VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第43話 DStars 夢のVTuberタッグバトル(前編)

 打ち上げは深夜四時過ぎまで続いた。

 そこから徐々に人が寝落ちし始め、気づけばみんな思い思いの場所で眠っていた。

 

 すず先輩とぽめら先輩が同じクッションで肩を寄せ合い眠る。

 ゆき先輩とあひる先輩が取っ組み合うようにカーペットに転がる。

 もみじ先輩はといえば、ローテーブルにもたれかかり「はみょん」と寝言を呟く。

 いく先輩が部屋の隅で体育座りのまま船を漕ぎ、うみはそんな彼女にすがりつくようにうつ伏せで気を失っていた。

 

 私と美月さん――そしてりんご先輩も、ソファーの背もたれを倒してベッドにし、そこで眠りについた。先輩二人は、ライブの疲れもあってかすぐに寝てしまったが、私はなかなか寝付くことができなかった。

 

 次に目を覚ましたのは翌朝の10時過ぎ。

 あひる先輩が既に起きており、部屋の片付けを黙々と行っていた。すぐに手伝おうとしたが「いいっていいって、もう終わるから」とやんわり断わられた。

 

 部屋からは既に何人か先輩たちが居なくなっている。

 聞けば、ぽめら先輩を迎えに彼女の旦那さんが来たらしく、彼の車でゆき先輩ともみじ先輩、すず先輩は帰ったんだそうな。

 

「ばにらはどうする? 電車で帰る? それともうみが起きるまで待ってる?」

 

「えーっと、どうしようかな……?」

 

「ずんだとりんごは、今日は一緒にショッピングに行くらしいから。いくは、あひるが家まで送るから。ばにらの好きにして大丈夫だよ?」

 

「……そう、なんですね」

 

 ショッピングの話は初耳だった。

 

 本当は美月さんが起きてから、タクシーで一緒に帰ろうと思っていた。

 けど、りんご先輩との約束があるならそれはできない。

 

 ソファーに寝転がっている美月さんを見る。

 彼女は私に背を向けて、りんご先輩の肩に手を伸ばすようにして眠っていた。

 りんご先輩はといえば、そんな美月先輩の手から逃げるように、貸し出しのブランケットにくるまっている。

 

 ただの寝相だ。意味なんてない。

 けど、なんで――。

 

「……ばにら?」

 

「え? あ、はい?」

 

「どうしたんだお前? なんか、ちょっと顔怖いぞ?」

 

 あひる先輩の心配そうな声で我に返る。

 私はソファーから立ち上がると、「顔洗って来ます!」あわてて部屋を出た。

 

 共用部の廊下を駆けてお手洗いに。

 人工大理石の洗面台に立てば、酷い顔をした女が鏡に映っていた。

 酒も呑んでいないっていうのに。

 

「どうしちゃったんだろ、私……」

 

 自分でも自分がおかしいことには気づいている。

 美月さんとりんご先輩が喋っている時に、胸に抱くこの感情はなのだろう。

 

 嫉妬ではない。

 羨望でもない。

 もっと漠然とした不安。

 

 配信者なんてやっているのに、この気持ちを言葉にすることができない。

 

 とりあえずお湯を出して顔を洗う。

 ペーパータオルで顔を拭けば、酷い顔はいくらかマシになっていた。

 ただ、涙袋の赤みが取れるのには、少し時間がかかりそうだった――。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「ばにらちゃん、それは嫉妬だね。りんご先輩にずんだ先輩を盗られちゃう――っていう感情から来るものだよ。『I’s』と『いちご100%』で恋心を学んだ、ザ・恋愛マスターの八丈島うみが言うのだから間違いありません」

 

「……相談するんじゃなかったバニ」

 

 帰りのタクシーで、私はうみに洗いざらい自分の心境を吐露した。

 

 駆け引きも何もない。

 タクシーが出発するなり、私は心から信頼する同期に助けを求めた。

 誰かに聞いてもらわないと心がもう保たなかった。

 

 後部座席に隣り合って座るうみは、当初こそ面倒そうな顔をしていた。だが、結局は生来のお人好しを発揮し、真剣に私の話に聞き入ってくれた。

 

 その上でのアドバイスが、この浅い回答である。

 

 流石に私も落胆するよ。

 単なる嫉妬なわけないでしょ。

 

