VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第3話 辞令、青葉ずんだと川崎ばにら、百合営業をせよ。(後編)

「単刀直入に言わせてもらうよ。青葉ずんだ、川崎ばにら。ふたりにはこれからコンビで活動をしてもらう。ただし事務所の方針と悟らせないよう『自然な感じ』でね」

 

 事務所の前で気まずい出会いをしてから数分後。

 私とずんだ先輩は社長室にいた。

 

 革張りの椅子に腰掛けた社長。

 彼はここぞという時に見せる笑顔で私たちにとんでもない辞令を突きつけた。

 

 私とずんだ先輩がコンビ?

 ゆき先輩でも、うみでもなく、ずんだ先輩と?

 どうして?

 

 混乱する私をよそに社長が壁に掛かった大型ディスプレイの電源を入れる。

 表示されたのは社長のPC画面。すぐにブラウザを開くと、彼は「川崎ばにら」の「金盾凸待ち配信」を再生した。配信準備中のループ映像が流れる中、社長が「もう100万回再生か。すごい反響だね」と呟く。

 

「当事者の君たちが一番実感していると思いますが、先日のばにらくんの金盾配信が大きな反響を呼んでいます。最初こそひやりとしましたが、終わってみれば大成功。現トップVTuberの貫禄を見せつける見事な配信でした」

 

「それはその、ゆき先輩やずんだ先輩が助けてくれたおかげで……」

 

「分かっていますよ。ずんだくん、前日に耐久配信をしていたにもかかわらず、ばにらくんの配信によく駆けつけてくれました。貴方があのタイミングで凸待ち配信に現れなければ、これほどの反響を呼ぶことはなかったでしょう」

 

 ずんだ先輩は何も言わなかった。

 社長から直々に褒められたのだ「ありがとうございます」の一言くらいあってもいいと思う。なのに、彼女は背中の後ろで手を組んでじっと社長をにらんでいた。

 

 落ち着きなくあわてふためく私とは大違い。

 流石は「氷の女王」さま――。

 

(かっこいいな……)

 

「この配信の直後から、川崎ばにらを指名して企業から案件の打診が来ています。広告への利用からCMの出演依頼、企業配信チャンネルとのコラボなど。正直、我が社の営業部が嬉し泣きするほどの成果を君は出しました」

 

「あ、はい。でも、それは契約で」

 

「そう、ダメなんですよね。広告へのキャラクター利用は大丈夫。けど、CMやテレビ番組などへの出演依頼は受けない。それが入社時に君と私たちが結んだ取り決めです。君はあくまで『VTuber』としての活動を優先したい――でしたね?」

 

「は、はい」

 

 社長の鋭い視線に私は生唾を飲んだ。

 

 半分は本当、半分は嘘。

 

 企業案件を受けると必然的に配信時間が削られる。

 それなら、私はその時間をリスナーのために使いたい。

 これは本当の気持ち。

 

 一方で、単純にメディアに露出するのが怖かった。

 私はあくまで配信者。ゲームをするのが好きなただの女の子。

 アイドルのようになんて振る舞えない。

 

 入社時に交わした契約はトップVTuberになってもそのまま。金盾配信の当日に、3期生の中で私だけが企業案件の出演予定がなかったのもそのためだ。

 だから、企業案件を持ちかけられても困る――。

 

「そう、困っているんですよね」

 

「けど、最初に契約したことです……から!」

 

「分かっています。僕たちも君の活動を第一に考えています。『トップVTuber』として、ばにらくんは活躍してくれればそれでかまいません。幸いにも、うちには多くの才能を持ったタレントが所属してくれています。君の同期の八丈島うみくんのように、企業案件や新規事業にはそれが得意なタレントを当てましょう」

 

「はい、ぜひそうしてください。私には……できないことですから」

 

「ですが、今回ばかりはちょっと事情が違うんですよ」

 

「事情?」

 

 社長が少し椅子を後ろにずらした。

 ぎぃとフレームが音を立てて軋む。

 

