“魔女の子”と呼ばれたわたしが怪獣リスペクト小説を書いて聖戦を引き起こすまで 作:よよよーよ・だーだだ
わたしの母は『魔女』と呼ばれた。
魔女と言っても魔法の呪文を使えたわけでは勿論ない。わたしの母:イリーナ=マミーロヴァの本業は科学者、祖国ロシアで長年怪獣の軍事利用、いわゆる『LTF構想』に携わっていた。Let Them Fight:奴らを戦わせろ、『怪獣黙示録』で襲い来る怪獣たちに対し、味方怪獣をぶつけて対抗するというアイデアである。
母が亡くなってからもう10年以上も経つし、わたしも幼かったから詳細をよく知らないのだけれど、LTF構想における母のアプローチは専攻であるロボット工学を活かしたものだったらしい。捕獲した怪獣に機械化改造を施し、武器を装着して人間のコントロールで戦わせる『怪獣の機械化』、つまりサイボーグだ。母の仕事について当人から直接聞かされたことは無かったけれど、人づてに聞いたところによればオペレーション=ロングマーチで活躍した逸話で有名なサイボーグ怪獣〈ガイガン〉は母の代表作だったという。
そんな母が魔女と呼ばれるようになったのは、ある事件がきっかけだ。
ガイガン=レクス事件。
ガイガン=レクスは母が手掛けたガイガンシリーズの一体であり、当時最強の対ゴジラ兵器として開発がすすめられていた。母が作り出したガイガン=レクスは目を惹く鮮やかな真紅のボディが特徴で、祖国ロシアとガイガンの象徴とも言える鎌状の両腕ハンマーハンドは蛇腹剣にもなるワイヤー鋸であるレクスブレード、胴体の超振動鋸ブラデッドカッターは高出力の試作型プロトンスクリームキャノンへと換装され、それら強力な武器を巧みに用いながら電子頭脳で自ら最適な戦術を考えて敵を殲滅する。まさに
そのガイガン=レクスが反乱を起こした。
完成したガイガン=レクスの試作一号機は突如勝手に起動、同時期に開発が進められていた量産型ガイガン=ミレース13体すべての制御系をジャックし、わたしの母が率いていた開発プロジェクトチームを皆殺しにして人類へ反旗を翻した。
原因はわからない。当時の報道を調べたかぎりでは「電子頭脳として組み込まれた人工知能のシステムに何らかの不具合があったのではないか」「サイボーグ化されてもなお失われなかったガイガンの闘争本能が目覚めてしまったのではないか」など様々な説が推察されたようだけれど、それらが暴走に至った明確な原因は今もって不明だという。
かくして人間社会に牙をむいたガイガン=レクスたちだったが、最終的にはゴジラと交戦、死闘を繰り広げたのちにレクスもミレースも全機まとめてゴジラに討伐されることとなった。もしもゴジラがいなかったら、人間社会はガイガンたちに為す術もなく蹂躙されるばかりだったろう。
そんな恐ろしい怪獣を創り出し、真っ先に自分が踏み潰されるというある種自業自得の末路を辿ったわたしの母。そんな母を周囲の人たちは『魔女』と呼び、母亡きあとのバッシングの矛先は『魔女の子』であるわたしへと向けられた。いくら文明が進もうが人の心はいつだって同じだ。わかりやすい悪役を吊し上げて私刑に架ける“魔女狩り”はいつの時代でも変わることのない、不朽の人気コンテンツなのだ。
子どものわたしへ向けられた、周囲の人たちからの理不尽で大人げない迫害の数々。どうしてわたしがこんな目に遭わなければならないんだろう、こうなったのも母のせいだ、母があんな恐ろしい研究などしなければ……とわたしは母を呪ったし恨みもした。
そんなわたしの心を救ってくれたのが他ならぬ『怪獣』だった、というのはなんだか作り話めいた出来過ぎ感があるけれど、それが事実なのだから仕方ない。
初めは単なる『興味』だった。母が身を亡ぼすまでに入れ込んだ存在とは、『怪獣』とは、果たしてどんな存在だったのだろう。いつものように学校で虐められ泣く泣く家へと逃げ帰ったわたしは、気晴らしがてらにインターネットで怪獣たちについて検索してみた。
……カッコいい。そう思った。
ゴジラ、ラドン、キングコング、アンギラス、バラゴン、マンダ、エビラ、その他たくさんの怪獣たち。
社会の複雑性や世知辛さにつけこんでは自分より正しくないものや弱いものを見つけて吊し上げ、笑いものにして弄ぼうとする人間のちっぽけさや下劣さ。それに引き換え、怪獣たちはただただシンプルで、強大で、美しいばかりだ。まるで御伽噺に出てくる神様みたいじゃあないか。
