黒いモヤが晴れ、視界は色彩を取り戻す。先ほどまでいた薄暗い部屋とは違い、蛍光灯が私の顔を照らす。
「唐突な移動をお許しください
突然、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。目の前には黒いモヤを纏ったような人型の何かがいる。名前は確か、そうだ黒霧だ。
以前、AFOから個性を貰う際に移動手段として彼に頼った記憶がある。
「気にしないでくれ、
「ありがとうございます」
「そんなことより、黒霧君。ここはいったいどこだい?」
私は基本的に外に出ない。今の時代、生活必需品はネット通販で済むしオンラインで働くことも可能だ。まぁ、そのせいで外に出ればすぐに迷子になるレベルでの道音痴なのだが…
「ここは、我々が拠点としているBARです。ここの扉を開けば死柄木 弔に会えます」
そう言いながら、黒霧はBARの入り口であろう扉を開ける。扉を開けた先には手の模型を顔に嵌めている不気味な青年がカウンター席に座っている。きっと彼が死柄木 弔なんだろう。
「なんだ?お前」
手の模型の隙間から不気味な視線が私を刺してくる。そんなことを気にせず私は部屋の中に入り、彼の隣の席に座る。
人間は初めて会った時の第一印象が接し方に8割影響すると言われている。脳がその人のイメージを強く覚えているからそうだ。
なら、残りの2割は何か?-それは1割が相手を深く知った時、例えば趣味を知った時であり、残りの1割は相手の自分に対する接し方だ。
死柄木 弔-彼が私を見る視線は私を見下している視線だ。
私は、AFOに彼の講師の役割を任された。故に、立場を知ってもらわないといけない。こちらが下手に出ては意味がない。
「私は結目 契。あなたの先生にあなたの講師になれと言われた者だ」
「…そうなのか先生?」
死柄木は自身の横に設置されているモニターに話しかける。先ほどまで真っ黒だったスクリーンは突如、砂嵐を起こしノイズが室内に響き渡る。
すると、ノイズに混じり男の声が聞こえた。間違いない、AFOだ。
『そうだよ弔。彼はね、僕が知っている
失礼な、私はまだ表立って事件は起こしてないから敵でないのに。
AFOの言葉を受け、死柄木は舌打ちをした後に「死柄木 弔だ」と自己紹介をしてくれた。事前に名前を知っているが自分から名前を名乗ることに意味がある。事前に名前を知っていたことは死柄木君には言わないでおこう。
『それじゃあ、僕はここらでお暇としよう。チギリ、後は頼んだよ』
そういって、先ほどまで音を立てていたモニターは再び電源が落ちたように静かになった。
誰も喋らないせいで静寂が部屋を支配している。そんな中、私は「さて」と言いこの空気を変えるため立ち上がった。
いや、誰も喋らない空間なんて私にとって地獄でしかないなんか気まずい雰囲気も漂いそうになってたし。
「私は君の先生から弔君が雄英高校を襲撃するところまでしかしらない。とりあえず、日時と目標を教えてくれないか?」
「…襲撃はこの後直ぐ、目標は平和の象徴の殺害だ」
渋々といった形で弔君は襲撃の日時と目標を教えてくれた。そうか、襲撃はこの後直ぐ…ん?直ぐだって?
「黒霧君、今日の日時は?」
「現在は…◯月×日の△時丁度ですね」
「ウッソだろ…」
だからか、直ぐに私をここに黒霧の個性を使い私を移動させたのは。ある程度の計画は建てていたがこれでは全部パァじゃないか…
しかも、目標は平和の象徴の殺害。そこらでコンビニ強盗をするのとは訳が違う。難易度で言えばまだ、大統領を暗殺する方が幾分か簡単と断言してもいい。
「弔君…君はあのオールマイトを殺す算段があるんだね?」
私の問いに死柄木は不気味な笑顔で返す。
「あぁ、勿論。先生が送ってきた対平和の象徴用に改造した脳無なら確実に殺せる」
「…そうか、なら今回私は君を見る事だけに徹しよう。そこから君に教えるべき点を考えるとしよう」
「あぁ、頼んだぜもう一人の先生」
そう言うと、死柄木は立ち上がり黒霧に対し「行くぞ」とだけ言う。黒霧はそれを理解し、黒いモヤを大きく広げ死柄木を包み込んだ。
黒いモヤは包み込むと同時に小さくなり先ほどまでいた死柄木は綺麗に消えていた。
黒いモヤは私も包み込もうとしている。
「ちょっと待ってくれ」
咄嗟に、そんな言葉を漏らしていた。死柄木が言っていた脳無-それはAFOが個性や薬物で無理やり改造を施した改造人間。彼らは普通のヒーローたちでは複数人で対処しなければいけないレベルの代物だ。それを対平和の象徴ように改造したのだ。なら、心配はいらないと死柄木のように確信してもおかしくない。
だが、私個人としてはこの襲撃作戦は失敗すると考えている。
まぁ成功したのならそれでいいし、失敗したのならそこから学べばいい。ただ、失敗した際に何か学べただけでなく相手にある程度損害は与えたい。
なら、即席でもいいから用意はするものだ。
「私はこれから部下を呼んでくる。少し時間が掛かるかもしれないから、そうだな…5分後くらいに私を迎えにきてほしい」
「分かりました。では、後ほど」
黒霧はそう言うと黒いモヤを小さくしていき消えていった。
BARには私一人となり、静寂が再び部屋を支配する。私はポケットにしまっていたスマホを取り出し、電話をかける。
ワンコールもしないうちに電話が繋がる。『やっほー!!』と女性の元気な声が音割れと共に耳に響く。
『久しぶりドクター!!最近の調子はどうだい?』
「まずまずだね。急で悪いんだが今直ぐ来れるオペレーターを調べてくれるかい?」
『急だね、ちょっと待っててね』
電話越しだがキーボードを叩く音が聞こえる。調べ終わったのか「うわぁ…」と何かに絶望したような声が聞こえる。
『残念だけどね,今直ぐと動ける子は2人しかいないけど大丈夫かな?』
「んー…役職は?」
『重曹1狙撃1だね』
「おーけー、なら二人に準備するように通達しといてくれ」
『分かった。あっ、今度そっちにお邪魔するからその時はよろしく頼むね』
そう言うと電話の主は私の返答も聞かずに一方的に切ってしまった。
画面を見ると2分23秒と通話時間が移っている。
少し待てば、直ぐに迎えがくるだろう。そう思い私は胸ポケットにしまってあるタバコを一本取り出し火を付ける。
ゆっくりと肺に煙を満たし、少しずつ吐き出す。初めて吸った時は蒸せてしまいとてもじゃないが、これが人に愛される理由はわからなかったが今なら分かる。
一本吸い終わるのと同時に私の目の前に黒いモヤが現れた。
「お迎えにあがりました、結目 契」
「悪いね。それじゃあ行くとしよう」
「その前にこれを」
「これは?」
黒霧は黒いモヤからフード付きのコートとフェイスマスクを私に渡してきた。
「先生からです。貴方の本業に差し支えがないように変装が必要だと」
確かに、身バレでもしたら一生逃亡生活になる。別に衣食住程度ならAFOが提供してくれるだろうし、最悪整形すればいい。しかし、問題は娘の生活にも支障が出てしまう事だ。それだけは避けなくてはならない。
ここは受け取る一択しかないな。「ありがとう」とそう言い身につける。
「それでは行くとしよう」
黒いモヤが私を包み込む。それと同時に、私の意識も黒いモヤに溶け込むように消えていった。
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