“魔女の子”と呼ばれたわたしが怪獣リスペクト小説を書いて聖戦を引き起こすまで   作:よよよーよ・だーだだ

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2話目 怪獣リスペクト

 いやぁ~。

 書いてるときはたしかに、『我ながら面白そうなアイデアだ、今度こそ大ウケ間違いなし!!』くらいには思ってましたよ? けどサ、まさかここまでのヒットになるなんてそれこそ『夢にも思わなかった』ですよホントマジで。

 

 今まで誰にも見てもらえなかったはずのわたしの小説、それが突然多くの人の目に留まって読まれるようになって、コメントをもらって、ハイスコアも出るようになって、ブックマークが増えて、レビューがついて、SNSのフォロワーもがっぽがっぽ増えてブロマガも大盛況。

 そこまでいけば次は商業、書籍化の打診だ。そして売り出されれば出版不況もなんのそのと言わんばかりの大ヒット、空前の社会現象にまでなってしまった。投稿サイトのチンケで移り気な内輪のランキングなんてもはや目じゃない、わたしの書いた怪獣のお話が本屋さんに並んで、大勢の人が手にとってくれて、売り上げランキングの上位に食い込んで。巷やネットの若い人たちのあいだではわたしの作品についての話題でいっぱい。今や世界中で翻訳されて、ハリー・ポッター顔負けの大ベストセラーになってしまった。

 書いた小説が人気沸騰、筆者であるわたしは新鋭の超ウルトラスーパー美少女天才作家として祭り上げられた。ついには本の宣伝も兼ねてテレビや人気動画配信者の生放送なんかにも呼ばれたりしたのだけれど、その来歴と小説について共演したコメンテーターたちがこんなことを口々に言っていた。

 

「いやあ、これは実に面白い。『怪獣』と『地球環境』というキーワードは一見すると無関係なもののように見えますが、実は現代社会の抱える問題を的確に表現しているんですよ。例えばですね……」

「アレクサンドラさんはかつて『魔女の子』と呼ばれたそうですね。さぞおつらかったでしょうね~。だけどそんな逆境を乗り越え、今やあなたは怪獣の保護と共存を訴えていらっしゃる! うーん、なんて素晴らしいんでしょうね!」

「彼女にとっての『怪獣』とは単なる空想上の生き物ではなく、人間の隣人として共に生きるべき存在なのです。『怪獣』というモチーフを選んだのも実に理に適っていると言えるでしょう。これから怪獣と人間が互いに手を取り合って生きていくための、大きなきっかけとなるかもしれません……」

 

 ……ふっふっふっ、もっと褒めておくれよ。なにを隠そう、わたしはこう見えてかなりの承認欲求モンスター、いくら褒め称えられても飽き足らない。一般ピーポーどもよ、せいぜいわたしを称えたまえ。そして我が恐るべき才能の前にひれ伏すが良い、がっはっはっはーッ。

 ……なーんて、かなり調子に乗った感情も脳裏をちらっとよぎりはしたのだけれど、まあ、わたしも流石にTPOくらいは弁えてますから? その当座は謙虚の愛想笑いでやり過ごしてやりましたともさ。

 

 

 そんなこんなで行き着いた先が『ハリウッドでの実写映画化』だった。

 原作はわたしの長編を基に再構成したもので、あるひとつの家族の目線から『怪獣黙示録』の時代を描いた大河ストーリーなのだが、映画での主役はもちろんフルCGと特撮を駆使して描かれる怪獣たちだ。

 三部作構想で、一作目はゴジラに戦いを挑む話、二作目は新型メカゴジラを使って戦う話、そしてフィナーレは宇宙怪獣キングギドラとの大決戦、まさに最終戦争:ファイナルウォーズとなる。怪獣あり、特撮あり、波乱万丈のドラマもあり、そしてもちろん怪獣プロレスも山ほど盛り込まれたエンターテイメント超大作になる予定なのだ。まさにハリポタもびっくりである。

 総監督は特撮怪獣映画の巨匠、エガートン=オーバリー。知らない非オタの人のために一応説明しておくのだが、エガートン=オーバリーとは()()ゴジラ映画五部作を手掛けてきた映画監督だ。怪獣と特撮に関しては超一流の神様みたいな人で、彼のファンでもあるわたしに言わせればまさにこれ以上ない『最高!』って感じなのである。