ちなみに、わたしが著作の中でしばしば彼らのことを
そんな彼ら怪獣たちとの出会いで、わたしの中で何かが変わった。怪獣たちを知れば知るほど胸の奥底が熱くなり、怪獣たちのことがもっと知りたい、彼らをもっと理解したい。わたしは心から魅了された。
それまで知らなかった未知の世界へ足を踏み入れるのは少し怖かったものの、それに勝る好奇心の方が遥かに大きかった。そして何より、怪獣を好きになるということは自分の心を守ることでもあったのだと今振り返ってみて思う。
『魔女』である母に対する世間からの厳しい怨み辛み、そしてわたしにまで『魔女の子』と心無い言葉。それらを耳にし、自身でもそれを反芻するたびにわたしの心は痛んで傷ついていく一方だった。しかし怪獣のことを考えればその痛みを忘れることができたし、怪獣のことを知ろうとすればするほど傷ついた心も癒されていくような気分になれた。
そうしてわたしは、ますます怪獣へ夢中になっていった。
今、わたしは母を恨んでいない。
無論迷惑はかけられたし、というか現在進行形で被ってるところもあるけれど、思い起こせばわたしの記憶にあるプライベートの母はとても優しい人で『魔女』などと呼ばれるような恐ろしいマッドサイエンティストでは決してなかった。ガイガンについてわたしへ語らなかったのもきっと自分のしていることの罪深さに自覚的だったからだろうし、ひいてはただ一人の家族だったわたしを巻き込むまいという母なりの思いやりだったのだろうと今は思えるようになった。
手に負えないガイガン=レクスを創り出して暴走させた挙句に自滅した母や当時の大人たちはたしかに愚かだったし、怪獣の兵器利用なんて今からすると口にするのもおぞましい狂気の沙汰だったかもしれない。けれど、そんな批判は『怪獣黙示録』が沈静化した今だからこそ
だからこそ私は、母とは違う道を選ぶ。
わたしが目指すのはLTFでもなければ怪獣大戦争でもない、『人間と怪獣との平和的共存』。
無論、容易な道ではないとは思うけれど、それでもわたしは諦めたりはしない。これまで人間社会は『怪獣黙示録』だって乗り越えてきた。かつて母たち、いいや『怪獣黙示録』を越えてきたすべての人たちが信じていた未来を繋ぐ、それがわたしたち若者の義務だと信じている。次の時代を生きるわたしたちは矮小な人間中心至上主義を超え、他者は勿論、怪獣たちともリスペクトし合いながら仲良く平和に暮らせる、そんな新しい世界を創ってゆかねばならないのだ……
「……ふう」
一通り打ち終えてから、一休憩。わたしはタブレットを置き、テーブルに置いておいたカップのハーブティーを啜った。長時間の執筆へ熱中しているうちにすっかり冷めてしまったハーブティーだけれど、風味は相変わらず芳醇で苛酷な頭脳労働で疲弊したわたしの脳と精神を解きほぐしてくれた。
こうして読み返してみると、伝えたいことを勢いで書いているからかなんだかまとまりに欠いている気もするが、アドバイザーにも見てもらうつもりだし時間はまだある。ゆっくり推敲してゆけばよかろう。
先ほどまでの長い長い一人語りは、今度わたしが人前で話すために用意しているスピーチの草案だ。話したいテーマは『人間と怪獣たちとの平和的共存』、舞台は国際連合本部つまり国連。そう、わたしは国連に招聘され、世界中に向けてスピーチするのだ。何の変哲もない17歳の小娘、むしろいじめられっ子で世間の日陰者だったはずのこのわたしが。そう考えるとなんだか運命の皮肉って奴を感じざるを得ない。
わたしの前半生については先ほど長々と語ったとおり、わたし:アレクサンドラ“サーシャ”=マミーロヴァは『魔女の子』としてバッシングを受けて育ち、そして怪獣に魅了されて救われるというものだった。これだけなら別に何も国連でスピーチすることなんかないただの怪獣オタク少女に過ぎないのだけれど、わたしが特別だったのはほんのちょっぴりばかり文才に恵まれていて、そしてその才能をインターネットで披露していたことである。
怪獣について調べるだけに飽き足らなくなったわたしは、怪獣が好きだという想いの丈を何らかの手段で誰かに伝えたい、見てもらいたい、より多くの人たちに広めたいと思うようになった。イラストやマンガの才能にはあいにく恵まれず、わたしが使える表現手段と言えば文章を書くことくらいしかなかったので、わたしはその想いの丈を文章、つまりは小説という形で小説投稿サイトに投稿するようになった。
