インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
「と云うわけで───シャルルは女だった」
「………?」
「シャルロット・デュノアです………あ、改めてよろしく」
「………………???」
まあ、そうなるな。俺もそうなったし。
男子三人組(
この選択はシャル自身が決めたことだった。あの夜、二人で色々と話し合って出した結論───先ず一つは、彼女は彼女として生きる。そして、この秘密は信頼できる人物にのみ明かす。最後に、機を見計らって教員に相談する、というものだ。
学校への機密開示は同時に待遇の変化にもつながる。三日以内には、女子用の制服で登校することになるだろう。
「えぇと、つまり………………あれ?もう分かんなくなってきたぞ?」
「要するに、ボクのズボンがスカートになっても仲良くしてねってコトだよ、一夏」
「うーん、まあ、確かに、些細な………いやいや、そんな簡単に受け入れられないって!」
「だよな。
でもお前に明かしたのは、お前が秘密を軽々と口外するような輩じゃないって信頼してるからだ。
これがベストな選択なんだよ」
そう云うと、彼は口を結って少し考え込む。暫く手で口元を覆い何かを言いあぐねていると、意を結したように口を開いた。
「それがシャルル───じゃなくて、シャルロットの決めたことなら、俺は尊重するよ。
でも、何かできることがあるんだったら相談してくれ、友達だろ?俺たち」
「………うん、ありがと一夏」
織斑一夏と云う人間───擬人化した善性とでも評せるほどに、彼の性根は真っ直ぐなのだ。ある意味でそれは歪んでいるが、友人として俺は全幅の信頼を置いている。
此奴なら、きっと───。
「じゃあトーナメントは隼とシャルロットで出るのか?」
「それがそうもいかないんだよね。
「う………いや悪かったって。
そもそも
言えない───ソーセージ目当てでタッグ組んでだなんて、口が裂けても言えない。
「ルームメイトなんだから、相談ぐらいあっても良かったと思うんだけどなー?」
「やはり床を汚す仕儀となろうともこの命に変えて謝罪を………」
「
脇腹に刀を突き刺そうとする彼を必死に止めるシャルロット。そんな光景を見ながら一夏は、
(ホント仲良いよなー、二人って)
とか、根暗な友人に自分以外の友ができたことを密かに祝福していた。
「ってことで、一夏にタッグお願いしようかなって」
「俺は良いけど、大丈夫なのか?もしかしたら隼と対戦することになるかも知れないけど」
「ああ、それは大丈夫だ───もしもトーナメントで
「うん───全力で闘おうって、約束してるから」
(本当に仲良いのか………?)
少し、二人の関係性に疑問を持ち始めた一夏であった。
暫くそうして雑談を交わしていると、何やらアリーナで模擬戦が行われているらしく、その戦闘音やら歓声やらが騒がしくなってきた。観客席へ足を運び観戦を始めると、その内容は常軌を逸したものだった。
「な───セシリア、鈴!」
「ラウラ=ボーデヴィッヒ………」
2vs1の一方的な戦い、しかし圧倒しているのは数的不利を背負っているはずの黒鋼のISだった。両肩部及びリアアーマーから射出された黒い糸、どれほどの張力耐久を有しているのか、“甲龍”を
コンビ相手とはいえ、俺は彼女のことをまるで知らないのだ。ISの性能ですら。
「“龍炮”を止めたぞ!」
「“AIC”だ───慣性停止能力とも言われる、ドイツの第三世代型兵器だよ」
(それにしても、この戦い方はまるで───)
同じだ。
個人間の闘争を意味する斗いではなく、命と命を奪い合う意味での戦い。俺が、力のままに人を殺めようとした、今のこの世界にはそぐわない戦い方だ。
なんと云う皮肉だろう。
戦う為に打ち鍛えられた劔冑と、元は
「これじゃ
ギリギリと首を締め上げつつ、痛ぶるように殴打を繰り返す彼女と目は、二人の男性操縦者へ向けられた。見よ、と。知らしめるような激情を込めて。
