“魔女の子”と呼ばれたわたしが怪獣リスペクト小説を書いて聖戦を引き起こすまで   作:よよよーよ・だーだだ

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3話目 A Mass Awakening ~『ゴジラ キングオブモンスターズ』より~

 国連でのスピーチは、成功裏に終わった。

 

 当日は流石のわたしも不安と緊張でガチガチになってしまったものの、直前までシューニャに励ましてもらえた――こういうときイマジナリーフレンドって便利よね――おかげで自身を奮い立たせ、なんとかこなすことができた。

 改めて思い返してみると、ちょっと気分がノリすぎて感情的になってしまったような感も無くは無いのだけれど、わたしが原稿を読み終えたあとの会場は万雷の拍手大喝采の嵐、スタンディングオベーションまで起こっちゃった。

 いや、そんな大人たちの称賛なんか今やどうでもいい。本当に大事なことは、わたしが伝えたかったことを伝えたい皆に訴えることだ。

 

 わたしのスピーチは、動画サイトなどを通じて全世界へ拡散された。

 その反応は賛否両論、もちろん非難する声も一気に増えた。元々そこそこいたアンチも勢いを増してるし、もう今じゃ殆ど見てないけどネットでは散々な叩かれ様らしい。まあそれを込みで話題になることを『狙った』のだから、当然と言えば当然のことなんだけどね。結構キツめの言い回しもしてたし、それだけ『痛いところを突かれた人』も多かったのだろう。

 そういえばどーでもいいけどネットで子ども相手に一生懸命アンチ活動してる人、当人は大人目線からのありがたーい説教の一つでも垂れてるつもりなんだろうけど、実物見ると結構イタいよね。他人の人生どうこう言う前に自分の人生こそ省みた方が良いんじゃあないの。まあわたしはそういうの殆ど見てないからどーでもいいけど。殆ど見てないからどーでもいいけど!!

 

 さて、ここからが肝心なところなのだが、賛否両論ということは当然“わたしの主張に共感してくれる賛同者たち”だって現れるようになった。

 まず、わたしの演説を機に世界中から人間と怪獣の共存に纏わる問題に対しての意識が高まったこと。今までどこか他人事のように捉えていた人たちが、自分たちも当事者なんだって考えてくれるようになったのだ。

 アンチが増えたのは正直鬱陶しいけど、こっちの方はとても善いことだ。小説がヒットしたと言っても所詮はフィクション、リアルの問題とは絶対的な境界があって誰も行動を起こしてはくれなかったから。

 さらにわたしのスピーチに触発されて各地の怪獣保護団体や自然保護団体が続々と立ち上がってくれたこと。わたしが設立に携わった巨神擁護機構だけじゃあない、イエローコリーにマウンテンピーナッツ……いいやそういう団体ばっかりでもなくて、世界各地で若者たちが自ら立ち上がり始めたのだ。

 

 ここまでに至れたのは、シューニャからの“ある提案”によるものだ。その“提案”をされたときのこと、国連のスピーチの草案を練っていたときの様子をわたしは回想する。

 あのときシューニャは、わたしへこんな提案をしてきたのだ……

 

◆    ◆    ◆    ◆

 

「“犬笛戦術”って知ってる?」

 

 ……犬笛? 犬をしつける笛のこと??

 わたしが聞き返すと「まぁそれもあるんだけどさ、」とシューニャは説明し始めた。

 

「“犬笛戦術”というのはね、特定の人たちにだけ伝わる隠れたメッセージを送ることだよ」

 

 うーん、よくわからない。そんな魔法みたいな方法があるのだろうか。首を捻っているわたしに、シューニャは解説を続けた。

 

「たとえば、誰かが人種差別について語るために差別用語を堂々と喋っていたら、どう思う?」

 

 そりゃあ良くないんじゃない?

 

「どうして?」

 

 どうして、ってそりゃあ怒られるでしょう? 差別用語は人を傷つける、わたしだって差別されたら嫌だもん。

 わたしがそう答えると「そう、怒られるし嫌だよね」とシューニャは言う。

 

「だけど実際に物事を進めるうえではそんな『誰からも怒られない話』ばかりしているわけにもいかないよね。いくら『言わない』『触れない』でいても、人種差別やその他“政治的に正しくない問題”は確かにそこにあるのだから」

 