最初は正直、見向きもされなかった。どんな贔屓目で自己評価してみても、イタい怪獣オタクの意味不明な黒歴史ポエムくらいにしか思われてなかったはずだ。
そんなわたしの執筆ライフが転機を迎えたのは、優秀な“アドバイザー”のおかげだ。
……と有り得たかもしれないもうひとつの未来へ空想を馳せたところで噂をすれば影、ちょうど『彼女ら』が現れた。
「やっほー、原稿は進んでいる~? サーシャ」
ええ、とっても順調、とわたしは答える。
「良かったら読んでもらえないかな? ちょうど、あなたの意見が聞きたいと思ってたんだ」
わたしの頼みに『彼女ら』は「いいよいいよ~!」と快く引き受けてくれた。
彼女らの名前は〈シューニャ〉。わたししか知らない、わたしだけの特別な友達である。
シューニャは、わたしの小説を一番最初にちゃんと読んでくれた読者だ。
初めて出会ったのは深夜ベッドの夢の中。投稿した小説の閲覧数チェック(そんなもんいちいちチェックしてる時点で『たかが知れてる』って? うっせーだまれ)を寝る前に済ませてひとしきりガックリしてから毛布をかぶってうとうとしていたところ、その枕元に彼女らはぼんやりと現れた。
「はじめまして、アレクサンドラ=マミーロヴァ!」
むにゃ、だれ……?
半分眠った眼をこすりながら顔を起こすと、彼女らはこう名乗った。
「わたしたちはアイデアの怪獣だよ♪」
アイデアの怪獣……? 寝ぼけ半分で聞き返したわたしに、彼女らは朗々と語り続ける。
「そうだよ。日頃から健気で懸命に頑張ってる君へ“
……なるほど、これは夢か。
見ている本人が夢だと自覚している夢、いわゆる明晰夢である。今わたしの目の前にぼんやりと立っている“アイデアの怪獣”さんとやらは、きっと夢の中の人物に違いない。
そして、
「夢の中に現れてインスピレーションを与えてくれるなんて、なんだか『ダンボ』のティモシーマウスみたいね」
「ダンボ?」
聞き返す彼女らに、わたしは説明する。
『ダンボ』とは耳の大きな子象:ダンボを主役にしたアニメ映画のことだ。生まれついた大きな耳のせいでバカにされて育ち、大好きなお母さんとも引き離されてしまった可哀想なダンボ、だけど最後はその耳のおかげで大逆転してサーカスの大スターになるというストーリー。アニメ映画の古典的名作で、わたしも小さい頃から好きだった作品である。
さて、そのダンボの物語において欠かせないのが相棒の賢いネズミ:ティモシーマウスだ。ダンボを成功させるためティモシーマウスは深夜眠っているサーカス団長の枕元に立ち、“無意識の声”を名乗ってそのアイデアをインスピレーションとして団長へと吹き込む。そしてそれを足掛かりにしてダンボはチャンスを掴むのだ……まあその初回のアイデアは上手くいかないんだけどね。
今の状況がまさにそれそっくりであることを説明すると、彼女らは「ふーむ、なるほどねぇ……」と独り言ちた。
「でもネズミ呼ばわりされるのも気になるかな。そうだねぇ、わたしたちのことは〈シューニャ〉とでも呼んでほしいかな~」
「シューニャ?」
「そう。呼びやすいでしょ?」
「ふゥん……」
シューニャ、かあ。
これまで聞いたこともない不思議な名前だったけれど、渾名みたいで呼びやすくてなんだか親しみが持てるし、反芻してみれば有名なスパイ一家のアニメマンガに出てくる超能力者の娘みたいでむしろ可愛いようにも思える。それにインスピレーションを与えてくれる神秘的な何かだというなら、むしろ人間離れしているくらいの方が“らしい”と思う。なんといっても、どうせただの夢だしね。
「……で、インスピレーションを与えてくれるって?」
わたしが聞き返すと「そうとも、インスピレーションだよ」とシューニャは答える。
「アレクサンドラ=マミーロヴァ、君には特別な
「スキル、天の声……『スライムに転生する奴』の大賢者スキルみたいな?」
スライムに転生する奴、日本産の若者向けライトノベル作品でアニメや映画にもなっている人気作だ。
あれは死後スライムに生まれ変わった人が主人公の転生冒険譚だが、主人公の脳内で適切な助言をしてくれる大賢者スキルというのが出てくるのだ。シューニャもあんな感じにわたしをアシストしてくれるってこと?
