VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第59話 百合営業ふたたび(前編)

 ニーナちゃんと別れ三期生ハウスに戻ると時刻は午前二時。

 連日3時間越えの長丁場。突発コラボ連発に心も身体もボロボロだ。

 しかし、疲れた身体に鞭を打ち――私は根性のスパチャ読みをはじめた。

 

 昨日のスパチャはコラボへの感想がメイン。

 久しぶりの三期生コラボは概ね好評だったようだった。

 

 同時に、今まで絡みが薄かったえるふとのコラボを喜ぶ声もちらほら。

 

 別に意図的に避けてたわけではない。

 杞憂するリスナーの多さに、一応フォローしておく。

 

「えるふとは普通に仲良いバニよ。ただ、えるふもばらにもRPG配信がメインだから、コラボしにくいバニな。昨日も配信終了後にお喋りしたバニよ。え、内容? それは――乙女の秘密バニ!」

 

 コラボし過ぎも問題だけど、しなさ過ぎも問題だな……。

 ただ、これで杞憂したリスナーさんも安心するだろう。

 

 昨日のスパチャが終ったので今日のスパチャへ。

 

 数も金額もこっちの方が昨日より明らかに多い。

 やっぱり怒濤の突発コラボが効いたようだ。

 私の読み通り、マイクラの突発コラボは今後人気が出そうだ。

 

「『りんごちゃんと突発コラボするとは思いませんでした。これから二人でマイクラを荒し回る感じですか?』。うーん、ちょっとどうなるか分からないバニですな」

 

 特にりんご先輩とのコラボへの感想が多い。

 どうやら私と彼女――美月さんの相棒――の関係に不安を抱いているリスナーが多かったようで、喧嘩になるんじゃないかと心配していたらしい。

 

 そりゃまぁ、私も思うところはある。

 うみやえるふにも迷惑をかけたばかりだ。

 

 けど、私たちはVTuber。

 しかも企業所属の会社員だ。

 リアルの事情をお仕事に持ち込むような半端なことはしない。

 

「りんご先輩とのこと心配してくれてるけど、普通にばにらたち仲良しバニだから。心配しなくて大丈夫だよ」

 

 こちらもエルフと同じくフォローしておいた。

 

 最後に――ニーナちゃんについて。

 

「ニーナちゃん、すごいバニね! あの建築力には、ばにーらも恐れ入ったバニ!」

 

 既にインドネシアの運営の公式Twitterなどで、新人VTuberについての情報は公開されていたらしい。ただ、私たちには通達されておらず、いったいどんな娘がデビューするのか把握できていなかった。

 

 せっかくなのでDStarsIDの公式HPに軽く目を通す。

 リスがモチーフの「トゥパイちゃん」と、画家っぽいキャラクターの「キララちゃん」、そしてアダルトな雰囲気の「ニーナちゃん」。この三人がスタートメンバーで、これから順次お披露目&個人のチャンネルで活動を開始するらしい。

 

 三人ともガワは当たりだと思う。

 きっと人気者になるだろう。

 

 さらに常連メンバーから、ID公式チャンネルの切り抜き動画URLが送られてくる。私が偶然、ニーナちゃんの城に迷い込んだシーンのようだが――。

 

「うわっ! ニーナちゃん、ばにらの登場にめっちゃ喜んでるんだけど!」

 

 そこには限界オタクのように、私の名前を連呼するニーナちゃんが映っていた。

 テキストチャットでやりとりしてたので気づかなかったが、どうやらニーナちゃんはこの時かなり興奮していたらしい。

 

 にも関わらず、ばにらの拙い英語を解読してくれたなんて。

 

「ニーナちゃんてば、本当にいい娘バニ。ばにらが守護ってやらんと(ムン)」

 

 遠い異国の地に現れた天使のような後輩。

 ニーナちゃんを大事にしようと私は心に誓った。

 

「という所で、スパチャ読みはこれにて終了! もう四時過ぎバニ! みんな、明日は学校・会社に遅刻しないように気をつけるバニよ! それじゃバイバーイ!」

 

 スパチャを読み終え、配信が終了したのは夜中の四時。

 連日の昼夜逆転コースに、魂が抜けるような息を吐いて私は枠を閉じた。

 

 パソコンの前から立ち上がると台所へ。

 牛乳を冷蔵庫から取り出すとコップに注ぐ。

 戸棚からスニッカーズを取り出すと立ったまま食べた。

 

 コップを戻しに台所まで戻るのも面倒だ。

 今日はこれを食べて寝てしまおう。

 

 台所を背にして部屋の正面。

 カーテンの隙間から覗く窓はまだまだ暗い。

 夏の盛りも過ぎ、随分と夜が長くなったように感じる。

 