 ……実のところ、エガートン=オーバリーの作品でわたしが好きなのはどっちかっていうとメカゴジラ映画ではなくて、その前に彼が撮ってた『地球防衛軍』だったりするんだけどね。『地球防衛軍』といえば有名なゲームのシリーズで同名のものがあるが、こっちはれっきとした映画作品だし、しかもゲームより映画の方が遥かに古い。ミステリアンドームを築いて地球制圧を目論む邪悪な侵略者ミステリアンの野望とそれに立ち向かった人々の奮闘を描く、『怪獣黙示録』の()()に基づいた戦争映画の傑作である。え、ゲームはやったけど映画は観てない? うるせー、ゲームばっかやってないで映画も観ろ。閑話休題。

 

 あ、そうそう、実写映画といえば、わたしが好きな『ダンボ』の映画だけれどあれにも実は『実写版』があるのを思い出した。監督はティム=バートン、この人の作品もわたしは大好きだ。

 さて実写版ダンボ、実写版といってもCGを駆使した映画で、ストーリーもアニメとはかなり違う。『耳の大きな子象ダンボが、空を飛ぶ才能を開花させてサーカスの大スターになる』というところまではアニメと同じなのだが、実写版はさらに“その後”を描いたところが異なっている。

 小さなサーカスで大成功を収めたダンボはその後もっと大きなテーマパークへと移籍するのだが、そこで冷酷非道な守銭奴の経営者――演じたのは名優マイケル=キートン、これがまた実に怖くてまさに暗黒ウォルト=デ●ズニーって感じなのだ――によって商業主義の食い物にされてしまうという残酷な展開が待っているのである。

 まあ、そこは映画なので、最後は家族ドラマで大逆転大勝利を収めてハッピーエンドを迎えるのだけれど、ここでわたし:アレクサンドラ=マミーロヴァが得られる教訓はひとつ。

 ……わたしは、実写ダンボみたいには絶対ならない。大人たちに都合がいい金蔓なんかにされてたまるか。

 

 

 とりあえず映画の話はここら辺にするとして、わたしの作品の影響力は単なるサブカルの範疇に留まらなかった。

 わたしの作品における怪獣たちは、人間の世界を一方的に踏み潰すだけの破壊者などではなく、むしろ地球を守ってくれるある種の神として書いてきた。『怪獣黙示録』の時代を生きた大人たちには理解しがたい発想かもしれないが、これは単にわたしひとりの妄言というわけでもなくてれっきとした学術的根拠のあるものである。

 『怪獣には自然を癒す力がある』

 国際機関モナークの有名な科学者であった天才、エマ=ラッセル博士の論文に基づいた考えだ。無論、怪獣も一枚岩ではないから自然環境を守ってくれるばかりではないし、むしろバランスを崩して環境を破壊してしまうようなものもいるのだけれど、ラッセル博士の報告によれば怪獣たちが破壊したあとには森林の拡大や河川の水質改善、空気も綺麗になったという報告が数多く上がっているのだという。見方を変えればわたしたち人間の方こそ悪者で、怪獣たちこそ正義の味方かもしれないのだ。

 そして何より、怪獣たちは明白に地球のために戦ってくれたことだってある。宇宙大怪獣が攻めてきたときや、かの恐ろしい侵略者キラアク星人が世界中に宣戦布告したときだって、怪獣たちはこの地球を守るために立ち上がってくれたのだ。ある種の縄張り意識のようなものに過ぎないのかもしれないが、怪獣たちだって本当に戦うべき相手が誰なのかちゃんとわかるのである。

 

 それに引き換え、餌の取り合いでもないのに仲間同士でくだらない戦争をしているのは、ちっぽけな人間たちだけだ。欲深で、浅はかで、底無しに愚かな人間たち、ああ、なんて馬鹿らしい。人間こそ『自分たちこそ万物の霊長!』なんてせっまい人間中心至上主義の思い上がりを捨てて、もっと怪獣たちを見習うべきではないだろうか。

 ……おっとっと、話が脱線してしまった。そんな塩梅の人間中心至上主義への批判と、現代に現れた他者:怪獣たちへのリスペクトを重んじる、いわば『怪獣リスペクト』とも言えそうなちょっと過激な思想がわたしの作品の根底にあるのだけれど、これがまた若者世代を中心に随分とウケた。