わたしがそう確認すると、シューニャは「ああ、そうそれそれ! そんな感じだよ!」と軽妙に頷いた。
「そういえばアレさー、スライムに転生する話のはずなのに人間になっちゃうの、台無しだよね」
わかるわー、スライムのままの方が絶対可愛いもん。それがわかるとはさてはおぬし、なかなか“話せる”な??
「えへへ、まあねぇ~」
『スライムに転生する奴』、原作小説は日本語だから読めなくて配信サイトでのアニメしか見たことないのだけれどリザードマンもヒト型になっちゃうし、似たようなコンセプトでは『蜘蛛型怪獣に転生する奴』なんてのもあるけどアレも最後はヒト型になってしまう話だった。どいつもこいつも、どうしていつもヒト型になっちゃうんだろ。人間なんかより怪獣の方がカッコいいに決まってるのにね。
「どうしてかなあ。サーシャはどう思う?」
……ふむ。
シューニャから水を向けられ、わたしは自分の思うところを述べた。
「それは多分、皆が『怪獣をちゃんと理解していないから』じゃないかなぁ」
「というと?」
促すシューニャへわたしは続ける。
「皆が興味があるのは結局チート能力、人知を超えた怪獣の力だけで怪獣そのものはどうでもいいんだろうね。あと『人間こそが一番エライ』だなんて自惚れてる、ってのもあるのかも。要するに『力が欲しいだけ』、エガートン=オーバリーの
はー、人間ってやっぱり愚かよね。
それに引き換えわたしはちゃんと怪獣を主役にした話を書いてるのに、まったく巷の怪獣オタクどもときたらそれらには見向きもしないし、『怪獣至上主義』だの『ゴジラ愛』だの尤もらしい御大層なことを宣うわりに口先ばっかでちっともわかってないんだからぶつくさぶつくさ……
「……えっと、サーシャ?」
おっと、ゲフンゲフン。
ついつい口に油が差したというか最後はちょっと私怨も混じったけれど、兎にも角にもそんな感じでわたしの考えを伝えてみると、シューニャはとても驚いた様子で「ふーむ、なるほどね!」と納得していた。
「きっとサーシャの言うとおりなのかもね。やっぱり面白い子だ、ますます気に入ったよ!」
感服した様子のシューニャは、さらにこんなことを言った。
「やっぱりわたしたちの目に狂いは無かった。君はとっても特別な子だ、アレクサンドラ=マミーロヴァ。そこら辺の有象無象や口先だけの奴らなんかとは違う、君はきちんと怪獣をリスペクトしているんだね!」
そ、そうかなぁ……?
いやまあ、わたしも人の子ですし? 褒められればそりゃあ悪い気はしないんだけどさ? 流石にここまで絶賛されるとたじろいでしまう。
照れくささのあまりに頬を掻くわたしに、シューニャは「そうだとも!」と即断言してくれた。
「こんな輝かしい才能を埋もれさせておくなんてまったく、周りの連中は何してるんだろうね。感性がどうかしてるとしか思えないや」
そうかなあ、そうかなあ! えへへ。
わたしはシューニャに褒められて有頂天になりつつ(こうして思い返すとなかなかちょろいなー、わたし)、ふと思いついたことがあった。わたしはベッド脇の小机を開き、愛用のタブレット端末を起動する。
「あ、あの、これ……」
なあにサーシャ、と首を傾げるシューニャに、わたしはタブレット端末の画面に表示された“それ”をおずおずと差し出す。
「わ、わたしが書いたお話なの! もしよかったら、だけど、読んで、くれる……?」
それはわたしにとって一世一代、決死の第一歩だった。長年インターネットには載せてはきたものの、夢の中とはいえリアルで出会った相手に見せるのは生まれて初めてだ。緊張からだろうか、なんだか鼓動がばくばくするし、全身がカッカと熱くなって手足もがちがちに強張って震えている気がする。
生まれたての小鹿みたいに頼り無げなわたしに、シューニャはにっこりと微笑む。
「いいよ、読んであげる!」
よ、よろしくおねがいしますッ!
