VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第52話 曝かれたのは……?(後編)

「ところで、気になっていたんだけれど? この紅茶、ちょっと味が違わない?」

 

「……へ?」

 

 私たちがやらかした『無自覚イチャコラ』を、うみと一緒に糾弾していたりんご先輩が、ふと脈絡のないことを言い出す。

 

 これは助け船だろうか。

 気まずい空気をリセットするためのアシストだろうか。

 よく分からないけれどここは乗っておこう。

 

「この紅茶はばにーらが淹れましたから。昼間の紅茶はずんだ先輩が淹れましたし。やっぱり腕の違いが……」

 

「いやいや、アッサムとアールグレイくらいに味が違うよぉ~?」

 

 そんなバカな。

 何をどうしたら茶葉レベルで味が変わるんだ。

 

 いや、変わるわ。

 淹れるお茶を変えたら、味が変わるのは当たり前だわ。

 

 昼間飲んだのは美月さんとっておきの、英国王室御用達「アッサムティー」。

 そして私が淹れたのは、いつも私たちが飲む「TWININGS」の「アールグレイ」だ。柑橘の爽やかな香りがするコスパ最強お紅茶だ。

 

 しくじったァ。

 いつもの癖でこっちの紅茶を淹れちゃったァ。

 

 うみがすかさず紅茶を口につける。「本当だ。昼間に飲んだのと味が違う。ほのかにレモンみたいな匂いがする」と、もっともらしいことを言う。

 お前、さっきまで気づいてなかったやんけ。

 

 そして確信する。

 これは決して助け船じゃない。

 むしろ、私たちが乗る泥船を沈める、追撃だ。

 

「ねぇ、ずんさんこれ違うよねぇ? どうして昼間の紅茶と違うの?」

 

「えっと、それはその……今日はうみが来たから、いいのを出したっていうか」

 

 美月さんいけない。

 それはりんご先輩の巧妙な罠。

 気づいても、美月さんが答えてしまったら後の祭り――。

 

「なるほど~、うみちゃんのために奮発したんだぁ~! ずんさんえら~い!」

 

「まぁ、後輩が来るわけだしね。そこはもてなさないと」

 

「けどさぁ~? なんでばにらちゃんは、いつも飲んでる方の紅茶を淹れたの~?」

 

「ぐ、偶然よ。どっちが高級な茶葉か、分からなかったのよ――ねぇ、ばにら?」

 

 苦しい言い訳である。

 

 普段から飲んでいる紅茶を意識せずに淹れた。

 それがことの真相だ。

 

 けど、「分からなくて間違えた」とゴリ押せないわけでは――。

 

「けどぉ、ばにらちゃん迷いのない感じで淹れてたよぉ? もしかしてだけどぉ~? いつも飲んでる紅茶を淹れちゃったってことじゃないのぉ~?」

 

「えっ、ちょっとばにら? アンタ、まさか……?」

 

 はい、詰みました。

 まさかキッチンに一緒に立った時点から手のひらの上だったとは。

 おみそれしやした。(白目)

 

 うみが顔を真っ赤にしてわなわなと肩をふるわせる。口元を手で隠して、今にも「きゃー!」とか「わぁー!」とか叫び出しそうな感じだ。

 

 マジでそれはやめて。

 ご近所迷惑だから。

 

「そういえばさぁ~? ばにらちゃんお土産に、何を持って来てたっけぇ~?」

 

「……するめとチータラとカルパスです」

 

「なんでそんなおつまみを持って来たのぉ~? もしかしてぇ~、この配信が終ったらぁ~、ずんさんと晩酌でもするつもりだったぁ~?」

 

「ばにら……やっぱりお前!!!!」

 

「チガウンデス! コレハ! オツマミ健康法トイウノガアッテ……!」

 

「なんでカタコトなのぉ~?」

 

「ばにらァ!!!! 嘘だよなァ!!!! お前、まさか、ずんだ先輩と!!!!」

 

 もはやケーキなどそっちのけで恋バナモードに入ったうみ。

 うみがこの手の話に食いつきがいいのは知っている。

 まさか、彼女をコラボ相手にしたのまで、りんご先輩の計算の内――。

 

 私が淹れた紅茶を優雅にすするりんご先輩。

 さながらそれは、犯人を追い詰める名探偵の決めポーズのよう。

 泥棒なのに。

 

 チーズケーキのカスをぺろりと舐めると、彼女は口の端をつり上げる。

 

 まんまとしてやられた。

 これこそが彼女の今日のコラボの狙い。

 

 私と美月さんの関係をうみにばらすのが目的だったのだ――。

 