 そもそも『怪獣黙示録』が起きたのは、無茶な環境破壊や核兵器開発競争といった人間の愚行が原因だというのが一般的な定説である。怪獣をこれ以上暴れさせないためにも、人間たちはもっと()()()()()ならなくちゃあいけない。

 そして怪獣たちに今更いなくなってもらうことも出来ない以上、これからの人間は怪獣たちと共存してゆくしかない。そういった折り合いをつけるうえで、わたしの『怪獣リスペクト』はセンセーショナルながらもピッタリだったのだろう。

 ……ああ、何度考えてみても夢みたいだ。あ、『実はこれ全部夢でした』とかいうのは勘弁ね。そんな出来の悪いアネクドートのオチじゃあるまいし。

 

「原稿読み終わったよ~、サーシャ」

 

 ありがと、国連スピーチの原稿、どうだった?

 わたしが感想を訊ねるとシューニャはニコニコ微笑みながら批評してくれた。

 

「たしかに身の上に関する話はもうちょっと整理してもいいと思うし、スピーチは小説と違うから『アピールポイントをわかりやすく繰り返す』とかいろいろ工夫の余地はあると思う。けれど、怪獣保護の取り組みに対する前向きな気持ちを感じられて、とっても素晴らしいよ!」

 

 アピールポイント、ねぇ……。

 

「キメ台詞を作ってみたらどう? 『わたしは内なる声に従う!』とかね」

 

 なにそれ?

 

「『怪獣黙示録』の初期に地球連合政府を立ち上げた初代首相:マティアス=ジャクスンのキャッチフレーズだよ。このフレーズで彼は世界中の国を一つにまとめ上げたんだ」

 

 へー、そんな人いたんだ。マティアス=ジャクスン、言われてみれば歴史の授業でそんな人の話が出てきたような気もする。

 

「サーシャもそんなマティアス=ジャクスンにあやかってキメ台詞を作る、ってのもゲン担ぎとしていいんじゃないかなあ~?」

 

 そうね、考えとく。

 アイデアの怪獣:シューニャと出会ってからおおよそ一年。シューニャはこんな塩梅で、その後もわたしの夢枕に夜な夜な現れては執筆の相談相手になり、そして書き上がった作品の一番最初の読者にもなってくれていた。わたしがアイデアを思いついた頃合いになるとシューニャは現れ「ねえねえ、今度はどんな話を思いついたの?」と訊ねてくれて、わたしはその度に自分の考えたアイデアを話して聞かせる。するとシューニャは毎回違った反応を示して、わたしに更なるアイデアをもたらしてくれるのだ。

 ここだけの話ぶっちゃけてしまうのだが、わたしの作品とされているものの大半はシューニャと話したアイデアが元になっている。もちろん世間に公開するにあたって多少の手直しは必要だし、シューニャと語り合っただけのアイデアから文章にするのはやはりわたし自身なのだけれど、それでも大部分は夢でシューニャと語り合った内容を基にそっくりそのまま文章に起こしただけだ。

 シューニャはいつだって親切丁寧だ。かつてリアルでは『魔女の子』と毛嫌いされて誰からもまともに取り合ってもらえなかったわたしだけれど、それでもシューニャだけはきちんと親身にわたしの話を聞いてくれるし、わたしの書いたものだってちゃんと読んでくれている。わたし自身が出来に自信が無い時でも、悪いところばかりではなく良いところも指摘してより良くしようとしてくれるのだ。

 そしてその結果、今のわたしがある。

 

「何もかもシューニャのおかげだよ、いつもありがとね」

 

 わたしが感謝の想いを伝えると、シューニャは決まって「いやいやぁ~」とこう答える。

 

「たとえわたしたちとのやりとりが良い刺激になっているのだとしても、それをちゃんと作品の形へまとめられるのはサーシャ、君の努力であり頑張りだよ。やっぱり君は特別なんだよ~」

 

 そうかなあ。でもそうなのかもしれないね。わたしは特別、そうだといいな。

 こうして夢枕に現れるシューニャとわたしの交流は今もなお続いており、やがて寝ていない時間にもシューニャは時折現れるようになった。といってもその声が聞こえてくるのは、わたしの頭の中のみだったけれど。

