VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第2章 ちょっと早すぎるかもよ「併走配信」!
第6話 この後、ばにらのゲーム配信は18時から!(前編)


 2階中ほどの6人掛けの席に私たちは移動した。

 壁に接したテーブル。すず先輩とずんだ先輩が壁側に、ぽめら先輩がすず先輩の隣に座る。必然、通路側に私とうみが座った。

 分かりやすい宴会の席順だ。

 

 問題があるとすれば――。

 

「ねぇ、なんで真ん中を空けるの?」

 

「え、いや。通路側の方がいろいろ動きやすいかな、と」

 

「まるで私たちが仲が悪いみたいじゃない。やめてよ」

 

(どうしろっていうんですか……)

 

 私とずんだ先輩が横並びということ。

 

 親友のすず先輩とぽめら先輩が隣り合うのは分かる。

 騒がしいのが苦手っぽいずんだ先輩が壁側に座ったのも分かる。

 だが、うみ――お前がしれっとぽめら先輩の隣に座ったのは分からない。

 

 こんな裏切りないバニじゃん。

 

 さきほどの「百合営業」の件もあり気まずくて椅子を一つ空けたらこの状況。

 距離を置いた私を、心底不愉快そうにずんだ先輩がにらんできた。

 

 すげえ「圧」バニ。

 これ、もしかして配信中だったりするバニ?

 今回はドッキリ企画バニか?

 

「ちょっと、ずんだ。ばにらが困ってるでしょ」

 

「ぽめら先輩!!!!」

 

「気にしなくていいよ、ばにら。そこは荷物置きにすればいいから」

 

 助けてくれたのはDStarsメンバー最年長。

 人生経験豊富で苦労人。元個人勢VTuber。にじみ出る圧倒的な母性(既婚&子供あり)でグループのママと言われている、ぽめら先輩だった。

 

 彼女の母力《ははぢから》にはずんだ先輩も逆らえない。

 反抗期の娘のように彼女はぷいと顔を背けた。

 

「というか、ぽめら先輩はどうしてここに?」

 

「ずんだとすずが事務所に来てたからね。せっかくだしゲームチームでミーティングしようかって話になったのよ」

 

 ぽめら先輩の言う「ゲームチーム」とは、「ゲームの公式大会への参加」を目的にDStars所属のVTuberで編成されたチームのこと。

 

 リーダーに「1期生」の「生駒すず」。

 メンバーに「特待生」の「秋田ぽめら」「青葉ずんだ」「津軽りんご」。

 すず先輩がつき合いのある「ゲームが得意」な個人勢VTuberを、ヘッドハンティングして結成されたドリームチームだ。

 

 メンバー3人が揃って「特待生」なのもそのため。

 DStarsからデビューしていないため「○期生」という呼び方ができず、便宜的に「特待生」と呼んでいるのだ。

 

 まぁ、名前負けしない実力を持っているんだけど。

 ちなみに「津軽りんご」先輩は、声帯結節の治療のため現在休業中。

 最近、ちょっとチームで活動できてなかったりする。

 

 なのに会議とはいったい――?

 

 首をひねる私に、ぺかーと笑顔を向けたのは、年下の先輩こと「生駒すず」だ。

 

「実はねばにらちゃん! りんごの休業が明けるまで、代わりにゲームチームに入ってくれる代打メンバーを決めようと思ってるんだ!」

 

「へぇ、なるほど」

 

「生駒としてはやっぱりゲームが上手な人がいいいんだけれど――そうだ、せっかくだし、ばにらちゃんはどうかな⁉」

 

「はい⁉」

 

 突然のオファーにたまげて私は肩を竦めた。

 

「却下」

 

「ばにらはダメでしょ。うちのトップで配信忙しいし」

 

 私があれこれ言う間もなく、ずんだ先輩たちからツッコミが飛ぶ。

 はたして「川崎ばにら」のゲームチーム入りは却下され、リーダーのすず先輩は「そんなぁ」と力なく肩を落とした。

 

「えー、良い案だと思ったんだけれどなぁ。ばにらちゃんはゲーム配信上手だから、ゲームチームに来れば絶対にシナジーあるよ」

 

「……確かに、配信は上手よね」

 

「ばにらは結構ゲームはゴリ押しだからなぁ」

 

 ひどい。

 なんでいきなりディスられてるの。

 

 事実だけれど。

 

「……というか、3人でも活動はできるよね?」

 

「やれることをやってから言おうよ、すず?」

 

「……あい、とぅいまてぇん」

 

「「絶対反省してない」」

 

「そんなぁ! 生駒だって、一生懸命考えてるんだよ!」

 

「「本当に?」」

 

「うみー! 助けてー! チームメンバーが辛辣だよー!」

 

 うみに抱きつくすず先輩。

 一番年下で、一番先輩で、一番配信を頑張ってるのに、どこか抜けてる。

 そんな所がなんとも愛くるしい。

 

 相変わらず良いキャラしてるなぁ。

 

(DStarsに入った当初は、私、すず先輩に憧れてたっけ)

 

 その時、店員さんがテーブルにやってきた。

 手には先輩たちが頼んだメニュー。彼はテキパキと注文された料理と飲み物を、注文した当人たちの前に置いていく。

 

