インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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第十話〝波乱〟

 

 朝日の眩さを感じ、眠気が閉ざそうとする眼を擦りながら体を起こす。日本に───IS学園に来てから初めて経験する朝だった。

 

 

(………そういえば、隼丞は)

 

 

 ふと隣に視線を移すも、奥のベッドに人影はない。時刻はAM6:03───健康的と言えばそうでもあるが、うまく寝付けずに浅い眠りを繰り返しただけで、疲労が取れ切った訳ではなかった。

 

 ふと、鼻腔を擽る美味しそうな香りに意識が反応する。鍛錬に行っているとばかり思っていた武藤は、キッチンで何か調理をしているようだった。

 

 

 

「───ああ、起こしたか?」

 

 

「………ううん、おはよう。

 何作ってるの?」

 

 

「味噌汁。

 たまに作っておかないと忘れるから───良かったら飲むか?」

 

 

「いいの?あ、でも悪いよ」

 

 

「昼食の分除いてもまだ余るから大丈夫。

 ………口に合えばいいが」

 

 

 差し出した木製の汁椀、まだ湯気の立つ味噌汁には若布(わかめ)と豆腐のシンプルな具材が浮かんでいる。出汁は鰹節。本当は椎茸でも出汁を取りたかったのだが、無かったので仕方がない。

 

 

 

「えっと、頂きます………ん、美味しい!お味噌汁ってこんな味なんだ。

 こんな美味しいもの毎日飲んでるなんて、ちょっと羨ましいな」

 

 

「いやまあその日の気分次第だけど、そんなに飲みたいなら毎朝作ろうか?」

 

 

 ピタッ、とまるで時間が凍りついたかのようにシャルルが静止する。耳が赤い。熱かったのだろうか、火を通しすぎたか?

 

 

 

「そ、それって───ぷ、ぷろ、ぽ」

 

 

「? 静脈注射麻酔薬(プロポフォール)?」

 

 

「なっなななんでもない!」

 

 

 首を横に振ったり縦に振ったり、頬に手を当てて硬直したりと………熱でもあるのだろうか?春先は風邪をひきやすい。今度は長葱でも入れてみるか。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「えっと………きょ、今日は転校生を紹介します」

 

 

 正しくは『今日は』ではなく『今日も』である。二日立て続けに他国からの使者、それも今度はドイツからときた。欧州諸国の流行だったりするのだろうか?

 

 

 

「ラウラ=ボーデヴィッヒだ」

 

 

 まるで軍人───彼女に抱いた初印象はそんなものだった。長い銀髪、左目を隠した眼帯、足を肩幅に開き腰で手を組む休めの姿勢、何より歩きながら頭頂のブレない芯の入った体幹。とても堅気の人間ではない。

 

 粛然と、或いは簡易に自己紹介を済ませた彼女は、山田先生の静止も聞かずに一夏の近くへ寄った。その刹那。

 

 

 

「………え?」

 

 

「貴様が居なければ………」

 

 

 ───スパァンッッ!と、濡れた衣で鉄板を叩くような軽快な音を立て、転校生の平手が何も分からない一夏の頬を打った。彼の後方でその一部始終をありありと見せつけられた武藤にとって、騒乱の予感を感じさせるには十分すぎる一時(ひととき)だった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

『凄い人だったね』

 

 

『俺何かしたっけなあ?』

 

 

「初対面で平手打ちなら相当だろ、実は会ったことあるとか?」

 

 

 アリーナで集まった男子三人、その会話は件の転校生についてだったが………一夏は頭を抱えている。どうやら本当に心当たりがないらしい。とすると、何か一方的な怨恨を抱えているのだろうか。

 

 

 

『そういえば、二人は射撃装備は持たないの?』

 

 

『“白式”は拡張領域(バススロット)が全部埋まっちゃってるんだ。

 だから武器はこの“雪片(ゆきひら)弐型(にがた)”一本。

 千冬姉えもそれで十分って言ってるしなあ』

 

 

『隼丞は?』

 

 

「俺も、まあ大小二振りあれば事足りるかな」

 

 

 一夏とは別の理由ではあったが、一々それを説明する必要もないだろう。或いは“武州五輪”の能力(ちから)を最大限引き出せば、自己より射程の長い相手との戦闘もより容易になるのだろうか。

 

 

 

『そうなんだ、じゃあさ………一回だけボクと戦ってみない?』

 