 シューニャの話を聞きながらわたしも考える。

 かつてのわたしのリアル生活――まあ今はだいぶ変わったけれど――なんてまさにその最たるものだった。林檎は林檎の木から落ちる、カエルの子はカエル、そうやってわたしは『魔女の子』としてずっと周りから石を投げられ続けてきた。本来はそんなこと罷り通っちゃならないのに、わたしの場合はそれらこそが当たり前だった。

 ポリコレ、ゾーニング、表現規制。人種差別を煽るのはたしかに良くないけれど、そういった揚げ足取りやウィークポイントに付け入った手管で他人の口を塞ごうとする卑怯な奴らはごまんといる。シューニャの言うとおり『言わない』『触れない』では問題は解決しない。むしろそうやって言葉狩りしてしまっては、そもそもその問題自体を適切に取り扱うことすら出来なくなってしまう。

 

「そういう繊細な問題を世の中へと訴えるためのテクニックが“犬笛”だよ。言葉遣いや文脈、些細な言い回し、様々なところを工夫することで、普通の人たちには何の変哲もない話に聞こえるけれど“わかる人たち”にはすぐにピンとくるメッセージを送る。それが“犬笛戦術”」

 

 なるほどね、だから“犬笛”なのか。

 犬をしつける犬笛も、本来は犬にしか聞こえない音を出すものだ。そして伝えたい誰かさんたちにだけ伝わる隠れたメッセージ、まさに犬笛というわけね。

 ようやく納得したわたしに、「つまりね」とシューニャは言う。

 

「『人間はもっと反省すべき』『怪獣を自由にしてあげたい』、そういうサーシャの素直な気持ちを直接に訴えるんじゃなくて“犬笛”として籠めれば良いんだよ。バカな大人たちからは気づかれないようにうまーくやってさ。そしたら、わかってくれる人たちはきっとピンときてくれるんじゃあないかなあ」

 

 ……ふむ、なるほどね。シューニャからの提案に、わたしは感心してしまった。

 そんな上手い方法があるなんて、わたしだけでは到底思いつきもしなかった。やっぱり知恵は多い方が良い。

 そうと決まれば。わたしはスリープさせていたタブレットを起動、再び文章を打ち始めた……

 

◆    ◆    ◆    ◆

 

 そうしてシューニャと共に思いついた秘策の“犬笛戦術”と、それに基づいてシューニャと一緒に練りに練り込んだスピーチの原稿。その中に仕込まれたわたしの“犬笛”は、わたしたちが想定していたよりも遥かに大きな、それこそ爆発的な波乱をもたらした。

 まず始まったのはアメリカのアリゾナ。

 わたしのスピーチを聞いた若者たちは、怪獣を管理している国際機関:モナークに対して抗議活動を始めた。アリゾナに建てられたモナークの前哨基地の門前へ押し寄せた若者たちは、声を荒げて主張を叫んだ。

 

「ぼくたち人間は、もっと謙虚にならなければならない! 怪獣たちがいるから、僕らがいるんだ!」

「我々はあなた方の監視下にある全ての怪獣たちを解放せよと主張します!」

「自由を奪った上での共存だって!? それが本当の意味で彼らにとって幸せなのか、考えてみろよこのひとでなし!!」

「怪獣を自由にしろ!」

「怪獣は神だ!」

「怪獣を虐めるな!!」

 

 やがて抗議活動の火は世界中に拡がり、怪獣を管理するモナークの前哨基地およびそれを支援するGフォース基地へ次々と押し寄せた。

 アリゾナの次はニュージャージー、さらにジョージア州のストーン・マウンテン、ワイオミング州のデビルスタワー。やがてアメリカだけに留まらず日本の富士山、イギリス・ネス湖、中国の雲南省、メキシコの火山島イスラ・デ・マーラ、エジプトのカイロ、ドイツのミュンヘン、ペルーのマチュ・ピチュ遺跡、ブラジル、コロンビア、モロッコ、オーストラリア、カンボジア……『人間はもっと反省すべき』『怪獣たちを解放しろ』、そう掛け声を挙げながら世界各地で抗議活動が繰り広げられてゆく。

 

 ……これは変に思い上がらないようにわたし自身でも自戒しておきたいのだが、何もかもがわたし:アレクサンドラ=マミーロヴァの功績ってわけじゃあないのだ。

 『怪獣黙示録』という大災厄を経てもわたしたちの世界は相変わらず硬直的で、そのくせ怪獣や将来への不安と緊張感だけは年々高まる一方で。そんな中でも大人たちは自分たちの権益を守ることばかり気にしていて、わたしたち若者のことなんてずっとおざなり、でなければその時々に使い捨てられる都合の良い道具か何かとしか見ていない。そんな世界に誰も彼もが『おかしい』と思っていて、だけど誰も声を上げられなかった。

