インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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第二章 変転
第九話〝渡鳥〟


 

 リヨン・サン=テグジュペリ空港から日本、成田国際空港行きのチケットをバッグに仕舞い込み、指先でパスポートの存在を確かめる。

 

 キャリーバッグは軽い。この中に入っているのは必要なものだけだから。時間よりは少し早いが、席を立とうとグラスに入ったペリエを飲み干した。

 

 

 

()()()()様」

 

 

「何?」

 

 

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

 

 

「………うん、行ってくる」

 

 

 見送りの使用人は一人、その彼女に短く別れを告げて踵を返す。時間にはまだ余裕があるのに、向かう歩速は足早だった。

 

 

 

(早く、行きたい)

 

 

 自分ではなく家の味方である使用人、父の用意したこのファーストクラス・ラウンジ、真綿でゆっくりと窒息させるようだった家───あの飛行機さえ、(あらかじ)め敷かれたレールと同じものであると知りながら、それでもボクは全てから逃げたかった。

 

 ──────そんなことはできないと、分かっているのに。

 

 

 

「───日本(Le japon)、か」

 

 

 籠から出ることを許された鳥。羽には発信器が取り付けられているとも知らず、きっとその鳥は世界を自由だと感じるだろう。

 

 

 

(随分、滑稽な話じゃないか)

 

 

 空へ飛び立つ飛行機の座席で、彼女は静かに瞳を閉じた。せめて夢の中では───自由な鳥でいたいから。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「今日なんと!転校生を紹介します!」

 

 

「また?」

 

 

「今度は1組か」

 

 

 2組での(ファン)鈴音(リンイン)もそうだったが、初学期は転校が多いものなのだろうか?聞くに、彼女は軍部を半ば脅すような形でIS学園への切符を手にしたようだったが───まあ、さして気にするほどのことでもないか。

 

 卓上の参考書を眺めていると、当の転校生本人が教室へやってきた。

 

 

 

「シャルル=デュノアです。

 日本にはボクと同じ境遇の方が二人も居ると聞いて転校してきました、どうぞよろし───」

 

 

「「「きゃあああああああああ!」」」

 

 

 ほぼ全方位から爆ぜるような歓声が上がる。シャルルと名乗った者の服装は、一夏や俺と同じもの───つまり、彼は三人目の男性操縦者ということになる。

 

 周囲は、新しい男子───それも超美形───に騒つき、一部では可愛いのか格好いいのか議論まで始まる始末。そんな教室外まで聞こえるほどに沸き立ったクラスも、織斑教員の一喝でシンと静まり返る。最早この一連の流れは1組名物となりつつあった。

 

 

「けどこれは………」

 

 

「ああ、(まず)いな………」

 

 

 これから先に待ち受ける苦難を想像し、二人は顔を見合わせた。

 

 

 

「今日は2組と合同でIS実習を行う。

 織斑、武藤、デュノアの面倒を見てやれ」

 

 

「初めまして、ボクはシャルル───」

 

 

「あー俺、織斑(おりむら)一夏(いちか)、よろしく」

 

 

「俺は武藤(むとう)隼丞(しゅんすけ)、悪いがちゃんとした挨拶は後な」

 

 

「え?え?」

 

 

 惑乱の只中にあるシャルルの手を引き、急いで教室を後にする。教室は女子が更衣を始め、次の実習場所が遠いというのもあるが、それ以上に───。

 

 

 

「あっ見つけたー!1組の転校生!」

 

 

「しかも男子三人揃ってる!どこをとっても絵になるなあ………」

 

 

「どもー写真部でーす!一枚宜しいですかー?」

 

 

 ほぼ女子校と言って差し支えない当学園だ、絶対こうなると思った。俺たちのファンクラブが影ながらに出来上がってると風の噂に聞いたが、どうも現実味を帯びてきたように思える。

 

 遅刻したら織斑教員から回避・防御不能の一発が飛んでくる、兎に角走るしかなかった。

 

 

 

「やっばい塞がれた!」

 

 

「窓から行ける!」

 

 

「うえええ!?ここ2階だよ!?」

 

 

「俺がキャッチする、先行け一夏!」

 

 

「おう!」

 

 

 高さ2、3mならきちんと着地すれば怪我もすまいと、勢いをつけて窓から身を乗り出す。転がるようにして速度を殺し、振り返ってシャルルを受け止める準備をする。

 

 

 

「え?いや、う、え………えいっ!」

 

 

「っっっっと!」

 

 

 鍛え上げられた両腕は万一の怪我も許さず確と抱き止める。自分よりも大きな体格を全身で感じ、シャルルは思わず身体が緊張するのが分かった。

 

 

 

(こ、この流れ、もしかして!お、お姫様抱っk………うん?)