 

 そう、シューニャは結局のところ、わたしの頭の中だけの存在でしかなかった。シューニャは百万の言葉でわたしを鼓舞してくれるけれど、現実にはペンシル一本動かすことさえできない。

 シューニャの正体は、きっと心理学において『イマジナリーフレンド』とか呼ばれている奴なのだろう。調べたところによれば本来のイマジナリーフレンドは10歳くらいまでの幼い子供が持つもので、もうすぐ成人する17歳のわたしが持つのは相当珍しいのだろうと思われる。

 そんなわたしの中に、なぜシューニャのようなイマジナリーフレンドが出現したのかは判然としない。あるいは、長きに渡って『魔女の子』として石を投げられながら育ってきたことが原因なのかもしれない。つまり、ボッチすぎるわたしの精神がとうとう限界に達した挙句、空想の中で都合のいい友達の幻を創ってしまった。そういう可能性も無くはない。

 ……やめようやめやめ。

 ここはいっそポジティブに考えよう。イマジナリーフレンドだろうが非実在青少年だろうが、シューニャがわたしの大切な友達であることには変わらない。

 それに、もしもシューニャの正体がわたしの空想の産物だとして、その助言に基づいて傑作をいくつもモノに出来たというのならそれはつまり『わたし自身の才能』ということに他ならない。そうとも、子どもの頃から脳内で漫画雑誌を連載していた人気漫画家の逸話もあるし、その漫画家のようにわたしもまた自分の中に友達を創れてしまうくらいに想像力豊かなのだ。そういうことにしておこうじゃあないか。

 そんな益体も無いことを考えていると、シューニャが「……おや?」と声を掛けてきた。

 

「どうしたの、サーシャ?」

 

 どうした、って何が?

 

「いやあ、『なんだか浮かない顔をしているなあ』と思って。何か悩みでもあるんじゃあないのぉ?」

 

 ううん、そんなことないよ? わたしは首を振る。

 頑張って書いてきた小説だって読んでもらえるようになった、いいやそれだけじゃあない、それで富も名声も手に入れて日の当たる世界へと歩み出すことができた。まさにシューニャのおかげで人生大逆転だ、文句なんか何にもない。むしろこれ以上を求めたりしたら罰が当たるよ。

 

「本当に? 本当にそうかな、サーシャ?」

 

 ……うん、大丈夫。

 わたしはそう即答したつもりだったのだけれど、シューニャはどうも納得していない様子だった。心配そうに身を寄せてわたしの顔を窺いながら、こんなことを言い出した。

 

「ふーむ……“隠し事”はいけないなあ」

 

 隠し事? わたしが??

 何のことだかわからない。わたしは正直に答えたつもりだよ、シューニャ。それが“隠し事”だって?

 わたしが返した問いに、シューニャは心配そうに答える。

 

「……アレクサンドラ=マミーロヴァ、たしかに君とわたしたちは一年だけの付き合いでしかなかった。でも、そのぶん君にはずっと傍に寄り添ってきたつもりなんだけどな」

 

 なのに、とシューニャは言う。

 

「なのに今のサーシャは『何かを悩んでいる』、そしてそれを『隠して誤魔化している』ように見えるんだよね~。まったく水臭いじゃんかよ~、わたしたちと君の仲でしょー?」

 

 ……そうね。そうかもしれない。

 この一年間、シューニャはずっとわたしの傍にいてくれた。その絆はこれまで出会ってきたどんな相手よりも濃厚で、しかもシューニャはわたしに何の見返りも求めてこなかった。

 そんな大切な友達であるシューニャに隠し事なんてむしろ良くないことだ。この際だから洗いざらいぶちまけてしまおう。それにどうせシューニャはイマジナリーフレンド、他の誰かに喋るわけでもないしね。

 逡巡の末、わたしは意を決して口を開いた。

 

「別に不満とかじゃあないの。ただ、ちょっと()()()()()()()()()

「引っ掛かり?」

 

 うん、とわたしは頷きながら語り始める。

 

「わたし、『怪獣リスペクト』とか言ってるけど、わたしのやってることって本当に怪獣のためになってるのかなあって思っちゃって」

 