 そこに火をつけたのがわたしのスピーチだ。『あなたたちは本当は怒っていい』、そう言われてみて皆初めてawaken:目が覚めたのだろう。『本当は自分たちも怒って良いんだ』と。

 

 抗議の対象になったのはモナークやGフォースだけじゃなかった。

 わたしのスピーチから数日後、有名な美術館で展示されていたシュルレアリスムの絵画にジュースがぶっかけられるという事件が起きた。主犯は怪獣保護活動家の団体で、「こんな何を描いてあるかもわからん美術品に金をかけるなら愛すべき隣人のため、怪獣のために使え!」というのが彼らの主張だった。絵自体はケースに入っているからもちろん無事、行動した人たちは即座に逮捕されてしまったけれど、これを皮切りに世界各地で『怪獣保護』のための抗議のパフォーマンスが繰り広げられるようになった。

 各地の美術館で、博物館で、コンサートで、大人たちが上から目線の権威付けに使ってきたような馬鹿げたくだらないものたち。それらの虚飾を引きはがし、その奥にある大人たちの狡賢いエゴを抉り出す。その光景は実に愉快痛快。まさに傲慢な大人たちに対する多大なしっぺ返し、わたしたち若者の逆襲だ!

 

 若者たちの抗議活動、その連携のための情報交換には、大人たちが把握しきれていないインターネットのSNSが使われているらしい。FacebookにLINE、インスタグラム、SNSと言えば若者たちが盛り上がってるところに“わかってない”大人たちがずかずか乗り込んできて台無しにしてしまうのが常だけれど、今回の若者たちは次々とSNSを乗り換えて対応しているようだった。

 インターネットを駆け巡る合言葉、ハッシュタグは『#A_Mass_Awakening』『#わたしたちは怒ってる』、そして『#聖戦』。そう、これはまさに、横暴な大人たちに対するわたしたちの『聖戦』なのだ。

 

「ちなみにこういうのはねぇ、ヴァンダリズムって言うんだよ~。ちょっと前までは宗教的な理由で行われることも多かったんだけど、そっちはイコノクラスムなんて言ったりもするね」

 

 ふゥん、そうなんだ。

 シューニャからのオモシロ蘊蓄に相槌を打ちつつ、ふかふかの客席に腰掛けて昼食のサンドイッチを頬張りながら、わたしは車窓の外を流れてゆく野山の風景を眺めていた。今わたしが乗っているのはシベリア鉄道、本来は二人乗りの一等客室を一人で取った。ハリウッドスターほどではないかもしれないけれどちょっとばかりは有名人になってしまったわたし、特に今回は事が事だけに人目にはなるたけつきたくなかった。

 

 何を隠そう、巷の『聖戦』にわたし自身も参加することにしたのだ。

 そもそも言い出しっぺはわたしなのだから、むしろわたし自身が参加しなかったらそれは無責任というものである。しかも今回はGフォースやモナークも出し抜く計画だ、これでわたしが実際に怪獣を解放してみせれば巷の『聖戦』運動にもますます拍車がかかることだろう。

 そんなこんなでシベリア鉄道で向かったのはシベリア南部イルクーツク、そこからバスを乗り継いだ先にあるバイカル湖の畔。さらにバスを降りたあと、わたしは街の外れの森へと向かった。

 

「これが、例の場所か……」

 

 そして森を抜けたわたしの目の前にあるのは、寂れた廃墟。名前は旧OKB-1972、建てられた当時は主任研究員の名前からアホートニク設計局と呼ばれていたという。

 ここを教えてくれたシューニャによればこの基地が建てられたのは冷戦時代、元々は敵国と張り合うための秘密兵器を造るための基地だったらしい。それが『怪獣黙示録』の時代になってからはGフォースに接収されて対怪獣兵器開発の拠点として使われるようになり、そしてあのガイガン=レクス事件の舞台ともなった。

 つまりこのアホートニク設計局はわたしの母:イリーナ=マミーロヴァが命を落として『魔女』と呼ばれるきっかけにもなった、わたしにとっても因縁深い場所とも言える。ガイガン=レクス事件から『怪獣黙示録』が一段落した今、基地は放棄されて長いあいだ無人のまま野晒しになっていたようだ。

 

