VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第36話 お泊まりばにずん晩酌配信(前編)

「……ところで、アンタなんか臭くない?」

 

「……あ、やっぱり臭いますかね?」

 

「臭いますかねって⁉ ちょっと、よく見たら昨日と同じ服じゃない⁉」

 

「…………うへへ」

 

 幸せな時間は唐突な現実感と共に終わりを迎えた。

 私の体臭に気がついたずんだ先輩がそっと私を突き放す。

 

 ジロジロと眺めるのは私の服装。

 お察しの通り、昨日の夜から私の衣装は変わっていない。

 どうしてか。それはとても単純な話。

 

「コラボ配信したあと、そのまま疲れてうみの家で寝ちゃって。起きたら、先輩との約束の時間でだったんですよね。着替えを取りに帰る暇もなくって」

 

「暇もなくってじゃないわよ! うっかりベッドに座らせちゃったじゃない!」

 

「そんな! 人をまるで汚物みたいに!」

 

 あわてて私を立ち上がらせるずんだ先輩。

 彼女はすぐさま奥のクローゼットをあさるとそこから紙袋を取り出した。

 中には、バスタオルと無地のTシャツ、あと、新品のパンツとスポーツブラ。歯ブラシやカミソリなんかも入っていた。

 

 間違いない!

 これはお泊まりセット――!

 

「今すぐお風呂に入りなさい! 女の子がお風呂に入らないなんてダメよ!」

 

「……私、お風呂は三日に1回とかですけれど?」

 

「よし、さっさと引っ越し先を決めるわよ。それと、女の子の文化的に最低限の生活がどういうものか、みっちり教えてあげるわ」

 

 どうやら私は女の子失格だったらしい。

 尊敬している先輩から言われるとしんどいな。

 

 (´・ω・`)

 

 痛いくらいに背中を押してずんだ先輩は私をバスルームに放り込んだ。

 先輩の家でお風呂を使わせてもらうなんて申しわけない。「すぐに銭湯に行きますから」と主張する私を、「いいからとっとと入れ!」とずんだ先輩は一喝した。

 

 とほほ。

 私はあきらめて服を脱ぐ。

 すると、ずんだ先輩がすかさず脱衣所に入ってきた。

 

 お決まりの「きゃあ、先輩のエッチ」みたいな流れを一切無視して、彼女は浴室に私を押し込む。そして、磨りガラスの引き戸をぴしゃりと閉めた。

 

「私はアンタの服を洗濯しておくから、ゆっくり湯船につかってなさい! 待って、その前にシャワーを浴びて! ちゃんと汚れを落としてから湯船につかって!」

 

「だからぁ、人をばい菌みたいに言わないでくださいよぉ!」

 

「ばい菌みたいな状態でしょ!」

 

「ひどい! さっきまでやさしかった先輩はどこに!」

 

「十分やさしいでしょ! そのまま家の外に放り出さないだけ感謝しなさい!」

 

 お風呂に入らないと出られない先輩の家。

 かくして私はしぶしぶ先輩の家でお風呂に入らせてもらった。

 

 彼女の家のお風呂はジャグジーだった。

 シャンプーなどもかなりお高いものだった。

 なにより浴槽にアロマが置かれているのが新鮮だった。

 

 女子力たっけぇ。

 

「ずんだ先輩、お風呂、ありがとうございます」

 

「いいわよ。それより、ドライヤーとか保湿剤とかお風呂上がりのケアに必要なもの準備しとくから。上がったらすぐにダイニングキッチンに来なさい」

 

「……まだ続くんですかこれ?」

 

「当然!」

 

「とほほ」

 

「まったく、アンタの女子力のなさには、毎度のことだけど驚かされるわ」

 

「ご迷惑をおかけいたします」

 

「いったいどういう生き方してたらそんな風になるのよ。まさかアンタ、女じゃない――ってことはないわよね」

 

「なに見てるんですかぁ!」

 

 磨りガラスの向こうに浮かぶずんだ先輩のシルエット。

 その手がつまんでいるのは一張羅(おでかけ用)のブラジャー。

 

 やめてください。

 そんなのジロジロ見ないでください。

 うみ(DStarsのセクハラ常習犯)じゃないんだから。

 

 あれ?

 けど、ちょっと待て――?

 

「先輩? 服、洗濯しちゃうんですか?」

 

「そうよ。この洗濯機、乾燥機能つきだから。3時間もすれば乾くわ」

 

「3時間ですか?」

 

「なにか問題でも?」

 

「いや、まぁ、その……今日も一応、配信の予定を告知しておりまして」

 

「あら、そうなの? 何時から?」

 

 これだけお洒落なお風呂場だ。

 時計があるかなと探してみたが、残念なことに見つからなかった。

 

 そうこうしているうちに軽やかな電子音が脱衣所から響いた。

 水が流れる音も一緒に――。

 

「えっと、一応、今日の20時からなんですけれど」

 

「20時ね。今、17時47分だから」

 

「服が乾くのが3時間なので」

 

「「……帰れるのは21時くらいか」」

 

 あれ、間に合わなくない?

 そう私たちが気づいた時には、洗濯機が「ゴウン」と音を立てて回りだしていた。

 

 やってしまった――。

 

「ちょっと待って⁉ アンタ、耐久配信のあとなのに配信するつもりだったの⁉」

 

「まぁ。元々、スケジュール告知してましたし」

 

「くそっ! 流石は私が見込んだVTuber! 配信にかける熱意が違う!」

 

「それよりどうしましょう先輩? また配信環境を貸してもらってもいいですか?」

 

「それは構わないけど、アンタまたゲーム機持ってないんじゃないの?」

 

「そうでした!」

 

「もう1回、ミニファミコンで併走は、流石にファンも飽きるわよ……」

 

 今度こそ万事休すか。

 川崎ばにら、痛恨の配信ドタキャン。

 金盾配信からここまで、危ない橋を渡ってきたがそれもここまで――。

 

 そう思った時、ずんだ先輩が急に浴室の扉を開けた。

 

「きゃあ! ずんだ先輩のエッチ!」

 

「バカなこと言ってんじゃないの!」

 

「けど、びっくりするじゃないですか! いきなりお風呂を覗かれたら!」

 

「いいから! ばにら、アンタ今年で何歳?」

 

「ピッチピッチの18歳な、レースクイーンバニーガールバニよ」

 

「実年齢!」

 

「……26歳です」

 

「成人しているから飲酒してもヨシ!」

 

 どうしてヨシなのか。

 なにがヨシなのか。

 けれども、ずんだ先輩が何をする気なのか分かってしまった。

 

 だってVTuberだから。

 

「ばにらちゃん、ウイスキーはロックと水割りどっち派?」

 

「ばにらはどっちかっていうと、ミルク派バニですよ……」

 

 ずばり――「お泊まり晩酌配信」だ!




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

先行連載しているカクヨムにて本日最終話更新しております。
もし続きが今すぐ気になる……という方は、よろしくお願いします。m(__)m

https://kakuyomu.jp/works/16817330649719403871
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