インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
2023/01/18:誤字を修正しました。
夏の臨海学校、此処には三つの彩が映えていた。広大に広がる海の青、燦々と輝く太陽の赤、そして生徒たちの約半数が遊び場にしている砂浜の白だ。
ビーチバレーや水泳を楽しむ、明朗な声が響いている。その景色を視界の隅に、武藤隼丞は岩場の影で休んでいた。
(暑いわ………)
水場に近づかないのには理由がある。一つは、刀袋で待機している“武州五輪”が潮風で錆びる可能性があること。もう一つは、傷痕の多く残っている肉体をあまり衆目に晒したくなかったからだ。ああも楽しげな雰囲気をわざわざ崩す必要性はない。
それに、子供の頃から海は泳ぐより、岩場を練り歩く方が好きだった。潮溜まりに残された小魚や、岩裏の蟹や貝類の発見があるからだ。
(少し子供っぽいか?)
「ふふ、何か見つけた?」
バッと振り返ると、いつの間にか背後には水着姿のシャルが立っていた。ビーチバレーで遊んでいた筈なのだが、どうやら抜け出して来たらしい。
「………悪い、気を遣わせたか」
「違うよ、ただ一緒に話したかっただけ」
その場に腰を下ろす。刳り抜かれたように丸く削られた場所は、まるで自然にできたベッドのようだった。眠りを誘うには余りにも硬すぎたが。
「どう、かな………似合ってる?」
「あ、ああ………似合、ってる。
というか二人で選んだだろう」
先日の外出にて彼女が選んだ水着は、橙のビキニと黒のフレアスカートだった。髪色とよく似合っている。まじまじと眺めるのは失礼と思い目を逸らす、妹も言っていたが、どうも俺は女子と仲良くと云うのが苦手らしい。
「まあね、流石に更衣室に男女二人で入るのはまずかったかな」
「そうだな、そりゃあ山田先生も怒るよな」
思い返し、岩陰に二人の笑い声が響く。こんな他愛のない日々が、どうしようもなく愛おしいものだと気付いた。だからこそ、彼女の抱える問題の解決を手伝いたいと強く思う。
シャルのためになりたい─────。
(ああ、俺は君のことが好きなのだな)
「………?どうかした?」
「いや………少し涼んだら戻ろう」
「まって、その───せっかくだから泳いでいこう?こっちの岩場なら、ちょっとしたプールみたいだし」
「………そうだな、そうしよう」
時間は過ぎ去る、けれど思い出は積み重なる。機織りのように紡ぐ日常がこうしていつまでも続けばいいと、そんな願いを抱いてしまった波打ち際。潮騒の鼓動を聞く影は二つ、触れ合うにはまだ僅かに遠い。
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「君が二人目の男性操縦者?」
声のする方を振り向くと、頭に機械の兎耳をつけたおかしな格好の女性が立っていた。旅館の従業員でもなければ、学園関係者にこんな女性が居た記憶もない。それに、男性操縦者と云う呼び方そのものが何処か外部の人間であるような考えを抱かせる。
………何者だ?
「私は
「──────」
篠ノ之箒の姉、と云う紹介よりも彼女の名自体に聞き覚えがあった。ISに携わるなら彼女を知らぬ者はいまい。ISと云う存在をこの世に産み落とした、世界で唯一人コアを開発できる人間。行方不明だと聞いていたが………。
「早速なんだけどー、君のISを見せてほしいなーって!」
「お断り申し上げます」
「あれー?そんなにべもなく断られるとは思ってなかったなー。
ちょっと勘違いさせたなら悪いんだけど、これは───お願いじゃなくて命令だよー?」
腰部から四本のマニピュレータが出現する。蜘蛛脚の如く突き出た四肢は全くの無から呼び出された。まるでISの拡張兵装のように。迫るアームから後方に退避しつつ抜剣、手首のしなりを効かせて機械の腕を弾き逸らす。その隙を掻い潜り、篠ノ之束は熟達した足捌きで懐に潜り込む。
「あはは!千冬ちゃんほどじゃ───、っ!」
「二天一流───“
前脚にて敵の軸足の膝を蹴り砕く無手術。咄嗟の反応で彼女は回避したが、多少は痛めただろう手応えが此方にはあった。剣を正眼に構え直し、呼吸と心理を落ち着ける。今の動き、篠ノ之箒や織斑千冬が使う足捌きによく似ていた。起こりを極限まで無くし、一拍の間隙も与えずに肉薄する技法───“無拍子”。
とても只の技術者とは思えない。どう云う裏社会を生きればこうなるのだ?