 

『シャルルと?良いなそれ、やろうぜ』

 

 

「………あ俺もか、じゃあジャンケンだな」

 

 

 公正な運任せにより、先にシャルルと俺が戦うこととなった。そういえば、近く学年別トーナメントが控えているらしい。例年とは違って2vs2のルールとなると聞いたが、シャルルが出場する気ならこうもやる気に溢れているのも納得できる。

 

 

 腰の太刀を抜き放ち、構えは武者正調の上段。デュエル開始の合図を待ちつつ、対手の外観を注視する。

 

 

 

(右手にアサルトライフル、左手にサブマシンガン、山田先生よりもやや近接気味の武器構成か)

 

 

『じゃ始めるぜ、よーい………………スタート!』

 

 

 機を伺う余裕はない、距離を離されれば敗北は必至。であれば、一気に肉薄して先手を───。

 

 

 

(───詰めてくるのか!?)

 

 

 距離を取るかに思われた予想を裏切り、橙色の機影は左手の連射砲を突き出して突貫してきた。十字のガンファイアが瞬き、空を裂いて飛ぶ弾丸が武藤のシールドを掠めるも、弾幕を掻い潜って袈裟懸けに一太刀を振るった。

 

 だが、白刃に伝う手応えは空。“ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ”の右手はアサルトライフルではなくショットガンに切り替えられており、この近間では彼に避け得る手段が存在しなかった。

 

 

 

「ぐ───」

 

 

 響く衝撃に(たたら)を踏みそうになる。その隙を見抜いたシャルルは左手のサブマシンガンをショートブレードに切り替え、武藤のお株を奪うような形で接近戦に挑んだ。

 

 だが。

 

 

 

『!』

 

 

 頭頂へと斬撃を放つシャルルは、その隙が誘いであることに気付いた。(タイ)を一重身、つまり全半身になって攻撃を躱し、下段から差し止めるような刺突を放つ──────二天一流“指先(サッセン)”。

 

 剣と剣が交叉し、火花を散らして拮抗する、鍔迫り合いの形。重量と膂力という二点で、“武州五輪”は“疾風”を上回っていた。

 

 

 

(この距離は無理………だね)

 

 

 ブレードを放棄し、スラスターを噴かせて均衡から脱する。両手の得物を開始時と同じ突撃銃と短機関銃に切り替えると、脳内で中近距離戦から中遠距離戦に変更する。

 

 そして──────。

 

 

 

『勝者、シャルル=デュノア───凄かったぜ二人とも』

 

 

「無理か、いやー後半一方的だったな」

 

 

『そんなことないよ。

 まさか刀を投げてくるなんて思わなかったし、びっくりしちゃった』

 

 

「いや、機体のポテンシャルを最大限引き出す戦い方だった。

 素直に凄いと思うよ、シャルルは」

 

 

『───ぁ、ありがとう』

 

 

 結局は距離を取られ、シールドを少しずつ削り取られて敗北。得意距離に持ち込めないことがこんなにも苦しいとは………対面が不利なのは百も承知だが、シールドを削り得たのは最初の鍔迫り合いと投擲術だけだった。

 

 

 

(虚実の混ぜ方が巧い。

 なるほど、“砂漠の逃げ水(Mirage du Désert)”とはよく言ったものだ。

 地に足をつけたままでは勝てない、ならば騎航戦で勝負を───)

 

 

『お、おーい?隼丞?』

 

 

『ああなったら暫く帰ってこないぜ隼は。

 じゃあ次は俺と勝負を───』

 

 

『見つけたぞ、織斑一夏』

 

 

 アリーナの発射場(ピット)から身を乗り出し、一夏へ呼びかける黒い影があった。ドイツからの転校生、ラウラ=ボーデヴィッヒ───肩部大型レールカノンの砲門を此方に向けながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 戦意───いや、憎悪か。彼女(ラウラ)一夏(おれ)に向ける感情は、纏う鋼がそうあるように黒々と輝いている。

 

 

 

『私と戦え』

 

 

『嫌だね、俺には理由がない』

 

 

『お前に無くとも私にはある。

 戦わないと云うならば───力づくで抉じ開けるまで』

 

 

 砲門からプラズマが溢れる。ワンセコンド以下で充填されるローレンツ力の砲弾は、一瞬のうちに亜音速にまで到達して白きISへと放たれた。真横にスラスターを噴かせて回避───だが着弾地点には、未だブツブツと何かを呟いて考え事をしている武藤がいた。