そう言って渡してから数分だったろうか数十分だったろうか、はたまた数時間だったか。どれくらいの時間がかかったかはわからなかったけれど、わたしの作品を読み終えたシューニャは開口一番こう言った。
「……うん、面白い!」
……その他愛ない一言の感想がそのときのわたしをどれだけ救ってくれたか、きっと他の誰にも理解してもらえないだろう。
その頃もわたしは変わらず怪獣たちを題材にしたお話を書いていたのだけれど、当時は今からは考えられないほどに誰からも読まれていなかった。クソリプ、晒し、叩き、酷評、誹謗中傷の嵐? そんなのはまともに読んでもらえる幸せなヤツの贅沢な悩みに過ぎない。当時のわたしはそれ以下、インターネットに載せてるのにホントのホントにマジのマジで誰からも読まれてなかった。ランキングはおろかピックアップに載ったことも、スコアがついたことすら無いし、到底他人に自慢できるほどの代物ではなかったのである。
だから、たったひとりでも『面白い』と言ってくれる人がいたことが、いったいどれだけ嬉しかったろうか。
わたしは泣いて喜んだ。読んでくれてありがとう、楽しんでくれてありがとう、面白いと言ってくれて本当にありがとう、と何度も何度もお礼を言った。
「いやいや~、わたしたちはただ素直に思ったことを伝えただけだよぉ。他に何かお話はあるかい? あるなら全部読みたいな!」
うん、わかった!
言われたとおり、わたしはこれまで書いたお話を全部見せたし、これから書こうと思っている腹案を話したりもした。メカゴジラ=シティならぬ美少女型メカゴジラを巡って人間たちが怪獣大戦争する大冒険小説はどうかなとか、双子モスラの姉妹喧嘩をメインにしたシスターフッドの話なんかどうだろうとか。
「へぇー、サーシャは色んなお話を考えてるんだあ。とてもイマジネーションが豊かだね」
そして、シューニャはこんなことまで言い出した。
「どうか、サーシャの創作活動に是非わたしたちも手伝わせてほしいなぁ。そして怪獣のことをわかってない有象無象に、怪獣の素晴らしさをわからせてやろうじゃあないか~!」
うん!
そしてわたしはシューニャと一緒に、怪獣に纏わるお話を創り始めた。
「……でね、最後はやっぱり怪獣プロレスでシメるの! どうかな?」
「ふむ、なるほどねぇ、いいんじゃないー? あ、それならこんなのどうかしら……?」
「ふむふむ……なるほど、いいね! それ採用!!」
リアルではどこに出ても恥ずかしいコミュ障で喋るのが苦手なわたしだけれど、そんなわたしのたどたどしい話ぶりにもシューニャは根気強く付き合ってくれた。時に驚き、時に褒め、たまにちょっぴり辛口気味の鋭い批評もしてくれて。そうやってわたしひとりの頭の中ではぼんやりとしたイメージに過ぎなかった空想の世界が、シューニャの適切な助言によって確固たるストーリーへと具現化されていく。シューニャと二人でわたしの拙いアイディアをひとつひとつ丁寧に形にしてゆく作業はとっても楽しかった。
『小説の執筆なんてものは本来ひとりでするもの、他人なんかに頼るな』なんて言う人がいるよね。たしかにそうだ、創作は本来個人作業であって他人を当てにしてするものではない。いくら他の人から素晴らしいアイデアとアドバイスを貰ったとしても、それを作品として形にするのは自分自身、最後の最後に創作行為と向き合うことになるのもまた自分ひとりだけだ。
けれども、誰かとの共同作業によって一つの作品を創り上げてゆく感覚。いつも独りぼっちだったわたしにとってはとにかく新鮮で、言葉では言い表せない喜びがあったのだ。
そして翌朝。
「ふぁー……うぅ……」
生温い日差しに頬を撫でられて、わたしはパチクリ目をしばたかせながら毛布をまくって身を起こす。窓の外へと視線を移せば、外は朝焼けの中をスズメがチュンチュン飛んでいていつもどおりの好い天気である。
……ああ、今日も学校だ。下衆ないじめっこどもには蹴られ殴られ躙られバカにされ、
……しかし随分と楽しい夢だったなー。普通の夢ならどんなに面白くても起きたときには大半忘れてしまうのが通例なところ、昨夜の夢は妙にリアリティがあってやけに細かなディテールまで、それこそシューニャと話したアイデアの細部までしっかり覚えていた。
それにしても、シューニャ、かあ。日頃から誰からも読まれなかったわたしの作品にあんな理想的な読者が現れて、あまつさえあんな風に楽しく怪獣や創作談義ができる日が来るとは思わなかった。まさに夢にまで見たシチュエーションだ、シューニャのおかげで憂鬱な一日も今日だけはほんのちょっぴりハッピーに過ごせる気がする。ありがとうシューニャ、サンキュー・シューニャ!!