 私が美月さんとりんご先輩に抱いているのは、もっと特別な――。

 

「もっと特別な感情に違いないとか思ってるんでしょ? それ違うから! ごくごく一般的なジェラシー! 女子高校生とかが高二くらいでやらかす奴! 仲良しグループの中で、一人の子を独占したくなる甘酸っぱい青春の過ちだから!」

 

「なに言ってんの? ウチらもう2……」

 

「委員長は永遠の17歳ですから! ばにらちゃん! 実年齢のお話はやめましょう! そろそろ徹夜明けの心と身体に効いてしまう年齢だわ!」

 

「すまんバニ。けど、絶対これは嫉妬じゃ……」

 

「ばにら? アンタ、もしかしてだけれど――高校時代からボッチだったの?」

 

「……んなわけないバニよ。ばにーら、普通にカラオケ行ったり、ゲーセン行ったりする友達はいたバニよ。修学旅行もハブられなかったし。本当バニよ」

 

「その口ぶり。『あぶれ者同士でグループ作ったはいいけれど、根本的な趣味が合わなくて、学校を卒業したら縁が切れちゃった』感じね」

 

「……なんでわかるの?」

 

「わからいでか! なぜなら委員長もそうだからです! って、言わせんなこんな悲しい記憶! 中学まで! 高校からはちゃんとした友達を作りました!」

 

「じゃあ、一人の子を独占したいっていうのは、実体験?」

 

「いや、それはまた話が違うんだわ。どっちかっていうと、委員長が仕掛けられた側といいますか、排斥されたといいますか。最初に作った仲良しグループでね、妙に百合百合した二人組ができちゃって、それでまぁたいへんなことに……」

 

「じゃあやっぱり違うバニな。ばにらとずんだ先輩は、ビジネス百合だから」

 

 

「ガチ百合じゃろがぁあああああああい!!!! どっからどう見ても立派な先輩・後輩社会人百合じゃろがぁあああああああい!!!! 百合系レーベルから出版されてもおかしくないくらい、乳繰りあっとるじゃろがぁあああああああい!!!!」

 

 

 タクシーの中で絶叫するのはやめてもろて。

 

 運転手さんの咳払いに、私とうみは無言で頭を下げた。

 事務所と専属契約しているタクシー会社さんなので、安心してプライベートの話ができるのだけれど、いくらなんでもはっちゃけ過ぎた。

 

 反省。

 

 溜息を吐いてうみがパンプスを脱ぐ。

 ベージュのタイツに覆われた足先をくにくにと伸ばしながら、彼女は「どう言えば分かるかなぁ……」と物憂げに呟く。

 

「こればっかりは経験してないと理解できないと思うわ。だから、ここで私がどれだけ言葉を尽くしても、ばにらは納得しないんじゃないかな……」

 

「……そっか」

 

「ただまぁ、一つだけ言えることは――『束縛』しても良い結果にはならないってことかなぁ」

 

「『束縛』って?」

 

「ずんだ先輩に『りんご先輩ともう合わないで!』とか『私だけを見て!』とか、そういうことを求めても、それは結果としてお互いの首を絞めるだけというか……」

 

「…………そんなこと、言えないバニよ」

 

「まぁ、そうだよね。そこんところは、安心だよねばにらちゃんは」

 

 バカにしてるのか慰めてくれてるのか。

 分かんないので、とりあえず私も靴を脱いでうみの足を蹴った。

 

 夏の名残にうだる東京の街をタクシーが走っていく。

 午前10時の道路は車でひしめいており、阿佐ヶ谷のアパートに着くのにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

「ちなみに、その百合百合してた友達はどうなったバニ?」

 

「今はお互い結婚して子持ち。そんでもって、同窓会で一緒になっても絶対に口を利かないの。ひどい別れ方しちゃったから、そりゃしょうがないんだワ。女子校って、そういう所があるからサ……」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 拙者高専(男子率クソ高)の者。女子校の話は創作にござる。(たぶん)

 仲良い二人に遠慮しちゃってグループ崩壊って、小説なんかではよくあるパターンですよね。友人関係って本当に難しい……!

 

 ばにらの相談にのる健気なうみ。彼女もなんだかんだで友達思いというか、同期愛に溢れているというか。そんな姿にうるりときたら、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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