VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第46話 DStarsのジェームズ・モリアーティー(後編)

 津軽りんご。

 DStars特待生。

 得意な配信はゲーム配信。

 

 格闘ゲーム・FPS・PVP要素のあるサンドボックス系ゲームにおいて、事務所最強クラスの個人戦闘能力を発揮する『対人戦特化型ゲーマー』。

 

 元個人勢VTuberにして有名アーケードゲーマー。

 そう、事務所の泥棒猫――津軽りんごは二つの過去を持つ。

 VTuber活動を開始する以前、彼女は「neko2570」というTwitterアカウントで活動しているゲーマーだったのだ。

 

 活動内容は過激の一言。

 主要都市のゲームセンターに現れては、格闘ゲームのランキングを書き換え、彼女の頭文字の「NEK」がトップに表示された画像をアカウントに投稿するのだ。

 

 当然、彼女に地元を荒らされたゲーマーたちはこれに激怒。

 競うように彼女に対戦を求めるのだが――ただの一度の敗北もなく常勝無敗。

 さらに負けたプレイヤーの額に「犬」と描き、「#今日の負け犬」というハッシュタグで、全世界に顔を晒すという鬼畜の所業で当時のゲーセン界隈を震撼させた。

 

 とはいえ、彼女に顔を晒されたプレイヤーたちは、なぜかみな笑顔であった。

 

 VTuber文化の黎明期、突如として「neko2570」はゲームセンターでの活動終了を宣言。そして、ほどなく「津軽りんご」として転生する。

 この突然の転身には諸説あり、「彼女が得意とする格闘ゲームの主戦場がアーケードからネットに移行した説」「企業からネット対戦に移行したタイトルの宣伝を頼まれた説」「単に飽きた説」などが囁かれている。

 

 ただ、本人はその理由について頑なに口を閉ざしている。

 

 その後、彼女はVTuberとしても、格闘ゲームのネット大会やサンドボックス系ゲームのPVP大会で、着実に上位入賞を重ねて実績を残す。

 

 その確かなゲームセンスと知名度。

 アーケードゲーマー時代からの根強いファン。

 なにより「当時にしては珍しいガチの女ゲーマー」「ゲーマーにしては礼儀正しい言葉使い」「ゆるふわ系の声」に目をつけたDStarsから、「特待生」として勧誘を受け企業勢になった。

 この際、個人勢時代に絡みがあり、PVP大会でたびたびコンビを組んでいた「生駒すず」の存在が決め手となったらしい。

 

 ――と、DStarsの非公式まとめサイトには書かれていた。

 

「美月さん以上に無茶苦茶な経歴の持ち主だなぁ」

 

 配信一時間前。

 夕食を終えた私は、発声練習をしながらりんご先輩の経歴を軽く調べていた。

 

 美月さんと違い前世をオープンにしている彼女の情報は簡単に手に入った。

 DStarsの非公式まとめWikiの他にも、「neko2570」時代の悪行――もといゲーセン荒しをまとめたファンサイトがあり、知りたいことはだいたい把握できた。もっとも、アーケードゲーマー時代のファンサイトは更新停止していたが。

 

 しかしつくづく思い知らされたのは、りんご先輩がとんでもない悪戯好きで、人気者だということ。

 

 アーケードゲーマー時代のゲーセン荒しが肯定的に語られているのがその証拠。

 彼女が現れ話題を呼んだことで、廃業を免れたゲーセンもあれば、彼女に描かれた「犬」の顔をいまだにTwitterのアイコンにしている者までいる。

 

 誰もが「neko2570」という「ゲームセンターに突如現れたスター」を愛し、彼女と過ごした日々を「まるで宝物のように」思っている。

 その在り方はまるで、今のVTuberそのものだ。

 

「りんご先輩はVTuberになった理由を隠しているけれど、純粋にやりたかっただけなんじゃないかな……?」

 

 なんて思ってしまうのは浅はかだろうか。

 同じゲーム好きをこじらせてこの世界に身を投じた私としては、りんご先輩の転身をそんな風に考えてしまった。

 