 抹茶ラテとスイートポテトがすず先輩の前に。

 ぽめら先輩の前にはアップルパイとホットティー。

 そして、私の後ろを通って――ずんだ先輩の前にグリーンスムージーが置かれた。

 

 すぐに先輩たちが手を合わせる。

 そんな彼女たちを眺めて、私はレモンミントのお冷やで口を湿らせた。

 

「けどさ、実際の所3人は具合が悪いんだよね。パーティーゲームは、基本4人プレイだし。CPUを混ぜるのも違うじゃん」

 

「……りんごの復帰を待てばいいじゃない」

 

「いやいや、りんごも気にしちゃうでしょ」

 

「そうだね。確かにすずの話も一理あるかも」

 

「……そうかしら? 勝手に代打を立てる方が気にするんじゃない?」

 

「ゲームチームがゲームせんわけにはいかんやんけ!」

 

「それよね。ただでさえウチたち、公式大会で結果を出せてないし」

 

「…………」

 

「もちろん、りんごには悪いと思うよ! けど、やっぱり仕事なわけじゃん! だから、りんごの代打を生駒も必死になって考えてるんだよ!」

 

「…………りんごの代わりなんて、いるわけないじゃない!」

 

 そう言って、ずんだ先輩がグリーンスムージーを勢いよく呷る。

 すず先輩とぽめら先輩が思わず食事の手を止めた。

 

 ずんだ先輩が怒ったのは他でもない。

 りんご先輩が彼女の親友だからだ。

 個人勢時代からふたりにはとても強固な絆がある。

 だから、すず先輩から出た代打の話を素直に受け入れられないのだろう。

 

 ずんだ先輩は一息にスムージーを飲み干すと、プラスチックのカップをテーブルに叩きつけた。ゴンと鈍い打撃音が洋菓子店の2階に響き渡る。

 

「それで、話はこれでおしまい? なら、帰っていいかな?」

 

 身体の芯まで震えるような冷たい台詞。

 

「私、18時から配信予定なの」

 

 口の端についたグリーンスムージーをナプキンで拭きながら、ずんだ先輩はゲームチームのメンバーをにらんでそう言った。

 

 確かにそう言った。

 

「そんな! せっかく集まったんだから、もっとお話ししようよ!」

 

「ゲームチームはりんごが休止中だから活動できない。結論は出た。すずとぽめらは積もる話もあるだろうけど――私にはないから」

 

「ちょっと、ずんだ!」

 

「ずんだぁ、そんな悲しいこと言うなよぉ」

 

「それじゃ失礼するわね――」

 

 ナプキンを折りたたみ、プラスチックのカップの前に置くずんだ先輩。

 黒髪をあわただしく揺らして彼女はその場に立ち上がった。

 

「待ってください!!」

 

 そして、私も立ち上がった。

 思わずテーブルを叩いて。

 

 天板が私の台パンで激しくゆれる。

 グリーンスムージーのカップが倒れ、向かいに座るすず先輩たちのお皿が跳ねた。

 

 ずんだ先輩が「突然何を言い出すんだこいつ」という顔をこちらに向ける。

 冷たい「氷の女王」の眼差しを正面から受けて――。

 

「ずんだ先輩、今さっきなんて言いました?」

 

「なにって? 私はこれで失礼するから――」

 

「その前です!」

 

「……その前?」

 

「18時から配信があるって言いましたよね?」

 

「言ったけれど、それが何?」

 

「今、何時ですか?」

 

「……17時31分ね」

 

「どうしましょう、ずんだ先輩」

 

「……なにがよ?」

 

「……私も、今日の配信18時からなんです!」

 

「「「「はぁ⁉」」」」

 

 私は今日のスケジュールを唐突に思い出した。

 

 社長の「百合営業」辞令に驚いて完全に忘れていたが、本日18時から川崎ばにらは配信予定が入っていた。しかも、既にTwitterで告知済みだ。

 

 電車じゃ間に合わない。タクシーでも無理だ。

 金盾凸待ち失敗から二日と経たずにまたやらかすの。

 配信遅刻は凸待ち失敗よりも言いわけがきかないよ。

 

 どうすればいいのこんなの!

 

 あ、やばい、涙出そう!

 どうして不幸ってこう続くのかな!

 

 完全に私のポカだけれど!

 

「どうしましょうずんだ先輩!」

 

「……どうしましょうって! アンタねぇ!」

 

「いきなり社長から『百合営業しろ!』って言われたら、気も動転しますよ!」

 

「バカッ! なんでみんなの前で言うのよ!」

 

「だってぇ!」

 

 再び訪れたピンチに頭が真っ白になる。

 

 あぁ、これはもう無理だ。

 

 全てをあきらめたその時、白目を剥いて倒れる私の腕を力強い手が引いた。

 次いで、とんでもなく重たいため息が耳に届く。

 

 腕を握っていたのはずんだ先輩。

 

「あぁ、もう! しょうがないわね!」

 

「ずんだ先輩?」

 

「すぐに荷物を持って!」

 

「持ってどうするんです?」

 

「いいから黙ってついてきなさい! 配信に穴を空けたくないんでしょ!」

 

 言われるまま私は椅子に置いた自分の手提げ鞄を手に取った。

 ついでに、その隣のずんだ先輩のバッグも。

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