 その傍らに見えるのは、世界で最も古い古代湖だといわれているバイカル湖だ。

 その畔は現在も美しい自然に恵まれているけれど最近はどうやら開発が進みつつあるらしい。遠目には豊かに見える針葉樹林も、実際に近くから見てみるとところどころが岩肌剥き出しの禿げ山になってしまっているし、聞くところによれば工業排水が原因でバイカル湖自体の水質汚染も進んでおり、バイカルアザラシなどの貴重な野生動物が死んでしまう可哀想な事例が後を絶たないのだという。

 

「しかし、こんなところに本当に怪獣がいるのかしら」

 

 世界各地の『聖戦』は怪獣を管理しているモナークの前哨基地に対して行われているけれど、わたしたちが辿り着いたこの場所にそんなものはない。つまりここには、モナークですら把握していない怪獣がいるということになる。

 訝しむわたしにシューニャが答える。

 

「ここにはねぇ、わたしたちの(ふる)い“友達”が閉じ込められているんだよ」

 

 シューニャの友達? わたし以外にも友達がいたのか。いやまあシューニャのような素晴らしいアイデアの怪獣ならそりゃいるだろうけれど、いったいどんな怪獣なのだろう。

 

「遠い遠い昔、君たち人間が文明を築いて歴史を残すよりも遥か昔のことだ。この地に降り立ったわたしたちの“友達”は、モスラから突然に襲われて散々に痛めつけられた挙句、小さな石の中に閉じ込められてしまったんだよ」

「も、モスラだって?」

 

 わたしは耳を疑った。シューニャが言ったのはひょっとして、正義の味方として有名なあの極彩色の怪獣〈モスラ〉のこと?

 

「そうだよ~」

 

 信じられない、あの守護神怪獣モスラがそんなことをするなんて!

 

「まったくモスラの奴ときたら、ヒドイことするよねぇ~。わたしたちの“友達”は悪いことなんて何もしちゃいなかった。それどころか環境にも優しくて、その気になればこの宇宙だって救える最高に素晴らしい怪獣だったのにねぇ」

 

 そう、なんだ……。

 明かされた驚愕の真実に、わたしは戸惑うしかなかった。性格は慈悲深いとされ、『平和の怪獣』『地球の守護神』『慈愛の女王』などと謳われて巷の尊敬を集めている巨大蛾怪獣モスラ、そんな彼女に誰も知らない裏の顔があったなんて。

 ……だけど一方で、「そういうこともあるかもしれない」と思い直した。モスラだって所詮は怪獣、今はたまたま人間に都合がいいような振る舞いをしているだけで実際は人間の善悪なんか関係ない。いくら正義の味方のふりをしていても真の素顔は極悪非道の酷い奴だった、なんてことは人間の社会でもよくあることだ。

 それに、怪獣全般を愛してやまないわたしだけれど、人間の味方気取りで他の怪獣たちとの戦いも厭わないモスラのことだけはちょっと好きじゃなかった。人間の味方をする怪獣なんて邪道だ、人間なんかに囚われずむしろ蹂躙する側でいてこそ怪獣だと思う。

 あとモスラといえば『怪獣黙示録』のときは姉妹のバトラと喧嘩したこともあったらしい。もしも再びそうなったら、わたしはきっとバトラの方を応援するだろう。モスラと違ってバトラは人間なんかに媚びないし、何よりバトラの方がカッコいいもんね。

 

「ほら、こっちこっち!」

 

 そうこうしているうちに、シューニャの“友達”が封じ込められている場所へと辿り着いた。

 シューニャの導きに従いながら湖畔の森を進み、『ホウコク重工:プラズマスーパーソーラー建設予定地』『立入禁止』の看板が下がっている鉄柵を乗り越えたその先、森を越えた高台の隅に小さな古墳があった。巨石を埋め込んだ台座の上に、並べた石のストーンサークルでインファントの紋章が描かれている。ここだけ崖が崩れたような跡が見受けられるのは近隣の開発の影響に拠るものだろうか、ともするとこの古墳は本来地中に埋まっていたものだったのかもしれない。

 

「ねえ、どうしたらいいの?」

 

 傍を歩き回りながらわたしが訊ねると、シューニャが説明してくれた。

 

「土台の所に小さなメダルが嵌まっているでしょ? それを壊してくれればいいだけだよ」

「メダル?」

 

 シューニャから指示された先へ目線をやると、たしかにストーンサークルの土台中央、少し盛り上がったところに小さな“メダル”のようなものが嵌め込まれているのに気づいた。