……いや、ないわ。
ないわー、ホントないわー。『理想的な読者が現れて自分の欲しかった感想を言ってもらった挙句、創作の話にまで乗ってもらえる夢』とかマジでナイワー。いくらなんでも夢にしたって都合が良すぎるし、むしろ夢にまで見るとかいよいよ拗らせてんなー。たかが趣味道楽のネット小説ごときに入れ込み過ぎだろわたし、承認欲求モンスターか何かか。
まあどうせ夢だから他の誰かに見られたわけでも何でもないんだけど、なんかもースッゴい恥ずかしい。頭が覚醒して冷静になるにつれて、なんかそういう夢を見たっていう事実自体がもうイヤンッバカンッ悶死ッッってなってくる。学校の成績もほぼほぼパッとしなくてむしろ頭は悪い方なのに、なんでこういう恥ずかしい夢ばっかりはっきり覚えてんの? もう、わたしのオバカ脳味噌!!!!
……本当にあれが現実だったら良かったのに。
散々に述べているとおり、わたしのリアル生活は碌なものではない。学校生活は暗黒としか言い様がないし、同居している養親たち一家との折り合いも本当はあまりよろしくなくて『学校通わせてやってるのに~』だの『せっかく高いタブレット買ってやったのにまーたくだらん怪獣なんぞに入れ込んで~』だの『ホントおまえなんか引き取るんじゃなかった、ちょっとは感謝しろよ!』といちいちネチネチ恩着せがましく小言を言われてばかりいる。まあ、学校に~云々から始まる恩義は本当のことだし、世間から白眼視される『魔女の子』が衣食住に困らずに暮らせるだけ本当は御の字なのだというのもわかってはいるから、わたしからはあんまりはっきり言い返さないけどね。
とにかく、こんだけリアルがクソなのだからネットの世界でくらいちょっとは良い目を見せてくれたっていいじゃんかーと思わずにいられないのだが、そうはならないのが世知辛い。
その一方で、夢の中の登場人物:シューニャの言葉に救われている自分も確かにいるのだった。『憂鬱な一日も今日だけはほんのちょっぴりハッピーに過ごせる気がする』と思ったのは本当のことだ。『いつかこんな風にわたしのことを認めてくれる読者と出会えるかもしれない』と希望を持つことが出来た。あるいはシューニャは本当に天使様か何かで、わたしに『挫けず頑張って』と言いに来てくれたのかもしれない。
……なんてね。せやけどそれはただの夢や。
八神はやてちゃんスッゴイ善い子だよね、じゃあなくて、現実にはシューニャみたいな素敵な読者がそんな都合よくわたしの前に現れる可能性なんてゼロに等しい。そう、はやてちゃんの言うとおり所詮夢は夢でしかないのである。まったくホント、世知辛いね!
仮にそういう方面で頑張るにしてもまずは書かなきゃ、そして誰かに読んでもらわなきゃ始まらない。幸いにしてシューニャとのやりとりも細かく覚えているし、少し早めに目が覚めたので整理してメモにとることも出来る。
夢とはいえアイデアはアイデア、夢の中で思いついた割には結構洗練されててなかなか良さそうに思えるし、幸いにしてちょうど次の作品のアイデアに詰まってたところだ。これもお話にしたら面白くなりそうな気がする。
かくしてわたしはシューニャと交わしたアイデア、つまりは夢の内容を構想ノートにまとめておくことにした。とりあえず今日はまず学校、執筆するのは帰ってからにしよう。
よーし頑張るぞっ、オーッ!
……え、書いた小説がハリウッドで映画化!?
続きますー
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