艦これ いつかあの海で 第四話
扶桑の指輪から妄想したお話です。
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扶桑と提督 艦これいつ海 四話から | 暁の瑞雲 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18915700

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扶桑と提督 艦これいつかあの海で 第四話より

「大淀君、今なんと言った?」

「はい、提督。当艦隊はスリガオ海峡を突破! 作戦を完遂したとの事です」

「そうか、良かった。本当に良かった……」

 安堵の溜息をつく提督は、ここ佐世保鎮守府の提督である。大本営のお粗末な作戦のままでは、全滅必須の囮作戦のはずだったが、各鎮守府への入念な根廻しと、情報共有のおかげで作戦を成功させる事が出来たのだ。

「ところで、作戦成功の報だけか? 艦隊は無事なんだな?」

「はい。敵旗艦を撃破し、轟沈艦0名と聞いています。残存戦力も掃討したとの事ですから無事帰投するはずです」

「ありがとう」

 国の為に戦う提督と艦娘は、作戦成功がまず第一。私情は挟まない。提督も艦娘達もその心意気で戦っている。しかし、守りたいものが出来たものは臆病になる。

 能力限界突破のための道具が指輪の形をしているが為に。それを贈る、贈られるものが互いに相手を想うが故に。

 

「提督、艦隊帰投しました」

 発着場で待っていた提督に、旗艦山城が敬礼とともに報告する。

 艤装は戦いの海に沈み、中大破の艦娘達は、迎えに出た艦娘達に支えられ、辛うじて帰投した事はその痛々しい姿を見ればいわずもがな。

「山城、皆、今回の作戦、ご苦労だった。無事に帰ってくれただけで十分だ。全員直ぐに入渠施設へ行ってくれ」

 震える手で返礼すると、提督は踵を返して執務室へと戻っていく。

 扶桑の弱々しくも確かにそこにある笑顔に感極まり、涙が溢れそうになるのを見られたくなかったからだ。

「いつから私はこんなに弱くなったのだ」

 気が強い妹と違い、性格は温厚で素直。何があっても激情に駆られる事なく頼れる戦艦。それが扶桑だった。

 この戦いの前に指輪を渡したのは間違いだったのだろうか? いや、渡していなかったら再び会う事は叶わなかっただろう。指輪を得て能力が上がった彼女が一番ダメージを受けていたのだから。

 執務室に戻った提督は手袋を外して自身の左薬指のリングを何度も撫でる。二人きりの時だけ許されている彼女の長い黒髪を愛撫するように、優しく何度も何度でも。

 扶桑が戻る前は冷たいままだった指輪は、扶桑が無事に戻ってきたからだろうか、確かに熱を持った気がした。

 

「提督、残念ながら最上、時雨以外は肉体、精神へのダメージが大きく、艤装を操作するだけの力がありません。幾度か艤装接続を試しましたがダメでした。回復、不可能です」

「そうか……」

 提督も伊達に艦隊を指揮していない。帰投した際に見たダメージで、ある程度予測してはいた。だが……。

「大淀君。艦娘としてではなく、人として鎮守府に残す事は可能か?」

 俺は何を言っている?

「提督?」

 彼女といたい。

「秘書艦なら艤装がなくとも可能だろう?」

 無理なのに諦めきれない。

「提督、残念ながら艦娘としての能力を失ったら、それは人として生きるという事です。人となった艦娘を鎮守府運営には就かせられません」

「ああ、確かにそうだ。そうなんだよな」

「提督……」

「すまないな、大淀君。私は弱くなったようだ。自分の弱さを支えてもらう為に、彼女に近くにいてもらいたいだなんて、思ってしまったよ」

「提督、それは弱さなんかじゃありません」

「何?」

「人である貴方が理解出来ませんか? それは人が愛と呼ぶものなのではないかと私は思います」

 

 その言葉を聞いて提督の脳裏に過るのは、扶桑の笑顔、扶桑の声、扶桑の匂い、そして温もり。

「そうか、若い頃から朴念仁とよく呼ばれていた私がな。そうか」

「本当に朴念仁ですよ。貴方は」

 寂しそうに笑う大淀は、扶桑、山城、満潮、山雲、朝雲の退役届けを丁寧に提督の前に置く。

 

「扶桑だけでなく、彼女らの為にも早くこの戦いを終わらせねばな」

 目を伏せ、独り言のように呟きながら、大淀が置いた彼女達の退役届けに添付されている経歴書、戦果表の文字列を丁寧に指で撫でながら記憶に刻むように読んでいく提督。

 大淀は長い時間、それを黙って見つめていた。

 

「時雨の悲しむ顔が見たくないから私は先に行くわ」

 白露が退役したばかりで、急造だったとはいえ、同じ艦隊を組んだ仲間達と立て続けに別れを味わうのは辛いだろうと満潮は先に旅立った。

「ふふ。本当は私が泣き顔を見られたくないだけかもね。辛気臭い別れは、あの戦艦二人に任せるわ」

 

「時雨ちゃんによろしくー」

「提督、元気でね」

 山雲と朝雲の二人も学生学校に編入が決まったその日に鎮守府を去った。

 実は満潮と同じ学校である事は二人には伝えてある。

「元気でな。たまには顔を見せに来てくれ」

「いや〜よ。私は新しい恋をするの。提督が来たいなら来てもいいけど〜」

 その日振り返らずに去っていった二人の姿を提督は忘れないだろう。

 

「戦艦扶桑、山城、退役手続きは済んだぞ」

 二人の戸籍と、住まいの確保、今までの功績による報奨金振り込みを終えた別れの日。

 まだ痛々しい包帯をつけたままだが、確かな足取りで歩く二人を見送る為に鎮守府の正門近くまで提督が来た時、

「提督! 時雨ちゃんが目を覚ましたそうです」

 最上から連絡を受けた大淀からの声に、山城が反応する。

「せっかくだから佐世保の時雨の顔を拝んでから行きましょうか。渡したいものもあるし」

「山城はなんだかんだ言って時雨ちゃんが好きね」

「何言ってんのよ。駆逐艦になんて興味ないわ」

 手に持つ小箱を見つめながら答える山城の顔は、何かを成し遂げたような、吹っ切れたような優しい顔をしていた。

 

 

 ここからはアニメ第4話の別れのシーンとなります。

 

 そして、アニメ別れの続きから……。

 

 

「扶桑ねえさま、良かったのですか?」

「ええ、あの人は強いわ。きっとこの戦いを終わらせて、私を迎えに来てくれるはず。それまで信じて待ちます」

「扶桑ねえさま……」

 

 

 

 だがもし、戦いが佳境になり、鎮守府を支える力が必要になった時、その時までに傷が癒え、再び立ち上がる強い心が芽生えていたら、扶桑と山城が艦娘として戦う選択肢が生まれるかもしれない。

 時雨が改二になれたように、二人にも無限の可能性があるのだから。

 

 完


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