VTuberなんだけど百合営業することになった。   作:kattern@GCN文庫5/20新刊

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第71話 なんでもするって言ったよね?(前編)

 仲間のピンチに駆けつけた黄金聖闘士のおかげで「エンドラ討伐」は完了した。

 

 せっかくの「デビュー配信」が、とんだ展開になってしまった。

 クリアしたはいいが血の気が引く思いの私――とは裏腹に、川崎ばにらとニーナ・ツクヨミの同接数は気づけば5万を超えていた。

 

 どうやら、「黄金聖闘士」がTwitterでトレンドになり、聖闘士星矢ファンのみなさんが、覗きに来てくれたみたい。

 コメ欄は、日本を問わず世界各国の聖闘士星矢ファンで溢れている。

 アメリカ、フランス、中国、インドネシア、ブラジル、メキシコ。

 

 やはり聖闘士星矢はグローバルコンテンツ。

 車田正美先生ってすごいや――。

 

「オキツネ座の黄金聖闘士――生駒すず!!!!」

 

「あひる座の黄金聖闘士――羽曳野あひる!!!!」

 

『(インドネシア語)えっとえっと……黄金聖闘士――ニーナ・ツクヨミ!!!!』

 

 最後になぜか全員で金装備になって記念撮影。

 城の前で写真を撮ったコラボメンバー&りんずんは配信を終えた。

 

 集合写真のスクリーンショットにコメントを寄せてTwitterに投稿する。

 それから、私は倒れ込むように座卓に突っ伏した。

 

 疲れた。

 シンプルにもう限界。

 指先の一本も動かせない。

 

 クリア耐久と比べれば、配信時間はたいしたことはない。

 配信内容も、すず先輩にキャリーしてもらい、ニーナちゃんがメインで動き、あひる先輩に言語面のサポートをしてもらった。

 なのに、身体全体から生気が抜けたようだ。

 

 これはちょっと、明日は配信できそうにないな――。

 

 ふと視線にスマホの液晶画面が入る。

 美月さんの配信を映していた画面は暗転している。

 彼女の配信が終了したからだ。

 

 時刻は午後10時過ぎ。

 この時間なら、ぜんせん美月さんと宅呑みすることができたな――。

 

 そう思った時、スマホの画面が明滅する。

 LINEの着信メッセージ。もちろん、かけてきたのは他でもない。

 

「……も、もしもし、美月さんですか?」

 

『花楓! これから宅呑みするわよ! 3分で支度なさい!』

 

 どこまで今日はパロディをすれば気が済むんだろう。

 少し迷って「今日はそんな元気ないですよ」と返そうとして、「3分で支度なさい!」という言い方がひっかかった。

 

 まさかそんなと思いつつ座卓の前から立ち上がる。

 玄関の扉を開け、そっと夜闇に目をこらす。

 赤く錆びた鉄筋製の外廊下――その向こうに見える「コーポ八郷」の入り口。

 

 そこに青いスポーツバイクに跨がり、黒いライダースーツの女がいた。

 

「もしもし、美月さんですか? いま、どこにいらっしゃいます?」

 

『アンタの家の前。あと、2分30秒よ』

 

「……すぐに支度します! なので、あと5分ください!」

 

 あわてて玄関の扉を閉め、外出の準備をはじめる。

 外行きの服をタンスから引っ張り出し、手提げ鞄の中にお泊まりセットが揃っているか確認する。おつまみは――数日前、オフコラボした時のが冷蔵庫の中にある。

 

 乾物メインだから賞味期限とか気にしなくてヨシ!

 

 冷たいそれを手提げ鞄にぶち込んだ。

 これで準備はオッケーか……と思ったその時、私は大事なことを思いだした。

 

「ダメです、美月さん。やっぱり私、今日は宅呑みにいけません」

 

『どうしたのよ? もしかして身体の調子が悪かった?』

 

「……忙しくて、銭湯に行く時間がなくって! 汗くさのくさです!」

 

『だーもう! 私の家でお風呂に入ればいいから! 着替えも一緒に持って早く降りてきなさい! いまさら、お風呂の貸し借りくらい気にする仲でもないでしょ!』

 

「すびばせん、みづきさん……!」

 

『なんでこんなことでガチ泣きしてんのよ!』

 

 だって仕方ないじゃないですか――。

 

 ここ最近、美月さんとすれ違っている気がして。

 私と美月さんとで、百合営業への考え方が違う気がして。

 もしかして私の一人相撲なんじゃないかって。

 

 とても不安だったんですよ!