(───これが力だ。
織斑一夏、貴様には無いもの………そして武藤隼丞、貴様が抑え込むもの)
鋼鉄が砕け、命を脅かす鈍い音が響く。白亜のISがアリーナの壁を突き破り、黒鉄の悪意へ向けて剣を振るった。
『その手を離せ──────!』
『弱者め。
やはり貴様など、私と“シュヴァルツァ・レーゲン”の敵ではない』
慣性の止める静止の網に捕らえられ、それでも一夏は戦意を抑えようとはしなかった。シャルロットの支援射撃が迸り、停止を解除した隙に倒れ伏すセシリアと鳳を助け出す。
(ラウラに感じていた違和感の正体、漸く分かった───今の俺と、お前は違う。
何故なら、力の儘に振るう武は既に否定したのだから)
土煙の間を悠然と、
一夏は傷ついた二人を安全な場所へ退避させている。だが、彼を支援したシャルロットが今度はラウラのワイヤーブレードによって拿捕されていた。左手首から突き出たレーザー手刀によって貫く気なのだろう。今まさに拳を突き出す、まさにその刹那───。
『何!?』
『隼、危ない───』
まるで
そして真上へ、重力に逆らうようにして振り上げる片手抜きの抜刀
「──────」
額の上まで振り上げた柄頭を鯉口に置いていた左手で掴み、刃を転じて先程とは逆の
二天一流抜刀技が
「度が過ぎるぞ、ガキども───」
そんな騒乱と混沌の中を、粛然と割り入る凛とした声があった。助勢、というより諌止にきたのだろう織斑教員は、その手に“打鉄”のブレードを携えている。ISの補助を前提に製造されているそれは、生身での保持は途轍もなく難しい筈なのだが。
「トーナメント当日まで、生徒間私闘の一切を禁ずる。
それと武藤………」
「? はい」
返事を終えるや否や、頭部に爆ぜるような衝撃が走った。頭部の縫合が外れたのではないかと思うほどの、常人離れした怪力による手刀である。のたうち回りたいぐらいに痛い。
「IS間の戦闘に生身で割って入るな、死にたいのかこの愚か者め」
「お、織斑先生も生身じゃ………」
「私は良いんだ」
(そんな理不尽な………)
激痛に唸る彼の様を吐き捨てるようにラウラは眺め、
(………………
彼に寄り添うシャルロットは、武藤隼丞と云う人間が持つ危うさに気付いていた。一つ重要なものを勘定に入れていない、欠落した彼の人間性に。
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(まだ痛む………………)
「ねえ、隼───ちょっといいかな」
「どうした」
「隼は───、」
言い掛けた彼女の、惑うような視線が彼の肉体を見つめる。傷だらけだ。彼の機体には再生能力が有ると聞いたが、それをしても彼の古傷の数は尋常ではない。
最近出来たものばかりではなく、もっと昔の───。
「シャル?」
「、ぁ、なんでも───トーナメント、全力で戦おうね」
「ああ、俺にとってはリベンジマッチになるかも知れないからな。
そのときは、宜しく頼む」
差し出した拳に、同じく拳を突き合わせて頷く。子供のような笑み。刀を抜いたときとはまるで違う───彼のことを、もっと理解したい。ああ、隼がボクに踏み込んだ一歩は、こんなにも重たい一足だったんだ。
「おやすみ、シャル」
「………おやすみ、隼」
刃を交えることで、理解できることもある、なんて───先送りにするような思考とともに、彼女は
夜の漆黒が帷を下ろし、まだ手探りの二人を眠りへと誘う。今はただ、この黒々静けさが包み込んでいるだけでいい。
この静寂の
((寝れない………!))
それでも、異性が同室にいることに、まだ慣れていないようだった。
第十二話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
全然関係ないけどぼっち・ざ・ろっく観終わりました。無事難民です。