 まぁ、彼女は圧倒的なゲームセンスを持った野生のプロ。

 こっちはレバガチャでゴリ押しするパッションゲーマー。

 見えている世界が違うので、この推測はハズレかもしれない。

 

 電子レンジで温めたホットミルクで喉を潤す。

 暗くなった窓の外で「ナーナー」と猫たちの鳴く声がする。

 猫皿に用意したねこまんまを食べているだろうか。配信が終る頃には、回収しにいけるといいなと思いつつ、私はOBSを起動して配信準備を始めた。

 

「しかし、まんまと相手の土俵に上げられたな。格闘ゲームのプロ相手に、チーム戦とはいえ勝てるんだろうか」

 

 一方的な大虐殺の予感に、ホットミルクを飲んでいるはずなのに寒気を感じる。

 

 当然、コラボ対決となれば罰ゲームは覚悟するべきだろう。

 いざ、私が負けた時、りんご先輩にどんな要求を突きつけられることか。

 

 まぁ、全世界にネット配信でやることだ、変な要求はされないだろう。

 

「案外、額に『犬』って描かれた画像をTwitterに上げられたりして」

 

 青葉ずんだと肩を並べ、額に「犬」と描かれた川崎ばにらを想像し、思わず私は噴き出した。「ずんさんは『犬』だけれど、ばにらは『兎』だろうが」というコメントが容易に想像できた。

 

 ふと、Discordに通知が入る。

 うみが、私と美月さん、りんご先輩の四人をメンバーに、グループチャットを作ったらしい。明後日のコラボについての連絡用のものだ。

 

 りんご先輩と既にじっくり話しあったのだろう。

 すぐに具体的な対戦ルールがつらつらと記載されていく。

 

・2VS2のチーム戦

・キル数勝負

・5本先取した方のチームの勝利

・使用できるキャラは隠しキャラを含めて全員

・アイテムの発生頻度などはバニラ(標準)

・ステージはランダム

 

 ここまではまぁ、よかったのだが……。

 

「……え? ちょっと待って?」

 

・チームは「りんご」「ずんだ」の「特待生チーム」と、「うみ」「ばにら」の「三期生チーム」とする

・枠は復帰直後のりんご先輩を盛り上げるため、彼女のチャンネルで行う

・配信は19:00から1時間程度を予定

 

 書き連ねられた予想外の条件に私は目を剥いた。

 

 てっきり、美月さんと私、りんご先輩とうみのチームで戦うと思っていた。

 けど言われてみれば、「特待生」VS「三期生」という構図の方がしっくりくる。

 

 枠もうみがとると言っていたのに、りんご先輩にあっさりとられてしまった。

 まぁこれは、「復帰直後でコラボバフが欲しい」と言われれば、上下関係を抜きに断れない。仲間同士で支え合うのはVTuber界隈では仕方のないこと。

 

 とはいえ――。

 

「ここまで考えて、今回のコラボを仕掛けてくるとは、流石だなぁ」

 

 事務所内で「泥棒猫」という愛称と共に「黒幕」と呼ばれているだけはある。

 すべて、りんご先輩の手の内か。

 

 まぁ、そういうことになったのなら仕方ない。

 気持ちを切り替えて、今は配信に集中しよう。

 

 そんな私の覚悟は――。

 

「『・なお、機材(Nintendo64実機を使う)の関係からオフコラボ配信となります。当日の収録場所は、ずんだ先輩のお家です。 @ずんずんずんだ 先輩、当日はよろしくおなしゃす!』……って、ハァ⁉」

 

 最後の一文によって粉々に砕かれることになるのだった。

 

「うみが来る⁉ ずんだ先輩の家に⁉ りんご先輩も⁉」

 

 あまりの動揺に、私の配信開始が遅れたのは言うまでもない。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 同期には秘密にしておきたかった先輩の自宅。

 先輩から誘われた&仕方がないとはいえ、うみを入れるのにもジェラってしまうばにら。このうさぎ、本当に強欲というか無自覚というか……!

 

 そしてなによりオフコラボ。

 はたして憎き泥棒猫を前に、ばにらは感情を抑えられるのか?

 

 いきなりクライマックスな感じで攻めてくる泥棒猫に、「この先どうなるんだ?」とワクワクされた方は、なにとぞ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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