁ」
『もう寝るぞ!!』
「はぁい、おやすみなさいグルーヴさん」
翌日
生徒会室にて
ルドルフ「先日はおめでとうエアグルーヴ」
「友人として賛辞を送ろう」
『ありがとうございます。会長。ですが、私とて一ウマ娘で、女帝です。皇帝の首取りも目標に掲げておりますゆえ、ご注意下さい。』
ルドルフ「これは私も、うかうかして居られないな」
ブライアン「ふんっ。落ち着いたら並走させろ」
『お前はもっと言い方と言うものが有るだろう』
ルドルフ「まあまあ、それほど君の走りが魅力的だったということだろう」
—そして夏合宿がやってくる