 

 

 

『武藤───』

 

 

『避け───』

 

 

二九○度上方(かのとからいぬのかみ)

 

 

 劔冑が指示するよりも(はや)く鞘に納めた刀を抜き放つ。柄頭を額近くまで持ち上げ、腰を引くことで抜剣を実現。居合からの唐竹割、二天一流“(オロシ)”───西瓜を割るような容易さで、亜音速の砲弾を一太刀で両断した。

 

 二つに分かれた徹甲弾が地面を抉る。黒衣の砲手は目を疑った。武藤を狙った一撃ではない、ロックオンアラートも出ていない砲弾を、まるで未来でも見えているような速度で切り裂いた。

 

 

 

「──────」

 

 

 視線が交じる。そして唐突に理解した。(おれ)と、お前は───似たもの同士だ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 戦いの後は、いつも熱に(うな)されるような気分になる。だから鋼の冷たさで落ち着かせる必要があった。真剣での鍛錬は木剣と比べてより注意深く剣を振るう。思考のクールダウンには最適だった。

 

 

 

「此処にいたのか、二人目の男性操縦者」

 

 

 背後から掛けられたその声は鋭く、まるでナイフのような近寄り難さを備えた音色だった。先ほど砲撃をかました張本人───一夏になら納得するが、今度は一体俺に何の用向きがあるというのだろう。

 

 

 

「ふ、教官に比べればまだまだだな」

 

 

「教官?誰のことだ?」

 

 

「織村千冬教官のことだ。

 ドイツ本国で教鞭を奮って頂いたとき、教官の剣は焼き付くほどに見ている」

 

 

 それで『教官』か。一年間ほどIS操縦者の指導をしていた、とは本人の口から耳にしている。その教え子───トライアル中だった筈の専用機を与えられているようだし、さぞ優秀な操縦者なのだろう。

 

 しかし、ドイツか………。

 

 

 

「懐かしいな、ドイツは」

 

 

「ほう、来たことがあるのか」

 

 

「家族旅行で。

 まだ子供の頃だったが───白いソーセージ、美味かったな」

 

 

ヴァイスヴルスト(Weißwurst)だな、ミュンヘンだったのか?」

 

 

「ああ。

 アレは美味かった………妹にも、半分分けてやればよかった」

 

 

 もう、既に遠い思い出。まだ温もりを感じることのできる、忘れ去れない残照のような記憶。噛み締めるような彼の横顔に、ラウラは違和感と齟齬を感じた。

 

 敵として彼女を認識したあの黒い瞳───その中に垣間見えた、悪寒さえ抱くほどの殺意。兵器とした生まれた私と同じ───兇器として生きる者の目、その剣呑さが今の彼には存在しなかった。

 

 だが、今更やめにする訳にもいかない。

 

 

 

「単刀直入に言う───私と組め、武藤隼丞」

 

 

「何故」

 

 

「私はお前の白兵戦能力を買っている。

 クラス代表決定戦も見させてもらった、素晴らしい力だ」

 

 

「悪いが、あの力を人に向けて使うことはもうない。

 勝負の場で殺し殺されを演じるつもりはないんだ」

 

 

「私とてそこまで直情的ではない。

 必要なのは勝負に勝つこと───その為に、利用できるものは全て使うと決めたまでだ」

 

 

 表情ではなく態度で雄弁に感情を顕にする性質だと思っていたが、目的の為に頭を下げるだけの度量を備えているようだった。

 

 武藤には断る理由が存在しない。そもそも他の誰かに誘われているわけでもないし、こうも腕を信用されては応えたくなるのも剣士の性というものだ。正直なところ同性である一夏やシャルルと組みたかったとは思ったが、性別は断る理由にはなり得ない。

 

 

 

「………ミュンヘンのヴルスト」

 

 

「なに?」

 

 

「もし優勝したら、本場のを宜しく頼む」

 

 

「───良いだろう、契約成立だ」

 

 

 こうして一組のペアがひっそりと結成された。兵器として生まれ落ちた者と、兇器として定められた者───物語はさらに波乱の方向へ舵を切ることとなるが、それはまだ先の話である。

 




第十話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
そういえばISのヒロインで一番人気高いの誰なんだろう。
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