 わたしの言葉に対し、シューニャは「そんな、とんでもない!」と心底驚いた様子だった。

 

「サーシャは本当にとてもよくやっていると思うよ。書いた本の印税だって自分のためじゃなくて怪獣たちのために使っているじゃあない」

 

 シューニャの言うとおりだ。わたしの書籍から得た莫大な印税は、わたし自身が将来慎ましく暮らすために必要な分だけいただいて、残った大半のお金は怪獣たちのために使うことに決めた。

 さらにそこから怪獣保護のためのNGOの設立にも出資させてもらった。NGOの名前は〈巨神擁護機構〉。怪獣保護に関して言えばモナークもいるけどモナークは所詮国の機関、出来ることには限界がある。だけどNGOなら国家の枠組みに縛られることもない、真に怪獣たちを守るための活動が出来るはずなのだ。

 巨神擁護機構の設立にはシューニャは勿論有名な弁護士の先生にも手伝ってもらったし、有名なエイペックス社やホウコク重工をはじめ世界中の大企業も協賛してくれた。かつては開発や公害を引き起こして怪獣を産み出す一因も担ってきた大企業たちだけど、今は『怪獣黙示録』再発を防止するために『持続可能な開発目標:SDGs』にも真面目に取り組むようになってきている。そういった環境保護アピールのために、わたしの活動を利用するのが最適だと連中も判断したのだろう。またまた閑話休題。

 エポックメイキングな啓蒙活動と巨神擁護機構の設立。人間レベルで言えば“よくやってる方”だと自分でも思う。

 だけどね。

 

「でも実際には、人間から良いように虐げられてる怪獣なんてまだまだ沢山いる。『人間と怪獣たちとの平和的共存』なんて言っても、そんなの実際は『人間が怪獣を管理してあげる世界』、もっと言えば『人間が怪獣を支配する世界』でしかない」

「そうなの?」

 

 うん、そうだよ。わたしは答える。

 たとえばモナーク。あの人たちも人間世界と怪獣の共存を目指して活動しているけれど、結局のところそれは『人間が困らない範疇で』という限界がある。わたしはそれが嫌でNGOの巨神擁護機構に出資させてもらったのだけれど、その巨神擁護機構だって所詮は人間の社会の中の仕組みでしかない。

 だけど本来の怪獣たちはもっと自由だ、人間の作った枠組みなんてものは関係ない。むしろそれらを我が物顔で蹂躙し越えてゆけるからこその怪獣なのだ。

 そんな自由奔放な在り様に魅せられたからこそ、わたしは怪獣たちのことを好きになったんじゃあないのか。日頃から人間中心至上主義を批判しているわたしだけれど、かく言うわたしのやってることこそ結局人間中心至上主義を超えられていないんじゃあないか。

 むしろ口先では『怪獣リスペクト』などと言いながら、怪獣たちを小説の題材にしてお金を稼いでいるのはわたしの方だ。自分の都合で怪獣たちを好い様に利用して食い物にしてるのは、他ならぬわたし自身なんじゃあないのか……?

 

「怪獣リスペクト、なのになんか的を外しているような、もっとやるべきことがあるような……そんな気がするんだよね」

 

 ごめんね、シューニャ。なんだか上手くまとまらないや。

 わたしが謝ると「いいじゃんいいじゃん~」とシューニャは笑って答えた。

 

「なるほどねぇ。それだけ深く、真剣に怪獣のことを思い遣っているサーシャは、とても優しい子だよ。いつか他の人にもわかってもらえるときが来るといいね」

 

 ……ありがとね、シューニャ。そう言ってくれるあなたこそわたしにとっては最高の友達、最高の理解者だ。あなたほどわたしをわかってくれるのは他にいない。

 だけどね。わたしは続ける。

 

「他の人はきっとわかってくれないでしょうね。今でこそちょっとした『怪獣リスペクト』がブームだけど、所詮そんなのは一時の流行りでいずれ飽きられてしまう」

「そうなの??」

「そして何より、今の世の中を支配している大人たちは皆『怪獣黙示録』で怪獣たちのことを逆恨みしているもの」

 

 そう、大人なんてどいつもこいつも皆そうだ。たとえばへドラ。空気を汚し海まで犯すあの恐ろしい公害怪獣が生まれたのだって、元はと言えば過去の大人たちが私利私欲に任せて無責任に汚染物質を垂れ流してきたせいだったはずだ。