 被っていた土埃を手で払って検めてみれば、そのメダルは小さいわりにとても細かい造形をしていて、鎖か紐でも通したらペンダントにでも出来そうだ。

 まあ、そんな美術的な価値なんかわたしにとってはどーでもいいことだけれど。

 

「これを壊せばいいわけね?」

「そうそう!」

 

 わたしの念押しに力強く頷くシューニャ、そんな彼女らを見てわたしも決意を新たにする。

 ……さーてどうやって壊そうか。このメダル、さらっと撫でた手触りは金属のようにも感じたけれど、経年劣化によるものかところどころが見るからに痛んでいた。きっと、工具の合金製ドライバーで思いきり殴りつけるだけで、簡単に壊せてしまうだろう。

 

「さあ、早くやっちゃって、“友達”も早く外に出たいってうずうずしてる!」

 

 よーし、さっそく。持参した工具セットを拡げて、件のメダルを壊す作業に掛かろうとした時だった。

 

「「いけませんっ!!」」

 

 誰だっ!?

 不意に聞こえた声にわたしが辺りを見回すと、わたしの眼前に“二人の妖精”がいることに気付いた。いる、というかふよふよと空中に浮遊している。まさに超能力だ。

 妖精たちの大きさは手の上に乗ってしまえるほどの手のひらサイズ、顔貌は美少女で二人の容姿は瓜二つ、小さいながらも全身からは不思議な輝きが溢れている。光を放つ小さな妖精、まさに双子の発光妖精だ。

 唐突に現れたこの発光妖精たちについて、わたしは見覚えがあった。守護神怪獣モスラの御供として有名な妖精たちだ。わたしも小説を書く際、モスラを登場させるために調べた資料でその姿を見たことがあった。

 

「インファントの〈小美人〉……!?」

 

 驚くわたしに、小美人たちは「はじめまして、アレクサンドラ=マミーロヴァさん」と挨拶してからさっそく本題を切り出してきた。

 

「お願いです、どうか、それを壊さないで!」

「あなたが今壊そうとしていたそれは『エリアスの盾』です!」

 

 エリアスの盾? なにそれ。

 初めて耳にする名称にわたしが戸惑っていると、小美人たちは説明してくれた。

 

「『エリアスの盾』には宇宙のエネルギーを集める不思議なパワーがあると言われています」

「善いことに使おうと思えば善いことに使えるし、悪いことに使おうとすれば……いくらでも」

「そして今エリアスの盾の力で、“魔物”を封じ込めているのです」

 

 ふゥん、そうなんだ。

 エリアスの盾なるこのアイテム、わたしにはただの錆びついたちっぽけなメダルにしか見えなかったけれど、小美人のサイズに置き換えてみれば確かに盾のようにも見えなくもない。

 というか、それよりも気になることがある。わたしは口を開いた。

 

「今“魔物”って言ったけれど、ここに封じられている怪獣のこと?」

 

 わたしの質問に、小美人たちは「わたしたちも言い伝えでしか知らないのですが、」と前置きしつつ答えてくれた。

 

「その“魔物”は6500万年前にやってきた宇宙怪獣だと言われています」

 

 6500万年前……ちょうど恐竜が絶滅した頃だろうか。かつて読んだ古生物の本のことがちらっと頭に過ぎる一方で、そんなわたしへの小美人たちによる説明は続く。

 

「遠い星の果てで生まれた“それ”は、数多の宇宙を渡り歩きながら宇宙の寿命を啜って生きてきた邪な存在だと言います」

「かつてわたしたちの祖先が戦って、岩に閉じ込めました。そして二度と復活しないようエリアスの盾で地中深くへ封印したのです」

 

 ……魔物、か。

 小美人が語った“魔物”とやらの話は、つい先ほどシューニャから受けた説明とはまるで真逆のものだった。シューニャによれば、ここに封じられている“友達”は“環境にも優しくて、その気になればこの宇宙だって救える最高に素晴らしい怪獣”だったはずだ。一方、小美人たちの話ではその“魔物”とやらは“宇宙の寿命を啜って生きる邪な存在”なのだという。小美人とシューニャ、いったいどっちが正しいんだろう。

 ……まあ、これが他の人たちだったら、きっと小美人たちの言うことを信じてしまうんだろうけど、生憎わたしは騙されない。

 わたしは答えた。

 

「その話、『正しい』エビデンスはどこにあるの?」

「えっ……?」

 

 虚を突かれた様子の小美人たちに、わたしは問い掛ける。

 