「わ、私が買って来てって言ったの! ほら、ばにらの家の近くに、おつまみの安いスーパーがあるから!」

 

 答えに窮する私を見かねて美月さんがフォローする。

 だが、これも悪手。

 

「なんでずんさんが、ばにらちゃんの家の近くのスーパーなんて知ってるの?」

 

「……そ、それは」

 

「嘘でしょ、ずんだ先輩!!!! まさかばにらを庇おうとして!!!!」

 

 いや、買って来てって頼まれてるのは本当なんですけどね。

 

 けど、ここで暴露する話じゃないですよね。

 りんご先輩が追求した通り、「なんでそんなこと知ってるの?」って、普通はなりますよね。さらに「もしかして家に行ったことあるの?」とかなりますよね。

 

 私は頭を抱えた。

 もうこれ無理だ。

 誤魔化せない。

 

 喋れば喋るほど、余計に私たちの関係性を匂わせるだけ。

 というか、口で目の前の泥棒猫に勝てる気がしない。

 

 泥棒猫というか詐欺師。

 天才犯罪者。

 黒幕。

 

 すごいよりんご先輩。

 その知謀をせめて違うことに使って――。

 

 素直に私たちのことを話そう。

 私は追い詰められた犯人のように諦めた。

 

 なに、たいしたことじゃない。

 ただの「週一(多い時は週三)で晩酌している仲の良い先輩・後輩」だ。

 なんらいっさいガチ百合ではない。

 

 そう思って覚悟を決めたその時、テーブルに置いた私のスマホが鳴動した。

 

 かけて来たのはなぜかBちゃん。

 こんな時間に連絡なんて珍しい。

 緊急だろうかとすぐに通話に出ると――。

 

「ばにらさん! ちょっと、どういうことですか! Twitterが大騒ぎになっているんですけれど! しっかり情報コントロールしてくださいよ!」

 

「……ふぇ?」

 

「前にずんださんと『お泊まり晩酌配信』したのって、『ばにらさんの家』でしたよね? なのに――なんでずんださんの家での配信で、『ばにらさんのアバターが動いてるんだ?』って、ファンたちが騒ぎはじめてます!」

 

 すぐに私は配信に使ったパソコンを確認した。

 配信室に置かれているまったく同じ構成の二台のパソコン。

 見分けるために、その側面に美月さんはステッカーを貼っている。

 ウィンクする青葉ずんだが貼られたそれは――以前、私が「配信に間に合わないから!」と借りたパソコンだ。

 

 ぜんぜん違った。

 

 復帰配信を豪華に行うためじゃない。

 私と美月さんの関係をうみに暴露するためでもない。

 津軽りんごが狙っていたのはこれだったんだ。

 

「今日、ずんださんの家に来るのがはじめてなら、うみさんと同じでばにらさんも立ち絵になるはずですよね! なんでFaceRigのデータを使ったんです!」

 

「す、すみません! 迂闊でした!」

 

「あと、そもそもりんごさんが冒頭で『うみさんだけFaceRigのデータがなくて立ち絵』って、詳しく説明しちゃったのも問題で……」

 

 スマホを頬にあてながらりんご先輩を私は睨んだ。

 優雅に紅茶を飲んでいたDStarsの泥棒猫は、「完全犯罪大成功!」と言わんばかりに不敵に微笑むと、ホーローのカップをテーブルの上に置いた。

 頬杖を突いて彼女は私たちに尋ねる。

 

「さぁ、リスナーのみんなに、なんて説明しよっか? ずんさんの家に来たことがないはずなのに、『FaceRigのデータがパソコンの中に入っていた謎』を、どういいわけするのかなぁ~?」

 

「……りんご先輩、ひとつ聞いていいですか?」

 

「なぁ~にぃ?」

 

「なんでこんなことしたんです? なんのメリットも貴方にはないですよね?」

 

 黒幕は心底愉快そうな笑顔で答えた。

 

 

「だって、面白そうだったから!!!!」

 

 

 どうやら、私はとんでもない先輩に目をつけられてしまったようだ。

 美月さんの交友関係について「友達は選べ」と後輩ながら言いたくなる夜だった。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 真の犯罪者は犯罪自体を楽しむ。DStarsのジェームズ・モリアーティー。

 津軽りんごは「百合」とか「親友」とか関係なく、場をひっかき回すことにこそ喜びを覚えるタイプの、ろくでなし配信者なのでした。

 

 見事に踊らされたばにらたち。はたして彼女たちは、自分たちの関係性を、どう周囲に説明するのか。それはそれとして、手を変え品を変え繰り出すりんごの手際に痺れたという方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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