 耳障りなその音と共に「氷の女王」の表情がはじめて崩れた。

 

「オファーが来ているのは君だけじゃないんです」

 

「私、だけじゃ、ない?」

 

「金盾配信に颯爽と現れて後輩の窮地を助けた救世主――青葉ずんだにも企業から多数のオファーが寄せられています。単独でも、川崎ばにらとのセットでもね」

 

「せ、せせ、セット⁉ こ、困ります、そんな――」

 

「お断りします」

 

「ずんだ先輩⁉」

 

 私が断るより早く、ずんだ先輩が社長のオファーを蹴った。

 

 そんな即答しなくてもいいんじゃない。

 私ならともかく、ずんだ先輩にとっては悪い話じゃないはずだ。

 まぁ、私とセットというのは無理だけれど。

 

 ずいぶんきっぱりと断ったずんだ先輩に社長が重いため息を漏らす。

 天井のエアコンから冷たい風が私の肩に吹きつけた。

 

「君ならそう言うと思っていたよ」

 

「……へ?」

 

「君も入社時に契約しましたね。顔が知られる企業案件への参加はNG。グループ内でのメンバーとのオフコラボも、記念ライブなどの理由がない限りしない」

 

 はじめて聞いた話だった。

 ずんだ先輩が事務所にそんな活動条件を呑ませていたなんて。

 

「……そ、そうなんですか?」

 

 思わず、私は隣の彼女に尋ねていた。

 

「黙っていてくれる? 今、私は社長と話しているの」

 

 そんな私を氷の女王は冷たく突き放す。

 それはもう「本当にこの人が放送事故に駆けつけてくれた人なのか?」と、疑わしくなるくらいに冷淡だった。

 

 固まる私。

 苦笑いを浮かべる社長。

 微動だにしないずんだ先輩。

 

 三者三様、決して交わることのない、おかしな話し合い。

 それに有無を言わさぬ結論を出したのは――やはり社長だった。

 

「というわけで、鳴り止まないオファーを我々は粛々とお断りしています。正直、もったいないことをしたなとは思っていますが、君たちふたりがそういう方向性のタレントなのだから仕方がない。タレントを守るのは、会社と社長の務めですから」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

「とはいえ、その埋め合わせはして欲しい。せっかく話題になった『麗しい先輩後輩の美談』を、このままにしておく手はありません。それこそ、君たちが大事にしている『VTuber』としての活動にもこれは使えるでしょう?」

 

「……それは」

 

「ばにらくん。君はこのネタを使って、さらにチャンネル登録者数を伸ばしたいとは思わないのかね?」

 

「けど、ずんだ先輩が嫌そうですし……」

 

「最後にコラボの約束をしていたじゃないか? あれはリップサービスかい?」

 

 そうだけど、そうじゃない。

 

 確かにこれだけ話題になっているのだ、配信者としてこの機会を逃す手はない。

 リスナーだって分かってくれる。いや、むしろそれを望んでいるまである。

 

 だって社長の辞令は何も間違っていないから。

 

 これはあまりにも有名な営業方法。

 私たちみたいな女性タレントが名をあげるのにうってつけの方法。

 アイドル営業の最も冴えたやり方。

 

「もう一度言おう。青葉ずんだ、川崎ばにら。君たちにはこれからしばらくふたりで活動してもらう。つまり――『百合営業』をして欲しい」

 

 女の子同士が積極的に絡むことで「特別な関係性」を匂わせる。

 相手が異性でないためファンを失望させない比較的安全な営業方法。

 

 百合営業。

 

 私たちが打診されたのは世間一般的にはそう言われている行為だった。

 

 そして、そんな社長自らの辞令を――。

 

「ちょっ、百合営業って! 社長ってば、冗談キツいですね~!」

 

「嫌です」

 

 ずんだ先輩はまた軽く一蹴してしまうのだった。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 百合営業「する」のかい? 「しない」のかい? どっちなんだ~い?
 「する!」と強く希望する方は、評価よろしくお願いいたします。m(__)m
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