 

 なのにこうして迎えに来てもらったら、嬉しくてどうにかなっちゃいますよ!

 

「今行きます! すぐ行きます! だから、待っててください!」

 

『もう待ってるわよ。まったく、余裕で収録終ったじゃない。これ、宅呑みの予定をキャンセルする必要あった?』

 

「ないです! ありません! 私がバカでした!」

 

『やめて。そんな風に謝られると、こっちが悪いことしてる気分だわ』

 

 わんわん泣きながらパソコンの電源を落とす。

 部屋の電気を消し、扉に鍵をかけ、鉄筋の階段を駆け下りると、猫たちが眠る裏庭を横切って美月さんのバイクに飛び乗った。

 

 細い腰に手を回せば、ヘルメットを被った美月さんがこちらを振り返る。

 シールドの中で優しく微笑んだ彼女は「舌噛むから、通話切りなさい」と、耳に当てたままの私のスマホに手をかけた。

 

「……そうだ。ちょっと寄り道してもいいかな?」

 

「寄り道、ですか?」

 

「うん。花楓にどうしても知ってもらいたいことがあるの。本当は――すぐに私が話すべきだったんだけれど。タイミングを逃しちゃって」

 

 聞くのが少し怖かった。

 もしかして「百合営業」の解消を言い出されるのではないか。

 そんなことを思って、不安になる私に――。

 

「なんでもするって言ったよね?」

 

 美月さんは先ほどの配信で、私が言った台詞を持ち出してきた。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 文京区護国寺の裏にある住宅街に、美月さんは私を連れて来た。

 昔ながらの民家が建ち並ぶそこは、彼女のスポーツバイクで走ると迷惑になりそうな狭い道で、途中でバイクを降り、引きながら移動することになった。

 

「りんごについてだけど、アンタにちゃんと説明してなかったね」

 

「りんご先輩ですか?」

 

「うん。これから私と百合営業を続けるためにも、りんごのことを花楓によく知っておいて欲しいの。そう思っていたのに、今日までずっと逃げていたんだけどね」

 

「……それは、私も同じです」

 

 私もりんご先輩のことから逃げていた。

 

 美月さんの親友。

 高校時代からの付き合い。

 おそらく私よりも「百合営業」にふさわしい人。

 そして――きっと美月さんが、私より大切にしている人。

 

 私はそう勝手に思っていた。

 

 本当のことを、知ろうとしなかった。

 聞こうと思えば、彼女も、彼女をよく知る人物もいたのに。

 

「ここよ」

 

「一戸建ての家?」

 

 そこは新築の家。

 真新しい外壁に広い駐車場。

 芝生が生い茂った庭に小綺麗な玄関。

 東京のただ中にあるとは思えない家庭的な家だった。

 

 午後11時。周囲の家が灯りを消す中、二階の一室からは煌々と光が漏れている。

 紺色のカーテンが引かれた出窓を私が見上げていると、美月さんが駐車場にバイクを停めて、ライダースーツの胸ポケットからスマホを取り出した。

 

 すぐにコール音が住宅街に木霊する。

 それはなぜか二重に聞こえた。

 

「着いたよ。開けてくれる?」

 

 短くそう言うと美月さんはスマホの通話を切る。

 すぐに目の前の家から足音が聞こえてきた。扉の横の磨りガラスからオレンジ色の照明が漏れ、あわただしい足音共にガチャリと玄関の扉が開く。

 そして、玄関から出て来たのは――。

 

「こんばんは! みーちゃん! デートぶりー!」

 

「こんばんは里香ちゃん。ごめんね、こんな遅くに?」

 

 黒い髪をツインテールにしてパジャマ姿の女の子。

 小学校の低学年という感じの彼女は、美月さんに抱きついて嬉しそうに笑う。

 そして、私の方に視線を向けると、しぱしぱとその目を瞬かせた。

 

「もしかして『川崎ばにら』ちゃん?」

 

「……バニ⁉」

 

 さらに見知らぬ少女は、なぜか私の正体を一発で言い当ててみせた。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 ここでまさかの新キャラ登場。

 ずんだの言った「デートぶり」とはどういうことなのか。

 そもそもこの家は――津軽りんごの家ではなかったのか。

 

 次回でその辺りはしっかり補完しますので、お待ちください。

 

 ばにらもずんだもようやく落ち着いて、お互いに向き合うことができましたね。二人がまた、ちゃんと向き合ってやっていけるようになって欲しい――と思う方は、安心してください、そうなる予定です! ですが、それはそれとして評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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