 これからどんどん寒くなると思うと憂鬱な気分だ。

 このアパート、古いだけあって冬は隙間風がすごいんだよね。

 まぁ、その頃には新居(既に仮契約済み)に引っ越しているだろうけれど。

 

「引っ越したら美月さんの家も近くなる。宅呑みに行くのが楽になるなぁ……」

 

 そう言えば、今週は一度も美月さんと宅呑みしていない。

 りんご先輩との『初代スマブラチーム対決』のあと、なんか気まずくなってそのまま帰ったのが原因だ。何もなければ、あのあと二人で宅呑みする予定だったのに。

 それ以降は、マイクラで忙しかったし。

 

 そろそろ、お酒でも呑んでまったりお話したいかも――。

 

 美月さんとの晩酌に思いを馳せながら冷たい牛乳をすする。

 すると、液晶ディスプレイの前に置いたスマホが鳴動した。

 

 表示されるLINEの着信画面。

 コップとスニッカーズを台所に置くと、すぐに私はスマホを取りに走った。

 

「もしもし、美月さん? こんな時間にどうしたんですか?」

 

「花楓ぇ~! お酒飲もうよぉ~! 晩酌しようよぉ~! 寂しいよぉ~!」

 

「美月さん⁉ ほんとどうしたんです⁉」

 

 開口一番聞こえてきたのは、涙声&弱った美月さんの懇願だった。

 いつもなら「○月×日って花楓の予定(調査済み)空いてるよね? じゃあ、宅呑みしましょう!」と、クールに誘ってくるのに。

 ここまでグズグズに外面が壊れた美月さんははじめてだ。

 

 ちょっと新鮮。(ほっこり)

 

「うぅっ、ぐすっ……花楓ぇ、今度いつ暇なのぉ……」

 

「えっと、明日もえるふとコラボの予定があって」

 

「えるふちゃんとコラボしたら、また深夜配信になるじゃない! ダメでしょ、そんな毎日夜遅くまで! 夜型人間――すずみたいになるよ!」

 

「まるですず先輩をダメ人間みたいに言いましたね!」

 

「花楓の夜は、私と晩酌する時間でしょ! なんで他の娘とコラボするの! もっと百合営業の自覚を持って!」

 

「いやいや、百合営業と晩酌は関係ないですよ」

 

「やだやだやだやだ! 花楓は私の後輩なのぉ! 百合営業相手なのぉ! 他の娘といちゃいちゃしちゃダメなのぉ!」

 

 なにこの酔っ払った先輩。

 最高にかわいいんですけど。(真顔)

 

 事情はよく分かんないが――。

 

 

 嫉妬爆発して、深夜に文句の電話をかけてくる!

 そんなことされて、嬉しくない後輩がいる?

 いねえよなぁ!

 

 

 マイキー構文で私は気持ちを落ち着けた。

 

「すみません、思った以上にマイクラ配信が楽しくて。美月さんとの時間を疎かにしていました。百合営業のパートナーとして失格です」

 

「……ぐすっ、分かればいいのよぉ」

 

「明日のコラボが終ったら、一旦マイクラと違うゲームを挟もうと思っていたので、そのタイミングで晩酌しましょう。というわけで、明後日の夜でどうですか?」

 

「……うん。約束破ったら、しばきあげて指を○るからね?」

 

「さっきまでギャン泣きしてたのに怖いんじゃぁ」

 

 マイクラが楽しいからって周りが見えなくなっていた。

 大切なビジネスパートナーを疎かにしていた。

 

 配信だけがVTuberにとって大切なことじゃない。

 同業者や事務所の仲間、スタッフ、応援してくれるリスナー。

 そして――ビジネスパートナーを大事にしてこそだ。

 

 そんなことをいまさら再確認した私は、大事な百合営業のパートナーの美月さんと約束を交し、しばらく彼女の愚痴につきあってから通話を切った。

 

 電話を切れば午前5時過ぎ。

 窓の向こうは朝ぼらけに白んでいる。

 おもいがけずハードになった川崎ばにらの一日はこうして幕を下ろした。

 

 しかし、この後――さらにハードな展開が待っていようとは、このときの私は想像もしていなかったのだ。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 ずんだはちゃんと気持ちを伝えた。

 しかもかなりいっぱいいっぱいな感じで。

 ただ、ばにらはそのことにまだちゃんと気がついていない。

 むず痒くすれ違う二人を、更なる悲劇(あるいは喜劇)がこれから襲う――。

 

 メソメソ陰キャっぷりに「大人になればにら!」と言いたい方も多いかと思いますが、これは彼女の成長物語ですので(むしろダメじゃないとお話にならない)、温かく見守ってくださると幸いです。もし、ばにら少しずつでもいいから頑張れ……と思ってくださった方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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