 

 

「よし、このまま運ぶぞ」

 

 

 その後、まるで丸太を持ち上げるように運ばれる転校生の姿が、学内新聞に掲載された。その表情は、何か思ってたのと違う───と訴えるような瞳だったという。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「すまなかった、確かに配慮の足らない運び方だった」

 

 

「い、いや、仕方ないよあんな状況だったし」

 

 

「次からは………そうだな、()ぶる感じに改善したいと思う」

 

 

「多分そういうことじゃないと思うぜ、(しゅん)

 

 

 アリーナの更衣室で、三人はスーツへの着替えを始めていた。上衣がはだけ、素肌が露わになると、何故かシャルルは急ぐようにそっぽを向く。

 

 

 

「いつ見ても隼ってがっしりしてるよな。

 色んなとこに傷あるし、なんか歴戦の猛者みたいだ」

 

 

「一夏も結構筋肉ついてきたんじゃないか?放課後の特訓が効いてきてる証拠だな」

 

 

(ほ、放課後の()()!?というか距離近くない!?男子同士ってそういうものだっけ!?

 ま、まさか………この二人………!)

 

 

「ん、着替えないのか?早くしないと織斑先生に怒られるぜ」

 

 

 新世界の扉を開きかけたシャルルだったが、慌てて自身の着替えに戻る。といってもインナースーツに手を掛けるばかりで、一向に衣類を脱ぐ気配がなかった。

 

 

 

「あ、あの………あんまり、その、見ないでもらえると」

 

 

「あごめん」

 

 

「ん、悪い」

 

 

 ISスーツは筋肉の電気信号を増幅させて伝達したり、最低限の物理保護を目的とするものだ。だが劔冑の仕手である武藤にそれは必要なく、故に素材こそ同じであるが、まるで道着のような高いスーツを彼は着込んでいる。

 

 帯を締めて待機状態の“武州五輪”を通すと、いつの間にかシャルルも着替えを終えているようだった。

 

 

 

「凄い速着替えだな、なんかコツとかあるのか………?」

 

 

「い、いや?特に、そんな凄いことじゃないよ?あははは………」

 

 

 シャルルはブロンドの髪を耳に掻き上げるような仕草をして照れを隠した。俺と同じで、誰かに褒められることに慣れてない様子だった。

 

 

 

「口動かしてないで早く着替えろっての、このままだと織斑先生に叱られるのお前だぞ一夏」

 

 

「それは嫌だ!」

 

 

「ま、待って、ボクも行くよ!」

 

 

 急いで着替えを終わらせた一夏と、それを追うようにしてシャルルが走る。その二人の後ろ姿を見送りながら、武藤は誰に言うともなく呟いた。

 

 

 

「………何か、違和感あるんだよな」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「凄い───アレがあの山田先生なのか?」

 

 

 上空ではIS同士の戦闘が行われていた。山田先生の駆る射撃型の量産機と、対するはセシリアと鳳という二人の専用機持ちだった。勝負は圧倒的───ただし、その趨勢は山田先生へと傾いている。

 

 

 

「デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

 

「あの機体は“ラファール・リヴァイヴ”、デュノア社製の第二世代後期に開発された量産ISです。

 第三世代初期型にも劣らない性能(スペック)を有しており、現在配備されている量産機の中では世界第3位のシェアを獲得しています」

 

 

 山田先生はスナイパーライフルとサブマシンガンを駆使して中遠距離戦を徹底している。何と言っても、武器を使用するに最適な間合いを絶えず切り替える、アクティブで可変的な戦闘リズム───とても、廊下でよく転びそうになっている普段と同一人物とは思えなかった。

 

 

 

「多種多様なオプション装備が存在し、それらによって格闘・射撃・防御といった様々なタイプに切り替えることが可能な万能型のISです」

 

 