「それ、あなたたちが一方的に言ってるだけでしょ。もしかしたらモスラの方こそ悪者で、この怪獣の方がいじめられた可哀想な被害者かもしれないじゃん。少なくともわたしは“そう”聞いたんだけど」

 

 わたしからの反論に、小美人たちは困惑気味に顔を見合わせていた。まさか人間相手から、それも子どもからこんな風に言い返されるなんて思ってもみなかったのだろう。

 ……そういうカマトトぶったとこ、鼻についてムカつくんだよね。わたしは続けた。

 

「仮にあなたたちが嘘を吐いてないとしても、『言い伝え』を聞いただけで自分自身で実物をちゃんと見たことなんかないんでしょ?」

「た、たしかにそうですけれど……」

「ひょっとしたら当時は行き違いか誤解か何かで、ここで自由にしてあげたら仲良くなれるかもしれないじゃん。平和主義を掲げてるくせにそういうところは力任せで暴力的なの、ホントにダブスタで嫌いなんだよね」

 

 わたしの主張に小美人たちは「そんな、とんでもない!」と首を振った。

 

「マミーロヴァさん、あなたは騙されているんです!」

 

 は? 騙されてる? 誰に??

 言われたことを理解しかねたわたしに、小美人たちは口々に言う。

 

「あなたをここまで導いたのは邪悪なる“星を喰う者”!」

「かの者の言葉に心を傾けてはいけないっ!」

 

 ちょ、ちょっと待って。わたしは小美人たちの言葉を遮って問い質した。

 

「それ、ひょっとしてシューニャのこと?」

 

 わたしの詰問に対し、小美人たちは即座に「「はい!」」と声を揃えて頷いた。

 ……だけどシューニャはわたしのイマジナリーフレンド、わたしの頭の中だけの存在のはずだ。なのに、どうして小美人たちがシューニャのことを知っているのだろう。

 戸惑うわたしに、小美人たちは言った。

 

「かつて宇宙では、生物の大量絶滅が数え切れぬほどにありました。その半分は“かの者”の同類たちによる虐殺だと考えられています」

「多くの文明や星々が“かの者”から食い物にされ、悪意の業火によって跡形もなく焼き尽くされてきたと言います。マミーロヴァさん、あなたもそれに利用されているのです」

 

 そんなバカな!

 シューニャがわたしにかけてくれる言葉はいつだって思い遣りに溢れてて、誰よりも優しかった。百歩譲ってイマジナリーフレンドじゃなくてどこかの怪獣なのだとしても、そんな恐ろしい悪者だなんてわたしには到底信じられない。

 否定するわたしに、小美人たちの片割れが悲しげに呟く。

 

「……マミーロヴァさん。あなたは“心を奪われた”のですね。“この世ならざる虚空の王”に。きっと“かの者”はあなたの心の弱さに付け込んだのでしょう。優しく澄んだ心は一番傷つきやすく、そして騙しやすいですから」

 

 次いで、小美人のもう片方もわたしに告げる。

 

「マミーロヴァさん、御自分でも『おかしい』『変だ』と思わなかったのですか? もしも“それ”があなたの頭の中だけの存在なら、あなた自身が知らないことまで知っているはずがないじゃありませんか」

 

 ……たしかに、そうだった。

 わたしがこの遺跡まで辿り着くことができたのはシューニャのおかげだ。バイカル湖畔のアホートニク設計局、まあここまでは母ともゆかりのある場所だし無意識のうちに見聞きしていた可能性はあったかもしれない。

 けれど、その近くにこんな遺跡があるなんてことは露ほども知らなかったはずだ。もしもシューニャが本当にイマジナリーフレンドでわたしの頭の中だけの存在だとしたら、そもそもわたしがここまで辿り着けるはずがない。

 ……本当は“そう”なのではないか、とはわたし自身も薄々思ってはいた。

 『自分の中に友達を創れてしまうくらいに想像力豊か』なんて馬鹿げた理屈で納得しようともした。実際にそういう人もいるのかもしれないけれど、シューニャのそれはいくらなんでも行き過ぎている。実際、そんな考えが頭をよぎることなんてしょっちゅうだった。

 

 だけど、そんなの認めちゃったら、『わたし自身に何もない』のを認めることになるじゃん。

 

 小説の才能も、映画化も、国連のスピーチも、この一年でようやく掴んだ人生の大逆転さえも、シューニャがわたしの中から生まれたものでなかったら、今のわたしの何もかもすべてが『他の誰かさんから与えてもらえたものに過ぎない』ということになってしまう。そうなってしまえばわたしに残るのは、『魔女の子』として石を投げつけられバカにされ続けた惨めな負け犬人生だけ。そんなの、絶対に嫌だ。

