インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
学年別トーナメント当日───アリーナのセカンドピットには武藤隼丞とラウラ=ボーデヴィッヒの二つの影があった。それぞれ柔軟やストレッチをしつつ、併し一言も口を開くこうとはしない。
それは単に、事前に打ち合わせておくような作戦がないからだ。二日三日の付け焼き刃の連携では却って支障を来す。故に作戦は単純明快、各々が勝手にワンマンプレイを行う。相互支援は可能であれば。
ラウラの“シュヴァルツァ・レーゲン”は遠距離主軸に見えて、実は全距離対応型のISでもある。前衛後衛───と云う考えは一度捨てても良いだろう。
「───お前は、私と同じだと思っていた」
独白するように口を開くラウラを見遣る。確かに自分もそう思っていたし、親近感のようなものは今でも抱いている。
………だが。
「今のお前を認めてしまえば、これからの自分を受け入れられなくなる。
だから俺は、お前の在り方を否定する───自分の力が正しいと言いたいのなら、先ずはこの戦いに勝って見せろ」
「吼えたな、サムライ」
不敵な笑みを浮かべて立ち上がるラウラは、もはや迷いなどないようだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「一戦目でこうなるとはな」
『約束、忘れてないよね』
「ああ、無論。
そういえばなんか優勝したら景品あるとか噂聞いたけど………何か知ってるか?」
『う、ぃいいや!しっ知らない!』
対戦者のシャルロットと言葉を交わす。それで女子たちが色めき立ってたのを憶えているんだが………気の所為だったか?
「織斑一夏───私は貴様を認めない。
貴様を討ち倒すことで、強く、気高き戦士であった教官を取り戻す」
『なんだよそれ、千冬姉が弱くなったとでも言うつもりかよ』
「この学園に通う者など、所詮はお遊びのために学んでいるに過ぎん。
そんな場所で教鞭を振るうことになんの意味がある」
『どうして戦うこと以外の考えを持たないんだ。
お前の戦い方は、力は───危険過ぎる』
一方で話す一夏とラウラは、お互いの在り方に食い違いを感じていた。思考が、行動が、手段が、存在が───ズレている。まるで、一夏がずっと武藤にそう感じていたように。下手をすれば、彼よりもずっと生き方は剣呑だ。
(アイツは自分から、
ラウラは初めから、俺とは違う世界に居るみたいだ)
織斑一夏&シャルロット=デュノアvs武藤隼丞&ラウラ=ボーデヴィッヒ───この二組の間には、深く取り戻し難い隔絶があるように感じる。だからこそ、織斑一夏は自身の精神にかけて、手を差し伸べずにはいられないのだ。
今から斗う相手であってさえ。
『試合を開始してください』
───ビイィィィィィイッッ。
試合開始を告げる
ラウラは
シャルロットは右手に五五口径アサルトライフル“ヴェント”、左手に六一口径アサルトカノン“ガルム”を保持、後退するラウラへ追随。一夏は開幕からの
(隼が飛んだ?ラウラを手薄にしてまで?いや、どちらにしろ彼女を攻めるしかない!)
両手の巨銃が火を吹き、鋼の弾丸が“
弾幕の隙間を掻い潜って放つ、六基のワイヤーブレード。セシリアと鳳との戦闘時でさえ、彼女はワイヤーを最大でも四つしか同時使用しなかった。それは残る二つを隠し玉として残しておくためだったが、今は一つでも手数が欲しい。
『はああッッッ!』
左右に三つずつ、不規則な軌道で放たれた楔。シャルロットは自身が捕縛される危険を冒しながら、
徹底した
『甘いな』
『何───』
轟、と空気が震える。黒鉄のISに一太刀を浴びせようとする一夏の、その背後から。
「───俺を忘れて貰っては困る」
上空約百メートルの
振るう“雪片弐型”の軌道を変え、魔神の武者へ面を打ち込む。
『一夏!』
『隙だらけだぞ、フランスの御曹司』
大口を覗かせるレールカノンの砲門から、ローレンツ力によって戦車砲じみた徹甲弾が放たれる。左腕の大盾で防ぐもギリギリのタイミングだったからか、5メートル程も後方へ弾き飛ばされた。
戦況は武藤&ラウラタッグに優勢かに思われる。だが、一夏シャルロットタッグもまた当初の目的を果たしていた。
───このマッチングに於ける最善手、それは“白式”と“黒雨”が戦い、“五輪”と“疾風”が相対すること。前者の組み合わせを作る為に一夏は接近し、そして今求めた状況は出来上がっている。
(やっと至近距離に持ち込めた!この距離ならワイヤーとレールカノンは使えないし、元から白兵戦型ISの“白式”にとって有利の筈!)
(思い上がるな、織斑一夏!格闘のみでもこの私と“シュヴァルツァ・レーゲン”が貴様に劣ることはない!)
(ボクが今やるべきことは一夏の支援じゃなくて、隼を止めること!勝ち筋はそこにしかない!)
(気付くの早いな、一撃離脱で連携を崩しラウラに狩ってもらう、的なのを想像してたんだが………まあいい、立ちはだかるなら力尽くで切り崩すまでだ)
“武州五輪”は携える二刀の鋒を揃える中段に構えを取り、真正面から“ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ”へと肉薄した。彼女は退がれない。その背後を辿った先には、必死にラウラへ食い下がる一夏が居るから。
両手の機関砲の一斉射、シールドを大きく削り散らして尚も止まらぬ勢いを乗せ、太刀の刺突が“ラファール”の右肩装甲を砕き貫く。
(今、だ───)
ここで振り放され、彼に行かれたら、逆転の芽は完全に摘まれる。例え奥の手を明かすことになろうとも、彼を止める───!
シールド裏のトリガーへ指を掛けた正にその瞬間、稲妻めいた右脚がシャルロットの右膝を蹴り抜き、体勢を崩して膝を着いてしまう。
二天一流無手術───“
(気付かれた?いや違う、速過ぎるんだ───隼の思考が!)
無限の術理を内包し、研鑽し、行使する
盾に仕込まれた奥の手を見抜いてからでは遅い。危険と判断したのは彼女の接近と、腕による
(接近戦なら此方に分がある、なのに剣と盾を構えている………それに
“ラファール”は未だ白兵戦兵装のまま、“武州五輪”も二刀を八相に構えて止していた。あくまで近距離で交戦すると云うならば、此方も応じる用意がある。来るなら来い、
『─────────!』
動く。ほぼ同時、互いに勝負を決するために。シャルロットは大楯に隠したブレードを後方へ投げ棄てると、ショットガンへを
(──────“
刃と杭が交差する、刹那のうちに決するだろう勝敗の行方を誰しもが見守った、その最中。
『
地獄の窯口から溢れるような怨嗟が、アリーナ全土に響き渡った。
第十三話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
今日飯食ったら塩胡椒が気管に入って死にそうになったので気をつけましょう。