 正確無比の射撃がセシリアの回避を余儀なくされ、お互いに協力し合って戦う経験のない彼女は鳳と衝突してしまった。その隙を、いつの間にか携えられていたグレネードランチャーによって纏めて爆破される。

 

 自分の持つ手段の特性を正確に把握し、最適なタイミングで使用する───短いながらも参考になる一戦だった。

 

 

 

「これで教員の実力は分かっただろう、以後敬意を以て接するように。

 ではこれよりグループに分かれて実習を行う、専用気持ちを中心に班を作れ」

 

 

 その瞬間、武藤の中に眠る心的外傷後ストレス障害(PTSD)が再発した。そう、中学で交友関係が無に帰した彼にとって『はい二人組作ってー』はトラウマでしかないのだ。

 

 因みに、『二人組作ってー』の後は『じゃあ先生と組もうか』が続く。生徒の心を折る2段コンボだ。

 

 

 

(一夏もシャルルも、というか俺以外の専用機持ちは既にグループが………!

 かくなる上は、“信号欺瞞”の陰義(しのぎ)を用いてやり過ごすしかない………!)

 

 

「む、武藤くん?大丈夫?」

 

 

「せっかくだからお願いしてもいいかな」

 

 

「しゅんしゅん〜操縦の仕方おしえて〜」

 

 

「皆んな………」

 

 

 俺は、孤独ではなかった───と云うかなんだそのパンダみたいな名前は、もしかしなくても『しゅんしゅん』って俺の渾名か?

 

 

 

「先ずは装着、起動、歩行………除装もか。

 えぇと、どんな風に………」

 

 

「「「えええぇ〜〜〜〜〜っっ!?」」」

 

 

 大声の絶えない一日だ。今度は何かと振り返ると、“打鉄”へ搭乗させるために篠ノ之をお姫様抱っこで運ぶ一夏の姿があった。それは、まあ確かに羨ましがられることだと思う。

 

 

 

「………あんな感じでお願いします」

 

 

「………………諒解しました」

 

 

 せっかく頼ってくれた彼女達の期待を裏切る訳には行かず、結局は俺もローテションで抱き抱えることとなった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「疲れた………」

 

 

 荒波に揉まれるが如き一日、転校初日とは思えない激動だった。時差の関係があってか体調は万全と言えず、もう今にも眠ってしまいそうである。

 

 

 

「えーっと、此処だよね………?」

 

 

 ルームメイトは武藤隼丞。ちょっとばかり、いや全く気にしてなどいないのだが、ほんのちょっとばかり失礼な人の運び方をした彼だった。

 

 せめてあのまま、お姫様抱っこの形で居てくれたら良かったのに、何故わざわざ荷物を抱えるように………。

 

 

 

「失礼しま」

 

 

「あ」

 

 

 考えことをしながら扉を開けると、その心中にあった彼そのものが部屋にいた。腰にバスタオル一枚を巻いた、殆ど裸同然の姿で。

 

 

 

「え、あの、そっその、あぅ………!」

 

 

「シャルルか?そういえば同室だったな、改めまして………俺は武藤隼丞。

 今日は座学の復習をしていたから部屋に居たんだが、普段はアリーナか修練場で訓練してるからシャワーはそっちで済ます。

 こっちの浴室はいつでも使っていいけど、ボディソープが切れかけてたから今度買ってくるよ」

 

 

 彼は濡れた長髪を乾かしている最中らしく、こちらの姿をきちんと確認できていない。目の前が肌色一色になって、シャルルは今にも思考がオーバーヒート寸前だった。

 

 

 

「ああ、あと奥のベッドは使ってしまってるから、悪いけど手前側のベッドを使ってくれると助かる。

 これから三年間長い付き合いになるだろうから、ルームメイトとしてもクラスメイトとしても宜しく頼む。

 というか大丈夫か?具合が悪いのか?時差疲れかも知れない、今日はもうゆっくり休んだほうが………」

 

 

「ぁぅ、あの、ふ………ふく…………っ!」

 

 

「? 不服(ふふく)?」

 

 

「──────服 を 着 て よ ぉ っ っ っ !」

 

 

 ───全く以て、今日は大声の絶えない一日である。

 




第九話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
というか明けましておめでとうございます。皆さんは年越しの瞬間何をしていましたか?作者は地上に居ませんでした。
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