 それに今はもうわたし一人の問題じゃない。

 わたしの後ろには、世界中の若者たちがついてくれている。そんな中で言い出しっぺのわたしが『本当は何もない』なんてことになってしまったら、ここぞとばかりに悪い大人たちから付け入られて踏み潰されてしまう。そしてわたしたちの『聖戦』は負け戦になって、今度こそ世界は何も変わらない。

 負けてたまるか。わたしは口を開いた。

 

「……あのさあ。仮にシューニャがそういう奴なのだとして、ぽっと出のあんたたちの言うことなんか、信じられるわけないじゃん」

「んなっ……!?」

 

 絶句する小美人たちに、わたしは続ける。

 

「わたしが寂しかったとき、辛かったとき、傍にいてくれたのはシューニャの方だ、あんたたちじゃあない。今までずっと放っておいたくせにいざ都合が悪くなったらお願いしに来るなんて、ちょっとムシがよすぎるんじゃあないの?」

 

 わたしの指摘に、小美人たちは戸惑った様子で答えた。

 

「そ、そんなことを言われても……」

「“そんなこと”? わたしのこれまでを“そんなこと”で済ますんだ。へぇ」

 

 わたしからの冷ややかな目線で、小美人たちは「それは……っ」とたじろいでいた。ふん、いい気味だ。

 大人はいつもそうだ。わたしは言ってやった。

 

「わたしが『魔女の子』と罵られたとき、いいや、わたしたち若者が悪い大人たちに食い物にされて踏みつけられたとき、あんたたち大人はただ無責任にキレイゴトを言うだけで実際には何もしてくれなかった。本当はあんたたち大人にこそ責任があって、あんたたちこそやらなきゃいけないことだったのに」

 

 いじめ、差別、環境破壊、そして戦争。わたしたちの未来が傷つけられていたとき、あんたたち大人たちはそれをどうにか解決するどころか先送りにして、あまつさえ自分たちの方からそれらへと率先して加担しては、弱い人たちを食い物にしてきた。

 そして今も、とわたしは告げる。

 

「あんたたち大人は自分たちだけオイシイ想いをして、その後始末を全部わたしたち次の世代に押しつけて逃げ切ろうとしてる。だからわたしたち若者は皆あんたたち大人に怒ってるんだよ、そんな都合良くウマイこと行かせるわけにはいかない、ってね。そんなあんたたちにどうこう言える資格なんか無い!」

 

 わたしの主張に小美人たちは耳を傾けていたけれど、やがて口を開いた。

 

「……たしかに。マミーロヴァさんは、いいやあなたたちはずっと苦しんできたのに、わたしたちは何もしてあげられなかった」

「わたしたちの力が及ばないばっかりに、あなたたちがこれから生きる未来はより過酷なものになってしまうのでしょう。それを怒る気持ちもわかります」

 

 ふゥん、わかってんだ。だったら。

 そう言い返そうとするわたしを「ですが、しかし!」と小美人たちは遮った。

 

「だけどそれとこれとは話が違うんです!」

「あなたが今からやろうとしてることを許してしまえば、過酷な未来どころか『未来そのもの』が亡くなってしまう!」

 

 『未来そのものが亡くなる』? どういうことだろう。

 わたしが聞き返そうとしたとき、またしても声が聞こえてきた。

 

「――サーシャ、サーシャ!」

 

 シューニャだった。それもいつになくひどく取り乱した様子だ。

 どうしたの、シューニャ? シューニャにそう訊ねると、シューニャは慌てふためいた声で、とんでもないことを言い出した。

 

「大変だよ、わたしたちの“友達”が苦しんでる! このままだと死んじゃうよお!」

 

 なんですって……!? わたしはすぐに小美人たちを睨みつけた。

 

「あんたたたち、話し合う振りをして時間稼ぎをしてたのね!?」

「ち、違いますっ!」

「そんなことはっ……!」

 

 なんて汚い奴らなんだろ!

 慌てて言い逃れようと狼狽する小美人たちを尻目に、わたしはシューニャの縋るような言葉へ耳を傾ける。

 

「おねがいサーシャ、君だけが頼りなの! どうかわたしたちの“友達”を助けてあげて!」

 

 どうしたらいいの、シューニャ!?

 わたしが訊ねると、シューニャは教えてくれた。

 

「エリアスの盾を砕いて! はやく!」

 

 うん、わかったよ、シューニャ!