「んー手強いなあ………本当に君のISが見たいだけなんだけどー。
───いや、正確には
「………………」
「あれー?当たりかなー?」
「実力行使じゃ無理っぽいねー、仕方ないからお姉さんとお話ししよっか!」
「………………」
「先ずね、IS学園を襲撃した無人のIS───アレは私が作ったんだ」
「は───?」
………何の、為に。
「何の為に?決まってるじゃんそんなの!その方が
まあデータの収集とか色々したかったのもあるけど」
「
「何で?
………壊れている。狂している。どうしようもない人格破綻者だ、人が死に掛けたと云うのに───!
「本当は君なんかどうでもいいんだけどねー。
厄介な外乱が紛れ込んでるみたいだし………ああ、本当にムカつくなー」
この女は自己しか顧みない。いや、自分自身でさえ道具なのだ、楽しいと云う感情の為の。だが一つだけ気になることを口にした………紛れ込んだ外乱?
「私の“ゴーレムⅠ”に余計な細工をした奴が居るらしいんだよねー!
目覚める前に君が破壊したから誰も気付かなかったのかな?
で、その異物の主が君なのかなーって思ったんだけど、どうやらその反応を見るに違うみたいだね!」
「無人機を介して情報を入手したと?」
「ピンポーン!せいかーい!まあだからサンプルが欲しかったんだけど、君は自由にさせておく方がいいかなーって」
………この世界に流れ着いた劔冑は“武州五輪”だけではなかった。あろうことか、その力をISに
「───無人機に関しては事実だ」
「あっ、ちーちゃーん!元気してたー?ハグハグしy」
「黙っていろ束、私の生徒に危害を加えようとは良い度胸だな」
背後から現れた織斑教員は、彼女の言説を完全に肯定した。と云うか篠ノ之束の懐き具合が凄い。全く受け入れられていないが。
「解析したISコアには、“武州五輪”の装甲材質と同様の金属粒子が確認された。
武藤、私からも頼む───こいつにお前のISを見せてやれ」
「………………“武州五輪”」
装甲ノ構を取る。日本刀の形状だった劔冑は武者鎧の待機状態となり、全身の装甲が分解され五体に纏わりつく。白衣の劔冑が闇夜の月下に顕れる。形状が物語るものは兇器としての役割。即ち切断し、穿通し、撃砕し、殺傷する為のカタチだった。
「成程───確かに、これを造った人間は天才だね!私が認めるんだから間違いないよ!
けど、ものすっごい
「、不細工?」
「うん!一目で分かる、此れは戦争する為の兵器だって。
殺す為だけに生まれて、殺す為だけに扱われる、それって超つまんなくなーい?」
狂人かと思ったが常識人じみたことを言う。しかし、確かに………そう、この力はそう云うものだ。殺戮の為に生まれた力だ。一見しただけで其れを見抜くとは───眼だけは信用しても良いのかも知れない。
「武藤、いつか私はお前に武とは何かと問うたな。
今のお前は何の為に戦う?何を以て武とする?」
「………俺は」
この力が必要のないものだと知っている。この力があってはならないものだと知っている。けど、守りたい人が───いや違う、隣に立って共に戦いたい人ができた。
きっと
ならば、俺にとっての武とは。
「
生かすも殺すも自在ならば、
私は兵器だと、ラウラ=ボーデヴィッヒは言った。その生き方を俺は否定しない。同時に、変わりつつある彼女もまた否定できない。兇器も兵器も所詮は唯の力、力に方向性を与えるのが人の心意だ。
「ぷっ、何それ!矛盾してるし意味わかんなーい!」
「………………」
「でも良いね、そういう生き方も
興味ないとか言ったけど撤回するね───俄然、君に興味が湧いてきちゃったなー!」
ずいっ、と近づいてきた顔を織斑教員のアイアンクローが止める。頭が割れないよう手加減しているのか、彼女が砕けないほど石頭なのか、どうも
「じゃ、私の用は済んだからまた明日ね!ばいばーい!」
そう言って踵を返し、どう云う原理か空へと翔び立つ。スラスターの轟音の中にあって、呟くような篠ノ之束の幻聴を聞いた。
───私も、殺す為に生まれた訳じゃない。
(………聞き違い、か)
「全く、相変わらず自分勝手だ………お前も厄介な奴に気に入られたな」
「いえ。
自分なりの答えに辿り着く、最後の一
武の
第十七話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
原作小説読んでないんだけど、束さんの性格ってどのぐらい悪いんだろう。