 なのに誰も未だにそのことを省みず、それどころか無茶な開発による森林伐採や海洋汚染で地球環境を破壊し続けている。怪獣に関しては何もかもがそうだ。大人たちは怪獣を一方的に攻撃し迫害しようとするけれど、その原因を辿ってみれば『実は人間が悪かった』なんてケースはザラにあるのである。

 そんなろくに反省もできない奴らに任せていたら、行き着く先はせいぜいがどっかの無人島に怪獣ランドでも作って怪獣たちを見世物にするくらいがオチだろう。そんなの、怪獣が可哀想じゃんか。

 

「……はあ、ごめんね、シューニャ。どうしようもないことを言っちゃった」

 

 再びわたしが詫びると「いいんだよ~」とシューニャはまたしても笑って許してくれた。

 

「でもそれがサーシャの本心なら、たしかにもっとやれることはあるかもしれないよねぇ」

 

 もっとやれること、まだまだありそうな気がする。だけどそんなの思いつかないよ。

 

「そんなことないよ、きっと何か手段があるはず。考えてみようよ、サーシャ。君はやればできる子、国連でスピーチだって出来るようになれたじゃん?」

 

 たしかに、今のわたしには国連でスピーチできるくらいの発言力がある。やろうと思えばできることはまだまだあるのかもしれないし、あるいはそういったメッセージを国連のスピーチに盛り込んでみても良いのかもしれない。

 けれど。

 

「……でも、駄目だよきっと」

 

 国連のスピーチなんかで『人間はもっと反省すべき』『怪獣を自由にしてあげるべき』だなんて言ってしまったら、きっと周りの大人たちが黙っていない。世界中から総スカンを喰らってしまう。

 わたしの本の売れ筋や支持者の大半が若者中心で、大人たちにはあまりウケていないことからわかるように、大人たちはどいつもこいつも怪獣のことなんか馬鹿にしている、いやむしろ大嫌いだ。

 たとえば、わたしが国連でスピーチすることについて、反怪獣団体で有名な『総攻撃派の会』からキツめの抗議声明が出ているし、他にもネットではわたしが『魔女の子』であることやその他プライバシーを暴き立てて晒し者にするような誹謗中傷、デマ風説の流布、その他下劣な輩も絶えない。ファンレターに見せかけたカミソリレターやら不審物やらが届くのもしょっちゅうだ。

 あんまり酷いものについては流石に弁護士の先生に相談したりしているのだけれど、面白半分で中傷するクズみたいな輩は後から後から湧いてきて、いくら潰してもキリがない。そして身元の開示請求をしてそういう輩と実際に対面してみると、案外いい歳したオッサンやオバハンだったりするのである。

 つまり今の世の中は大人たちが中心、あいつらには絶大な力がある。力の無いわたしたち若者の言うことなんて都合のいいことだけ聞き入れてアリバイ作りをしたら、あとの肝心な部分についてはあっさり捻り潰してしまうだろう。

 

「わたし、どうしたらいいんだろうね……」

 

 そんな諦念をにじませるわたしに、シューニャは身を擦り寄せてきた。

 

「……ねえ、サーシャ」

 

 そしてシューニャはわたしの耳元へ“ある提案”をした。

 

「……ふむ、なるほどね」

 

 シューニャからの“提案”に、わたしは感心してしまった。

 そんな『上手い方法』があるなんて、わたしだけでは到底思いつきもしなかった。やっぱり知恵は多い方が良い。

 そうと決まれば。わたしはスリープさせていたタブレットを起動、再び文章を打ち始める。

 

「あら、どうするの?」

「国連のスピーチ原稿の手直しだよ。やっぱり最初の原稿はビミョーだ。あなたの言うとおり、わたし自身のしょーもない身の上話なんかよりもっと大切なことを伝えなくちゃ」

 

 だから手伝って、シューニャ。

 わたしの頼みにシューニャは「いいねぇ、それでこそわたしたちのアレクサンドラ=マミーロヴァだよ!」と満面の笑みで答えてくれた。




まだまだ続くよー

記者会見に出たときのサーシャ。緊張で顔が引きつっている。

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