 わたしは工具セットの合金製ドライバーを手に取ると、目いっぱいに振り上げた。狙う先は古墳の台座、そしてその中央に嵌め込まれているエリアスの盾だ。

 ……6500万年ものあいだ閉じ込められてきた、可哀想なシューニャの“友達”。いま出してあげるからね。

 

「まって!」「だめえっ!」

 

 小美人たちがなんか言っているけれど、わたしはもう騙されない。こんな卑怯な奴らの言うことなんかに、聞く耳など貸してやるもんか。

 

「こんなものっ――――!!」

 

 わたしは、ドライバーを思いきり振り降ろした。




今回の主人公の設定

【挿絵表示】

◆アレクサンドラ“サーシャ”=マミーロヴァ
・概要
 西暦20XX年、『怪獣黙示録』末期の生まれ。17歳。愛称はサーシャ。
 怪獣オタクの趣味として書いていたインターネット小説が大ヒット、一躍ベストセラー作家の仲間入りを果たす……というある意味なろう主人公より遥かにリアリティの無い設定の主人公。
 『魔女』と呼ばれたマッドサイエンティストを母に持ち、周囲からは『魔女の子』として虐められて育ってきた。母の死後は養親に引き取られて暮らしている。
 性格は優しいところもあるがかなり内向的で卑屈、小心者、そして繊細。そのくせ寂しがり屋で承認欲求は人一倍強く、褒められると調子に乗りやすい。
 学業の成績はヘボいが、後述のオタク趣味のため英語がちょっとだけ読める。

 身長160センチ、白人。
 実は母譲りの美貌を持ち、作家デビュー後は“美少女天才作家”とか呼ばれたりしている。しかしアレクサンドラ当人はそれを喜んではおらず、むしろ『魔女の子』と周囲からやっかまれた一因でもあるため普段は敢えて地味な格好をしている。

・心理テストの結果:論理学者(INTP-T)型
https://www.16personalities.com/ja/intp%E5%9E%8B%E3%81%AE%E6%80%A7%E6%A0%BC

外向型 0% / 内向型 100%
直感型 86% / 現実型 16%
論理型 57% / 道理型 43%
計画型 32% / 探索型 68%
自己主張型 3% / 慎重型 97%

※内向型100%って逆にスゲーなコイツ。どんだけ内気なんだよ。

・好きな映画、マンガ
地球防衛軍、ダンボ、チャーリーとチョコレート工場、シザーハンズ、バットマン・リターンズ、魔法少女リリカルなのは(特に八神はやてちゃんが推し)、その他日本製アニメ全般
※Crunchyrollで観てる。

・家族
イリーナ=マミーロヴァ…母。『魔女』と呼ばれたマッドサイエンティスト。故人。
※父親は不明。巷では『魔女』に因んだいかがわしい噂も流れているが、アレクサンドラ自身も真相は知らない。

・元ネタ
 名前は『ゴジラVSスペースゴジラ』に登場したMOGERAの開発者、アレキサンダー=マミーロフのもじり。書き始めた当初は、出自も含めて名前の設定はありませんでした。
 キャラクターのモデルは『仮面ライダーBLACKSUN』の和泉 葵ちゃんとか、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のスレッタ=マーキュリーちゃんとか、乙一の短編『Calling you』の相原リョウとか……だったんですけど途中から『ぼっち・ざ・ろっく』の後藤ひとりちゃんが混ざってこんな感じに。あと声優の上坂すみれさんがトランスフォーマーのアニメで披露していた「バス停の苔のエピソード」にもインスピレーションを得ています。

・容姿について
 ロシア人だからってプラチナブロンドの銀髪碧眼、ってのは出来れば辞めたかったんですよね。実際は黒髪の方が多いと聞くし。まあ最終的にはこんな感じにしちゃったけど。



次回、最終話。

次はどんな話が読みたい?

  • 魔法少女バトラちゃん
  • 転生者掲示板を荒らしまくるオルガ
  • Vtuberに転生するオルガ
  • ゴジラの放射熱線砲を作った男
  • ゴジラの運動会
  • ヤンデレモスラに死ぬほど愛される人類
  • ゴマすりクソバードな俺様の幸せ生活
  • クイーンの産卵管として幸せ絶頂をキメる話
  • 少女プレデターとボーイミーツガール
  • ゴジラ「君の知らない物語」
  • 令和ちゃんとギドラくん
  • すばらしい巨神世界
  • ミャクミャクくんがやってきた
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